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夜明 奈央
2025-11-09 12:59:45
1386文字
Public
久々綾
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久々綾 7割引のハロウィン
全然やる気ないハロウィン
2025年11月5日初出
「Trick or Treat?」
喜八郎が先輩兼恋人である久々知の家を訪ねると、待ってましたとばかりに家主が飛び出してきた。やたら流麗な決まり文句、頭には猫耳、手は肉球を模したもふもふ。そして両手は顔の前でガオーのポーズ。狼男だろうか。
「おやまあ」
全く予想していなかった展開だ。喜八郎はスマートホンの画面で本日の日付を確認した。11月5日。喜八郎が日付を勘違いしているわけではないらしい。
「ハロウィンて、10月31日じゃなかったでしたっけ?」
31日も会っていたはずだが、その時にはハロウィンの話題なんて全く出なかった。なのに何故今になってこんなことを言い出したのか、見当がつかない。
「細かいことは気にしなくていいの。ほら、トリック オア トリート!」
「先輩、そういうの興味あったんですね
……
」
片手を突き出され、鞄をごそごそ漁る。目的の物を発見し、差し出された手の上に載せた。開封済みのグミの袋だ。普通こういう場面で渡す物でないことは喜八郎だって重々承知しているが、準備など一切していないのだから仕方ない。
「ノリ悪いなぁ。予想はしてたからいいけど」
久々知も文句は言うが、大して期待はしていなかったのだろう。代わりみたいにポケットから何かを取り出した。喜八郎が手を出すと、その上にハロウィンらしいオレンジのお菓子が載せられる。かぼちゃクッキーだった。正面に大きく3割引のシールが貼られている。
「先輩が強請ったのに僕もお菓子もらえるんですか?」
「いいんだよ、そういう細かいことは。喜八郎といつもと違うことしてちょっと楽しみたいだけなんだから」
久々知がくるりと背を向けた。ひと通り楽しんで気が済んだらしい。喜八郎もそんなものかと納得する。久々知の後を追って、玄関からリビングへと移動する。
「それ、どうしたんです?」
「一昨日たまたま見つけて。たぶんハロウィン終わったからだと思うんだけど、7割引だったからたまにはこういうのもいいかなって」
「へぇ」
先程までは気づかなかったが、久々知のお尻にはふさふさの尻尾も付いていた。久々知が歩くのに合わせて上下左右に揺れている。耳と尻尾と手だけの簡易的なコスプレセットだが、安っぽさはない。いくら7割引と言ったって、一体いくらで買ったのだろう。
試しに尻尾を引っ張ってみる。毛並みはふわふわで手触りがいい。紐か何かでくっつけているようで取れることはなかった。
「えっち」
久々知が冗談みたいに笑って尻尾を取り返す。
ハロウィンにも仮装にもあんまり興味はなかったけれど、楽しそうにしている恋人を見て可愛いと思わない男はいない。
「ね、来年はちゃんとやりましょ」
「気に入った?」
「はい」
「それは良かった。じゃあ来年は喜八郎も仮装してね」
「はい。楽しみにしててください」
「うん、してる」
久々知がふふふと楽しそうに笑う。猫耳の良さはわからないけれど、久々知が着けているというだけでなんだか可愛く見えるのだから不思議だ。
「ねぇ、これどうやって付けてるんです?」
「これはね」
再び尻尾を引っ張る。久々知が説明しようとして手に嵌めていた肉球をあっさりと床に投げ捨てた。こんな格好をしておいて、大したこだわりがあるわけではないらしい。そんなところも、なんだかおかしくて堪らなかった。
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