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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第24回お題「〇〇の秋」
〇〇=芸術。両片想いの赤安。無自覚れいくんが少しずつ自覚中。●●さんが絵を描きます。諸々捏造しています。
枯葉が地面をかさかさと撫でる季節になった。
季節は進んでゆくが、ここ最近、赤井と降谷の間にはこれといった進展はない。ひとつ挙げるとすれば、先日、降谷の手に触れることができたことくらいだ。
気温の下がった会議室での出来事だった。そこでひとつ、赤井にはわかったことがあった。降谷は自分に触れられることを、嫌がってはいないということだ。
彼のことだ。本気で嫌だと思っているのなら、反射的に手を振り払っているだろう。拒絶されなかったということは、少なくとも嫌われてはいない。これまでの自分たちの関係を思えば、今のこの状態は、順調だともいえた。
一方、仕事の進捗はあまり思わしくない。組織の人間だけではなく、組織と取引のある人間までもが警戒を強め、なかなか尻尾を捕まえることができずにいた。
晴れた日の昼過ぎ。赤井は現場の建物から離れたビルの屋上で、ライフルのスコープ越しに対象を覗き込んでいた。対象は二人。イヤホンから聞こえる降谷の声に耳を傾けながら、対象が窓際に近づいたタイミングで、二発の弾を放つ。“生きて捕えよ”との指示なので、赤井は二人の肩を狙った。痛みにもがく標的のもとへ、外で待機していた仲間たちが即座に侵入し確保する。しばらくその様子を見守っていると、イヤホンから撤収の指示が聞こえてきた。
任務完了だ。
赤井は立ち上がり、煙草を取り出して火をつけた。
夕焼けの橙色の光が、地上にやわらかく降り注いでいる。煙草の煙をゆったりと吐き出しながら、赤井は現場の周辺を見渡した。
現場の周辺に人通りはほとんどない。しかし、現場から二十メートルほど離れた場所で、妙な動きをする男の姿を見つけた。赤井は再び腰を下ろし、その男をスコープ越しに捉えた。男は、捕えられ車に乗せられる二人を目で追いつつ、スマホを操作している。操作する指の動きは遅い。
黒髪と白髪が半々ほど入り混じっている頭。日に焼け皺の刻まれた顔。五、六十代といったところだろうか。顔を撮影しようとスマホを取り出したところで、その男はこちらに背を向けた。スマホを耳に当てているところを見ると、何者かと通話しているようだ。
赤井はマイクを口元に引き寄せて、降谷へ告げた。
「降谷君。標的だった二人の様子を窺っている怪しい人間がいる」
『
……
場所は?』
「現場から北の方向、二十メートル先
――
移動を始めたようだ。赤色の看板が手前にある路地裏へと入った」
男はスマホを耳に当てたまま、路地裏へと進む。そこから先、赤井の位置からは男の姿を目で追えなくなった。
『わかりました。すぐに向かいます』
「俺もこれから向かう」
赤井はライフルを仕舞い、屋上から地上へと降りた。
赤井が男を最後に見た場所へ向かうと、そこにはすでに降谷の姿があった。降谷の部下は路地裏から先へ進んでいるようである。
降谷がインカム越しに指示を出している声が聞こえてきた。夕陽が作り出す彼の影が、彼の実直さを表すようにまっすぐと伸びている。
自分に気づいたようで、降谷がこちらを向いた。空から降り注ぐ橙色に彼の金髪が反射して、きらきらと輝いている。彼の背景には、どこにでもある街の景色が広がっているというのに、まるで映画のワンシーンのようだ。
まっすぐに続く道の途中。愛しい人が夕陽を浴びて立っている。美しいこの光景に息を呑んで見惚れていると、降谷が通話を終えてこちらに近づいてきた。
彼の表情から、現状がどうなっているか、おおよその見当はついた。
「対象を見失いました。今、周辺を捜索中です。顔は見ましたか?」
「ああ」
「似顔絵を描ける捜査員に繋ぎます。彼に特徴を伝えてもらえますか」
降谷がスマホを手に取る。その手を、赤井は掴んだ。降谷が「え?」と驚いたような表情をする。まるで子どものように無垢な表情を向けられて、赤井は一瞬どきりとした。降谷は戸惑ったように、視線を泳がせはじめる。そこで赤井は、自分の手が彼に触れていることに、降谷が意識を向けていることを理解した。
まさか彼が、仕事中に自分との接触をここまで意識するとは。
思いがけない彼の仕草に心を掴まれながらも、赤井は仕事に意識を集中させる。
「紙と筆記具を持っていないか」
「ちょっと待ってください」
降谷は路肩に止まっている車へと駆けて行った。車の中には彼の部下が二人乗っている。後部座席にあるバッグからA4のノートとペンを取り出し、降谷に手渡すのが見えた。それを持って、降谷がこちらに戻って来る。
赤井はそれらを受け取って、ノートにペンを走らせた。降谷が興味津々といった様子で、自分の手元を覗き込んでくる。
記憶がなるべく新しいうちに描きとめておこうと思うと、少し乱暴な線になった。だが、特徴は捉えられているはずだ。すぐに描き終えると、降谷がスマホでそれを撮影する。撮影した絵を一斉送信したあと、降谷が今度はインカムで指示を出した。
「この周辺の監視カメラから、この顔の人物を探し出してください」
赤井は降谷とともに、警察庁へと戻った。一時間も経たないうちに、男の映った監視カメラが特定され、男の行方を追うことに成功した。三時間後には男を確保し、聴取が始まった。そこで、確保された二人とこの男が建物の外で待ち合わせの約束をしていたということが発覚した。組織の関係者であることは明らかだった。
聴取を終えた赤井と降谷は、警察庁内にある降谷の個室へと向かった。今後のことを話し合うためである。
時刻は二十一時過ぎ。部屋は暖房が入っておらず、ひどく冷えていた。降谷が暖房を入れるために、管理室へと駆けてゆく。少しデジャブじみたものを感じながら、赤井は部屋の外にある自販機で、カフェオレとブラックの珈琲を買った。
部屋に戻って来た降谷に、カフェオレの入った紙コップを渡す。降谷は礼を言ってそれを受け取った。
窓際にあるソファに、ふたり並んで座る。手が寒いのか、彼は紙コップで両手を温めるような仕草をする。その手を自分の手で温めてやりたいと思いながら、また彼を驚かせるわけにはいかないと、赤井は静かに珈琲を口に運んだ。
天井から、暖かい風が降りてくる。暖房の音だけが聞こえる静かな空間をやわらかくほどいたのは、降谷の声だった。
「絵、上手いんですね」
「そうだろうか」
色も使わず、ただ黒色のペンで走り書きしただけのものだ。しかし、降谷に褒められると、素直に嬉しいと感じる。
「あなたの描いた似顔絵のおかげで、スムーズに捜索が進んだといっていいです。他にどんなものが描けるんですか?」
降谷にそう問われて、「風景画も少し」とこたえる。降谷は、「見てみたいです!」と無邪気な声を上げた。お世辞ではなく、本当に見たいと思っているような声音だ。
「紙と筆記具はあるかな」
「ありますよ!」
降谷が立ち上がり、机へと駆けてゆく。降谷はスケッチブックと色鉛筆を袖机から取り出してきた。
「なぜ、こんなところにこれが?」
「情報を整理するために、絵で描いて残すことがあるんですよ」
スケッチブックを捲ると、建物の見取り図や、解体したのだろう爆弾の中身などが描かれている。爆弾の絵に至っては、コードの色もきちんと色分けされて描かれていた。
半分ほど捲ったところで、何も描かれていないページに辿り着く。
「ここに描いても?」
赤井が問いかけると、降谷はこくりと勢いよく頷いた。
赤井は何を描こうか思案し、すぐに今日見た降谷の姿を思い出した。
夕陽の色の中にいる降谷は、この世界で最も美しい存在だった。
赤井は背景を先に描いた。降谷の背後に広がる、まっすぐに続く道路。路地裏の前にあった赤色の看板。橙色に染まる空。
「もしかして、今日、僕たちがいた場所ですか?」
「ああ」
「すごい
……
」
降谷が呟く。降谷の視線は、赤井の手元と赤井の顔を行ったり来たりする。降谷の仕草に、くすぐったい気持ちを覚えながら、赤井は色鉛筆を走らせた。紙の中心だけを空けて、背景を描き終える。
赤井の脳裏には、中心に降谷の姿がある。しかし、それを描いて良いものか赤井は悩んだ。
絵は、描く者の感情を映し出す。隠すつもりはさらさらないが、自分の描く彼の姿には、降谷への感情が映し出されてしまうだろう。
それを今の降谷が受けとめられるかどうか。降谷が自分のことをどう想うのか。赤井にはわからない。
「絵の中心にあるのは、光ですか?」
降谷の言葉に、赤井は我に返る。中心には何も描いていない。真っ白だ。それを、降谷は“光”と表現した。
赤井は微笑んだ。自分にとって、降谷は光のような存在でもある。
それぞれ脳裏に思い描くものは違っても、自分たちは繋がっているような気がした。
「あぁ、光だよ」
赤井は色鉛筆を置いた。
降谷の姿は、まだ描かないと心に決める。今は、そこまで踏み入ってはならないような気がした。
赤井は降谷にスケッチブックを手渡す。
赤井の描いた絵をまっすぐ見つめながら、降谷は呟いた。
「温かい絵ですね」
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