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アルマジロ
2025-11-08 21:54:16
7151文字
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幼馴染が何故か心中に誘ってくる件について
自分もヤンデレなレザヘクを書いてみようと思ったら出オチになった。タイトル通りの何とも言えない話です。
「ヘクトール! ボクと一緒に心中しようよ!」
自宅に押しかけてきた親友は開口一番そんなことをほざきやがった。思わず居間に案内しようとした足を止めて、訝しげな顔で振り返る。
心中ってあれか? 昔どうしようもなくなった男女が思い詰めてやってたやつ。あれをやろうってのか?
こいつは意味を分かってて言ってるんだろうか。大体そんなことを玄関扉を開けっ放しにして言うなよ。近隣住民に聞かれたらどう責任取ってくれんだよ。
頭の中では無数の疑問がぎちぎちに詰まっていて、取り出そうにも引っかかって出てこれない有様だったから、口から出たのは「何だって?」の一言だけだった。
「だから心中。一緒に死ぬやつ。ボク死ぬならヘクトールと一緒がいいなぁって思ってたんだ」
玄関先に立つレザラは満面の笑みで答える。爽やかな笑顔でなんてこと言ってんだこいつは。
レザラの突拍子もない言動には慣れたものだが、こうも物騒なことを言われては頭も痛くなろうと言うもの。俺は額を押さえながら、意気揚々と死に急ぐレザラを掌で制した。
「
……
待て待て待て。とりあえずこっち来い。一旦そこ座れ」
レザラの手を引いて部屋に連れ込む。数歩室内に足を進めれば玄関扉が自動で閉まり、ひとまず近所から誤解される恐れはなくなった。
そのまま居間へと引っ張って、レザラをソファへ座らせる。レザラはその間も抵抗することはなく、死ぬだの何だの言っていた割には素直に従ってくれた。
俺も隣に腰掛けて溜息を吐く。ソファの上でニコニコと上機嫌に俺を見ているレザラは、誘いに乗ってくれるのを今か今かと待っているかのようだった。
その表情に思い詰めた真剣さや、死を覚悟した悲壮さは見られない。ということは本気で死を望んでいるわけでは無さそうだ。
心中という行為自体はやろうと思えばできてしまう。レザラにレギュレーターを一時的に着けてもらい、同時に死ねばいいだけだ。
魂資源を持て余した暇人が、文字通り命懸けの誓いやケジメとして自死するケースはある。褒められた行いではないが、悪ふざけや馬鹿な行動の一環としてできなくはない。
だが、レザラがそれをやりたがるだろうか。普段からレギュレーターを着けたがらないレザラが。
「あー
……
とにかく、何でいきなりそんなことしようと思ったんだよ。急だろ、色々と」
俺にはよく分からないが、レギュレーターを着けない人間にとって魂資源というものは相当な忌避感があるらしい。それなのにわざわざ魂資源を使うことを選ぶだなんて、何かがあったとしか思えない。
理由を尋ねられたレザラは、「んー
……
」と軽く考えてから語り始めた。
「ボクたちって今が一番幸せだろ? 闘士として充実してるし毎日が楽しい。でももうすぐ引退じゃないか。そうなったらもうアルカディアにいられないし、その先はずっと下るだけだ」
普段通りの穏やかな口調で、レザラから語られたのは随分と悲観的な未来予想図だった。朗らかな態度からは想像もできないほど後ろ向きな考えに動揺しつつも、続きに耳を傾ける。
「そうなる前に、一番楽しい時にすぱっと幕を引いてしまう方が良いなって思ったんだよ。キミもボクもアルカディアが全てなんだからさ、タイミングとしては悪くないだろ?」
ネガティブな将来像と、それに勝手に巻き込まれたことへの困惑はあるが、それ以上にレザラの発言には違和感があった。俺はもしかして、とんでもない思い違いをしているのかもしれない。気の所為であってほしい。
「
…………
もしかしてお前、魂資源を同時に一個使おうって話じゃなくて、蘇生なしのマジで死ぬ話してんのか?」
「最初からそのつもりだけど?」
あっけらかんと告げられた希死念慮に思わず目眩がした。なんでそんな話を笑顔で、しかも俺を巻き込んで言えるんだ。そんなちょっと出掛けようの感覚で行き先があの世なことあるか?
レギュレーターを着けない辺り、レザラは生き死にの感覚がイカれてんなと思うこともあった。あったけれど、これほど平然と死を選ぶとは思ってなかった。
つまり俺は今、幼馴染から共に人生を終わらせようと持ちかけられているらしい。何だこの悪夢のような状況は。
理不尽に対する怒りと戸惑い、そして少しの心配を握りしめる。そのまま拳骨をレザラの頭に叩きつければ鈍い悲鳴が上がった。
「なんでぶつんだよぉ!」
「うるせぇ! 気つけだ気つけ! 何だよテメェ俺に死ねっつってんのか!?」
「キミだけじゃないよボクも死ぬよ」
「尚さら悪いだろうが!」
噛み合わない会話に疲労感ばかり溜まっていく。俺の幼馴染はいつからこんなヤバい奴になった。いや前からヤバい所もそこそこあったとは思うけど、ここまでではなかっただろ。
「で、どうなの? やってくれないのかい?」
「やるわけねぇだろ
……
大体俺は別に心中なんざしたかねぇんだよ
……
」
「えぇー! じゃあどういう死に方だったらいいのさ!」
「死に方の問題じゃねぇよ! 死にたくねぇっつってんだよ!」
何でレギュレーター着けてる俺が、着けてないレザラに命の無駄遣いを説教してんだよ。普通逆だろ。
深い溜息を吐いた俺は俯いて頭を押さえる。座ったまま項垂れているとようやく少し冷静になれてきた。
レザラが死を望む理由は百歩譲って理解しよう。だがあまりにも短絡的すぎるし、俺はレザラに死んでほしくない。何より俺だって死にたくはない。まずはそれをレザラに理解させる必要がある。
「
……
せっかく苦労して王者にまでなったってのに、なんで死ななきゃならねぇんだよ。俺は最後までリングに立ち続けるって決めてんだ。お前だってそうだろ
……
?」
文字通り血反吐を吐きながら、あらゆる手段を使って登りつめてきた日々を思う。ようやく手に入れた栄冠を、俺は何としても手放すわけにはいかない。
柄にもなく真剣に語りかければ、レザラは考える素振りを見せた。こいつも俺と同じくアルカディアから離れられない人間だ。引退前に自分からリングを降りるなんて馬鹿な考えはよしてくれ、と願いながらレザラの思案を見守る。
「なるほど、つまり魂資源で蘇生なしの殺し合いデスマッチ形式ならいいと。オーナーに聞いてみるかな」
「今の話でそうなるってマジかお前?」
駄目だこれ。全然話が通じねぇ。いやそもそもレザラに健全な思考を期待した俺が馬鹿だったのか。
「でもさぁ! それだと勝った方だけ遺されちゃうじゃないか! ボクは同時が良いんだよ! 置いていくのも置いていかれるのも嫌だ!」
「デスマッチで殺し合いするのは良いのかよ
……
ともかく水持ってきてやるから一旦頭冷やせ
……
」
まともに相手をすることにも嫌気が差して、俺は立ち上がってレザラに背を向ける。レザラは「もー! ちゃんと聞いてくれよぉ!」と不貞腐れていたが、文句を言いたいのはこっちだ。
普段以上に面倒な幼馴染に悩まされながらキッチンへ向かう。こいつには頭から水をぶっかけてやるべきなんじゃないかと思いながらも、一応二つ分のコップに水を注いでやった。
「ボクはキミと一緒なら死に方はどれでもいいかなぁ
……
あっ、でも発見された時みっともないのは嫌だなぁ」
ソファに座ったままのレザラは相変わらずふざけた事ばかり抜かしている。俺の背中に向かってベラベラと語りまくっていたせいか、喉が渇いて終いには咳き込んでいやがった。くだらねーことばっか喋るからだ、まったく。
何度か咳き込む音に続けて、床に液体をぶち撒ける音が背後から聞こえた。
振り返るとレザラが床に蹲っていた。両手で押さえた口元からは、赤黒い液体がぼたぼたと零れている。
「あ
……
あはは
……
ごめ
……
汚し
…………
」
真っ青な顔をしたレザラが力無く笑って、そのまま床の血溜まりに崩れ落ちる。
声にならない声を上げながら、俺はレザラに駆け寄った。気を失ったレザラを抱き起こす腕が、どうしようもなく震えていた。
床や壁に埋め込まれたネオンが、眠るレザラの横顔を微かに照らす。何度か呻いた後、レザラはようやく目を覚ました。
「
……
う
……
あれ
……
? ボクは
……
」
横になったままのレザラがきょろきょろと室内を見回す。寝かされているのが俺の寝室で、ベッド横の椅子に俺が座っていることから、自分が人の部屋で気を失ったことに気付いたのだろう。寝ぼけていた顔が気まずそうに歪む。
あの時、吐血と共に気絶したレザラを前にパニックを起こした俺は、オーナーに通話で相談することにした。要領を得ない俺の話にもオーナーは耳を傾けてくれて、優しく落ち着かせた後に医者を手配してくれた。
レザラをベッドに運んで、血を拭き取り、医者を待つ。最悪の想像が頭を駆け巡る中、ようやく来た医者はレザラを一瞥すると、回復魔法だけ掛けてさっさと帰っていった。
魔物の魂の影響が一時的に強く出ただけ、少し休めば良くなる、と言っていたが、頭の何処かがそんなわけ無いと訴えていた。それでもオーナーが派遣した医者だ。疑いを口にすることはできず、部屋には呆然とする俺と眠るレザラだけが残された。
それからしばらくした後、目を覚ましたレザラに対して、俺は何も言えずにいる。
「ごめん、迷惑かけちゃったよね」
「
…………
」
苦笑しながら謝るレザラに胸が痛む。迷惑なんてとっくに慣れきっている。お前にならいくら苦労させられたっていい。だから、そんな酷い顔色で俺に謝らないでくれ。
そう思っても口に出すことができず、俺はただ当たり障りのない現状しか言えなかった。
「
……
オーナーが医者を派遣してくれた。一時的に負担が出ているだけ、と
……
」
「
……
そう」
自分でも白々しいなと思いながら診察結果を伝える。レザラは特に動揺した様子も見せず、黙って天井を見つめていた。
二人きりの寝室に重苦しい沈黙が続く。聞かないといけないんだろうな、とは分かっていたけれど、何も尋ねたくなかった。何て言ったっけな、シュレディンガーの猫? 中に死体とか、ろくでもないものが詰まってると分かっている箱なんて誰も開けたくはないだろう。俺はただこの猫に生きていてほしいだけだっていうのによ。
レザラは何も言ってはくれない。さっきまで喋りまくってた口が、今では固く閉ざされている。あぁ、そうだよな。こういう風になったお前を突っつくのはいつだって俺の役目だった。観念して、箱に手をかける。
「いつから続いてた」
「
…………
」
「何で黙ってた」
「
…………
心配させたくなかった。
……
いや、怖かったんだ」
ようやく口を開いたレザラはぽつぽつと語り出した後、気まずそうに視線を逸らす。悪い事をして叱られた子供のような表情だった。
「
……
少し前からかな。目眩とか、吐き気とか、そういうのが多くなった。疲労かなと思って休息を増やしたけど変わらなかった。そうこうしている内に頭痛や吐血の症状が出るようになった」
病状を語るレザラの口調は落ち着いたものだった。こんな風に自分の病を眉一つ動かさず語れるようになるまで、こいつはどれだけ一人で苦しんできたんだろう。何度も互いの家で会った。何度もアルカディアで顔を合わせた。あんなにチャンスは沢山あったのに、今日この日まで一度もこいつの異常に気付けなかった己を呪う。
「オーナーに相談したり、病院に行ったりしても異常なしの健康そのもの。薬を飲んだってちっとも良くならないのに、悪くなるタイミングだけは分かりやすかった。
……
魔物の魂を入れる度に、悪化してたんだよ。
……
多分、これが魔物の魂を入れる副作用だったんだ。引退の本当の理由で、闘士の寿命だよ」
分かってはいたけれど、最悪な理由だった。オーナーが俺たちにこんな大事な事を隠していたなんて絶対に認めたくない。裏切られたなんて思いたくない。けれど、それを否定するだけの材料を、俺は持ち合わせていない。俺だって似たような症状くらいあったさ。箱の中身は死にゆく猫だ。
「これが代償だとしても構わなかった。ボクだってアルカディアが全てだ。リングを降りて生き長らえるより、闘士として最期まで戦って死にたい」
言い切るレザラの言葉には強い決意が滲み出ていた。試合前に見せるような表情をしていたからか、有無を言わせない圧を感じる。
だが、その顔が俺に向けられた瞬間、急に感情が溢れたかのようにレザラの瞳が揺れた。
「でも、心残りもあった。キミのことだ」
レザラがベッドから俺に片手を伸ばす。俺はすぐにその手を取って握った。さっきまで気絶していた人間とは思えないほど、強い力で握り返される。
「ボクの方が階級が高い分、魔物の魂の負担も大きかったんだろう。キミはまだ発症してないか、あるいはまだ軽い症状なのかもね。そうなると必然的に、ボクの方が先に死ぬことになる。
……
キミを一人遺して、ね」
レザラの息が震える。眉間に皺が寄っていて、想像を口にするのも嫌なんだろう。それでも、続きを話してくれた。
「それだけは、嫌だった。仮にリングで死ねたとしても、その後のキミの事を考えるだけで涙が止まらなくなるんだよ。遺されたキミが、やがて同じ病を一人で抱えて死んでいくんだと思うと辛くて堪らない。そんなことにはしたくない」
レザラがもう片方の手も伸ばす。両手で俺の手をしかと握って、縋るように引き寄せる。
「頼むよ、ヘクトール。ボクと一緒に死んでくれよ」
「ボクはキミを置いていきたくないんだよ」
「ひとりはいやだよ」
痛いほどに俺の手を握り締めたレザラは、やがて堪えきれずに俯いて毛布の中に顔を埋めた。完全に顔を隠してしまう直前の一瞬、今にも泣き出しそうに歪んだ顔を俺は見逃さない。
レザラがこんなに怯えた顔をするのは、子供の頃以来だった。この手を離すなんて、できるわけがなかった。
「
……
一人でごちゃごちゃ思い詰めやがって。馬鹿野郎」
ようやく、ようやく言ってやることができた。思えば今日はこいつのことがずっと分からなくて、気味悪さすら感じていたけれど、結局こいつはいつも通り馬鹿なことを言ってるだけなんだと、ようやく腹に落とし込むことができた。
俺は毛布を捲ってベッドに身体を潜り込ませる。身体を密着させてもレザラが顔を上げる素振りは見せない。構わず繋いでいない方の手でレザラを抱き締めた。
突然の余命宣告にショックを受ける気持ちはある。だが、それ以上に闘士を辞めた"先"がないことに安堵する気持ちもあった。
きっと、これ以上病気が悪化しないよう闘士を辞めて、治療法を模索しながら生きていくのが正しい在り方なんだろう。先がないと分かっていてアルカディアに残り、案の定そのまま死ぬなんて自殺と変わらない。
それでも、俺はブルートボンバーでないと生きられなくて、こいつはハウリングブレードでないと生きられなかった。闘士の終わりが人生の終わりってのも分かりやすくて良いなって、思っちまったんだ。
あぁそうだ、俺は死なんて怖くない。死ぬことよりももっと恐ろしいことを知っている。
「俺だって、お前がくたばった後も生き続けたいなんて思っちゃいないさ。お前が先に進んでいるというのなら、俺もすぐ追いついてやる」
たとえゴールが奈落でも、共に闘士としての道を歩き続けよう。置いていくが嫌なら、魔物の魂でも何でも入れてすぐに追いかけてやろう。
心中なんてわざわざ言わなくてもさ、俺はとっくに最期までお前と共にするって決めてるんだ。
お前と過ごす時間が一秒でも長くあってほしいから、その時まで、ずっと一緒にいよう。
「一人にはしねぇよ。だから、勝手に馬鹿なことすんな」
隠しきれていない金色の髪を撫でれば、レザラは俺に腕を伸ばして抱きついた。息を詰まらせながら呼吸する音が聞こえる。ぎゅうと抱き締める力が緩められたかと思うと、ゆっくりとレザラは起き上がり、覆い被さるように俺を見下ろした。
「ごめん、ごめんね、ヘクトール」
見上げたレザラの表情は泣き笑いでぐしゃぐしゃになっていて、端正な顔が台無しだった。辛そうな、でも幸せそうなその表情に、あぁこれで良かったんだと確信する。
「ありがとう
…………
大好きだよ」
そう言ってレザラは顔を近付ける。表情も見えなくなったかと思えば口付けを落とされた。
かさついた唇同士が触れ合う。野郎相手、それも親友相手だというのに、不思議と嫌な感じはしなかった。
あと何回、こいつとこんな事できるかな。そんな風に思いながら、らしくもなく素直に目を閉じる。
耳のすぐ上で、カチリという音がした。
次いで、固い何かが置かれる音。ちらりと横に視線を向ければ、俺のレギュレーターが取り外されて、サイドテーブルの上に置かれていた。
「
……
レザラ?」
口が離され、覆い被さるレザラを見上げる。相変わらず嬉しそうな笑顔のまま、右手を自身の背中に伸ばしていた。
右手を横に動かして、何かを引き抜くのが見えた。
ナイフだった。
腰のベルトに鞘を仕込んで、服の裏に隠していたのだろう。
レザラの表情は変わらない。うっとりと、幸せそうな笑顔で囁く。
「ボクたちはずっと一緒だ」
振り上げられた刃はネオンの光を反射して、キラキラ輝いて綺麗だった。
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