匣舟
2025-11-08 21:29:23
2773文字
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悪い子には飴をあげよう

ショートショートのさこ乱です。
現パロでハロウィンネタです。ちょいえっち。

「せ〜んぱいっ!トリックオアトリート〜!」
背後からいきなり近づくなよ。」
 一限目の講義が終わった左近は、一コマ飛ばして三限目に講義があるため帰る訳には行かず、まだ閑古鳥が鳴いている大学構内のカフェテリアの一角で、次の講義の準備をしながらブラックコーヒーを煽っていた。
 パソコンと板書したノートをにらめっこしながらコーヒーを煽った左近の視界がいきなり真っ暗になったかと思えば、自分の視界を隠して楽しそうな声が後ろから聞こえて左近は呆れるようにため息をついた。
「ため息ついたら幸せが逃げますよ〜?」
お前のせいでな?」
「わ〜あ、それは大変だあ〜。」
 左近の背後に音もなく近づき、彼の視界を真っ暗にした犯人は左近と同じく薬学部に所属しており、こんな呆れ顔をしている左近の恋人である一年生の猪名寺乱太郎だった。
 まだ自分の視界を解放しない乱太郎に早く目隠しすんのやめろよ。と言った左近は、後ろにいるであろう乱太郎の横腹を手ではたく。痛っ、暴力はんたーい!と乱太郎が言っているので、きっと左近の手は彼の体のどこかに当たったのだろう。
「左近せんぱぁい、トリックオアトリート〜!」
 いたたた。と言いながら左近の視界を解放した乱太郎は、彼が陣取っていた机の向かい席に座って左近の頬を突きながら性懲りも無く意地らしく笑っている。
 むにゅ。と柔らかいものを捏ねるように左近の頬を両方を引っ張っている乱太郎の手を呆れながら払い除けて、自分のカバンの中に偶然あったミルク味の飴を彼の口に突っ込む。
んぐっ!」
「これでも食べてろ。」
「ふぁ〜い。」
 もごもご。と大きな飴玉を頬張る乱太郎は、少し不満気そうに眉を寄せている。さっきまで楽しそうにしてた癖に、と左近が乱太郎の不貞腐れたような表情に首を傾げる。
んだよ、俺に悪戯でもしたかったのか?」
そうですけど、なにか?」
 むっすーといかにも不機嫌ですよという顔をして頬を膨らませる乱太郎をそんなに怒るなよ。と言いながら呆れつつも内心はかわいいと思いながら彼を慰めるように頭を撫でる左近。
 いつもならそんな左近の気遣いにやめてください!と反抗する乱太郎も、周りに人が居ないからなのかされるがままになっている。
(どうしたものかな……。)
 多分、ここで乱太郎の機嫌を取っておかないと今日一日はずっと拗ねてしまうだろうな。と思った左近は、なにか乱太郎の機嫌がなおる打開策がないか彼の頭を撫でながら考えていると、あるひとつの考えが頭に浮かんだ。
 チラチラと周りに誰もいないことを確認した左近は未だに不貞腐れている乱太郎を見てニヤリと笑い、彼の名前を呼んだ。
乱太郎。」
なんですかー。」
「トリックオアトリート?」
へっ!?」
 突然、自分と全く同じセリフを言った左近の言葉に乱太郎は目を見開いて驚いた。どうやらまさか左近からその言葉を返されるとは思っていなかったようだ。
なあ、乱太郎?お菓子くれなきゃ、イタズラしちゃうぞ?」
「そ、そんなこと急に言われましても。」
「お前も俺に急に言ったの忘れてるのか?」
はは、」
「持ってねえよな?俺みたいになあ?」
 左近の問いかけに焦っている乱太郎を見て、ニヤニヤと悪戯っ子のような顔をして彼を見る左近。乱太郎は焦りながらカバンの中を探り、なにかないかと色々と漁っているがどうやら左近に出せるものは無いようだった。
それじゃあ、お菓子がないなら悪戯、だなあ?」
「な、なにするんですか……?」
 左近の悪戯というワードに警戒心を剥き出しにしている乱太郎は、椅子から立ち上がって逃げられないように自分の肩を掴んでくる左近を睨みつけた。
 しかし、そんな抵抗も虚しく、左近は彼の睨みなんて効いていませんというように笑って彼に顔を近づけた。
「乱太郎、口開けろ。」
「なんっ……んぅ!?」
 何をするんですか、と言おうとした乱太郎の口は、左近の唇によって塞がれる。さっき乱太郎にあげた飴玉が口の中で溶け、口内に広がるミルクの味が互いの舌を通して伝わっていく。
 キスによってカラコロと二人の舌の移動していく飴は、最後に左近が乱太郎の舌から奪い去って小さくなった飴をゆっくりと噛んで酸欠によって顔が赤くなっている乱太郎を左近は意地らしく見つめた。
「な……なにするんですかぁ!!」
 ようやく息ができるようになった乱太郎は、息も絶え絶えになりながら涙目で左近を睨みつけた。先程の攻防で少しだけ涙ぐんでいる瞳と赤らんだ頬が、余計に可愛らしさを増していた。
「お前がしたかった悪戯を俺がしただけだって。ほら、甘くて美味しかっただろ?」
 俺が持ってたあの飴。いつも持ち歩いてんだよ。と左近はまるで悪びれることなく言いながら、喉を鳴らして残りのコーヒーを飲み干した。その飄々とした態度に、乱太郎はますます怒りが募る。
「だっ、誰かいたらどうするんですか!?」
「誰もいないって。」
 ちゃあんと確認したから安心しろ。と左近はさらりと言い返し、乱太郎の反論を遮るように手を伸ばして彼の頬を軽くつねった。
 つねられた痛みというよりは驚きの方が勝ち、乱太郎は小さくひうっ!と悲鳴を上げて身を縮める。左近はその様子を見てもう一度ニヤリと笑い、再び椅子に腰を下ろして乱太郎の目の前に座り直した。
「まあまあ、そんなに怒るなって。イタズラして欲しいって言ってきたのはお前だろ?」
「だとしても限度があります!あのキスは……うぅ……!」
 乱太郎は顔を真っ赤にして言葉に詰まり、机に頭を預けて俯いた。その姿に左近は、またしてもからかいたくなる衝動に駆られる。
なんだよ、そんなに嫌だったのか?」
 左近は寂しげなトーンを作って目の前にいる恋人へとわざとらしく問いかけると、乱太郎は慌てて顔を上げ、勢いよく首を振った。
「い、いやじゃないです……けど……。」
 その、周りに人がいたらどうしようっていう恥ずかしさがあったっていうか。と語尾が尻すぼみになる乱太郎の様子に、左近は満足げに笑う。そして、指先で軽く彼の髪を梳くように触れながら囁いた。
んじゃあ、今も周りに誰もいないしもう一回キス、するか?」
 ニタリ、と悪戯っ子のように乱太郎を見つめる左近をみた彼の顔はみるみる赤くなっていき、左近はそれを見て顔を近づけようとするが
「も、もう左近先輩なんて知りません!」
 乱太郎は照れ隠しなのか、ぷいっと顔を背けてしまった。しかし、その耳元がほんのり赤くなっていることに気づいた左近は、おい、こっち向けよ。といじらしく彼を見つめながら、乱太郎の顔を自分の方に向けようと必死になるのだった。