沙里
2025-11-08 18:22:58
3299文字
Public
 

Reconquista

無印DFFの8と5

 岩から染み出す水のように、少しずつ少しずつ、見えてきた本当の世界。
 希望など無いのだと言いたいかのような闇。
 止む事のない『偽物』の攻撃。
 ひと時の休息も、ただの気休めでしかないことを、誰もが知っていた。
 それでも、光を失うわけにはいかないと、気丈に振舞う。
 途切れることのない笑顔と、声。互いに存在を確認しあうかのように。
「いっただきー!」
「あ! 待てコラ! おれの分まで取るなよ!」
「お前たち、メシ時くらい静かにしないか」
 少し騒がしい食事時。
 お世辞にも豪華とは言えない簡素な食事でも、それは安らぎになった。
本当に騒がしいな)
 ふ、と小さく息を吐き出して、彼は仲間の輪から少し離れた。
 火の爆ぜる音は小さく、それよりも大きな仲間の声にため息が漏れる。
……嫌だと、言うわけじゃないが
 それを言葉にするなら、おそらく戸惑い。
 記憶の片隅にある、自分の『仲間』もそれなりに賑やかだった、と彼は思い起こす。
 ただ、それは霞がかかったように白くもやもやとしたものであり、完全な形では思い浮かばなかった。
 彼だけではない。
 そこで騒いでいる少年も、説教をする青年も、まぁまぁとなだめる少女も、みんな。
 誰も彼も、完全なる記憶を持たないでいる。
 帰るべき場所も、守るべき何かも、共に歩む誰かも全てが無い。
 それでも一部のかけらは残っているのだろう。
 スコールもそのうちの一人だった。
「スコール」
……バッツか」
 ひらりと手を振った青年は、彼の横に立って、仲間の輪を見つめた。
「こうやって見ると大所帯だよなー」
 男ばっかりだけど、とバッツは笑った。
そうだな」
 ため息交じりにスコールは返事をした。
 暗に構うな、と告げているようではあったが、隣に立つ青年は全く気に留めた様子はなかった。
「こんなにいるのに、誰もお互いの顔すら知らなかったってすげーよな」
(別に珍しくもない。世の中に何人の人間がいると思ってるんだコイツは)
 そこまで考えて、スコールはふと尋ねた。
「オマエの世界は、人間が少ないのか?」
 己のことも思い出せないほどに混乱した記憶の中、理解できたことと言えば、この大所帯にもなろうという人物全てが、違う世界の住人だと言うことだけ。
 旅を続ける中で、少しずつ思い出してはいるものの、完全に思い出すというのは程遠い。
 スコールもバッツも、その一人だ。
「うーんどうかなぁ。世界がごちゃごちゃになったりしたから、そういう意味では少ない方なのかも」
ごちゃごちゃ?」
 バッツは腕を組んで考え込むように、うーんと唸った。
「まだ完全に思い出したわけじゃないんだけどさ。なんか色々あって、二つの世界が一つになってるんだよな」
なんだ、そのトンチキな設定は)
 胸中でのスコールの呟きなど知りもせず、バッツは続けた。
「エクスデスのこともあったし……それに人間じゃない種族もたっくさんいるしなぁ。それってカウントしていいのか?」
好きにしてくれ)
「スコールの方は?」
別に……普通だ」
 バッツからすれば普通ではないのだろうが、スコールはそれ以上言わなかった。
「スコールのガンブレードとか見てるとさ、全然普通じゃなさそうなんだけどなー?」
 じーっとバッツがスコールの顔を覗き込む。
 好奇心を抑えきれないという感情が、表情を通して溢れている。
 スコールは小さくため息をついた。
俺たちからすれば、普通だ。オマエたちがファンタジーすぎる」
「なんだよそれ」
「そのままの意味だ」
 そう言って、スコールは目を閉じた。
 少し遠いざわめきが、まだ聞こえる。
 バッツは苦笑して視線をざわめきに戻した。
でも、みんなの世界にも行ってみたいよな」
 バッツの呟きに、スコールは閉じた目を少しだけ開いた。
「自分の世界の話をする時、みんな楽しそうだ。だから覗いてみたい」
(ただの逃避だ、それは)
「目の前の現実から逃げてるだけ、って思ってるだろ?」
 眩しいほどの笑顔で指摘され、スコールは少し驚いた。
「逃げてるんじゃないんだ。希望を持ってるんだよ、みんな」
同じだろう」
「全然違うんだけどなぁ。でも口にするのってむずかしいんだ」
 あはは、と笑うバッツに、スコールは眉間に皺を寄せた。
「そのお守りだってそうだろ。何の役にも立たないけど、持ってるだけで安心する」
役に立たないとオマエが断言してどうする」
「あははっ、相棒には内緒にしててくれよな?」
(どうやってチョコボと会話しろと?)
 スコールの内心のツッコミは、やはりバッツには届かない。
 もし口にしていれば、バッツのチョコボ会話教室が始まったかもしれない。 
 そう思って、スコールはひとりうんざりとした。
「ま、つまりだな。そういう目に見える効果はないけど、気持ちが違うだろってこと!」
気休めだな)
 そう思いはしたものの、実際スコールが手にしているくたびれた羽根のおかげで、幾度か窮地を脱出していることは事実だった。
「気休めでもさ、何もないより絶対いい」
 内面を見透かしたかのような言葉に、スコールはぎくりとする。
 バッツはいつもどおりの笑顔で続けた。
「それが仲間だったり、元の世界の記憶だったり、そのお守りだったりさ。何でもいいんだよ、支えになれば。それでおれたちは強くなれる」
そういうものか」
「そういうもんだよ。スコールさぁ、変に考えすぎじゃないか?」
(オマエが考えなしなだけだ)
 スコールの口に出さない思考を読み取ったのか、気にしていないのか。
 おそらく後者だろう、と口数の少ない彼は思っている。
 真実がどうなのかは、お互い知りもしないし、興味もないのだが。
「そういうのはさ、年上に任せておけばいいんだって」
……ああ、そういえば年上だったな」
「あーひっでぇなぁ」
 けらけらと笑うバッツの姿は、とても年上には見えない。
 何も知らない人から見れば、むすっとして立っているスコールの方が年上に見られることも少なくはないだろう。
「でもさ、たまには頼れよな」
 すっと真面目な顔をした青年は、さっきまで少年の顔で笑っていた人物とは全くの別人にすら思えた。
「一人が悪いなんて言わない。おれだって、相棒はいたけど一人旅みたいなもんだったしな」
 黄色い羽根を見つめながら、バッツは続けた。
「余計なお世話って思ってるんだろうけど」
 くす、と青年が笑うと、彼は眉間に皺を寄せた。
「誰かがいる時くらい、甘えていいと思う。こんなにいるんだし」
 指差した先で、少年が手を振っていた。
「ほら、呼んでるぜ」
「オマエをだろう」
「スコールも、だよ」
 振られた手に、手を振り返す。
 なんてことない、ちょっとしたごあいさつ。
「おれたちは、みんな仲間なんだから」
 たとえそれが、この混沌とした世界だけの関係だったとしても。
そうだな」
 自分たちの世界に、いつか帰ってしまうのだとしても。
「笑顔は二倍、悲しみは半分。そーゆーことで!」
単純な計算式だな」
「わかりやすいのが一番だって!」
 行こうぜ、とバッツがスコールを促す。
嫌いじゃない」
「知ってる!」
 残された時間はあと僅か。
 それが闇への道のりか、光の道のりかはわからないけれども。
「さっさとこねーと、全部食っちまうぞー」
「あ、その時はオレにも分けて欲しいッス!」
「そんなことしたら、ホーリーぶち込むからなー!」
 賑やかで、騒がしくて。
 でも時々、泣いたり、考え込んだりして。
「ほら、スコールも行かないと食われちまうぜ」
騒がしいな」
 声に出す想いは少なくても、結晶を片手に進む道のりは同じ。
「だが、悪くない」
 スコールの口調を真似て、バッツが笑った。
「うまいだろ?」
 何も言わず、スコールは少しだけ肩を竦める。
 いつもは堅い表情が、少しだけ和らいでいた。