白殊皎(しらよし こう)
2025-11-08 13:30:00
2061文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

あなたのそばに、わたしはいます

えふご【歳勇/土近/としいさ/ひじこん】
2臨近藤さんが土方さんに想いを伝える話。
届かなかった言葉を胸に。

──あぁ、またか。
 土方はそれを認めて心の中におりのようなものが溜まっていくのを感じた。
 視線の先には近藤勇。
 土方が誰よりも大切に、全身全霊をかけて護り、愛したい──いや、そんな軽い言葉では足りないほど想う相手。
 そんな彼にどうして土方がそんな仄暗ほのぐらい想いを抱くかというと、今のその姿である。
 ここカルデアに召喚されたサーヴァントは、一定のリソースを注がれた後であれば、ある程度自分で姿を変えることができる。
 武器や鎧の意匠であったり、その力を示すための外見であったり、あまり変わらない者もいれば、外見も性格すらも変化させる者もいる。
 近藤の変化は、どちらかというと後者に近い。
 ここに来てからは性格まで変わることは少ないものの、その姿はガラリと変わる。
 まずは京の特異点で最初に姿を現した黒の剣士、次にその命を終えた頃の姿、そして彼が最大に輝いていたであろう浅葱の羽織を纏った美麗なる姿。
 土方が色々な意味で嫌うのはその中の──命を終えた頃の姿である。
 黒の着流しで黒色の隊服を肩に掛け紫煙をくゆらせるその姿は、事情を知らない者にとっては余裕のある優雅な雰囲気を感じるのかもしれないが、こけた頬に懐手ふところでをすると覗く身体の、特に目立つ右肩の傷、一回り細く……少しやつれたような身体。
 それのどれもが土方に深い慚愧ざんきの念を抱かせる。
──そうさせたのは、自分なのだと。
 護りたいだけだった、傷ついてほしくなかった、いつまでも新選組の……いや、自分の輝く星でいてほしかった。
 そんな思いだけで近藤を籠の中に取りこめた。
 それが結局近藤をうしなう原因になることも知らず、そして喪ったことを認めたくなくて走り続けてきた。
 だから土方はその姿の近藤を避ける。
 それを知ってから知らずか、最近の近藤はその姿でいる事が多かった。
 知っているのならあまり近づくな、ということなのだろうが、知らないのだろうと思わせるのは、カルデア内に未成年者のマスターに影響を与えないようにと作られたガラス張りの喫煙室で、同じく紫煙をくゆらせる他のサーヴァント達と談笑していても、土方の姿を見つけると吸うのをやめて、「歳」と綺麗に微笑むのだ。
──まるで夢を語り合ったあの頃のままに……

──苦しい、苦しい、苦しい。
 やめてくれ、その姿でそんな笑顔を見せないでくれ。

 足早に廊下を進みシミュレーター室に向かう。
 模擬戦闘でもやらなければこの気持ちは晴れそうにない。

──しかし。

「歳」
 シミュレーター室の前には近藤がいた。
 人待ち顔で壁にもたれる姿は着流のまま。
………………
 返事もできなくて目を逸らす。
「歳」
 再び名を呼ばれる。
「なんでだ……
 声を絞り出す。
「歳?」
「なんでその姿で俺の前に立つんだ……!!」
 鬼とも例えられる男が、目を真っ赤にして声を上げる。
「俺はあんたをずっと見てきたつもりで、その実何も見えていなかった! あんたがどんなに苦しんでいたかも見ようとしなかった。ただ、ただ俺のエゴだけで……あんたをずっと縛り付け、傷付けていたのは俺だというのに……
 狼のような慟哭を受けても近藤は凪いだ目でじっと土方を見ている。
「歳……
 荒い息を吐きながら近くの壁に拳を叩きつける土方に、近藤は静かに歩み寄った。
「こっちを向きなさい、歳」
 そう言って土方の顔に両の手を添えて自分の方を向かせる。
 抵抗しようとしても力の使い方がうまいのか、それができない。
 せめてもと目を固く閉じる。
 近藤はそんな土方の頭を自分の胸に抱きしめるように引き寄せた。
…………
「わかっていたよ、お前がどんなに私のことを想ってくれていたか。──でもね」
 近藤は柔らかに、だがはっきりとした口調で言葉を紡ぐ。
「傷付けたくない、護りたい、もう戦わなくていいから傍にいてくれるだけでいい、と思っていたのは私もなんだよ」
 戦いの度に傷を負って来る彼を、ただ高みで見ていることしかできなかった卑怯者の自分。
 今となってはもう取り返しはつかないが、もっと彼と一緒に──無理矢理にでも自分の前に座らせ、ちゃんと話ができていたら、自分たちの運命は変わらなかったとしても、もう少しましな終わり方ができていたのかもしれないと。
──そして……
「お前がそこまで私を想ってくれて、嬉しかった」
 だから甘えた。
 何も見ないふりをした。
 鍵も掛けられていなかったあの場所から逃げようとしなかった。
──最後には裏切ってしまったけれど。
「ッ……近藤、さん……!」
 熱い涙が近藤の胸元を濡らす。
「なんだい」
「俺は……おれ、は……
 胸元を摑んで嗚咽を続ける背を撫でながら、土方を見つめるその表情は、見るものが見れば幼な子を見守る慈母観音や外つ国の聖母のように見えただろう……
「もういい、苦しまなくていい。これからは……ずっと一緒だ」