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やまだ
2025-11-08 09:19:05
1412文字
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羅小黑戦記
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ロシャオヘイセンキ2感想文
「師父」
そういえばこの人と並んで歩いたことはなかったな、と思う。過去の鹿野は常に无限の数歩後ろで気配を殺していた。
すぐ横で振り返った視線を受け止めながら、そんなことをうっすら思い出す。
「まともな料理もできるようになったって本当?」
「小黑から?」
「そう。弟子になってからずっと師父のご飯食べてるって」
ふ、と无限が微笑んだ。笑いかけられたことはあっただろうか。覚えていない。鹿野はいつも俯くか、横を向くか、拳を振り抜く先しか見ていなかったから。
「修行中だ」
「あなたの口からそんな言葉が出るなんて」
「自分でもそう思う」
噴き出す鹿野の隣で、静かに、噛みしめるように无限が呟いた。
ふたりが歩くのは龍遊市の巨大な森林公園だ。ゆたかな緑陰と陽光の隙間を駆ける小黑の背は低い。鹿野や无限の腰に届くかどうかの体をめいっぱい弾ませるその様子を、師は目元をやわらげ見守っている。
「だがやらなければ。あの子に対して、私は責任がある」
「おいしいご飯を食べさせる責任?」
「そう」
また无限が微笑んだ。
「おまえも小黑に随分奢ってやったそうだが」
「別に小黑のためじゃない。私のついで」
「そうか」
静かな声だ。公園の賑わいが鹿野から少し遠ざかり、そのぶん押しやっていた記憶が少し近づく。
无限の放つ、この静けさにしか耐えられない時期があった。夜の平穏がおそろしく、気遣わしげに寄り添ってくる妖精たちの熱がおそろしく、彼らの活気に満ちた生活音がおそろしい。それらはすべてかつての鹿野が抱きしめていたもので、そして理不尽な暴力で根こそぎ略奪されたものだったからだ。
力が欲しかった。
自信が欲しかった。
ひとりで立ち、狂った力の嵐に対峙できるのだという、根拠がほしかったのだ。
だから鹿野は无限を追いかけた。出会った日の无限が、そういうものに見えたのだ。彼は大木で、巨岩で、臥竜だった。
「師父! 師姐!」
先を駆けていた小黑が鹿野たちを振り返る。短い腕をいっぱいに伸ばして振り回し、早く早くと呼んでいる。
「もー、ふたりとも何してんの? 早くこっち来てってば! 花屋が閉まっちゃう」
「そんなわけないでしょ。逆にまだ開いてないんじゃないの?」
「わかんないじゃん!」
「今行くよ、小黑」
なんて声だろう。鹿野はそっと目を伏せ、片側だけ口角を上げた。大木、巨岩、臥竜、无限はそんなものじゃない。そんなものではなかった。きっと、たぶん、あのころの鹿野に対しても。
「家みたいな人」
无限がちらっと視線をよこしたが、鹿野は苦笑してかぶりを振った。隣に揺れる腕をぽん、と叩いて一歩追い越す。
「行こう師父。小黑のご機嫌とりをしなくちゃ」
「ああ」
陽だまりでぴょんぴょん跳ねる子どもは、无限が必ず自分の前で立ち止まり、片手をさし出してくれると信じて疑わない目をしている。鹿野が歩幅を少しだけ狭めるに違いないという目をしている。
「鹿野」
ん、と横を見る。鹿野の師は口元で小さく微笑んでいた。
「帰る前に家に寄りなさい。三人で食事にしよう」
「
……
師父の手作り?」
「ああ」
鹿野は腕を組んだ。目を閉じ、首をななめにする。
口もきちんと難しげに結んでいたつもりだが、弟弟子の急かす声でつい噴き出してしまった。
「
……
いいよ。そうする」
目を開けた鹿野の世界には、笑顔の无限と小黑がいる。
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