この怪盗団には共用のアジト、本拠地がある。四人で住むには十分な広さの一軒家には、怪盗用品以外にも雑多なものが置かれていた。その殆どは怪盗団の銃手、ラメングが持ち込んだ遊戯道具である。デジタルゲームは勿論、アナログゲームも多く積まれており、機械に強いシトリンとよく遊んでいる姿が見られた。
無論、スパイであり賭け事好きなヘルツもよく使用している。先述した二人に比べると頻度は高くないが、飽きっぽいナハトと並ぶとまだやり込んでいる方であった。
夜九時、ヘルツの自室。大型テレビを前に、部屋主であるヘルツはゲームで遊ぶ準備をしていた。ゲーム機が読み込んでいるのは、共用スペースに並べられた有名なゲームソフト……ではなく、彼が個人的に購入したアダルトゲームである。
ヘルツという男は、快楽主義者である。何もかも賭けて限界まで勝負するのも、寝かしつけという名目で始まったナハトとの性交も、警察に追われるひりついた危機感も、全ては愉快な人生の調味料に他ならない。
故に彼は、快楽に繋がりそうな知識ならば多く学びたいと思っている。
「(表紙の男がなかなか好みだったからな、楽しみだぜ)」
ソフトパッケージに描かれたのは、赤い瞳を輝かせる男性のイラスト。裏面に記された説明によると、吸血鬼の攻略対象たちに主人公が歪んだ愛をぶつけられる物語らしい。サンプルスチルには、一人称視点で顔の良い男に迫られるイラストが沢山記載されていた。
ゲーム機が起動し、ホーム画面にゲームソフトが浮かんだ。コントローラーを持ち、舌で唇の端を舐める。期待と興奮を胸に、さっそくソフトを選択して────
「おい、帰ったぞ」
「!? !!?」
突然、扉が勢いよく開いた。集中しかけていたヘルツの体は跳ね上がり、背後の来訪者を振り返る。平然と他人の部屋に侵入する男は、我らがリーダーでありヘルツの恋人……ナハトだ。
「ば、てめ、入る時はノックしろや!」
「ああ? オマエが何してても気にしないぞ」
「オレが気にするんだよ!」
ワクワクを奪われたヘルツは、近くのクッションを投げ付ける。片手で受け止めたナハトだが、その視線はヘルツではなくその足元に向けられていた。その視線に誘導されたヘルツも、同じ方向へ目線をすべらせる。二人が見つめるのは、アダルトゲームのパッケージ。
マズい。ヘルツがそう認識するには、あまりにも遅すぎた。
素早く両の手首を掴み、ナハトはヘルツを押し倒す。衝撃で手放したコントローラーが遠くに転がった音に気を取られていれば、ナハトはいつの間にか拾っていたリモコンで照明が絞った。薄暗い室内で、互いの高揚する表情が見える。
結局こうなるのかと、ヘルツがボンヤリ思った。
その刹那、大型液晶が瞬く。
「────!?」「うわっ!?」
目が眩むほどの光量に、二人の視界が真っ白に染まった。強すぎる刺激は、意識すらも塗り潰していく。
光が収まった頃、部屋には誰も残されては居なかった。
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