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しらかば
2025-11-08 00:00:00
6304文字
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「Have a blast!」
泡沫夢幻7周年記念短編。ギャグ全振り闇鍋回。
泡沫夢幻 7周年記念短編
「Have a blast!」
珍しく思い切りギャグ全振り日常パートです。
本編見てなくても大丈夫ですが、ある程度キャラを知ってるともっと楽しめるかもしれません。
「お兄ちゃん、闇鍋をしよう!」
早朝。
寝起き第一声で聞こえてきたのは妹のよくわからない提案。
「
……
は?」
朝霧凍磨はとりあえず起き、ベットの上でまだ虚ろな頭の中を整理する。
「おはようお兄ちゃん!鍋パしようよ!闇鍋パ!!」
しかし、再び整理しきれない頭に入るのは同じ言葉。やはり聞き間違いではなさそうだ。
漸く覚醒した意識で声のする方へ顔を向ける。
「
……
桜さん?まだ朝ですよ?」
ウキウキと身体を弾ませてそこにいる妹、桜を素通りし凍磨は台所に向かう。
「今日はお休み!お兄ちゃんもお休み!つまり鍋パ!たまにはいいじゃん!いつも任務ばかりなんだから!」
朝から桜のテンションは高い。
ドタバタと凍磨を追いかけるように台所へと向かうと朝食の用意をする凍磨の横でその姿を覗き見していた。
「朝飯は?」
「まだだよ、お兄ちゃんが起きたら一緒に食べようと思って」
「了解、すぐに出来るから飲み物でも準備しといてくれ」
「はーい!」
そして出来たのはトーストにスクランブルエッグ、そしてウインナーを焼いたモーニングセット。レタスを添える事を忘れずに。
「お兄ちゃんが食事当番の日のお休みって朝から贅沢できていいんだよね〜」
2人分のコーヒーを用意した桜はニコニコとしながら席に着く。朝霧家では小さい頃から二人暮らしのこともあり、食事は毎日当番制で交代で作るようにしていた。
凍磨も目の前に座り、いつも通り向かい合って食事を摂る。
「で?闇鍋パって本気で言ってんのかよ?」
「うん!もう遥ちゃんを呼んだよ!」
「
……
は?まだ朝だぞ?」
「思いついた時には連絡したから!」
桜のテンションが高いのはいつものこと、提案が唐突なのもいつも通りだ。
確かに、騎士団に入団し任務を熟す事が増えてからはあまり桜に構えていないような気もする。たまにはその無茶振りに付き合うのもありか。
「
……
ただ、お前。闇鍋パってあれだろ?いろんな人が食材を持ち寄る奴。そんなに集められるのかよ、作るの俺だろ?」
隣に住む遥が巻き込まれるのは(遥には申し訳ないが)いつも通りとして、そもそも闇鍋となると三人では人が足りない。ましてや調理する側の凍磨以外となると桜と遥の2人が食材を持ち寄るだけの回となろう。
「だからお兄ちゃん、誰か呼んでよ。宮代さんとか鷺内さんとか。こっちも友達呼んでみるからさ、未結ちゃんとか」
「まあ御鶴さんと和希さんに声をかけるくらいならいいけど
……
お前が言い出したんだからなんとかしろよ、てかどんなのが出来ても残すなよ」
「大丈夫!お兄ちゃんはなんでもうまく作れるから!」
こいつ、わざと俺の当番の日を狙ったな?
凍磨は深いため息をついた。
「
……
これで準備は大丈夫か」
知り合いに声はかけた。
好きな食材を一品持参で人を呼ぶ旨を桜とも打ち合わせをした。
鍋の準備もした。
カセットコンロも問題なく使える。
何が来ても対応出来るように最新の技を得ようとして、様々なバリエーションの鍋の味付けもコンビニで立ち読みした料理雑誌から仕入れた。
御鶴は「桜ちゃんの提案で鍋?闇鍋?うん、雪村に聞いてみるよ」とのことで、使用人の雪村の意見を採用すればおそらくまともな食材を持参する事は確実だ。御鶴が闇鍋の趣旨を理解していない可能性は高いが、それは雪村から説明を受けると予想する。
和希も「え?闇鍋パ?面白そうじゃん、任務終わりに行くね」とのこと。あのチャラ男はああ見えて料理上手だ、こちらも心配はない。
「ただ一個気になるんだよな
……
」
凍磨は和希に連絡をした時の言葉を思い返した。
「
……
ねえ、凍磨。それ、玲依ちゃんは誘ってないよね?」
事実、凍磨は御鶴と和希にしか声をかけていない。
「これは忠告。その趣旨なら
……
玲依ちゃんは絶対に呼んだら駄目だよ」
電話口からでも伝わる、和希の真剣そのものの声色
……
いや、あれは確実に人を殺す前の覚めた声色だったが
……
それが耳から離れない。
「玲依さんを呼ぶな?和希さんからの忠告?どういう事だ
……
」
むしろ、あの二人は親しい。和希が誘う事はあっても敢えて呼ぶなと提案するなど。
「マズかったらキレるのか
……
?鍋奉行なのか?」
考えても仕方がない。
今ある目の前の事に集中するよう、頭を振る。
「ふっふっふ
……
お兄ちゃんお待たせー!」
そこに桜が現れた。
仁王立ちで胸を張るように、どこで買ったのか、漫画にある怪盗のような目のみのマスク、そして丈の異様に長い見覚えのある黒のロングコート
……
「あのー
……
なんで俺のコート羽織ってんだよお前?」
そう、凍磨のものである。
「だってこの方が闇っぽいでしょ!?本当はお兄ちゃんが闇出してくれたら一番だけどお兄ちゃんは料理担当だから」
「家の中で俺に能力を発動させようとするのをやめろ!あとデカすぎて袖から手が出てねえんだよ!早く脱げ!」
「きゃーお兄ちゃんのえっち〜!」
「うるせえ!!」
ドタバタと叫び、じゃれ合いながら攻防を続けているとインターホンが鳴った。
「
……
ったく、早く着替えとけよ」
「はーい」
もうそんな時間か、凍磨は呆れたように頭を掻きながらドアを開く。
「こんにちはーッス!」
「こんにちは、お邪魔するわね」
そこにいたのは桜の友人の未結と遥。
「あのさ、凍磨。その
……
えっち、って聞こえたけど
……
」
「気の所為だよ気の所為!」
開口一番、気まずい空気が漂い凍磨はこれが終わったら桜にきつく怒ろうと心に誓うのだった。
「あ、未結ちゃんと遥ちゃんだ!」
言われた通りちゃんと着替えた桜はドタバタと現れ、手をブンブン振りながら二人を迎え入れる。
「そういや、遥と御鶴さんって仲悪いんだっけ
……
まずかったかな
……
」
ふと、凍磨は思い出した。あの二人は仲が悪いのだと。
「はぁ!?宮代御鶴が来るの!?」
「いや、桜が呼べって
……
」
「みんなで食べたら仲良くなれるよ!大丈夫大丈夫!」
もう、どうにでもなれだ。今更帰れとも言えまい。
それに、遥が帰ると言い出さなかったのだから後はなんとかなるだろう。
「で、桜から好きな食べ物を持ってこいって言われたんだけど
……
これでいいのかしら?」
「そうッスね!私も持ってきたッス!」
ここからが本番だ。
この二人が何を持ってきたのか、だ。
「ああ、貰うよ。ありがとな。ゆっくりしててくれ」
「こっちだよー!」
桜がウキウキで二人を案内する。
受け取った袋を台所に持っていくと、凍磨の額に汗がにじむ。
未結が渡してきた袋から取り出したのは、ハンバーグ。
「まだ、まだギリギリいけるか
……
?ほら、肉団子とかもあるし
……
」
そして遥から渡された紙袋から出したのは、紅茶。
「
……
いや、いける、か
……
?」
もはや闇鍋と切り分けて普通に食事をした方がいいまである。
「お兄ちゃん、私の食材まだ渡してないよね!?」
そうだ、ここにもいた。わざととんでもないものを出しそうな妹が
……
「はい、これ!パスタ!」
「
……
お、おう」
意外とまともだなこいつ。凍磨は安心した。
「
……
うん、なんとかなるな」
紅茶を出汁に合わせて煮込めばなんとかなりそうか。いや、なんとかしなければ。
再びインターホンが鳴り、入り口にとんぼ返りである。
「凍磨、お邪魔しまーす」
「やあ、凍磨。そこで和希と会ってね」
「会ったと言うか、たまたまそこに大きな車があったんだよねー、さすが英雄様」
「和希さん、御鶴さん!どうぞ!」
まさかの最強と呼ばれる二人が同時に来た。これには二人と親しい凍磨でもテンションが上がるものがあった。
「桜ちゃんが言い出したんだろう?雪村に聞いてきたよ、面白そうな試みだよね」
御鶴は今日は珍しく和服ではなく、落ち着いた色合いの洋服だ。和希も普段とは異なるカジュアルな洋服なのは、戦闘後だと言っていたから着替えてきたのだろう。
やはりこの二人は街を歩いているとモテそうだな、凍磨は一人でに納得し頷いた。
「闇鍋かー、食材は何が来てるの?俺で良かったら手伝うよー?」
「今のところまともなんすけど
……
お二人は?」
ここはおそらく大丈夫だろう。半ば安心しながら2人から食材を受け取る。白菜としめじである。
「雪村がお鍋なら白菜を入れたらどれでも合うからって言っていてね。カンサイの有名な農家さんの白菜を取り寄せていたから、それをね」
「いや、やることが違いすぎるだろ英雄
……
さすがっす
……
」
凍磨は心の中で雪村に感謝をする。
「あ、俺のは俺が好きだからってチョイスだよ?きのこならお鍋に入れても喧嘩しないしね」
和希はウインクをしながらそう言うと、台所に入り食材に目を通す。
「これは普通においしい鍋に成りそうだね?締めのパスタを考えたら、トマト味を入れるのも美味しそうかも」
「俺もそうかなって思ってました、これならなんとか行けそうです」
そもそも、何が入っているのかわからないものを暗い部屋で食べるのが闇鍋だが、その趣旨をガン無視して台所にいる和希には突っ込まないことにする。
「
……
まあ、危ないから暗くするのは無しにしましょうか。桜には言っときます」
おそらくこの中身の全容を知らないのは凍磨と和希、そして調理の場に居合わせた御鶴以外の面々のみ。もはや闇鍋の趣旨からは遠い気がするが桜が楽しいなら良しとする。
「これで揃ったよな?じゃあ鍋を仕込むから
――
」
「お兄ちゃん、まだもう一人来てないよ?」
台所を覗くように、桜が顔を出して呟いた。
「
……
は?俺は二人しか呼んでねーし、未結と遥が来たら終わりだろ?」
インターホンが鳴る。
「
……
凍磨、僕は何か恐ろしいことが起こる予感がするよ」
「止めてください御鶴さん、あんたが言うとまじでヤバそうなんで
……
」
桜がスキップをしながらドアを開けた。
「遅くなって悪かったわね」
銀髪。
黒いワンピース。
そして、手に持つ緑色の紙袋。
「
……
玲依ちゃん?なんで、ここに
――
」
「何よ、桜から誘われたんだけど何か悪い?」
和希が息を呑んだ。
尋ね人、玲依は靴を脱ぐと部屋に上がり、凍磨にその紙袋を手渡した。
「
……
凍磨、この闇鍋は終わりだ。もうどうにもならない
……
」
「
……
もしかして」
和希が呼ぶなと言った理由に、凍磨は漸く気付く。
「「
……
抹茶、スイーツ
……
」」
恐る恐る中身を確認する。
緑色の可愛らしいケーキ。それも人数分以上の数量。
「あのー玲依さん
……
桜に趣旨聞いてました?」
「好きな食べ物を持ってこいって言われたわよ?」
確かに、好きな食べ物に間違いはない。普段抹茶スイーツ好きを隠している(つもり)の玲依が堂々とそれを選んだ事に対する突っ込みはこの際置いておくとしよう。
まだ抹茶の粉だと言うのなら納得もギリギリ出来ただろう。しかし玲依がにこやかに渡してきたのはスイーツだ。
「
……
これ、鍋に入れるんですよ?」
そもそも、それを理解しているのか怪しい。
いや、仮に理解していたとしても大真面目に持ってきそうなので結果は変わらない可能性すらある。
「鍋に入れて、全部煮込むんですよ
……
?」
「はぁああああああ!?」
人の集まったアパートの一室、台所に響き渡る悲鳴。
やはり何も知らなかったのだろう。凍磨は深いため息をつく。
「あり得ない、あり得ないわよ!?抹茶ケーキを鍋に!?何を考えているのよ凍磨!?抹茶スイーツに対する冒涜!?」
「いや、これ闇鍋会で
――
」
「いい覚悟ね、死にたいの?そうか、なら殺してあげるわ今すぐに!」
台所で始まる、荒れ狂った戦乙女との戦闘。
抹茶スイーツで荒ぶる彼女にはもはや何も届かない。しかし、家で戦う訳にもいかない。とにかく説明をしなければ。
咄嗟に火を消し、凍磨は身構える。
「ち、違いますって!桜がちゃんと説明したはずで
――
ぐえっ!」
鋭い蹴りが下腹部を襲う。
怯む凍磨の目の前には包丁を握りしめた玲依。
「抹茶の恨みは重いわよ、例え貴方でもね!」
普通に殺気むき出しで玲依は攻撃を繰り返す。
かろうじて避けるが、もう背は壁しか無い。
「諦めて殺されることね、凍磨!」
その包丁は振るわれ
――
「やり過ぎだよ、玲依ちゃん。落ち着こう?」
振るわれるかに思われた包丁は止まっている。
「ちょっと!離しなさいよバ和希!」
「今から楽しいパーティーなのに、かわいい女の子がそんなに怒ってたら台無しだよ?」
どうやら、背後から和希が玲依の手を掴んで止めたようだ。
「それは凍磨が悪いわよ!」
「話はちゃんと聞かなきゃ駄目だよ玲依ちゃん。凍磨はこのケーキを鍋のあとのデザートにって言っていたんだよ?」
さすが戦乙女の相棒。チャラ男。ついでに最強。
「
……
ほんとに?」
「うん、玲依ちゃんが聞いてないだけだよ」
「
……
分かった」
なだめ方は慣れたもので、凍磨は安心するとがくりと膝をついた。
「こっぴどくやられたね、凍磨?」
くすり、と笑いながら二人の横を通り過ぎ、凍磨の前に現れた御鶴は札を凍磨にちらりと見せれば、その体はあたたかい光に包まれる。
「しかしあの戦乙女の鋭い攻撃を一瞬で見切って背後から掴むんだから、やっぱり雷霆殿は凄いね」
余裕そうに笑いながら凍磨に手を差し伸べる。
「その、ありがとうございます。御鶴さんも、和希さんも」
「ううん、なんか嫌な予感がしたから動いただけさ」
「俺も俺も。せっかくお呼ばれしたのに殺し合いとか気が悪いしねー?」
そういえば、桜達は見ていないだろうか。不安そうに凍磨が視線を泳がすと御鶴がいたずらっぽく口に人さし指を当て、小声で囁いた。
「大丈夫、桜ちゃん達はみんな寝てるから見てないよ?不思議な事にね」
視線を後ろに移せばつい先ほどまで騒いでいたはずの少女達は眠りについていた。
「で?和希の言う通り食後のデザートにするのかい?」
「はい、せめて抹茶スイーツじゃなくて抹茶ならなんとか鍋に入れられたんすけど
……
これはまじでデザートっすね」
そうしなければ自分の身の危険を感じる。
「ほら、玲依ちゃん。凍磨にごめんなさいは?」
「
……
悪かったわね、凍磨」
すっかり落ち着いた様子の玲依は、申し訳なさそうに小さく呟いた。
「いや、大丈夫っす
……
」
家が壊れなくて良かった、その安堵の方が大きいが。
「みんな寝ちゃってるうちに仕上げちゃおうよ、凍磨。起きたらパーティーだからね?」
「そう
……
ですね、起きる前に仕上げましょう」
闇鍋の割に美味しそうな鍋に、デザートには抹茶ケーキ。
喜ぶ顔が楽しみで、思わず笑ってしまう。
賑やかなパーティーは、これからだ。
終
――――
泡沫夢幻 7周年ありがとうございます!
トマト味の紅茶の鍋って普通に美味しそうですね。食べたこと無いし合うのか分かりませんけど。
ちなみに女の子達が眠ってしまったのは凍磨が玲依にブチギレられてる裏で御鶴が咄嗟に術を展開してます。さすが御鶴様。
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