幸希(ユキ)
2025-11-07 07:13:16
4011文字
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当たり前

無駄にシリアスに走ってしまった…。前半がどうにもこうにもまとまらなくて余計に長くなったし(-_-;)
多分後日加筆修正します。

むっちゃん視点になってます。




「私は、別に義務とかで一緒にいて欲しくはないかな。ああしたい、こうしたい、こんなのが出来たらいいなとは思うけど、むっちゃんの気持ちがそこに伴ってないなら、別にいい。」
「それは
「だってさ、考えてみなよ。むっちゃん最初私の事好きとかなかったじゃん。」
「待っとうせ!」

主の口を塞いで言葉を遮った。それ以上言わせてはいけない。その思いが浮かぶと同時に、“まさか”と嫌な予感がした。

(それだけは、嫌じゃ。)

「それ以上言わんで。」
「なんで。」
……おまさん、わしを諦めるつもりじゃろ。」

嫌というほど見てきたはずだった。想われるわけがないと。想いが返るはずがないと。強く思い込んで傷付いて、ただ一方的に好意を伝えてくるだけの主の姿を。一向に受け取ろうとせず、その選択肢すらあり得ないと受け取る事を諦めていたその寂しさを。

(知っちょったにどうして)

どうして“満たされない”なんて馬鹿な事を思ったのだろう。

「っ!」

衝動のままに主を抱き込んだ。されるがままで手を回してすらこない主にひどく胸が痛む。

「どうしたの、急に。」

平坦な主の声に胸の奥が急激に冷えていく。喪失感と罪悪感で舌の上に苦みが広がり、焦燥に焼かれていく。

「わしは大馬鹿者じゃ。」
……。」
「こがな事にならんと気付きも出来んがか。『満たされん』ちゅう考えがいかに傲慢か分かりもせんか。こがにべこじゃったか。」
……。」

返らない声。喪失感は重くなり、焦燥感に駆られる。

「当たり前にしてしもうた。当たり前やないのをよう知っちょって、胡座をかいた。おまさんからの想いの価値を勝手に下げてしもうた。当たり前にしちゃあいかんかったに!」

抱き込む腕に力が入る。目の奥が熱い。けれどこれを零すのは許されない。一番それを零して吐き出したいのは主だ。

「すまんかった!まっことすまざった!わしはなんちゅうことを!信じとってくれたおまさんを!」
……気持ちは不変じゃない。義務でもない。」
「義務なんて思っちゃあせん!わしは、ほんまにおまさんが大好きながよ!愛しゅうて愛しゅうて、阿呆になるくらいおまさんが大好きじゃ!!」
……。」
「謝る事しか出来ん!何が“満たされん”じゃ!あやかしいにも程がある!」
本音だったんじゃないの。」
「そがあな事断じてない!わしが馬鹿だったんじゃ。こがに、こがにおまさんが大好きながに。」

声が震える。取り返しがつくのかも分からない。失いたくない。焦りと恐怖、後悔。

「好きじゃ。大好きじゃ。おまさんが一等大好きじゃ。わしの可愛い可愛い唯一。わしの大事な嫁御殿。不甲斐ないわしを信じようとしてくれた可愛いおまさん。」
……。」
「のう、許してくれなんちゅう事は言わん。言えんきに。けんどこのままおまさんを離しとうない。まだ、まだわしへの想いがあるなら、わしを信じてくれるがやったら、お願いじゃ。この背を掴んでくれんがか?もうこがな思い絶対させんきに!」



間に合うなら、取り返しがつくなら、もう2度とこんな馬鹿な事はないと安心させてやりたい。2度と想いを取りこぼすような真似などするものか。いかに主が大切か、どれほど愛しているか、諦める必要などないと伝えてやりたい。

……!」

きゅう、と背が引っ張られる感覚。

「主?」
……私のこと、好き?……信じていい?」
「っ!もちろんじゃ!おまさんが大好きじゃ!!」

ズッ、と鼻をすする音が聞こえる。あぁ、泣かせてしまった。泣かせたくなどなかったのに。安堵すると同時に押し寄せる申し訳なさ。

「主。」
「むっちゃん。」
「泣かせてしもうた。不安にさせてしもうて本当にすまん。」
「ん。」
「好きじゃ。大好きながよ。おまさんを愛しちゅう。」

噛み締めるように口にすれば、主の目から静かにはらはらと涙が伝っていく。

(そうじゃ、このお人はこういて泣く人じゃった。)

不謹慎なのは分かってはいたが、その姿すら愛しくて、あちこちにキスの雨を降らせた。額、瞼、目じり、頬、鼻先、耳。顔だけにとどまらず、腕、手首、手のひら、指先にまで口付ける。

「わしの可愛いおまさん。」
……ん。」

頬に手を添えれば、甘えるようにすり寄ってくる。可愛くて堪らない。

……今まで以上に大切にするぜよ。もうあがな事絶対考えん。」
無理はしてほしくない。」
「無理らあてそがな事ない!さっきも言うたけんど、義務らぁて思っちゃあせんし、惰性ちゅう訳でもない。本心でおまさんが可愛いち思いゆうし、大事にしたいと思うちゅうよ。」
……。」
「随分間抜けな事をしてしもうたわしやけんど、主こそえいがか?ほんまにわしの事好きなが?」
好きだから哀しかった。」
「ご尤も。」

胡座をかいたところに主を横向きにして座らせる。ぎゅっと抱き締めれば素直に胸元に頭を預けてくれた。

「もうああいう言い方はしないでね。」
「せん。」
「泣き疲れた。」
「わしが全部世話しちゃお。」

宝物を姫抱きで抱えあげる。お世話という名目でこれでもかと甘やかそう。
思うが早いか、抱えあげた主と共に私室へと足が向かっていたのだった。