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幸希(ユキ)
2025-11-07 07:13:16
4011文字
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当たり前
無駄にシリアスに走ってしまった…。前半がどうにもこうにもまとまらなくて余計に長くなったし(-_-;)
多分後日加筆修正します。
むっちゃん視点になってます。
1
2
「今夜は土佐部屋にいて。」
そう薬研から言伝てされた。
前田と話をして、自分の腹立たしさの理由を考えていた矢先だった。ここ数日の不審ぶりを心配したのだろう。「不満とかあるの?」と優しく聞かれて、返したのは「満たされない」。今思うと本当に「何だそれ」と本丸の仲間から総スカンを受けてもおかしくない返しだった。
(主命なら聞かにゃあいかんけんど
…
)
いてもいなくても不満。確かに間違ってはいないが、それでもいない方がもっと嫌だった。今はただ、会いたい。
「それは主命なが?」
「いや、そのような指示はなかったな。」
「
……
。」
「旦那。」
視線を下に移せば、ゆらりと燃える薄紫色と目があった。
「いくら伴侶と言っても、大将に暗い顔させんのは感心しないな。」
抜刀はしていない。けれど喉元に切っ先を突きつけられたような感覚。底冷えをした、苛立ちと怒りを含んだ声だった。
「どうするつもりだ?」
「主に会いに行く。」
「大将からは土佐部屋にいろって言伝てだが?」
「主命でないがやったら強制力はないろう。」
「主からの命令を蔑ろにするってか?」
「そうは言うちょらん。」
真っ正面から薬研の視線を受け止める。
「後に回すと、もう主と話せんような気がする。ちゃんと顔を合わせて話したい。」
「
……
。」
チン
…
と微かに納刀したような音が響く。
「大将を泣かせるような事したら相応に動かさせてもらうぞ。」
「おん。」
腹立たしさの理由はまだ分かってはいない。けれど、このまま時間が経つのを待っていたら、いろんなものが戻らない気がした。そんな事になったらひどく後悔することだけは分かっていた。
薬研と別れ執務室の方へ向かうと、大和守安定と出会った。
「あ、クソ野郎じゃん。」
「随分な呼び方じゃの。」
「主にあんな顔させるやつなんてクソ野郎じゃん。」
いつもの穏やかさはなく、剣呑さを露にしてきた。
「あんな顔?」
「教えないもんねー。」
「おまんそういうところ加州そっくりじゃな。」
「今清光は関係ねぇだろ。」
ガッと目を見開いて凄む安定。
「あれだけ想われてて、それなのに『満たされない』なんてよく言えたな。」
「
…
主から聞いたがか。」
「始終べったりなはずのお前がいなかったら気にもなるし声だってかけるし、あんな顔してたら話聞きたくなる。」
「
……
。」
「あ、言っとくけど僕が追及して聞き出したから主責めるのは無しだからな。主、お前がお目付けの2人にどやされないように黙っててくれって言うんだ。僕としてはボコボコにされた方がいいと思うけど。」
「
……
。」
「なんにも言い返してこないんだね。」
「おまんの主張は間違うちょらんきに。
…
わしも、自分のやりゆう事が無い物ねだりの贅沢じゃと分かっちゅう。自分に腹も立ちゆう。」
「ふぅん?」
安定の剣呑さが少し和らぐ。
「完全に思い上がったのかと思ったけど、案外そうでもないのか。
…
どこ行くつもりだったの。」
「主のところじゃ。」
「
……
泣かせるなよ。」
(泣かせる
…
か。)
件の言葉を言った時、主は困った顔をしていた。わしも、上手い言い方が見つからんかった。あれ以外の言い方があって、違う伝え方をしていたら。
(あの顔をさせんかったんじゃろうか。)
執務室には深夜を過ぎたというのに、淡い光が灯っていた。
「主。」
声をかければガラッと開かれた戸。驚いたような、戸惑ったような表情の主がいた。
「なんで。薬研に言伝て頼んだのに。」
「聞いたけんど行けんかった。無理じゃ。」
「無理って
…
!」
「このままでおったら、おまさんと話せんようになる思うた。」
そう言えば、ふいっと視線を逸らされる。
「でも、今日は無理。来ないで欲しかった。」
「すまん。」
「帰って。」
「嫌じゃ。」
「なんで
…
!!」
「そがな顔しゆうおまさん見て、帰れるほど薄情やない。」
安定が言っていたのはこの顔だろう。感情を堪えている時の顔だった。
「おまさんはわしの嫁御じゃ。それを放っとくらぁて出来ん。」
「
…………
それってさ。」
「ん?」
「“旦那だから一緒にいなきゃいけない”っていう義務感?それとも昨日までは普通に一緒にいたからいないと駄目っていう惰性?」
ハッ、と自嘲するように話す主。背を叩かれたような衝撃と、指先から血の気が引いていくような感覚がし始めた。
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