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syanpon
2025-11-07 02:18:39
5052文字
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嗚呼、これを運命と
オトスバ
現パロ
オメガバース(独自設定あり)
嗚呼、これが運命かと思った。
あの時の感情を、体全身に走る落雷のような衝撃を、幼いスバルは上手く表現することができなかったが言ってしまえば一目惚れだったのだと思う。
柔らかく色素の薄い髪の毛をなびかせ、とろんとした大きな瞳でスバルを見つめてくる子供。聞くところによるとスバルよりも3歳も年上だということだがにわかに信じられなかった。母の制止も振り切ってぎゅうと抱きしめれば甘いミルクのような香りが鼻をくすぐる。
柔らかい陽だまりのような子供の名前はオットーというらしい。白い肌が桃色に色づきスバルの名前を舌ったらずに呼ぶ声すら愛おしい。
一目惚れだった、そうしてスバルがこの柔らかい生き物を守ってやらないといけないと思った。
「オットー」
「ナツキさん」
この世には運命の番というものがあるらしい。となればきっとスバルはアルファでオットーはオメガなのだろう。スバルが笑いかければオットーも笑う。
そんな当たり前がひどく嬉しくてスバルの胸を甘くくすぐった。
――
とまあ、年齢も考えも幼かったナツキ少年はそんなことを考えていた時期もあった。今となっては過去も過去、どうにもならない驕りである。
3歳の歳の差というものは大きくあれほど小さく可愛くふわふわだった子供はあっという間にスバルの背を越して誰からも好感を抱かれるであろう美青年へと成長していた。
対してスバルはどうだろうか、運動も勉強もなんでもできると思っていた全能感はとっくの昔に取り上げられてしまいまっすぐ前を見て歩くより自分の靴を見る時間のほうが長くなった。大きなやらかしをする前にオットーがいたためなんとか不登校にはならずにすんでおり、高校にもいけてはいるが本当に行って帰っての繰り返しである。
オットーはアルファだった。
そしてスバルはオメガだった。
別にそれは大した問題ではない。
ベータだろうがなんだろうが2人が幼馴染であることもスバルがどうしようもない人間であることも何も変わらない。家族同士の付き合いも相変わらずあり、スバルの家に呼び寄せることもあるしオットーがスバルを家に招き入れることも珍しくない。
「お邪魔します」
「おう、入れよ。
……
て、それつけんの」
変わったのはスバルの自認ともう一つ。
「はい、
――
間違いがあるとよくないので」
オットーがスバルと一緒の時だけその端正な顔に口輪を嵌めることだ。
スバルがオメガだと告白した次の日から彼はスバルの目の前では口輪を嵌めるようになった。大学に行く時などはつけていないのを確認しているのでどう考えてもスバルに対してだけの対応であることは明白であった。
自認と対応、変わったのはこの2つだけ。
そう、残念なことにスバルはまだオットーのことが大好きであった。幼い頃の一目惚れを高校生になり、釣り合わないと分かっていてもなお抱えたままである。だからこそスバルはこうして態度で「お前と番うつもりはない」とされても幼馴染という変わることのない関係性に縋るほかなかった。
「ナツキさん?」
「うへ、この菓子ハズレだ。オットー、あげる」
「なんですかこのお菓子、着色料のすごい色してる。
……
あ、」
「な、なに」
「動かないで」
何かに気がついた様子のオットーが本を机の上に置き、スバルに手を伸ばしてくる。スバルはぴくりとも動くことができずオットー伸びた手は彼の首へと回された。どくどくと心臓が血液を送り出すことに躍起になって息が詰まってしょうがないのに酸素がうまく取り込めない。手のひらに汗をかきはじめたとき耳元で「パチン」と聞きなれた音が響く。
「へ
……
」
「もう、チョーカーの留め具緩みかけてましたよ」
「え、あ」
「あんた分かってないかもですけど一応! 僕はアルファなんですからねってうわあ! クッション投げてこないでくださいよ!」
「じゃあさっきの菓子イッキ食いしろよ!」
「理不尽!!!」
ぎゃーぎゃーとじゃれあい声を上げてスバルは笑い、矢継ぎ早にオットーを揶揄う言葉をぶつけていく。
クッションを投げつける時、「そんなに俺と間違いが起きるのが嫌かよ」と呟いてしまったことを隠すために。
死ぬまでこの不毛な恋心を抱えて生きていくのだろう。
今は幼馴染としていられるからそれでなんとか生きていられるがいつかオットーが運命を見つけた時、自分はどうなってしまうのだろうか。初めて会った時に感じた運命以外をスバルは信じたくなんかない。
信じたくなんか、なかった。
***
それは全部不幸であり、事故だった。
スバルがたまたまオメガの項に歯を立てて逃走する悪質な犯罪に巻き込まれたのが第一の不幸。
必死に項だけは守ろうとチョーカーの留め具を外されないように暴れていた時、オットーが助けに来てくれたのが二つ目の不幸。
留め具が緩んで晒されたスバルの無防備なうなじにオットーが歯をたてたのは
――
オットーにとっては不幸であっただろう。
だから、全部不幸であり、事故であったのだ。
オメガとアルファの番契約は「うなじを噛む」という一点のみが有名であるがオメガの発情期の際に噛み付かなければ強制力はそこまでない。とは言っても番になってしまう可能性はゼロではなくオメガは生涯1人のアルファとしか番えないため、こういった事故のために緊急避番薬が存在していた。
不可抗力でスバルの項を噛んでしまったオットーもスバルを抱えて大急ぎで病院に駆け込み、自費でそれを手に入れた。幸いまだ番契約はされていないようで一安心といったところである。
自宅、太めのマジックペンほどの大きさの注射器を握り込んでオットーは困ったようにため息をつく。
「ナツキさん」
「やだ」
「やだじゃなくて」
「いやだ」
オットーの目の前、チョーカーをつけてさらに自らの手で首を覆い、涙目で睨みつけてくるスバルを見つめてオットーは困ったように頭をかいた。自分に非があると思っているのだろう、しゃがみ込みスバルに目線を合わせて語りかけてくる声はどこまでも優しい。
「このままだと番契約が完了しちゃうかもしれません。僕の両親にもナツキさんのご両親にも説明するとしてとりあえず打てる手は打っておきましょう? 今なら間に合います」
「いい」
「なに自暴自棄になってるんですか」
薬は首に打つ必要があるためチョーカーはもちろん手も外してもらわなくてはならない。指先が白くなるまで握られた手をほどこうと手を伸ばせばスバルは自分の体を守るように小さく縮こまる。そこでオットーは自分の対応が間違っていたことに気がつく。
彼は今さっき知らないアルファに襲われていたのだ。そして信頼していた幼馴染が助けに来てくれたかと思えば今度はそいつにうなじを噛まれてしまう。
これを裏切りと言わずしてなんというべきか。
「
……
そうですよね」
「オットー?」
「自制できずに噛みついて、僕なんかに触れられるのは嫌だと思います。病院で看護師さんにも打たせなかったと聞きましたし首を晒すのも怖いでしょう。でもだからこそ」
「ああ嫌だろうな! お前は!! 俺の前でばっかこれみよがしに口輪つけてたもんな! 嫌だよな!! ちょっとでも緩んでたらいっつも指摘してきて! 俺なんかと番ったりしたら優しいお前のことだ、責任取らないといけなくなるもんな。いいよ俺のことはほっといてくれて、お前が別の運命見つけて番っても何にも言わねえから!! だからほっといてくれよもう!!!!」
弾かれたように立ち上がりスバルがオットーの腕を振り払う。あまりの力にバチン! と手と腕が当たったところから破裂音のような音が響いた。ずっとつけてきたチョーカーだ、見ずとも片手で外せる。オットーに向かってチョーカーを投げつけて滲む視界の中で子供が癇癪を起こすようにスバルは怒鳴りつけ、泣き喚き、糸が切れたようにその場にへたり込む。
「これだけ
……
これだけ残させてくれよ。お願いオットー」
「ナツキさん
……
」
ぎゅうとオットーがスバルの体を抱き寄せる。幼い頃に嗅いだ甘い匂いなんてものはもうしなくて香水だろうか、ピリッとしたウッド系の香りが鼻腔を満たす。どんな匂いであってもオットーの匂いであって、久しぶりに感じた温もりだった。涙に濡れた瞳で見上げれば真っ白な肌に色素の薄い長いまつ毛とビー玉のように青く澄んだ瞳がアクセントになっていて惚れ惚れするほどに美しかった。
スバルのことをオットーはさらに強く抱きしめる。
と、うなじにチクリとした痛み。それの正体に気がつかないほどにスバルは馬鹿ではない。
「お前
……
!!」
「ナツキさんが僕のこと大好きなのはわかりましたけどそれはそれ、これはこれです」
じわり、また涙で視界が揺らぐ。
コツンとオットーの額がスバルの額に押し当てられる。
「ではナツキさん、話し合いましょう」
「もう話すことなんてねぇよ
……
。分不相応にお前のこと欲しがった俺がいたってだけの話」
「それ、未来の番の話はもっと聞かせてください」
「は?」
「あんたにはあんたなりの考えがあって悩みがあるんでしょう。それでも僕は番の前にあんたの唯一の幼馴染である訳ですから
……
」
「え、まって」
「なんです」
「つがい? 誰と誰が?」
「僕とナツキさんが」
「は?」
「は?」
「え、お前俺に何したと思う?」
「同意なくうなじを噛みましたね」
「そのあと!!!」
「避番薬を打ちましたね」
「なんで!?」
意味がわからなかった。WHYオットーである。混乱するスバルをよそにオットーはあっけらかんとした口ぶりで応える。
「そりゃ僕も男ですから。あんたにちゃんと選んでもらえる人間になるまでそういったことは良くないと思いまして。どれだけ僕が耐えてたか
……
! 気を抜いたら噛みついてしまいそうだったのにあんたはいっつも危機感ないし」
「だって俺、ワンチャンオットーに噛まれたかったし
……
」
「可愛いこと言うのやめてくれません!? 今口輪ないんですって!」
ぎゅっと目を閉じてオットーが叫ぶ。額がくっついたままだからぐりぐりと押し付けてこられると少し痛い。自身も額を動かせば摩擦がなくなるかと思ったがそれもうまくいかなかった。拗ねたような可愛くない声が口から溢れる。
「それ、俺のこと好きだって言ってるように聞こえるからやめろよ、勘違いするから」
「勘違いじゃないですよ。ナツキさん、好きです。運命がいると言うのなら僕にとっての運命はあなただ」
空よりも海よりも澄んだ青がまっすぐにスバルだけを見つめていた。何故だかスバルは声を上げて泣きたくなったが目尻も耳も頬も熱くなるばかりで何にもできない。はく、と唇が動く。
伝えたい言葉がたくさんある。
伝えたらいけないと思っていた言葉がたくさんある。
走馬灯のように出会ってから今までのオットーとすごした日々がスバルの頭の中を駆け回る。
「おれも、すき」
美しい男は歯を見せて可愛らしく笑った。
ああ、どうしようもなく好きだ。
そろそろとオットーの頬に手を伸ばせば消えることなく触れられる。想像していたよりも熱くて「あつい」と呟けば「照れてるんです」といつもより舌ったらずな口調で返された。
「ね、俺のうなじ噛んで」
「あんたが高校卒業したらね」
「それまでにお前が浮気したら?」
「それはないです。あんた以外のうなじを噛みたいわけがないので」
そう言ってオットーはスバルの体をぐるりと反転させ背中からぎゅうと抱きすくめる。無防備に晒されたうなじに熱い吐息がかかり、噛まれるよりかは鋭くて針より鈍い痛みがうなじにはしる。
「折衷案、こうやってマーキングしときましょうか」
「俺、見えないんだけど」
「僕からは見えます」
「意味ねー!」
オットーの腕の中で暴れればスバルの頭がオットーの顎にクリーンヒットし、鈍い音を立てたあとに男が後ろで顎を押さえて倒れ込む。ちょっと前と逆転し、うずくまったオットーの前にスバルはしゃがみ込み、内緒話をするように囁く。
「あのな、俺は一目惚れだったよ」
「奇遇ですねえ僕もです」
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