匣舟
2025-11-06 21:57:37
8408文字
Public RKRN
 

この先ぜんぶきみの勝ち

11月6日がお見合いの日らしいので許嫁金乱♀︎じゃん……!と思い続編を書きました。
喫茶店デートをする二人とその二人と再会するきりの話です。

「金吾、またな。」
ああ。また。」
 親しくしているクラスメイトに校門の前で別れを告げて自分の家とは反対方向に歩き出した金吾は無愛想な顔だったはずなのに、一歩、一歩足を踏み出す事にだんだんと顔が緩みながら彼女との待ち合わせ場所である駅へと歩いていた。
 金吾の彼女というのは先日運命的に再会した金吾が前世でその相手のことが好きであったが、次期当主としてその恋心が邪魔ということを幼いながらに理解し、その後想いを伝えることなく卒業した後に会うことも叶わなかった相手である猪名寺乱太郎……元い猪名寺蘭のことである。
 お見合い前日に両親から明日、お見合いがあるから、服や場所はこちらで用意しておくから心積もりだけはしておくように。と言われた時は、前日に言われたということは、自分に行かないという選択肢がないということを瞬時に悟ったことと、この歳でお見合い……?という気持ちと今世も心のどこかで乱太郎の事を想っている気持ちがあったため、お見合いしたとしても相手の人には申し訳ないけれど良い結果にはならないだろうな。と思っていた金吾の思考は、いい意味で裏切られることになったのだ。
 お見合いの場に先に着いた金吾は、相手が来るのを待っていた。そして、料亭の仲居からお客様がおいでになりました。と襖の奥から声が聞こえたので、どんな人が来るんだろうという少しの期待と緊張感に包まれながら、どうぞ。と自分が言った直後に襖が開かれて、その先にいたのは、自分が前世でずうっと想いを抱いていた猪名寺乱太郎にそっくりの女性が入ってきたのだ。乱太郎と瓜二つの女性を見た瞬間にはもう、自分の喉からひゅっと音が鳴っていた。それは同じく相手も、自分と同じようなことをしていた。
「き、金吾なの?」
 目の前の彼女から紡がれた言葉は、自己紹介もしていないのに自分の名前を泣きそうになりながらこちらを見ていた。その瞬間に、目の前にいる女性は乱太郎なんだと自分の脳の思考がうるさいほどに叫んでいた。彼女はお前が前世ずっと恋焦がれていた相手だ!と。早く前世からずうっと心の中で燻っているお前の邪魔だと言って捨てた恋心を相手に伝えてしまえ!と。
 だが、脳がずっとそう叫んでいるのにも関わらず、金吾の思考はショートして壊れたロボットみたいにずっと乱太郎を見つめて数秒後、我に返った金吾は、目の前にいる彼女にこう問うたのだ。きみは、乱太郎なのか。と。
 目の前の彼女がうん。と。俯きがちに答えた瞬間、もうすでに金吾の身体は動き出していた。前世は甘えん坊なことを利用して膝枕をしてもらっていた身体を力強く抱きしめる。彼女は自分が会いたかった。と言いながら泣いていることに対して戸惑っているが、泣くのは許して欲しかった。
 ずっと恋焦がれていた相手がお見合い相手で、前世とまるで何も変わっておらず、唯一変わっているのは性別だけ。これを運命と言わずしてなんと言おうか。前世も今世も神様という存在を信じたことはなかったけれど、この日だけは神様は本当にいるかもしれないと思ってしまったほどだ。
 神様から与えられたチャンスをものにしないといけないと思った金吾は、軽い自己紹介をしあった後、目の前の彼女に前世から心の中で燻ぶらせていた想いを全部伝えた。乱太郎の素直で真っすぐなところ。自分が甘えに行ってもしょうがないなあ。と膝枕をしてくれるところ。でも、その恋心は次期当主になる自分には邪魔でその想いを捨てたこと。
 目の前の彼女が、自分の想いを受け止めてただ自分の声に耳を傾けている姿を見て、覚悟を決めた金吾はきみの隣にいることを許してほしい。と言った。
(どうか、この手を握って。)
 見つめ返して。と金吾の想いとは裏腹に蘭は頭を下げてしまったが、その手を振りほどかれることはなかった。ただただ彼女が行動を起こすのを待つしかない金吾は彼女の様子をじっと見守っていると、か細く消え入るような声でわ、わたしなんかでいいの?金吾には私よりいい人がきっといるはずだよ。と俯きながら言った彼女に、金吾はきみしかいないよ。と考える前に言葉が出ていた。
 きみじゃなきゃこんなに今世まで恋焦がれることなんかなかっただろう。今回のお見合いだってきみじゃなきゃ断っていたぐらいだったのに!と思いながら、拒絶してもいいよ。と言っておきながらも蘭のことを諦めるつもりなど毛頭もない金吾は、悩んでいる彼女の思考に真っすぐ、この想いが偽りでなく本当であると思ってもらうために、蘭の瞳に語り掛け続けた。
「わ、わたしのこと。」
 しあわせに、してくれる?と彼女の口から言葉が紡がれた瞬間のことは今でも夢に見るし、またこうして生まれ変わったとしても一生忘れることはないだろうと自負できるほどの破壊力だった。
 蘭の頬を包んでいた自分の手の重ねてきた蘭の手、自分の目をしっかり見ながら言葉を紡いだ彼女の声は、こうして彼女の許嫁として認められた今でも昨日のことのように思い出せる。
 本当にあれは、運命としか言いようがないな。とn回目の運命論を提唱しながら集合場所である駅の待ち合わせスポットである時計前に行くと、先に着いていたであろう蘭がこちらを見た途端、ぱああっと笑顔になってこちらに駆けてくる。
「金吾!」
 駆けてそのまま自分の胸元にダイブしてくる彼女に走ったら危ないだろう。と言うと、へへへ、金吾が見えたからつい走っちゃった。とかわいい顔で発言されてしまったので怒る気が失せてしまった金吾は、そうか。それなら仕方ないな。と許してしまったのだった。
「で、蘭が行きたいところはどこ?」
「こっち~!」
 彼女が指をさした方向を向いた金吾は、そのまま自然に蘭の手と自分の手を絡ませて目的地へと出発した。今回の放課後デートの目的地は蘭の通う学校で有名になっている喫茶店らしい。
 どこか懐かしさが感じられつつ、また昭和レトロが漂う店内で、食べるクリームソーダとパンケーキが絶品なんだとか。喫茶店に行く途中には各々の学校で起きた出来事を話して笑いあったりしていると、目的の喫茶店に着いたらしく蘭が足を止めた。
「ここだよ!入ろ~っ!」
「うん。」
 金乱とデートしているせいか妙にはしゃいでいる蘭に連れられるがまま喫茶店の扉を開けると、どこか懐かしい雰囲気のある店内が目の前に広がった。厨房にいる老夫婦からお好きな席に座ってね。という案内を受けたので、それに軽く会釈をして二人掛けの窓側の席に向かい合って座ると奥からおしぼりと水が入ったコップをもった店員が来て、注文が決まったら呼んでくださいね。と言って去っていった。
「わあ、どれもおいしそ~う!」
 手書きのメニュー表を見てこれもいいなあ~!と目を輝かせながら迷っている目の前の彼女を愛おしそうに見つめながら、金吾も一緒に机の上で蘭が見つめているメニュー表を一緒に眺める。
「どれで悩んでるの?」
「クリームソーダを頼むのは確定なんだけど、友達に勧められたパンケーキかこのチーズケーキも美味しそうだなと思ってね。」
 どっちも食べたいんだけどどっちもだと食べ過ぎなような気がするんだよねえ。と腕を組んで悩む蘭に金吾はそれなら半分こしたらいいじゃないか。と提案し、そのまま店員を呼んで、クリームソーダ二つとパンケーキとチーズケーキを頼んでしまった。
 店員が去って行ったあとに改めて楽しみだね。と向かい席に座る彼女を見ると、少し頬を膨らませている蘭が目に映った。すかさず金吾はどうしたの?と聞くと、蘭は私の食べたいものばっかりだから。金吾はそれで良かったの?と頬を膨らませて聞いてくるものだから、その可愛さにノックアウトしそうになってしまうのを抑えて、目の前の彼女の膨らんでいる頬を突いて口を開いた。
「良いに決まってるじゃないか。僕は蘭とこうして一緒に過ごせるだけで楽しいんだから。」
「も、もうそういうところいつもずるい。」
 昔の甘えん坊な金吾はどこに行ったの。と頬を赤く染めながら金吾を見つめる蘭に彼はふふ、と笑ってテーブルに置いてあった彼女の手を握っているのだった。
「お待たせいたしました。クリームソーダお二つとパンケーキとチーズケーキです。」
 それから間もなくして二人が頼んだ商品が到着し、蘭は目を輝かせながらありがとうございます!と店員にお礼を言っていた。ごゆっくりどうぞ。と言って去っていく店員を見送ると、鞄にしまってあったスマートフォンを取り出してパシャパシャと写真を撮りだす。
 蘭はクリームソーダとパンケーキなどの写真を撮って、金吾は写真を撮りながら目を輝かせている蘭を撮っていた。良い写真を撮れたのか満足げな蘭と同時にスマートフォンを鞄の中にしまった金吾は目を合わせあっていただきます!と手を合わせて机の上に置いてあるクリームソーダたちに手を付けた。
「ん~!おいしいぃ~!」
 ソーダの上に乗っているバニラアイスをふわふわなパンケーキを一緒に食べた瞬間にぱあっと目の前にいる蘭の周りに花が舞っているのがみえる。でも流石蘭の通うお嬢様学校の生徒たちがこぞって通う理由がわかるほどの美味しさで、金吾もおいしいね。と蘭に微笑んだ。
 すると蘭がほっぺが落ちちゃいいそうなくらい美味しいね!と笑うので金吾もそれにつられて笑ってしまった。二人で楽しくおいしいね。と言いながら笑っていると、そういえば、チーズケーキも食べたいって蘭が言ってたから頼んだんだった。と金吾が自分の食べていたチーズケーキを蘭の方へ差し出した。
「はい、あ~ん。」
うぇ!?」
 完全にそんなことをされると思っていなかったらしい蘭は頬を赤く染めながらもじもじと身体を動かすばかりだった。ほら、食べたかったんだろう?口を開いてね?と蘭にもう一度言うと、うぅ~ずるい。と観念したのかおずおずと口を開いてくれた。
「ん……!美味しい……!」
 一口サイズにカットしたチーズケーキをぱくり。と食べてくれた蘭が、目をキラキラさせながら金吾を見るものだから、こちらも頬が緩んでしまう。蘭の口に入れたフォークを自分の口の中に入れると、今度は自分の番だと言うように彼女が目の前にあったフォークにパンケーキを刺してそれをこちらに向けている。
「私も……!はい、あーん」
 差し出されたフォークに戸惑うことなく、そのまま口の中に入れる。もぐもぐと咀嚼していると、蘭の顔が少し残念そうな顔をしていたので、どうしたの。と尋ねてみると、私ばっかりドキドキしてるのかな。と思って……。と頬を赤く染めて答えるものだから、愛おしい気持ちが止まらなくなった金吾は、ドキドキしていないわけなんてないわけないよ。と心の中で思いながら蘭を見てまた微笑む。
 ずっと自分が前世から恋焦がれていた大好きな人と二人っきりで、その大好きな人が目の前で幸せそうに微笑んでクリームソーダやパンケーキを食べている姿を堪能できる幸せな時間を噛み締めているのだから。何笑ってるのさ〜。と何も言わずに笑っている自分を睨む蘭の口元にアイスクリームがついているのを見た金吾は彼女の口元に手を持っていき、そのままついているアイスを手で掬って自分の口元に持っていった。
ふふ、蘭、付いてたよ。」
 本当にきみはかわいいね。という彼の表情はとても優しい表情で、それに耐えきれなかったのか、もう!と抗議をする蘭であったが、それに気にも止めずかわいい人だなあと思う金吾であった。
 その後、他愛もない話をしながら食べて飲んで笑っていたら、いつのまにかお互いの器は空になっていたので、そろそろ店を出ようか。と金吾が声を掛けると、蘭は立ち上がってちょっとお手洗いにだけ行ってくるね。とトイレへ向かっていった。
 その隙に財布を取り出し、今日の支払いは自分で払っておくことにしよう。と思い、店主に声を掛けて伝票を預かってそのままレジに向かって会計をしていると、こちらに来た蘭がびっくりしたような顔をしていた。
「金吾っ、お金は……!」
「僕に払わせて。」
 自分の財布を出そうとする蘭の手を制止してそう言うと、彼女は何も言えないような顔をするのでそのままその手を引き寄せて財布を鞄の中にしまう。そのままお会計をしてまた来てね。と老夫婦に見送られながら店を出ると、夕日が綺麗に染まっていて、そんな中恋人と帰るのは最高だな。と思いながら、金吾は蘭の手を取って歩き始める。
「美味しかった?」
「うん!美味しかった!」
 で、でも金吾に払わせちゃって……。と言いながら、自分が食べた分くらいは自分で払いたかったのに~!と言葉を続けて頬を膨らませながらむくれている。その可愛い顔を見て思わず笑ってしまいそうになったが、ここは彼女のためにも金吾は咳払いをしてごほん。と声をあげた。
「気にしなくていいんだよ。僕は好きな人とこうして一緒に出かけることが出来ていることが嬉しいんだから。」
 それに、と金吾は隣で同じ歩幅で歩いている蘭の顔を愛おしそうに見つめて微笑んだ。
「きみと遊ぶ時に僕が払うのは恋人として、ゆくゆくは夫になるんだから当然だと思うし、僕のことを甘やかしたいんだよ。」
 だから、それは慣れていって欲しいな。僕の未来の奥さん?と微笑む金吾に、蘭はまた頬が赤くなった。
……もぅ、金吾ってほんとずるいよね。」
 分かりましたよ、私の未来の旦那様?と言って困ったように笑う彼女はやっぱりとても愛おしくて、本当に好きだなあ。と思いながら、手を握り直してまた帰路へ着こうとするふたりの後ろから泣きそうな、か細い声が聞こえる。
「ら、らんたろう?きん、ご?」
 前世の名前を呼ばれた蘭は金吾よりも早く後ろを振り向くと、金吾が後ろを振り向いたと同時に彼の手からするりと自分の手を放して声のした方へと駆け寄った。
「きりちゃん!」
 金吾も声の主を確認するために、蘭の背中に視線を移すとそこには昔とあまり変わらない姿のきり丸が肩にかけていた鞄を地面に落として涙を溜めながら蘭を見つめていた。
「ほんとに……らんたろう……?」
「うん。そうだよ、きりちゃん。」
 蘭の制服の袖を掴んで、ぽろぽろと涙を零すきり丸に、彼女はしゃがんで目線を合わせる。すると蘭の肩に顔をうずめるようにきり丸は泣き始めてしまった。
 その光景を見た金吾は、まさかここで前世からの旧友に会えると思っていなかったことと、蘭の前世でずっと一緒だった相手との再会ということから二人を離そうとせず、きり丸の落とした鞄を拾い上げて彼の背中をさすってやった。
……らんたろ、俺ずっと、会いたかった。」
「うん、うん。……きりちゃん。私もずっと会いたかったよ。」
 蘭の優しい言葉にさらに泣きだしてしまうきり丸を、蘭は優しく受け入れて抱きしめた。
「ふふ、いつからこんなに泣き虫になっちゃったのかなあ、きりちゃんは。」
泣き虫じゃねーし。」
「わあ、何にも変わってないね、きりちゃん。」
 泣いていた癖に泣き虫と言われるとすぐに否定する天邪鬼なところなんかも、前世と全く変わらなくてそれが面白くてつい笑ってしまう。蘭が笑った声で気が付いた金吾がここじゃ目立つから何処か公園でも行こうか?と二人に声を掛けると、まだ金吾のことを見て泣き止んでいたはずのきり丸の目からまた涙が溢れ始める。
……き、んごも、会いたかった。」
うん、僕もずっと会いたかったよ。」
 久しぶりだね、きり丸。とすっかり小さくなってしまったきり丸を金吾も同じようにしゃがんで抱きしめてやると、きり丸は更に泣き始めてしまう。
 さらに泣き出してしまったきり丸を見て蘭に助けを求める金吾に彼女は笑いながらどこか落ち着けるところに行こっか?と二人できり丸の手を引っ張っていくのだった。
「ここにしようか。」
うん。きりちゃん、飲み物買ってくるから待っててね。」
 近くにあった公園に着いた三人は、ひとまずベンチに腰を掛ける。公園は人が誰もいない寂しい場所であったが、今は誰もいない方が三人にとって都合がよかった。
 落ち着くために蘭と金吾が近くの自動販売機で買ったホットコーヒー二つと蘭が飲むカフェオレを買って、ベンチに座って先ほどまで泣いていたきり丸を挟んで座る形で二人とも腰を掛けた。缶をプシュッと開ける音が三つ公園に響いた。
きりちゃんはコーヒーをブラックで飲めちゃうぐらい大人になったの?」
子ども扱いすんじゃねぇ。」
「「あはは、相変わらずだ。」」
 きり丸の言葉に二人して声が揃ってしまうほど、何にも変わっていないきり丸を見て金吾と蘭は二人して顔を見合わせて笑いだしてしまう。
 その笑い声に照れ臭くなって二人から顔を逸らしたきり丸は、なんでお前ら二人でいるんだよ。とコーヒーを啜りながら質問してきたので、金吾と蘭はまた顔を見合わせて微笑んでこれまでの経緯をきり丸に話した。
 親の計らいでお見合いをすることになって偶然にも蘭のお見合い相手が金吾であったこと。金吾が思いがけない再会のお見合いの席で前世で伝えられなかったずうっと胸中に募らせていた気持ちをすべて蘭に吐露したこと。そして、蘭がそれを受け入れてくれたことで許嫁となったこと。全てを話し終えると、きり丸は唖然としながらポツリと無意識に呟く。
……運命的すぎるだろ。」
「「ほんとにね。」」
 本当に奇跡に近いぐらいの再会だということを自覚している二人は、きり丸の言葉に何度も頷いた。先ほどから何回もハモったり二人の世界に浸って幸せそうな雰囲気に触れたきり丸は泣きすぎて少し赤い目を二人に向けてこう切り出した。
蘭、金吾。幸せになれよ。」
 それと、金吾。蘭のこと泣かせたら俺がぶっ飛ばすし、その時は俺が蘭のこともらうからな。と真剣そうな顔で言った後に金吾に向けて拳を突き出すきり丸に、金吾はきり丸と同じく拳をきり丸の拳の前に突き出して、もちろん大切にするし、幸せにしてみせるよ。ときり丸を見て言った。
 男同士のやり取りをしている二人を見て、蘭もカフェオレを啜りながらきり丸が拳を突き出している手と逆の手を握って、私にもそれやってよ!きりちゃん!という蘭にこれは男同士の約束だし、お前は幸せにしてもらう側なんだから必要ねえっつーの!と断られてしまった蘭は、きり丸が折れるまで言い続けたのだった。
「な、なんかごめんね、蘭が。」
「ったく、本当に変なところで頑固なところは変わんねーぜ。」
「だって私だけ仲間外れとか嫌だもん~。」
 本当は前世の話だったり今の話だったり話したいことはたくさんあるのだが、きり丸が今からバイトが入っているということで今日は解散することになった。少し寂しそうなきり丸に二人は連絡先も交換したんだしいつでも会えるよ。と言ってはにかむと少し顔を赤くさせたきり丸がべ、別にさみしくなんかねーわ。と言った。
「寂しいくせに。」
「バレバレだよ、きりちゃん。」
「うるせーな、ほら金吾、はよそこのニヤニヤ顔の彼女送ってこい。」
 ほらほら行った行った!とシッシッと手を振り払いながら二人と反対方向へ去っていったきり丸の背中が見えなくなるまで手を振った金吾と蘭は手をつないでまた帰路についた。
「何にも変わってなかったね、きりちゃん。」
「そうだね。」
 珍しくそれで終わってしまう会話に違和感を覚えた蘭が隣で歩いている金吾の顔を覗き込むと少し難しい顔をした金吾がいて、その感情に気づいた蘭は金吾。と言って彼の頬に手を伸ばして包み込んだ。
きりちゃんに嫉妬しちゃった?」
 それとも、私のこと、きりちゃんに取られちゃうって思っちゃった?と笑う蘭になんでもお見通しなんだね。と笑うとそりゃあ許嫁ですからね。とふわりと笑う蘭。そんな彼女に見惚れていると、蘭から少し屈んでくれる?と言われたので言われた通りにすると、自分の唇に温かいものが触れ、それが蘭からのキスだと気づいた時にはまたふわりとこちらを見て微笑んでいる蘭の顔が自分の瞳に映った。
「私には金吾しかいないよ。あなたしかいないの。私の隣にいるのは、あなたであってほしいんだよ。」
 ねえ、私の未来の旦那様?とお見合いの日に自分が蘭に対して言ったことを逆に蘭がお返しのように言ってこちらのことを愛おしそうに見つめてくる蘭にしてやられた金吾は、本当にきみには適わないな。と言って彼女の額に自分の額をこつんと合わせてそのまま微笑みあったふたりは、目を閉じたのを合図にキスをしたのだった。