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A4
2025-11-05 22:07:06
8107文字
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助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
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DATE / 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
エレンとお出かけをした兄が偶然、郊外の先輩後輩と出会いダブルデート?をする話
「ねえ、てんちょーにお願いがあるんだけどさ
……
」
けだるげに、しかし遠慮がちに申し出た少女にアキラは目をぱちくりさせた。
学校帰りなのだろう、いつもの「仕事着」ではなく制服姿で店にやってきたエレンはリンがいないことを確認してからアキラに言った。
「今度の土曜日、一緒に出かけてほしい」
「いいよ」
「即答じゃん。やばい話だったらどうすんの」
「君からやばい話はこないと思う。リナさんやライカンさんならともかく」
「仕事じゃない」
「なら、なおさら危険はないとみた」
「ま、そうなんだけどさ」
いわく、エレンの学校でとある授業があり、それに使用する薬剤を準備せねばならないらしいのだが、保護者の認可が必要で店舗での購入時には同伴しなければならないそうだ。本来なら授業内で教師が申込者分購入をするのだが、エレンは申込みを忘れてしまった。さらに、次の月曜日には必要なのに、リナもライカンも遠方に出ていて頼めないそうだ。
「僕が保護者でいいのかな」
アキラは腕組みをした。
「なんかあった時用の三番目の欄にふたりの名前、書いてあるんだ」
「勝手なことを
……
」
しかしエレンの信頼を得ているのだと思えば嬉しくもあり、不問とすることにした。
「ノックノックに待ち合わせ場所と時間、送っとくね」
「ああ」
エレンは厄介な頼みをアキラが引き受けてくれたことに安堵したのか、少しだけ笑みを浮かべた。そして気になっていたという新作を借りて店を出ようとした。それをアキラは呼び止める。
「待ってくれ」
「何?」
「どうしてリンじゃなく、僕なんだ?」
「リン店長は身分証見せても店のひとに勘違いされそうだし、それに、友だち同士で危ないことするって思われそうだから」
「そんなものか」
「まあ、あなたでもそんなに違いはないかもだけど」
言って、エレンは店から出て行った。
残されたアキラは18号と顔を見合わせた。
「次の土曜日は君とリンにお店を任せなくちゃだ」
「ンナ!ンナナナ」
頼もしい18号の返事ににっこりして、アキラはバックヤードで「本業」に徹している妹の元に行った。
エレンとの約束の日、空はよく晴れていた。
「いってらっしゃい、お兄ちゃん。しっかり保護者をするんだよ」
「おや、送り出される僕の保護者が君のようだね」
「もちろん。お兄ちゃんも止められたら、私が助けに行ってあげるね」
危険物を取り扱う店舗でアキラでもダメだと言われたらリンが来たところで覆らないように思えたが、妹の天真爛漫な笑顔に言い返す気持ちは起こらなかった。
地下鉄に乗ってルミナ・スクエアに向かう。事前にエレンから送られてきた情報によると、繁華街から少し離れた、問屋の集まる界隈に店はあるようだ。
駅の改札を出ると、制服姿のエレンがいた。
「学校じゃないよね?」
「うん。でも、校則に、外出するときは制服ってあるから、いいでしょ」
「そんな校則があるんだ」
一般的な教育機関に所属したことのないアキラはその校則に思いをめぐらせた。休みの日でも守る義務があるものなのだろうか。へーリオス研究所にも制服はあったが、あくまで授業の際に着用するものであり、放課後は自由だった。もっとも、アキラもリンも研究所内で暮らしていたので、着替えることはほとんどなく、むしろ着替えないで冒険に出かけて先生に怒られたりしていた。
アキラはあまり人付き合いの多い方ではなく、リンに比べると内向的ではあるが、エレンは何度も店に遊びに来ているせいか、エージェントの中でも他の面々よりは気安く接することができた。エレンも回りくどい言い方などはしないので、やりやすかった。相手の心中を察するのが億劫なので、はっきり示してくれた方がいいのだ。その点、エレンはダウナーなだけである。
店舗に行くと、恐れていたような事態は起こらなかった。店員はボンプだったので、IDをスキャンして年齢確認が終わり、スムーズに薬剤を購入することができた。商品を受け取る前に二人はたくさんの同意書にサインしなければならなかった。
「エレン、これからはちゃんと学校で申し込んだ方がいい」
「それができたらやってるっての。仕事だったんだからしょうがないじゃん」
「こういうのって申込期間が一週間くらいあるものだろう。一週間ずっと、ヴィクトリア家政の仕事に出ずっぱりだったのかい? ライカンさんがそれを許すのかな」
「あーもう、うざ。理詰めで正論言われたら返せないじゃん
……
」
「僕は今後のために言っている」
「はいはい、わかったって。リン店長に口うるさいって言われない?」
「もちろん、言われるとも。でも、誰かが言わなければね」
「
……
ありがと」
「どういたしまして」
店を出てからはそんなやりとりをして、繁華街の方へ戻っていった。
「こんなんじゃお礼になんないもかもだけど、ティーミルク奢るよ」
「エレンにそんなことさせられない。いつもお世話になってるから、そのお返しだよ。ティーミルクは僕が出そう」
「は? なんでそうなんの」
「年長ぶりたいんだ」
「しょうがないな」
いつもの行きつけに足を向けて、エレンは視線を感じた。
誰かがこちらを見ている。
一般人ではない。戦闘員だ。
エレンの尻尾が震えた。
恐れではない。
戦う前の予感に喜んでいる。
こんなときに、街中で、一体誰が
——
視線を受け止めて、エレンは足を止めた。
赤いジャケットの知能構造体と赤いマフラーの男がいる。
あれは、プロキシの知り合いだ。
アキラは全く気づかず、スタンドでティーミルクを二つ注文した。エレンにはとびきり甘いスペシャルオーダーをした。
「店長。あの二人、知り合いだよね」
エレンはアキラの裾を引っ張った。
「うん。ビリーとライトさんだ」
「すごく、見てくるんだけど」
「どうしたんだろうね。いつもなら声をかけてくるのに」
アキラは二人に向かって手を振った。「おーい」と声まで上げて、隣にいたエレンは眉をひそめた。リンもそうだが、この兄も、人目を気にしないらしい。街中で誰かの注目を浴びるなんて恥ずかしい目にはあいたくない。離れたかったが、そうもいかず、エレンはうなった。
呼ばれてしまってはしかたがないと観念したのか、ビリーとライトもティーミルクスタンドにやってきた。
「よう、店長。久しぶりだな」
「昨日も会ったばかりだ」
「そうだったか? ハハ、データのリフレッシュで記憶が飛んでたみたいだ」
「それはバグでは? また粗悪な部品とオイルを使ってるんじゃないだろうな」
「大丈夫大丈夫、最近は猫又がちゃんとした正規品を一緒に買いに行ってくれるんだぜ。ニコの親分とアンビーじゃ心許ないってな」
「それならいいけど」
ビリーの挙動はおかしかった。人間くさいところのある彼だが、何か隠し事をしているようなそぶりだ。が、アキラはあまり興味を持たず、隣のライトに笑みを向けた。
「ライトさんは久しぶりだね」
「ああ。元気そうだな」
「
……
顔を合わせるのは久しぶりだけど、昨日もノックノックでやりとりしたじゃないか」
「そうか。そうだったな。そんな気がしている」
エレンがアキラをつついた。
「ティーミルク。できてるよ」
「ありがとう。そっちの印がついてる方が君のだ」
「ん」
渡されたカップを手にして、二人でとりあえず一口飲んだ。アキラのものはほどよい甘さだった。エレンも満足そうに飲んでいる。
「なあ、店長。今日は用事があるって言ってたのが、これなのか?」
ビリーがおずおずと尋ねた。アキラは眉をひそめる。
「これ?」
「ああ。そこのお嬢さんと
……
」
「うん、エレンに付き合っていたよ」
「そうか
——
」
ビリーががくっと肩を落とした。そして、隣のライトの赤いマフラーで自分の顔を覆った。
「すまん、ライト。俺にはもう何も言えねえ」
「
…………
」
「なんだか二人とも様子がおかしいな。変なものでも食べた?」
「店長。行こうよ。邪魔しちゃ悪いんじゃない」
ティーミルクを飲み干したエレンがゴミ箱にカップをシュートした。
そうだね、と返そうとして、アキラはぱっと顔を明るくした。
「せっかく会ったんだ。四人でぶらぶらするのはどう?」
「え?」
「な
……
!?」
「ぬ
……
!?」
アキラの提案にエレンもビリーもライトも言葉を失った。
「今日は天気もいいし、エージェント同士が出会ったのも何かの縁。エレンも、ブリンガーのときにちょっと会っただろう。これからも一緒に仕事をお願いするかもしれないし、どうかな。うん、ダブルデートってやつだ」
アキラは名案とばかりにうきうきと言った。
隣にいたエレンは「何を言い出すんだコイツ」という顔をしていたが、ため息をついて肩をすくめた。
「いいよ、別に。この後なんもなかったから店長とぶらぶらするだけだったし。親睦ってやつ? 深めても」
「ああ、俺もいいぜ。な、ライト。行こう。行くよな?」
「
…………
」
ビリーに揺さぶられたが、ライトは先ほどから棒立ちになったまま動かなかった。
「あ、ライトさんは用事があるとか?」
アキラが尋ねると、オイル切れのロボットの首みたいにぶるぶる顔を横に振った。どうも、言語を司るモジュールがいかれてしまっているらしい。知能構造体でもないのに難儀なことであった。
かくして、四人は連れだって町歩きをすることになった。
エレンは二人を注意深く観察した。
ビリーもライトも、戦っているところは少ししか見たことがない。アキラが先ほど述べたように、ブリンガーとの戦いのときだ。そのときも、大立ち回りをしたのは六課の星見雅で、どちらかと言えば彼女たちの動きの方をよく覚えている。
が、二人が卓越した戦闘技術を持っているのは確かだった。なぜなら、尻尾がビリビリ震えるのだ。
リナやライカンよりも強いだろうか?
ここに得物があったら絶対に誘ってしまっていた。
いつも眠くて何もかもが面倒に思えたが、戦いの時だけは別である。残念ながら持久力がないのでそう長くは戦えないが、暴力を爆発させると生を実感できる。特に、強い相手とやりあうのは楽しかった。ヴィクトリア家政の仕事ではそうそう出会えないが、プロキシといると別である。彼らは何かしら厄介事を引き寄せる運命にあるので、一緒にいると刺激に事かかない。
この二人も、プロキシの妙な魅力にやられてしまってるのだろうか。
四人はルミナ・スクエアを離れてポート・エルピスに向かっていた。
妙な集まりになっていた。エレンとしては今日の任務は達成している。鞄の中で厳重に梱包された薬剤が中身を揺らしている。これを明後日、学校に持っていて課題で使うだけだ。
が、ダブルデートなんてことを言い出したビデオ屋のもう一人の店長が面白くてついてきてしまった。
ポート・エルピスに着くと、アキラはエレンの体調を気にした。陽射しが思いのほかきつかったので心配になったらしい。
「はい、これ」
「
……
ありがと」
お気に入りの味のあめ玉をいくつもくれて、少しばかり恥ずかしい気持ちになる。エージェント二人に小娘扱いされるのは気に食わなかった。ちらりとビリーを見ると、彼は一人で港の掲示板を腕組みして眺めていた。モニカさまがどうのこうのとぶつぶつつぶやいている。一方、ライトを見ると、サングラスでまったく表情はわからなかったが、エレンを見つめているように思えた。なんだか不気味だった。
「エレン、海神の像を見たことがあるかい。あっちにあるんだ。行こう」
「めちゃくちゃ興味ないんだけど」
「なら灯台にでもいく?」
「んー、まあ、そっちなら」
「よし。ビリー、ライトさん、灯台に上ろう」
アキラは機嫌がよさそうだった。途中のフードトラックでポテトを買う。一つはエレンに渡し、一つはライトに渡した。
「店長、俺は?」
「ビリーには口がないじゃないか」
「そういやそうだったな」
二人の中で通じるジョークなのか、アキラとビリーは声を上げて笑った。エレンにはまったく面白さがわからず若干引いていた。ライトを確認すると、彼も真顔だった。口を引き結んでいて、虫の居所が悪そうだ。
灯台に上るとき、アキラはエレンの手を引いてくれた。ライカンやリナ、カリンとも、学校の友人たちとも違う気遣いを感じた。エレンは自分よりずっとずっと力のない年上の青年が何かと気にかけるのが少しうっとうしく、少し嬉しかった。そこで、アキラの手をぐんと引っ張ると階段を駆け上がった。
「ちょっと、エレン、速い」
てっぺんまで登って、アキラはゼェゼェと息を切らした。運動不足もいいところである。
優越感ににやにやしていると、後から上ってきたライトと目が合った。
サングラス越しでもしっかりとエレンを見ている。
そのとき、エレンは「なんだ、そうだったのか」と全てわかってしまった。
灯台から降りて、一行は船に乗って離れ小島に向かった。
船の上でエレンはアキラたちから離れて一人ぼーっと景色を眺めていた。
そこへビリーがやってくる。
「お嬢さん、船の上で一人でいちゃ危ない」
「なんで?」
「落ちても気づかないだろ」
「あたし、サメのシリオンなんだけど」
「泳ぐのも得意なのか」
「機械のあなたよりはうまいんじゃない」
「そうか、そりゃそうだな」
どことなく間の抜けたところのある知能構造体であるが、隙がない。エレンは気を抜かないようにした。
「で、何の用? 何か聞きたくて来たんでしょ」
「察しがいいな」
「あたしと店長なら、友人以上のなんでもないよ」
「なんでわかった?」
「そりゃあ、あれだけ気にしてたら、わかるんじゃないの。本人は気づかないだろうけど、周りはわかるでしょ」
「それ、ライトに言ってやってくれるか?」
「は? なんで?」
「お嬢さんから言ってくれたら納得するだろ」
「嫌だけど」
「そこをなんとか」
「めんどくさ」
「なんでもできるわけじゃねえが、俺が一つ、お嬢さんの頼み事を聞いてやる。どうだ?」
エレンは、それにどんな値打ちがあるのだと普段の学生としての価値観で一蹴しようとした。が、ふと思いつき、考えを改めた。
「
……
乗った」
「ほんとか!? あんたいいやつだな」
「喜ぶの早すぎ」
単純なビリーにエレンは笑ってしまった。
そうと決まれば、とエレンはライトを探した。船の舳先にいて、店長と二人で並んで立っている。
なんとなく、その二人の間に入るのは気が引けた。
そうこうするうちに、船は離れ小島に着いた。
船から下りたアキラはぶらぶら歩いた。その後にライトが続く。
エレンは一人でいたいようだったし、ビリーがそれとなく注意してくれていたので、彼に任せて自由行動を取ることにした。
島には大したものは何もない。ただ、島からの眺めがよい、それだけである。
「久しぶりに来たけど、相変わらずなんにもないなあ」
アキラはライトを振り返った。
「はい」
「その手は?」
「引いてあげよう」
差し出した手をライトが取る。そして言われるがままに手を引かれて歩いた。
ライトは何か言いたげだったが、どういうわけか口を開かない。それは、なにか気に食わないことがあるときのリンを思い出させ、微笑ましかった。
「ビリーとは昨日会ったんだ。そのとき、あなたが来るって教えてくれなかったな」
「今朝決まったんだ」
「呼び出されたらすぐ来てくれる、さすが郊外の走り屋だ」
「アキラ、俺はあんたに呼ばれればすぐに行くぞ」
「疑ったことないよ」
アキラはぎょっとした。単に褒めたつもりだったのに斜め後ろから脇腹に向かってナイフを突き出された気分である。
「パイセンが呼び出すのはいつものことで、あの人は俺に勝負を仕掛けたらすぐ来ると思ってる」
「事実、その通りだろう」
「全力のあの人と戦えるならと期待してしまうんだ。馬鹿だな」
「そうは思わないけど、ビリーは特に何も考えずに言いやすいあなたに声をかけてるだけだと思うよ。それに、ビリーを本気にさせるのは難しそうだ。邪兎屋の誰かを人質にでもすればできるのかもしれないね」
「そんな邪道の手は使いたくないもんだな。正々堂々と戦いたい」
いつになく真剣に言葉を紡ぐライトをまじまじと見つめた。視線が突き刺さって照れたのか、ライトはぷいっとそっぽを向いてしまう。戦闘員でないアキラには真の意味での戦闘スキルの高さだとか強さというのはわからない。が、プロキシがホロウでの勝負を仕掛けられたら楽しんでしまうようなものだろう、ということは想像がついた。
ライトは心からビリーを尊敬しているのだ。であるならば、ビリーの頼みを断れないのもうなずける。
エレンがアキラを呼ぶ声がした。
「そろそろ船が出るってさー」
「わかった、すぐにそっちに戻るよ」
ライトがアキラの手を離す。アキラはすぐに彼の手を掴んで、桟橋まで戻った。
すでにエレンとビリーは船に乗っていてこちらを見下ろしていた。
船に乗ってからライトは丁寧にアキラの手を解いた。
「誤解されたらまずいだろう」
「誰に?」
「あのお嬢さんに」
「意味がわからない」
「
……
そうなのか」
「その返しもますますわからない」
「ダブルデートなんだろう」
「誰と誰がデートしてるかなんてもうどうでもいいじゃないか」
言ってからアキラは少し考えて、首を横に振った。
「ビリーとエレン、というのは考えられないな」
「俺とあの子でも、ないぞ」
「あの子?」
「にらむな。
……
レディだ」
「知り合いのところの大切なお嬢さんなので気安く接しないように。あと、彼女も実力のあるエージェントだよ」
「そりゃ、わかるさ。俺とパイセンを見てずっと隙をうかがってたからな」
「じゃあ、誰が誰とデートしてダブルになったんだろう」
「もうどうでもいいんだろう」
ライトが心の底から呆れた声を出した。
船がポート・エルピスに着いた。
ビリーとエレンと別れ、ライトを誘ったが、仕事があるとのことでアキラは一人でビデオ屋に帰った。日はとっぷりと暮れている。リンにお土産で点心を買って店に入ると、レジ締めを終えたリンが現金の入った金庫をバックヤードに入れようとしていた。
「ただいま。リン、お金を移すときはこっちの鍵を締める約束だろう」
「おかえり、お兄ちゃん。お兄ちゃんが戻ってくると思ってあけてたの!」
「君が強盗に襲われたらと思うとたまらないよ」
「そういうときにトウガラシスプレーがあるんでしょ」
一応防犯用にカウンターの下にスプレーだけでなくスタンガンやバールも置いてあるのだった。が、非力な自分たちがとっさにそれを活用できる確率はかなり低いので、用心しておこうというのがアキラの考えだった。楽観的なリンにはあまり効いていない。
「エレン、どうだった?」
「元気そうだった」
「ただの買い物だったのにすごく遅くなかった? ノックノックで連絡くれてたけど、まだ見てないんだ」
「途中でビリーとライトさんと出会って、四人でぶらぶらしてたんだよ」
「ええ〜、ずるい! 楽しそう」
「今度は君もみんなで遊びに行くといい」
そんな話をしつつ、アキラは一日店番をしてくれたリンをねぎらい、彼女が前々からおねだりしてきていたホラー作品を一緒に見た。アキラは右手にイアス、左手に18号、膝の上に06号を抱いて、ほぼ目をつぶっていたので何が行われているかは音声でしか判断ができなかった。点心は二人で平らげた。
寝る前にリンはノックノックを確認して目を丸くした。
エレンから送られてきたのは、夕日を背に二人手を繋ぐ写真だった。実にノスタルジックな一枚である。
そして一言コメントが添えられていた。
「仲が良かった」
これにはリンも笑ってしまい、明日の朝一番にアキラに見せようと決める。
きっと、彼女の兄は表情を少しだけ動かして「楽しかった」とだけ言うだろう。
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