悠環 彰
2025-11-05 21:20:03
2623文字
Public MCU:サム関連
 

プライベート・パイショップ

超人師匠とその孫と、Mr.超人絆しのパンプキンパイ。

※ミニイベント【#月いち36の日】掲載作

 定期的に行われるイザイアとのトレーニングが終わり、水分補給とストレッチをしながら良くなった点、問題点、改善方法、これから先のトレーニング方針などを一通り話し合った後。「この後空いてる? 甘いもの平気?」と言い出したのはサムであった。そのままサムの車に乗ってトレーニングジムからイザイアの自宅へと連れ立って戻る。
「俺が甘いものはダメだと言ったらどうするつもりだったんだ?」
 ドアを開け、室内に入りながら呆れた声でイザイアが言う。
「そしたら基地にでも持っていったよ」
 大きな箱を片手にサムがその後を続く。コーヒーでいいかと問われて頷くと、キッチンで湯を沸かしたイザイアが手ずからコーヒーを淹れてくれた。棚から皿とフォークを取り出し、サムはダイニングテーブルに置くと箱を開く。
「この前地元に戻って、甥っ子たちとパンプキンパッチに行ったんだ」
 中身はパンプキンパイだった。キャスとAJ、そしてバッキーと四人でパンプキンパッチに行った翌日。仕入れてきたカボチャをくり抜いてランタンを作り、その中身を使ってサラがパンプキンパイを作った。その時授かったレシピで、自宅用に作ったランタンから出た中身を調理したのがこのサム謹製ウィルソン家レシピのパンプキンパイだ。
「せっかく会うなら、イザイアにもお裾分けしようと思ってさ」
 後これ、とテーブルにちょこんと置かれたのは小さなカボチャのランタン。これもサムが作ってきたものである。コーヒーマグを傾けながら、イザイアは片眉をついと上げてジャック・オ・ランタンを眺め下ろす。
「気が向いたら玄関にでも飾ってくれ」
「いらん」
「ハロウィンはしない主義?」
 むっすりと口をへの字にする彼に、サムはくっくっと笑いながらパイを載せた皿を差し出す。
「いいや、お菓子もランタンも既に準備済み」
 そこへもう一人の声が割り込んでくる。
「よぉ、イーライ。おかえり」
「いらっしゃいキャップ」
 イザイアの孫のイーライだ。余計なことを言うなとばかりにじろりと睨みつけるイザイアに怖じ気づくこともなく、恥ずかしがることないじゃんと肩を竦めながら、ダイニングテーブルの上を覗き込む。
「お前の分もある。食べるか?」
 もちろん、との返答を受けてサムが皿とフォーク、そしてコーヒーをもうひと揃いテーブルに並べて、パイを載せる。三人が食卓につくと、ちょっとした午後のおやつタイムが始まった。
 黙々とパイとコーヒーを食べるイザイアと興味深げに話に食いつくイーライを前に、サムは先日甥っ子たちと行ったパンプキンパッチの話をする。ついでに翌日みんなで作ったジャック・オ・ランタンの写真も見せた。
 大きく整った形のカボチャを几帳面にくり抜いた愛嬌ある顔のサムのランタン。くり抜かれた面は器用に整えられながらもどこかバランスのおかしい目と口を開けられた、ちょっと歪な形のカボチャで作られたバッキーのランタン。しかめっ面のカボチャとくりっとした目の笑顔のカボチャは、それぞれバッキーとサムを模したと自慢げに言ってのけた甥っ子たちのランタンだ。甥っ子たち作のランタンを見て、イーライはよく似てると感心し、イザイアも特徴を押さえてると言いながらにんまり笑っていた。
「気難し屋のイザイアのとこにも子どもたちは来る?」
 先程の続きとばかりにサムが口を開くと、やはりイザイアはじろりと目を眇める。
「案外ね。最初はビビってる子も多いけど、お菓子はもらえるから」
「まぁなんだかんだ面倒見はいいもんなぁ、アンタ」
 話題が自分のところへ戻ってきたからかむっすりと不機嫌そうな顔を作ったままパイを咀嚼して、そしてわざとらしく大きなため息をつく。
「お前が俺を表舞台に引っ張り出したから、寄り付かれるようになった」
 そんなイザイアの言に、そりゃ結構とサムは笑う。迷惑そうな言い回しをしているが、怒っていたり後悔していたりというわけではないというのがなんとなく分かったからだ。
「なぁ、明日仲間にキャップ手作りのパイを食べたって自慢していい?」
 早々に半分を腹に収めながらイーライが言う。
「やめとけ、余計な話をするな」
「俺は別に構わないけど」
 ひらひらと片手を振りながら却下するイザイアとは対象的にサムは軽く許可を出す。別に料理をすることは好きだし、マイナスになるとも思っていない。基地でもちょこちょこ調理をして、ホアキンや周りの皆に振る舞っているし。
「また食べたいっていうなら次の時にデリバリーしてもいい」
「もういっそ店でもやったら?」
「商売が出来るほどじゃない」
 ホアキンも甥っ子たちもバッキーも、料理を振る舞った相手はたいてい美味しいと言って食べてはくれるが、流石にプロには負ける。金を取るほどのものでないのは自分でも分かっていた。まぁ、もし遠い先でキャプテンを引退する日が来たら、少し考えてもいいのかも知れないが。
「俺はアリだと思うけど」
 最後のひとくちをぺろりと平らげつつ、イーライは首を傾げる。やれやれ、初回にして随分過大評価を受けたもんだ。
「でもホラ、イザイアはしかめっ面じゃないか」
 くい、と隣で眉を寄せながらチマチマとパイを食べ進めている姿を指してみれば、ハッと呆れたため息をつくように笑って「甘いねキャップ」と肩を竦められる。
「これは、パイが美味くて噛み締めてる顔」
 しばしの間があって、きょとんと目を丸めていたサムがすいと目を細めニヤリと笑みを浮かべながらイザイアを覗き込む。
「へぇ?」
……違う」
「そう? 好みに合わなかった?」
 頬杖をついて上目遣いに探るようにすると、ぐぬと困ったような唸り声が漏れる。
「じゃあ、次はもっとイザイア好みに仕上げてくるから、パイにもダメ出しと改善点の指摘を頼むよ」
 トレーニングと同じように、とサムが歯を見せてニッコリと笑ってみせると、イザイアの隣でイーライが吹き出す。ぐぐぐ、と眉間の皺を更に深めた彼は、やがて諦めたように一つため息をついた。
「もっと甘い方がいい」
「うん、そうか。他には?」
「他……そうだな、クリームは……
 ぽつり、ぽつりと要望を口にしながら段々と表情を緩め饒舌になっていく様子に、サムは嬉しそうに笑みを浮かべながら相槌を打ち続ける。そんな二人のやり取りを見ながら、イーライも満足げにコーヒーマグを傾けていた。