shioyama
2024-12-19 20:29:07
1474文字
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一心

鰯と柊 現行未通過‪✕‬ 自陣×

刺された瞬間浮かんだのは「これじゃ死ねない」なんていう冷めた落胆だった。

案の定期待外れでがっかりした。しかも致命傷ですらない、ただのかすり傷なんて面白くない。どうせだったら明日出られなくなるほど深く刺してくれればよかったんだ。そのためにわざと強めの言葉で煽ったのに、こんなでかい的外すようじゃこの子に期待はできないな。どこから持ってきたんだ、そんな玩具。一丁前に包丁なんて持ち出してくるな。なんていう理不尽な怒りすら湧いてくる。

思考は驚くほどに冷静ではあったが、肉体は素直なもので、痛みと共に吐き気がこみ上げてくる。突き付けられた強烈な殺意のせいか眩暈がし始めた。瞼の裏で明滅する赤と黒。心臓が見えない手で握りこまれているような悪寒。同時に、微かに胸が軽くなる。殺人教団、人殺し。世間や彼女がそういうんならそうなんだろう。傍からみれば、悪意のこもった侮辱にしかならないだろうが、俺にとっては微かな救いだ。

俺がやっていることは間違ってると初めて認めてもらえた気がする。祈るたびに誰かを救い、代わりに誰かを消して。祈りという行為はもっと綺麗なものであるべきじゃないか?自分の力でもないくせに、信仰心を集めるような真似、世間一般から見たらどうみても異常だ。ハッキリと突き付けてくれて少し楽になった。一人、夜毎ベッドの中で自問自答してきた問いにやっと答えが返ってきた感じだ。

でも、あいつらは優しいから。教団の仲間たちが頭をよぎる。俺がたとえ本当に罪を犯したとしても受け入れてくれるのだろうか。たぶん、そうなんだろうな。マモリが「あなたに救われてる人はいる」と言ってくれた。確かに、お前たちは救われたかもしれない。でも、消えている人がいるのは変わらない事実。命の選定だなんて本来人間がやっちゃいけないことだ。優しさが辛い。好きだと言われる度に心が引き裂かれそうになる。暖かくて柔らかい愛を向けて貰えるほど俺は上等な人間じゃないのに。惨めで惨めでたまらない。

皆が俺に優しければ、だれが俺を罰してくれる?教団外の人間だ、彼らにしか頼れない。包丁で刺されるぐらいなら笑って受け入れよう。石を投げられようと投獄されようと命を奪われたとしても、人の意思で裁かれたい。破滅を願ってしまうのは、俺の傍にいてくれる仲間たちへの冒涜になりえるのか。心がめちゃくちゃでどうにかなりそうだよ。

いや、俺のことなんて最早どうでもいい。傷口をかばう手に力が入る。痛む。問題は明日だ、あの夢が現実になってしまうぐらいなら、俺は喜んで命を絶つ。怖くないわけじゃない。死ぬのは誰だって怖い。でも、永遠の無よりも恐ろしいことなんてこの世にごまんとある。俺にとっては、それがあの夢。俺に似た何かが笑顔の死者を引き連れて楽園に変えてしまう悪夢。あの死者の行進に、マモリたちがいたらと思うと。考えるだけで、俺は。

じくじくと主張する浅い傷をかばいながら立ち上がる。医務室へ行くように念を押してくるマモリを適当にあしらった……ああ、違う。そんな顔させたいわけじゃなかったのになぁ。ベールの下に隠れてるが、何となくどんな顔をしているのか分かる。どこで間違えちまったんだか。

でも、いいよな。俺はいつだってお前のために苦しんでいるんだから、これぐらい……だめだ、違う、違う。この子に責任を押し付けようなんて、八つ当たりにもほどがある。最近気を抜くとすぐに他責思考へと陥る。俺の限界が近い証拠なのかもな。はは、早く死んだ方がいいよな。これ以上お前を無意味に苦しめる前にさ。