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shioyama
2024-10-24 20:46:39
4950文字
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狼と鳥
かいぶつたちとマホラカルト げんみ×
本文にもう1つのシナリオの現行未通過禁止があるので注意
!注意事項!
・かいぶつたちとマホラカルト
・庭師は何を口遊む
上記二シナリオのネタバレが含まれます。
理由は「かいぶつたちとマホラカルト」のHO狼の秘匿に「警察関係者とコネがある」という内容が含まれるためです。この注意事項までは「庭師は何を口遊む」のネタバレはありません。
しかし下記の本文には「庭師は何を口遊む」のネタバレもありますのでご注意下さい。
庭師HO1 VS かいマホ狼
革靴で警視庁の硬い床を踏み鳴らす。自身の足音がいつもより鈍い色を帯びていることに本人も気づいてはいるが、突然の仕事なのだから仕方がない。慌てて飛び出してきたから食べかけの昼ごはんもそのままだ。冷えて伸び切ってしまったカップラーメンの後片付けを思うと、ますます気持ちが落ちていく。
警視庁特殊犯罪捜査零課班長である鳥羽夢二は取調室へと歩を進めていた。呼び出し理由は「数日前に起きた事件の参考人の事情聴取」である。零課はその事件を担当していない。むしろ鳥羽は先ほど聞いたばかりだ。担当者ではない、知りもしなかった自分に白羽の矢が立つのは普通ありえない。つまりイレギュラーな意図が隠されている可能性が高いということになる。散々上司たちに振り回されてきたが、今回もまたか。鳥羽の口からため息が漏れた。
色々と考えている間に気づけば目的地に到着していた。周囲は不気味なほど静かで、扉は閉められている。鳥羽は取調室の簡素な扉を叩き、中へ入る。
「よぉ。お忙しいところ悪いね」
余った長い足を組んだ男が気安げに手をあげる。パイプ椅子が似合うようで似合わない不思議な風体の男だ。白髪に高級そうな赤ジャケット、室内だというのに濃いサングラスをつけている。手には来客用のティーカップが握られており、中身は黒い液体で満たされていた。湯気が見えるから淹れたてだろう。
「もしかして昼時だったかい?あんたの分のコーヒーも用意させようか」
「お気遣いどうもー。そっちの奢りなら喜んでお呼ばれするんだけどね」
鳥羽はドアを振り返る。出入口はここだけだ。
「ドア開けといてもいいかな?密室状態の取り調べってさ、印象悪いし規則上禁止されてるんだよね。それに空気悪いだろ、この部屋」
「いいや構わねぇさ。閉めといてくれ」
「規則なんだけどな
……
まぁいいか。人払いしてくれてるから閉めといても変わらないか」
ドアノブから手を放し、鳥羽は男と向かい合うようにパイプ椅子に腰掛けた。一瞬の静寂。
「で、なんで俺なの。なんか用事?」
「あぁ?あんたが取り調べ担当ってだけだろ。俺ちゃんはなーんにも知らねぇよ」
「適当な嘘つかないでくれよー俺のカップラーメンを犠牲にしてここにいるんだから、その分真面目にやってちょうだいね。折角の新作だったのに」
「なんだ、やっぱり昼飯まだなんじゃねえか」
フン、と男は鼻を鳴らす。
「俺の管轄ですらないのに、声がかかるって時点でおかしいとは思ってたんだ。あんたの顔を見たら納得いったけどね、マガミさん」
「俺のこと知ってくれてるのかい?有名人はつらいねぇ」
「そりゃ有名だよ。極悪非道、狡猾なテレビプロデューサー。裏で色々暴れちゃってくれてるってのも勿論聞いてる。注目株だよ」
鳥羽は手元の資料に視線を落としながら笑った。
目の前の男の本名は眞上 誠士郎。34歳。大手テレビ番組制作会社のプロデューサーだ。社内ではかなりの権力を持っているらしく、上層部は彼に逆らえないとの噂を耳にしたことがある。実質的に彼がテレビ業界を牛耳っているのだろうと鳥羽は推測していたが、実際本人を目の前にして確信に近いものへと変わった。
「今日は何でここに?まさかコーヒー飲みに来たわけじゃねえよな。ウチはカフェじゃないよーこの前もコーラどかどか持って帰ったそうじゃないの」
「コーラに関してはいつもすまねぇな。かわいい後輩の好物でね。だが、そちらにお招きいただいたってのに、その態度はどうなんだい。暴力振るわれたとかで訴えちゃおうかなぁ」
「へぇ、それは失礼。となると
……
犯人として出頭してくれたのか!詐欺罪?恐喝罪?それとも全部?今日の俺は機嫌がいいから全部盛りでもいいぞー」
「冗談だ、そうカリカリすんな!事件の参考人としてさ」
「どう見ても被疑者面なのになー参考人なんだー」
緊張感のない態度を保ちながら鳥羽は資料を捲った。今回の事件の詳細が書いてある。
数日前、この町で強盗事件が起こった。狙われたのは街外れに拠点を構える中小企業。ワケアリとして実は警察がひそかにマークしていた会社だった。自社製品に紛れて怪しげなものまで輸入していたため追加の調査が現在入っているとのメモがある。事件現場の調査時に発覚したことだ。別件として対応は進んでいるらしい。
強盗犯の足取りを追っていると、現場付近の路地裏に眞上がいた。一人で、と資料には書いてある。彼は大人しく警察についてきた。周辺には複数の足跡があったが、なぜか適当な理由と共に事件に関連性なしとの監察結果が出ている。
「お仲間さん逃がして自分だけお縄についたのか?仲間思いだね」
「ンな訳あるか。俺くんチャンだけならすぐに出られる自信があったからだよ。他のやつらは無事に逃げおおせたんじゃねえ?そのあとは知らん」
眞上はあっさりと仲間の存在を肯定する。ほぼ自供と同等の証言だ。血眼で調書をとり、速攻仲間たちの足取りを追って、最後には全員檻の中に叩きこんでやりたい。刑事らしい欲求が鳥羽の胸にこみあげるが、不可能だろうという諦めも同時に浮かんできた。マガミの言う通り、彼はきっとこの後すぐに釈放される。
「本当にずる賢いぜ、眞上誠士郎」
「サンキュー!俺にとっちゃ最大級の誉め言葉だ」
体裁を保つだけの取り調べだということを、鳥羽は既に理解していた。眞上が警察に強く根を張っていることは薄々感づいていたし、お偉い方たちは首根っこをこの男に掴まれている。自分がここでいくら躍起になっても結末は同じ。結局のところ、チーフと言っても上には上がまだまだわんさかいる。悔しいことこの上ないが、今はまだこれでいい。だが自分が呼ばれた理由はまだ分からない。もう一度尋ねたら答えてくれるだろうか。世間話から何気なく繋げてみよう、と鳥羽は姿勢を整える。
「そのお仲間たちもよければ紹介してくれよ。美味い店知ってるからさ。一緒に
……
」
「アンタに会いに来たんだ。鳥羽夢二」
場の空気がガラリと変わったのを肌で感じた。眞上はサングラスを指で下へ押しやり、覗いた赤灰色の目で見つめている。一般人なら蹴落とされるような視線の強さを、鳥羽は春風を浴びるかのような表情で微笑み返した。
「俺は眞上さんに用事とかないんだけど」
「通称、庭師事件。数年前に騒がせたアレさ。零課が担当していたんだろう。いやぁ奇妙な事件だった。まさか遺体から花が芽吹いてくるなんざ神秘的だ」
「なんでそんなこと知ってんの
……
ああ、情報源は言わなくていい。頭痛くなるだけだからきっと」
「庭師事件で、アンタの部下が一人犠牲になってるだろ。相模原涼。お気の毒に。事件が解決してやっと弔い合戦ができたって感じかい」
「さっきから何が言いたいんだよー」
「ああ、どうやって事件を解決したのかとか根掘り葉掘り聞きたいが
……
俺がアンタに確認したいことは一つ」
眞上はパイプ椅子から軽く腰を浮かせて、鳥羽へと顔を近づけた。至近距離からにらみつけられても鳥羽の表情は揺らがない。つねに彼の薄ら笑いは凪いでいる。
「相模原涼とアンタ、深い関係だったんだろ」
「おいおい、部下と俺ができてたって言いたいのか?ゲスの勘繰りはよしてくれよー」
「相模原涼が亡くなる一週間前、高級なジュエリーショップで指輪を買ったんだって?取引明細も領収書の控えもあるぜ」
「はは、いま俺脅されてる?」
「ちげぇ、あんたと仲良くなりてえのさ」
「それを脅してるっていうんだぜ。答えはもちろんノーだ。男だって意味もなく指輪を買いたくなる時ぐらいあるだろ?あれ、ない?」
肩をすくめてみせた鳥羽に、眞上は軽く手を叩く。眉一つ動かさねぇ強靭な精神力だ。ほぼ決定的な証拠を眞上がつかんでいるのにこっちが逆に不利な気さえ起きてくる。どれだけ話したところで、川原のススキのようなこの刑事は自ら認める真似はしない。どこか吹く風で受け流される。確信した眞上はパイプ椅子に深く腰がけた。錆びついた音がする。
「そう警戒するな、今日は挨拶だけだ!とって食いやしねぇよ!しかし本当に立派な刑事さんだ。ますますお友達になりたくなっ
……
」
「天津義景」
「
……
あ?」
眞上の片眉が跳ね上がったのを確認した鳥羽は小さく息を漏らす。机に肘をついた態勢で、自分よりも背丈のある男をじっと見据えた。
「最近帰ってきたんだって?この町でも目撃情報は結構あがってるよ。もう会えたかな」
「
……
どこまで掴んでるんだ?」
「言ったろ、注目株だって」
「まさかその名前がアンタからデるなんてな。ちょいと驚いた」
「眞上さんの真似してみた。知り合いの名前突然出されるのは気分あんまりよくないだろ?次からは気をつけなー」
また静寂が一つ落ちる。不意をつかれた眞上は何かを考えるようなそぶりを見せるが、再び人を小ばかにしたいつもの相貌に戻っていた。先ほどよりも面白げに歪んでいる。
「俺を脅し返す奴なんざ早々いなかったぜ。ますます興味が湧いてきたよ、鳥羽夢二」
「はいはい。光栄です光栄です」
「ここで帰るのは逃げるみたいで格好悪いが、そろそろお暇するよ。見たい面も拝めたしな」
「もう帰るのか?さみしいな、しばらくここにいてもらってもいいんだぜ」
「俺を飼うには手狭すぎるぜ、ここは!」
眞上が勢いよく立ち上がると、パイプ椅子が派手に倒れた。鳥羽は緩い態度のままだ。
「供述調書はそっちで適当にやっといてくれ」
「いいの?俺に任せても」
「ああ。あんたがどれだけ俺に不利な内容を書こうが、提出すりゃまるっと中身が入れ替わってるだろうからさ」
「やる気が一気にそがれたよ」
高笑いをあげながら眞上はドアを開く。外には相変わらず人の気配はない。あと数十分は誰も来ないだろう。
「なぁ眞上さん」
退室しようとした細長い背に、ぼそりと鳥羽の言葉がかけられる。
「あんまウチを舐めない方がいいよ」
ストレートな物言いに思わず振り返りかけるが、寸でとまる。温厚で砕けた彼から出たとは思えない、一本筋が通った声音だった。どこか抜けた雰囲気なこの男が、どんな面をして圧の強い台詞を吐いたのか拝んでみたかったが、きっと今じゃない。今後のとっておきとして、我慢するべきだ。
「悪いね。あんたら警察が俺チャンくんのいう事ぜーんぶ聞いてくれるからさぁ。なめてるわけじゃねえんだ、便利だなって思ってるだけでよ」
「警察もだけどさ。俺たち零課のことをだよ」
眞上がひっくり返したパイプ椅子を、鳥羽が立て直す。年季の入った脚のフレームが、小さく床をこすった。
「うちはちょっと特殊な部署でね。今はまだアンタたちを直接担当したことはないけれど、いつものように簡単に逃げられるとは思わないことだぜ」
鳥羽は眞上の背中を見つめ続けている。こんな柔い釘なんかじゃこの男の動きは止められないだろう、ということは理解している。だが、鳥羽は他の連中と同じように黙ったまま頭を垂れるつもりも毛頭にない。
「鳥羽さんって案外自己評価高い感じなんだ?意外だねぇ」
「優秀だからね、俺のチームメイトたちは」
「おっかねぇな!せいぜい街でバッタリあわねぇよう気を付けるよ!」
高笑いをしながら今度こそ眞上は部屋を出ていった。彼の後姿はまさに悪役そのものだと鳥羽は評する。しかも愉快犯に近いタイプだ。釘を刺したのは逆効果だったかもしれないな、と肩を落とす。そしてラーメンのことを思い出し、まだギリギリ間に合うかな、だなんて淡い期待を持ちながら彼もこの部屋を出た。
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