shioyama
2023-11-25 23:18:07
2447文字
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monolog

サイレン清掃げんみ×
エンディング後のHO1よ

殴り書き

讙の葬式が終わってから、数ヶ月が経った。月日は面白くないほど順調に流れている。あいつが死んだっていうのに、嘘みたいに回り続ける世界に反吐がでそうだった。もちろん上っ面はギリギリのところで取り繕って、アイツの残したものを引き継いでいる。遺言通り俺はこの会社のリーダーに昇進した。世界一嬉しくないレベルアップだ。人の上に立つなんて柄じゃないが、相棒からの頼みだ。断るわけにゃいかない。

とっちらかったデスクトップを整理していると、ふとフラッシュバックのように蝉の音が聞こえてきた。季節的にいるわけが無いのに、夏日の記憶がまぶたの裏で弾ける。

復讐を果たしたトガメチャンはサイレン清掃を抜けた。それでいいと思う。全てを奪われたのなら、相手の全てを奪う権利がある。幼い彼女が復讐を求めるのは筋が通っている。俺も止めやしなかった。首を跳ね飛ばして気持ちが楽になるならやってみればいいと思ったが、心がザワザワするだけで終わったようだ。そのうちわかる日が来るといいな。その後、変化があったのかどうかは不明だが、彼女のこれからの人生に幸が多いことを祈るばかりだ。

マルルクンはサイレン清掃に残ってくれた。どっか行っちまうのかと思ったが、なんでも讙を生き返らせるんだそうだ。聞いた時は思わずマルルクンらしくて笑ってしまった。本当にできるかどうかは置いといて、自分で生きる目的を引っ張ってこれるなら上等だ。一時おっかない顔をしていたから、思わず手伝ってほしいと声をかけたが、本心だよ。讙を知っている人間が居なくなるのは俺も悲しいからさ。飽きるまでそばにいてくれや。

アイクンチャンがどうなったのかは分からない。俺が眉間に一発ぶち込んでマルルクンからの拳もくらっていたから生きてはいないだろう。遺骸も中島とかいうクソ野郎に回収されてしまった。ただまあ、悪い奴ではなかったし寧ろ面白いやつだなとは思う。何とか回収できた私物は墓に埋めておいた。カミサマに墓を立てるのは冒涜になんのか?俺に出来るのはもうそんぐらいだ。恨んでいるだろうな、そりゃそうか。俺が殺したんだからさ。

……讙が死んだのは、誰のせいだとか何が悪いだとかじゃない。「運」が悪かった。それに尽きる。

不安定なジェンガタワーが目の前にあるとする。ただでさえバランスが悪いそれが崩れるのは時間の問題だ。不老不死の魔術師だなんて大層な身分の持ち主が、まともに生きられるはずもない。ミラクルでも振ってこない限りは。俺なら季節外れのサンタクロースになれると思っていたんだがな。

俺は自分の命を捨てる覚悟で奴の刺青を引き受けた。痛み分け、罪の折半。こうすれば讙が死ぬことはないと理解すると同時に、躊躇いなくそうしてやろうと考えた。実際におっかない神に挨拶回りまでしてやったんだ。菓子折でも持っていけばよかったかな。

で、命を賭けた結果がこれさ。俺の手元に残ったのは、似つかわしくない肩書きと、数名分静かになったオフィスビル。失った物を数えるのは途中でやめた。指がいくらあっても足りやしねえ。

俺がもっとしっかり考えていれば。ああしていればもう少しましな未来があったのだろう。だがよ、相棒。俺にだけは先に共有しておくべきことは山ほどあったろ。心の中の赤い瞳に愚痴る。口に出したところで聞いてくれるあいつはもう居ない。境遇だとかトガメチャンの目的とかマルルクンとの関係性とかアイクンの起こした事件とか。教えてくれていればこんな寂しい世界には。

……違うか」

全部俺がみすみす手放したんだ。あいつのことをわかった気でいただけで実際何も分かっちゃいなかった。指の隙間から全部取り零していく。床に落ちた過去の辛酸を時折舐め啜っていきていくのさ。

親友が大切な家族だと口にした男を一人撃ち殺し、みすみす本人も目の前で死なせた。復讐、だとか考える間もなく、俺は銃口を讙の家族に向けたんだ。ほぼ反射行動だった。頬を打たれたからひっぱたき返してやると同じような軽い仕草で拳銃を握りしめる。血を吹き出すあいつを見た瞬間、プツンって音が鳴ったから。気づけば死体がふたつに増えていた。どうにもならねえ。これが復讐だとするのなら、何かを生むどころか全てを失っただけだ。復讐からは濁った水しか出てこない。今回の件で学んだからこそ、俺は誰も責められずにいる。誰のせいにしたくない、できない、故に気持ちの収めどころもない。中途半端に残った後悔だけが俺に許された感情だ。

ローなテンションを振り払うように首を振る。こういう時、いつも発散に付き合わせていた男はもう居ない。讙ならあの人たらしの笑顔で聞き流したりアイデアを授けてくれたりするのにな。俺はもう自分の足で立たなくちゃいけねえ。あいつの大事な一人息子も預かっている事だし、やることは山ほどある。エベレストなんて目じゃないぐらいには。情けない面を晒す暇があるなら、書類の一つや二つ目を通さなければ。

「やってやられねぇなぁ。ったくよ。地獄で1番高いもんを奢ってもらわなくちゃ割に合わねぇな」

メールの受信ボックスを覗き込みながらボヤく。なんで少し目を離しただけでこんなに溜まるんだか。俺はデスクワークより、外交活動とかの方が適していると思うぜ。文句を垂れながらもじっくり丁寧にこなしていく。讙には到底及ばないスピードだろうが、俺があいつになれるわけがねえ。俺はあんなに秘密主義じゃないね。秘密を抱えすぎて泥船だったら重すぎてとっくに沈んでいる。だが、できる限り讙が望んだことをしてやりたい。仕事仲間を家族だとか甘っちょろいことをいう親友への手向けになるだろうから……親友。

「また会いてぇよ、讙」

もし、俺が変わりに死んでいたら。思わずこぼれた独り言のような事を、あいつは言ってくれたのだろうか。結局のところ俺は親友のことをわかった気になっていただけだった。こんなことも分かりゃしないのによ。