ちよど
2025-11-05 19:01:10
2151文字
Public アシュヨダ
 

謎○の後の話

代理で謝罪に行ったアシュヴァッターマンと素直じゃないドゥリーヨダナの話。
某漫画!最高でした!!ありがとうございます!!pixivより再掲。
アニメにしてくれてありがとー!!!

「うちの旦那がすまねぇ!」
 わざわざ厨房に来て頭を下げたアシュヴァッターマンに何人かのサーヴァントは呆れたようにため息をついた。
 奥で沈黙を保つ関係者に代わってエミヤが口を開く。
「君が謝る必要はないと思うがね」
 つい数時間前、ドゥリーヨダナが食堂でわがままの限りを尽くし。紅女将を落ち込ませ、Wコヤンスカヤに制裁を食らった時アシュヴァッターマンがその場にいなかった事は誰もが知っている。居れば真面目なバラモンが主の暴走をちゃんと止めたであろうことも。
「気にしていまちぇんよ。あれはアドバイスでしたから」
 進み出てきた紅女将にアシュヴァッターマンは一枚の紙を差し出した。
「受け取ってもらえねぇか。詫びにはならねぇかもしれないが」
「なんでちゅか? ──少量の油で唐辛子を焦げるまで焼く。タマリンドペーストに油ごと入れこれは!」
 紙を読み上げていた紅女将の顔が輝く。アシュヴァッターマンは困ったようにこめかみをかいた。
「あー。なんか万能ソース?のレシピらしい。俺の知り合いが言ってた」
「ほう、知り合いが」
 言いながらエミヤがそっと横から紙を覗き込む。
 料理人にとってレシピとは魔術師にとっての魔術刻印のようなもの。それが古代インドの宮廷のレシピだというなら値千金の価値はある。
 謝罪の品としては充分だった。
「ビーマのものとは作り方が違うな」
 エミヤのコメントに奥で沈黙を保っていた白い服が振り返った。強張った表情で紅女将の手元を覗き込む。
 よく見えるように紙の角度を変えてくれた紅女将にビーマは頷いた。
「確かに俺のとは違う。マヤカルカなんて誰が作っても
「旦那は味の好みがうるせぇからな」
 そのわがまま王子を満足させるために基本のソースから手を加えていたらしい宮廷料理人の苦労に誰もが思いを巡らせた。
 こほん、と紅女将が軽く咳をする。
「謝罪は確かに承りまちゅた。──今度また食べにきてくださいと『お知り合い』にお伝えくだちゃい」
「感謝する。──ちゃんと伝えておくわ」
 頭をさげて厨房から出ていこうとしているアシュヴァッターマンの背中に声が投げられた。
「あいつは?」
「カルナに甘えてる」
「そうか」
 わずかに安堵の滲む声色にアシュヴァッターマンは振り返らなかった。



 さて、ドゥリーヨダナの居室に戻ったアシュヴァッターマンを迎えたのは、大きなベッドに転がってカルナに太ももを撫でさせている主の姿だった。
「いたぁい! もっと優しく!」
「こうか?」
「それでは魔力が伝わらないではないか! この高貴なわし様がムチで打たれたんだぞ! 最大限に繊細に! 癒やすべきだろう!」
 接触による魔力供給で傷を治せと命じているドゥリーヨダナだが、そのふとももは傷ひとつ見当たらない。それに苛立ったのかカルナが手を離した。そして何故か手首に長い爪を立てる。
「カルナ?」
「血で魔力を注いだ方が早い」
「早くねぇよ!!」
 慌ててその手を掴んだアシュヴァッターマンをカルナは不思議そうに見返す。そんなふたりをおいてドゥリーヨダナがベッドの上で転がった。
「ばっかもーん、血など掛けられてはわし様の高価な服が汚れてしまうではないかー!!」
 ごろごろと転がって広いベッドに遠ざかっていってしまったドゥリーヨダナをふたりは見送る。もうしなくていいという意思表示に苦笑が零れた。
 アシュヴァッターマンはカルナの手を離す。
「旦那。謝罪してきたぜ」
「──わし様、謝罪するような心あたりはないが?」
 素直じゃない言葉にアシュヴァッターマンは口の端を上げた。
 『今から独り言を言うがメモを取るなら今のうちだぞ』と宣言してから万能ソースのレシピを読み上げたドゥリーヨダナのひねくれた意図など、付き合いの長いアシュヴァッターマンには簡単に分かった。悪いことをしたとは思っても素直に謝りたくはなかったのだろう。
「それにしてもよくレシピなど知っていたな」
 カルナの言葉にアシュヴァッターマンも頷く。それにベッドの上をごろんごろんと行ったり来たりしているドゥリーヨダナが答えた。
「あの料理人は実にわし様好みのものを作る男だった。わし様のどんな要求にも応えてくれたので褒美を山と積んだものだ。──だが、年でな。わし様が嘆いておったら教えてくれたのだ。コレさえ次の料理人に指示すれば大丈夫だと言ってな」
 料理人が秘伝のレシピを教えるなど、魔術師が魔術刻印を分けるようなものだろう。
 しかも後任にではなく主人に伝えるとは、どれほどドゥリーヨダナに心酔していたのか。──そしてこのわがまま味覚王子をどれだけ心配していたのか。
 ごろんごろんとわがまま王子は子どものようにベッドを転がっている。
 収まりのつかない様子にアシュヴァッターマンは、その原因に思い至って嫌々口を開いた。
あいつのレシピとは違うってよ」
「ほう!」
 がばりと上半身を起こしたドゥリーヨダナは顔を輝かせた。
「もちろんわし様のレシピの方が優れておるだろう! ふふふ!! 勝った!! 勝ったぞ!!」
 子どものように満面の笑みを浮かべたドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンは目を細めた。


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読んでくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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