ortensia
2025-11-05 16:42:54
2293文字
Public 傭リ
 

おまえを理由なく切り裂く卵のえすしぃぴぃよーり

scp4162

 それはとある水域に現れる赤い卵状のものである。高さ三メートル、幅一メートルだ。手段が確認出来ないが、水面に浮かび、移動する。
 そしてボートに乗っている相手を標的と定め、そこへ浮いたまま直進する。速さは相手より少し速いくらい。そうして標的の半径一メートル以内に入ると、標的は何かに切り刻まれたような傷をいっきに全身に負って絶命する。
 しかしそれはどうやら、実態を有していないらしい。にもかかわらずそれは子供のような機敏で話す。外見的には卵で、肉体的手段を有していないにもかかわらず言葉を聞き、話す様子には、それでも知性がある。
……あー、おい?もしもし?」
「ん?ああ、どうも、おチビさん!」
「おれの言っていることが分かるのか?」
「言っていることがよく分かりませんが?」
「おれの声が聞こえているのか?」
「勿論聞こえていますよ、何を可笑しなことを仰いますか。というか、なんなんですかあなた?鳥の仲間ですか?」
「ああ、いや、これはラジコン。ほら、おまえって水の上にいるし。おれは、このラジコンを介してそっちに話し掛けてる。ラジコンというのは……今こうして話すためのロボットのようなものだ。ロボットが何か知っているか?」
「当然!ですよ。ロボットが何か知っているか?おまえ随分変わっていますね?」
「あー。そうか。」
 休止。
「おれはナワーブ。良ければ幾つか質問したいんだが?」
「んー。他にすることも無いですね。何を訊ねたいんです?」
「おまえは何処から来たんだ?」
「ああ、それなら簡単、分かりますよ。ついさっきボートがあって、わたしはそこから来たのです。」
「それはボートに乗った人間を……。いや、それ以前の話をしていてだな。」
「その前はこのボートでことを終えて、今はそこに向かってるんです。お分かり?」
 休止。
「どうも齟齬が……。正確に意思を疎通出来ていないようだな。おまえは元々は何処にいたんだ?」
「今から行かなきゃ。また後で話しましょう。良いですね?」
「ちょ、先におれの質問に答えるくらい出来るだろう?」
「ではご機嫌よう!」
 今回はこれ以上の応答は得られなかった。
 後日。普段通り水域で犠牲者が出た。
「どうも!」
 なに、なんだアレ?!やめろやめろやめろ!こっちに——
「ではご機嫌よう!」
 その音声を拾った際、既に次の標的へ向かって移動していた。そこから聞こえて来るのは鼻歌だ。
「よお!今良いか?話そう?」
 そこから聞こえて来るのは鼻歌だ。
 休止。
「おい!今どんな感じ!」
 そこから聞こえたのは金切り声だ。
 驚いたような声ではあったが、見た感じから普段と違う動きは無かった。
「すまん、驚かせたな。」
「いえいえ、別に構いません。ちょっとしたメロディーをくちずさみたくなりまして。芸術に勝るものはありませんね!それで、何について話したいんでしたっけ?」
「何故今相手を殺した?」
「ええ、あの人を殺しました。」
「それは何故だ?」
「んん……。今あの人が死んだ。それでいいじゃありませんか。おまえの言っていることがよく分かりません。」
 休止。
「おまえが殺したのは知っている。おれが訊いているのは、何故そうしたのかということだ。」
「あの人の体がぐちゃぐちゃになった。今から行くつもりで、次のかたに着く必要がある。お分かり?」
 今回の質疑はこれで終了。
 後日。標的に向かっているところに接触した。
「やあ?なあ?是非話そう、どうだ?」
「おやナワーブ!何について話したいのです?数分の時間ならありますよ。」
「おまえは今自分が向かっている先の相手を殺すつもりか?」
「勿論ですよ!」
「ああ……その、それをしないでほしいんだが?」
 休止。
「それはどういう意味です?」
「人を殺すのを控えてほしい。おまえにそれが出来る?」
「全く以って意味不明ですが。大丈夫ですか?」
 思わず溜め息をついた。
 会話がいまいち成り立たない感じ。言葉を言い換えて伝わるのならとこれまで何通りも試してみたが、それがそうなった感じは結局未だ一度もない。
「これをおれがあと何通りで表現出来るのか分からない。おまえの標的を殺すな?相手を殺さないことが出来るか?」
「これからあの人を切り裂くんです、良いですか?」
「ダメ!」
 休止。
「分かった、なあ、聞いてくれ。おまえとおれは、何度も会話を交わして来て、信頼関係を築けたんじゃないか、なあそうだろう?」
「シンライカンケイ?それは何か家のようなものですか?」
「違う。つまり……はあ。」
 思わず深呼吸する。
「つまり、おれ達は仲が良いんじゃないか?なあおまえもそう思ってくれるか?」
「そうですね、おまえはわたしの小さな相棒です!」
「ではおまえが標的を殺した直後におれがそこに立っていたとする。おまえはどうする?」
「おまえを殺す。」
「っんでだよ!クソが!」
「ああ、落ち着いてください?ほら落ち着かないと、ね?もう話せませんよ、あの人殺さないと。でもおまえから連絡があって嬉しかったんですからね?」
 そして標的のほうに向かって行ってしまった。
「どうも!」
 はは、なんだ、なんだっていうんだ。大きな卵が浮いて、どんどんこっちに——
「ではご機嫌よう!」
 それからも話し掛けたが、ちっとも応じない。
 ラジコン操作中に思わず声を荒げたことは謝っても良いが、堂々巡りだ。
 聞き分けのない子供の相手をしているのか、あるいは、中途半端に進歩したロボットと話していたのか。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。