つの
3552文字
Public まほやく
 

Sleepover(謎現パロにょたゆりオーカイ)

アメリカンハイスクール現パロ+にょたゆり。なんでもいい人向け。一応、お誕生日おめでとうの気持ちをこめて…います…。

※ 一人称改変
※ 地の文にR15相当の描写があるので、閲覧は高校生以上の方のみ



おはようモーニン、ダーリン」

 気取った低めの声色を耳孔に流し込まれて、ボクはゆっくりと瞼を開いた。よく見知ったのに似た薄紅色と、ひと目見てから焦がれてやまない金色がこちらを覗き込んでいる。
 彼女を取り巻く女たちみたいに黄色い声を挙げそうになるのを、必死にこらえて返した。

……重いんだけど」

 掛け布団コンフォーターごしにボクに跨っているカインからは、コットンキャンディーみたいな甘い香りがした。その香りで、じわじわと記憶が蘇ってくる。
 昨晩、カインの熱意(と自分の下心)に押し負けて一緒にバブルバスに入った。
 そのときに、ラックにシャンプーが二種類置いてあることに気づいた。ユニセックスな柑橘系の香りのものと、人工的な甘い香りのものと。いつもカインから香るのは前者だけれど、昨日は「明日は休みだから」とかなんとか言って後者を使っていたんだ。
 ボクの文句にカインは悪びれず笑って、ベッドサイドを示す。

「朝ごはん作ったぞ、なーんて……

 サイドテーブルには脚付きのトレイが置かれていた。ロマンス小説なんかで、ヒーローがヒロインにベッドのうえで朝ごはんを摂らせるために持ってくるアレだ。アレ、実在したのか。
 そのトレイに並ぶのは、焼いただけのトーストと、ゆで卵と、フルーツの盛り合わせで、凝ったものではなかったけれど、ボクは唇の端がムズムズするような得体のしれない感情に襲われる。
 黙ったままのボクをどう思ったのか、カインはおどけた調子で「ホイップクリームもあるぞ〜!」と言って、背後からホイップクリームの缶を取り出した。押すとやたら油っぽいだけでミルクの香りもなんもしない泡の塊が出てくる缶。

「ん」

 なにもかもが落ち着かない感じだったけれど、ボクは小さく頷いてベッドに半身を起こした――これがどんなに希少な機会であるかを理解しているから。
 毛布がずり下がって、ボクの着ているフリフリのネグリジェが姿を見せる。言っておくがボクの趣味ではない。カインが「ほう」とうっとりしたため息をつく。

「おまえ、ほんとうにかわいい服が似合うなぁ……!」
「着せ替え人形にされて最悪の気分」

 「ごめん」とカインは謝るけれど、「キャビネットで眠らせとくのはもったいなかったから、着てくれて助かった」と伏し目がちに続けるので、ボクはそれ以上嫌味を言えなくなる。
 昨晩パジャマを持ってくるのを忘れたと話したら、「おまえなら似合うんじゃないか」と差し出されたのが、このピンタックとフリルとくるみボタンにまみれたネグリジェだった。いつもカインが運動するときに着ているみたいなヨガウェアが出てくると思っていたから、ボクは目を丸くした。
 カインは照れたように笑って、「通販で買ったんだけど、あたしにはあんまり似合わなくてさ」と言い訳した。
 そんなことはないだろう。ネグリジェを着たカインだって、きっと、だいぶ、かなり、悪くないはずだ。でもボクがそう抗弁したって、皮肉かお愛想と思われるだけだとも思った。
 ボクは、借りているベッドの端へほんの少し寄った。カインはうやうやしい動作で、脚付きのトレイをボクの膝に置く。
 それからベッドの空いたスペースに腰かける。ショートパンツからすらりと伸びた長い脚を組んで、無防備に見せつけて。その肌は太陽に愛されて、ほのかに褐色を帯びている。
 くそ、なんて眩しいんだろう。

「さあ、めしあがれ!」
……おまえ、自分のベッドがパンくずまみれになってもいいわけ?」
「お誕生日さんのためなら仕方ない」
「じゃあ、めちゃくちゃ汚してやろう」
「アハハ!」

 それからカインはなんとボクの髪を撫でて、「寝癖ついてる」と微笑んだ。「こんなサラサラの髪にも寝癖がつくんだ」と、嘲笑うんじゃなくて、それがかわいくて仕方がないみたいな表情で。

「ハッピーバースデー、プリンセス。……髪の毛、いてもいいかな」



 学校の王子様プリンスから誕生日を祝ってもらうなんて、そんな僥倖に恵まれたのはたまたまだった。
 化学の授業で同じグループになって、カインの苦手な細かい計測作業を(居残りは御免だったから)手伝ったら感謝されて。こちらがカフェテリアでひとり本を読みながらランチを食べていると、ほかの友人の誘いを断ってまで隣に座ってくるようになって。チアリーダーなんて馬鹿ばっかりと思っていたけど、彼女は意外にも文化的で、ボクの読んでいる小説のタイトルを全部知っていて。
 そんなこんなで、絶対に仲良くならないタイプのはずのカインとなぜだか時おり話す仲になり、さらにはボクはそれを自分に許していた。
 なんたって、カインはボクの英国訛りについてなにも言わなかった(本当はクールだと思ってると教えてくれたのは、昨晩一緒に湯船に浸かっていたときだ)。あとまあ、おっぱいが大きくて、背が高くて、燃えるような赤毛で――外見がド好みだったのはデカい。
 そして昨日。ボクがパスしたプロムキング候補主催のハロウィンパーティーのあとに、カインから『もう寝ちゃった?』とメッセージが送られてきた。

『あのさ。今夜うちの親、仕事でいないんだけど……オーエンさえよければ、お泊まりスリープオーバーしない?』
『なに? パーティーで観たホラー映画を今さら思い出して怖くなった?』
『うう……そうだよ!』

 彼女がボクを誘ったのは、彼女にとってボクが特別だからじゃない。ボクが(で故国の女子寄宿学校から追い出されて、今は遠縁の米国の親戚を頼ってこんな辺鄙なカントリーサイドで)ひとり暮らしをしているからだ。チアのほかの友人たちには、パーティーのあと、真夜中にこっそりと帰る家がある。激怒する親がいる。
 現に、カインは今日がボクの誕生日であることを知らなかった。どんな話の流れだったか湯船のなかでボクがこぼしてしまい、カインは防水時計を見やって日付が変わってしまっていることに気づくと、平謝りしていた。「そもそも祝ってくれる友人も家族もいないし、どうでもいいよ」とは――ボクは言わなかった。
 『今日はオーエンの好きなことなんでもやろう』とカインが提案するので、ボクはよっぽど「浴槽いっぱいの泡の下に隠れている大きなおっぱいを揉みしだかせて、甘い喘ぎ声を聞かせて欲しい。それか、さっきまで着ていた魔女のコスチュームのまま、全身を指の股のあいだまで舐めさせろ」と言いたかったけど、シャレにならないので我慢をした。
 結局、嫌がるカインと一緒に寝落ちるまでストリーミングサービスの「ハロウィンの夜にオススメ! ホラー映画特集」を倍速でスキップしながら観た(普段なら絶対にしないホラーへの冒涜だけど、ボクはもう観た映画が大半だったので)。とはいえ、ジャンプスケアのたびに腕に信じられないくらいボリュームがあるのに信じられないくらいやわらかい胸が押しつけられるので、望みの半分は叶ったと言ってよかった。



 カインが長い前髪をかきあげて耳にかけると、手元に集中するようにちろと舌先を出す。ホイップクリームの缶を両手で握り、フルーツのうえに押し出そうとする。
 は? ふざけるなよ! と内心叫んで缶を奪い取り――カインが「えっ」と声を上げる――ボクはトーストのうえにクリームの山を作った。
 「あ、そっちにかけるんだ!?」と声をあげるカインの表情には純粋な驚きと楽しさしか浮かんでなくて、つまり、さっきの媚態は天然ものだってことだ――これだからノンケって最悪。
 それからカインは、ナイトテーブルの引き出しからお姫様が使うみたいな大きな櫛(その脇に手鏡も見えた)を取り出して、ボクの髪を梳きはじめた。上機嫌にバースデーソングをハミングしながら。彼女にとって、ボクは――世界じゅうの女たちは、プリンセスなのだ。
 あーあ。きみさえよければボクはきみを世界で一番のお姫さまにだってしてあげるのに。きみはそんなことができるだなんて考えたこともなくって、このまま来年一緒にプロムに行った適当な男と結婚してしまうんだろうな。なんてかわいそう!
 その想念は胃をむかむかさせると同時に、なんだか妙に気持ちがよかった。ボクは口いっぱいのホイップクリームを飲みくだす。

ありがとうセンキュー、ラブ」

 わざと自国の訛りを強調して耳元で囁くと、カインはびくりと身体を震わせ、わずかに頬を染めながら「は〜、やっぱかっこいい……」と呟いて、やっぱり最高にかわいくてかわいそうだ。