紫輝
2025-11-03 23:48:28
1734文字
Public リオヌヴィ
 

君のためならレパートリーも増やそう【三次創作】

リ殿のお夜食から乾燥剤の選択肢を抹消するためにジタクザンギョウの気配を察知するといそいそお夜食作るヌ様の話です。はすとさん(@hasutomofu)の『同棲6日目のリオヌヴィ』が…“良”すぎて…止まれませんでした……(ご本人様に許可を頂いてアップさせて頂いています)

 ぱかりと蓋を開ければ、ふわりと湯気が上がる。鼻をくすぐる香りが知らせてくれる上々の炊き上がりにそっと目を細めた。
 ふちに沿って杓文字を一周。一部ずつ優しく持ち上げてくるりと返すのを数度繰り返せばつやつやと誇らしげに輝く炊きたての白米の完成だ。
 水元素を薄く纏わせた手のひらに少しだけ塩をとり、杓文字で掬った白米をのせる。両の手でそっと包み込むように力を込める、この時の力加減が何より大切だと師匠からは言われていた。力を入れすぎると米粒が潰れてくっつき合い口当たりが悪くなってしまうため、優しく、けれどもバラバラにならないような絶妙な力加減で握る必要があるのだそうだ。特訓の甲斐もあって件の力加減についてはほぼマスターしたと言っていいだろう。ぽん、と皿に置いたそれは見事な三角形をしていた。今回も良い出来だと口角を引き上げて、再び杓文字を手に取る。そうして小鍋の中身を全て握り終えたとき、行儀良く並ぶ三角形は三つに増えていた。塩と、胡麻と、鰹節。現在時刻を鑑みて、味付けは薄目にしてある。調理器具を片付け、握ったばかりの三角形達が並ぶ皿を手に、ヌヴィレットはキッチンを出るのだった。
「リオセスリ殿」
 外套を脱いだだけの背中に声を掛けると、彼はひょいと振り返る。大きな身体の向こう側にある机の上にはいつも通り書類が何枚か重なっているのだろう。やむを得ず要塞から仕事を持ち帰ってきた時、彼はそれを処理するまで寝衣は勿論部屋着にもならないと気づいたのは自宅を同じくしてすぐにわかったことだ。着替えてしまうと頭の中が自宅用に切り替わってしまうから、だそうで、以来ヌヴィレットは帰宅したリオセスリが仕事着のままでいる時は何かしら持ち帰ってきているのだな、と判断できるようになった。
 彼の心身の健康のためにも自宅でまで仕事をして欲しくはない。けれどもどんなに忙しくとも『帰ってきてくれる』ことが嬉しくて、仕事への姿勢として自分が言えたことではないのも相まって『持ち帰り残業』については何をも言えていないままだ。
 カタリと机の端へ置いた皿に、リオセスリが氷色ひいろをゆるめる。
「ありがとう。いつも悪いな」
 美味そうだ、と嬉しげに落ちる言葉に胸の内がふわりとぬくまる心地がする。その心持ちをそのまま笑顔として出力しつつ首を振った。
「私がしたくてしていることだ。君にまたあんなもので腹を満たされては適わぬのでな」
 忘れもしない、初めてリオセスリが仕事を持ち帰って来た日のことだ。彼に夜食として選ばれたのはよりによってデーツナンだった。片手で摘まむにちょうど良く腹持ちもそれなりなのだという彼の弁明になるほどと思わぬではなかったがそれはそれだ。あんなものが彼の血肉になるなど耐え難く看過できない。何もアレでなくても、彼の求める条件を満たせる料理があるのではとヌヴィレットは考えた。レシピ本を捲り、各国の料理に精通した空にも話を聞いて、いくつか見繕った夜食レシピの一つがオニギリである。片手で摘まめて、腹持ちがよく、味わいもアレより格段に優しいはずだ。具を変えればバリエーションも増やせる。ヌヴィレットがオニギリ(他諸々)を習得した以上二度とリオセスリにアレを口にさせるものか――思い出してつい尖ってしまった気配に、リオセスリは頬を掻いて苦笑した。
「二度としないよ」
「私がさせない」
 そのためにレパートリーを増やしたのだから。
 万事任せて欲しいと胸を張れば、リオセスリはくつくつと肩を震わせた。
「愛妻弁当だな」
 ついと皿の縁をなぞった彼が落としたテノールはやわらかな喜色を湛えていて、音を拾った鼓膜と胸がくすぐったさと喜びにうずく。
あまり根を詰めぬように」
「ああ。こいつらが乾いちまう前に食べきれるように仕事を片付けるよ」
 ヌヴィレットさんもあったかくして寝ろよ、なんて指先を撫でられるのに。
「ベッドは温めておくが。私が凍える前に戻ってきて欲しい。おやすみ」
 鋭意習熟中のウィットに富んだ言葉達を並べて、子どもではないのだからと尖らせた唇を呆気にとられた様子で半開きになっている偉丈夫のそれに重ねて、ヌヴィレットは揚々と背を向けた。