先ほどまで一人で忍術学園の薬草園にて季節の変わり目でよく流行る風邪に備えようと風邪薬を調合しようと思って薬の材料を採取していた乱太郎は今、どこからか現れた穴の中に真っ逆さまに落ちていた。
「う、うわああ!?」
不運といえど、急に自分がいたところが穴になるだなんて今までなかったし、穴掘りがだいすきだった天才トラパーと呼ばれていた先輩は昨年卒業したから誰かが掘らない限り穴が増えることなんてなかった。その先輩が卒業してからは、不運委員長と呼ばれる保健委員会の面子も穴に落ちることも少なくなってきたはずだったのに。なんて思いながら、とりあえず怪我を最小限に抑えようと受け身の体制だけ取って来たる衝撃に備えていると、そう考えているうちに地面に突撃したらしく、思わずいたた…。と腰を擦りながら目を開けた。
「…ここは…?」
目を開けるとそこにはただ真っ白い空間がただ広がっているだけの場所だった。空も、木も建物だってない空間。また不運が祟ってしまったのだろうか。と落ち込んでいる乱太郎の耳に、よく聞きなれた声が自分の名前を呼んだ。
「あれ、乱太郎もここに落とされたの…?」
「か、数馬先輩…!?」
乱太郎が振り返ると、乱太郎と同じく保健委員会に所属し、その保健委員会の委員長を務めてさらに乱太郎の恋人である六年は組の三反田数馬が後ろに立っていた。話を聞くと数馬も医務室で包帯を巻いていたところでいきなりどこからともなく現れた穴に落ちてこの空間にきてしまったらしく、ここがどこなのか聞く人もいなければ、ここがどこか判断材料になるものもひとつもなく、一人で途方に暮れていたということだった。
「…なんか乱太郎が来る前に一応あっちに扉らしきものは見つけたんだけど、押しても引いてもダメだったよ。…まあ、とりあえず行ってみようか。」
「はい…。」
数馬に手を引かれながら、扉らしきものがあるほうへ行ってみると扉の上に巻物が壁に広げられながら貼られており、そこにはこう書かれていた。
「…ふたりが一緒にいることを心から満足したら出られる部屋…?」
乱太郎がそう読み上げると、数馬はさっきはこんなこと書かれていなかったんだけどな…?と首を傾げた。でもさっき数馬が言っていた通り乱太郎も扉らしきものを押したり引いてみたりしたのだが、一向に扉は開く気配がなかった。無駄な汗をかいた乱太郎は、そのまま数馬せんぱあ~い。と年上の恋人に泣くふりをして抱き着いた。
「乱太郎はよく頑張ったよ。」
よしよし。と撫でる恋人の手付きが心地よくて数馬の胸元に自分の頭をぐりぐりと擦り付けると、くすぐったいだろ~?と言いつつも微笑んでこちらを見てくれている数馬と目が合った。…思えばこうして彼と間近で触れ合えたのはいつぶりだろう。と数馬をぼけーっと見つめながら考えていると、自分の唇に温かいものが触れる。
それが数馬からのキスだと分かったのは最初のキスからまたもう一度されたときで、瞬く間に茹蛸のように真っ赤になる乱太郎に、数馬はあれ、違った?と笑って首を傾げた。
「な、なん…!?」
「すごく僕のこと見つめてくるものだからさ、何かを待っているのかと思って…。」
ハグは今してるし、じゃあ何を待ってるんだろうな…?って考えた結果がキスだったんだけど、違った?と乱太郎の唇を指でなぞる数馬に乱太郎の脳は沸騰寸前であった。乱太郎がキャパオーバーで動いていない間も数馬は乱太郎のことを抱きしめたり、唇に触れるだけのキスをしたりしていて、ようやくキャパオーバーから戻ってきた乱太郎は数馬がこの状況を楽しんでいることに気づいた。
「もしかして、数馬せんぱい、楽しんでます…?」
「そりゃあね。だって乱太郎のことを僕だけがひとりじめできるんだよ…?」
こんな機会なかなかないからね、今楽しまなくてどうするのさ?と微笑んだ彼はまた当たり前であるかのように乱太郎の唇にキスを落とした。自分たちが今どこにいるのかさえ分からない状況であるのに余裕綽々に自分のことを甘やかそうとする目の前の恋人に乱太郎はこれが上級生の余裕なんだろうか…?と頭の片隅で考えていると、いつの間にか数馬の顔が目と鼻の先にあった。
「乱太郎。」
「は、はい……?」
「余計なこと考えちゃダメ。…ここには僕しかいないんだから、さ。」
僕だけのことしか考えちゃダメだよ。…ね?乱太郎?と言いながら迫ってくる数馬からのキスを乱太郎は素直に受け入れ、もうこの空間のことも、これからどうしたらいいのかなど、諸々のことを考えることを放棄したのだった。その後、どれくらいでふたりがあの空間を抜け出したのかは、乱太郎と数馬だけにしか分からない秘密である。
了
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