ニシナ
2025-11-03 20:44:42
2266文字
Public StardewValley(アレハル)
 

【ハルのこと】

SDVのOC、ハルについてのお話です。

 ハルの本名はHallie Marwood(ハリー・マーウッド)といいます。日本人のママが小さなころから「ハル」と呼んでいたのでそう呼ばれるのを好んでいます。パパはペリカンタウン出身、ルールには厳しいけどハルの事を彼なりに愛しているどこにでもいる父親です。
 そんな二人に育てられたハルが祖父の大切にしていたクリアステッド牧場(Clearstead Farm)にやってきたのは大学を卒業し、就職をして5年が過ぎた頃でした。
 その頃のことを、のちにハルはこう言っています。
「あの頃はボロボロで、1日をどう過ごせばいいかよくわからなかった。おじいちゃんが助けてくれなければ、きっとあのままいなくなっていたと思う」
 既に亡くなっていた祖父からのメッセージを思い出したハルは、彼から預かった手紙を開いてすぐ父親に連絡をしました。そしてこう告げたのです。
「準備をしたらすぐペリカンタウンに引っ越すね。仕事はないけど、作るつもりだから心配しないで」

 それからハルの行動はとても早かったといいます。
引き止められても責められても、心が揺らぐことはありませんでした。
 そして「出ていく」と決めたその日から、ハルは鬼のように働きました。休憩時間を使って引き継ぎ書などをどんどんまとめ、それを全員が見える場所に上げていく。
「誰にも何も言わせない」そんな気持ちがハルの背中を押していたのです。
「いつもそれくらい働いてれば、もう少しマシだったのにね」
 だれか――名前も思い出せない誰かに嫌味を言われても、ハルの心には何も響きません。
 目的が定まるとこんなにも強くなれるものなのかと、ハル自身も驚いたほどです。

 引っ越すと決めてすぐ、祖父の手紙にあったようにルイスと言う町長に手紙を送ったところ、すぐに電話がかかってきました。
「きみの祖父の家は少し荒れているけれど、到着するまでに補修をしておくから問題ない。 ペリカンタウンの住人は君が来るのを楽しみにしているよ」
 彼は電話の向こうでそう言ってくれました。
 今まで、会社を辞めたいと伝えた上司にも、少し前まで愛していた人にも
「お前のような人間はここ以外どこに行っても受け入れられない」と言われていたのに、ルイスの言葉はとても温かかったのです。

 ハルは自分にかけられていた言葉の数々は重い足枷となって身動きが取れなくなっていたこと、それからあの場所を離れることでそれの枷から解放されていくような気がしました。
 狭いけれど大切に暮らしていた部屋を片付け、あちこちに書類を提出し、それから少しだけ蓄えていた貯金を下ろし、ハルはペリカンタウン行きのバスに乗り込みました。
 バスの硬い背もたれに身体を預けたその時、地響きと共にエンジンが唸り声を上げました。
 汚れた窓の向こうに見える風景がどんどん思い出になっていくような気がして、ハルは静かに目を閉じました。

 ハルはバスに揺られながら、色々なことを思い出していました。
家を出て一人暮らしを始めた日、 初めてjojaのオフィスに出勤した日、 仕事に慣れた頃、近くのデスクにいた恋人に告白をされた日、それから……
——大丈夫。もう関係ない」
 ハルは口の中で小さく呟きました。
仕事は嫌いじゃなかった。 楽な仕事ではなかったけれどやりがいはあったし、自分の仕事で社会に貢献しているという充実感はあったから、与えられたスペースでいつも誇りをもって働いていた。
 そんな姿に惹かれたんだと、恋人は言ってくれていた——二人でいる時は、いつも。
 けど、それは本心ではなかったのかもしれない。 彼は恋人ではなく従順なメイドが欲しかったのかもしれないし、 そのために好きでもない人間に甘言を囁いたのかもしれない。
 ハルの恋人だった人は表向きは社交的で誰からも好かれるタイプの好青年でした。気さくに声をかけてくれたときは嬉しかったし、愛していると言われた時は天にも昇る気持ちになりました。
 ただ、愛を確かめ合うことだけ——ハルは彼の望む通りには出来なかったことを、 自分の努力不足だと思っていました。
 なぜなら、終わった後にいつも「当たり前のこともできない」「本当に愛していたら出来るはず」と自分を否定されて悲しい気持ちになっていたからです。
 ハルは恋人の事を大切に思っていたし、彼と共に成長できるよう努めてきました。 だからこそ、恋人の裏切りともとれる行為はハルの心を空っぽにさせるには充分すぎたのです。

「ハリーは性欲が強すぎて相手をするのが疲れる」

 恋人がそんなことを周りに言っていると同僚から聞かされた時、ハルのもとに彼からのメッセージが届きました。
『もう終わりにしよう』
『君は君で、幸せになって』
 短いSMSにすべてが詰まっていたし、返事を送る前にブロックされたようでした。
 何も理解できないまま、けれど近いはずの彼のデスクに行く勇気も出せずにハルの視界はぐにゃりと歪みます。
 同僚は「そんなことを言う男に非がないわけがない」と言ってくれましたが、その日からハルの小さな城だったデスクの周りは、まるで言葉の通じない、理解もない、どこか知らない国のようになっていったのです。

 ——大丈夫、もう関係ない。
 おじいちゃんの農場ならきっと大丈夫。

  ハルは祈るように手を組むと、目をぎゅっと閉じて大きく深呼吸をしました。
 都会を離れていくバスの外から入ってくる風は濃い緑の匂いがしました。