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真九龍
2025-11-03 17:10:42
5239文字
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小説
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【鳴ライ】そんな時もあるさ ─There are times like that.─
鳴海×ライドウで、何故か苛々しているライドウのお話。
鳴海視点です。
注1:両想いな鳴ライになっております。
注2:ライドウremaster版をプレイ済み及びクリア済み。
そんな時もあるさ ─There are times like that.─
大正二十年某月某日、夕暮れ間近の鳴海探偵社。
所用を終えた俺が探偵社に帰宅すると、俺の愛しき人ことライドウは、執務兼応接室の来客用椅子に腰掛け、腕を組み、俯いていた。学生帽を被ったままな所為で表情は窺い難いが、うとうととうたた寝している、いや、ばっちり起きている。
しかも、何時になく不機嫌な様子だ。
感情を表に出さないライドウが─いや、出すのが苦手と言った方が正しいか。でも俺と想い人になってから、少しずつではあるが感情を出すようになってきた─、物凄く苛立っている。普段なら夕食の支度に取り掛かっている時間帯だが、此れは全く以って手を着けていないか、或いは途中で放り出してきたのか。ゴウトちゃんはライドウの前で右往左往し、彼是必死に声を掛けているようだけど─勿論、何を喋っているのかは俺には分からない─、其れでも反応が無い。やがて、溜息のような鳴き声を吐き、何処か哀愁を漂わせながらトボトボと退室していった。
「(ゴウトちゃん、滅茶苦茶落ち込んでいるな
…
)
…
ライドウ
…
?ライドウ?お~い、鳴海所長が帰ってきたぞ~?」
「
………
」
余程苛立っているのか、俺が帰宅したにも関わらず、ライドウは俯いたままで一声も掛けてこない。少々はにかみながら「鳴海さん、お帰りなさい。ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも
…
僕にしますか
…
?」、という可愛い挨拶が聞けないのは何だか寂しいねえ。
え、何処か可笑しいだと。
うん、まあ、その、だな。ご飯かお風呂かそれともライドウか、の下りは何時か言わせてみたい願望的なやつとして、適当に受け流しておいてくれ。
話を戻して、少々はにかみながら「鳴海さん、お帰りなさい」の挨拶が聞けないのは寂しい、だったな。
はてさて、真面目且つ勤勉なライドウに、一体何があったのやら。俺は帽子とスーツの上着を脱ぎ、専用のポールに掛けた後、ライドウの傍まで歩み寄る。
「ライドウ、夕食の準備はどうした?もう五時だぞ?」
「
………
」
俺は苦笑いしながら、ライドウに声を変えつつ顔を覗き込む。
への字口で、実に不愛想な表情を浮かべながら無言と無視を貫いている。こりゃあ、相当なことが日中の間に有ったのかもしれない。俺は所用で不在だったから、本日のライドウの動向は知る由も無い。俺は何をしていたかというと、本業のオカルト専門探偵らしく、最近不審な動きが有ると噂される製造会社、及び其の周辺を朝から調査していた。聞き込みやら流通ルートやらを調べ、間に適当な所で昼飯休憩を取り、そこそこ良い調査結果が得られたところで帰宅した訳だ。
「ライドウちゃ~ん?お~い、本当に聴こえてるのか~?」
「
………
」
俺はライドウの眼前で手をひらひらと動かすも、相変わらず口はへの字と不愛想な表情で、無言と無視を俯いたまま貫いている。
此処で、誰もが思っているであろうことを答えてやろう。
俺こと鳴海だって、ライドウの反応皆無な態度にそろそろ苛立ちが募っているんじゃないか、てな。
そうだな、苛立ちは募っていない。理由は単純、俺はライドウを見守る一人の大人であり、互いの想いが通じ合った大切な存在だからだ。俺は感情的にならないよう、ライドウの反応を静かに待ちつつ声を掛けるだけ。そうすれば、ライドウの方から何かしらの動きを見せる筈だ。
「ライドウがイライライラァ~っとしてるの、眼に見えてるんだぞ~?一体何があったのか、俺に話し
…
─!」
「部屋で少し休んできます
…
!!」
突然、ライドウが声を荒げながらテーブルを叩き、立ち上がった。きっと、募りに募った苛立ちが最高潮に達したのだろう。勢いよく立ち上がった反動で椅子が後ろに倒れたにも関わらず、ライドウは直しもせずに立ち去っていった。執務兼応接室に、俺は独り残される。
「
………
おっ、といけねぇ。ライドウがあそこまで感情的になるとはなぁ
…
なら、尚更聞き出しておかないと」
ライドウの行動に一瞬唖然としてしまった俺だが、直ぐ我に返り、ライドウが倒した椅子を立て直す。そして、俺は愛しき想い人を救うべく、箪笥から合鍵を取り出し、執務兼応接室を後にした。
ライドウが向かった先は、本当に自室かなんて分からない。あんだけ感情的になっていると、自室で休むと言いつつ外に出て行った可能性も有る。が、ライドウは嘘を付くのが苦手だからな、素直に自室で立て籠もっているだろう。
「お~いライドウ、其処に居るのか?」
「僕は部屋に居ません!!」
(いや何で律儀に答えるんだよッ!)
ライドウの部屋の前に到着した俺は、先ず声を掛けた。すると、真面目に矛盾した返事が返ってきて、思わずずっこけてしまった。
畜生、可愛過ぎるだろ。
湧き上がる笑いを堪えながら体勢を立て直し、扉を開こうとすると、何故か開かない。俺が部屋に入って来れないよう、しっかり施錠したという意味を持つ。しかし、施錠したところで無駄だ。俺はライドウの自室籠城を予測し、合鍵を持ってきておいたんだからな。俺は鼻歌を歌いつつ、ライドウの部屋の合鍵を手に持ち、開錠する。
「
…
?!合鍵で入って来るなんて、狡くないですか
…
?」
「だって俺、此処の所長だも~ん。んじゃ、失礼するぞ」
扉を開くと、ベッドの上で膝を抱えて座るライドウの姿を捉えた。俺が部屋に入るや否や、ライドウは眼を細めながら俺を睨み付けるも、直ぐに視線を逸らし、膝に顔を埋める。
「困ったことが有ったら、先ずは所長たる俺に
…
─
…
想い人の俺に、相談することだろ?」
「
………
─
…
」
膝を抱えているライドウの手が、僅かに動く。
図星、だが、言葉にするには未だ躊躇いが有る、といった様子だ。俺はライドウの隣にゆっくりと腰掛け、ライドウの顔を覗き込む。勿論、膝に埋めている所為で、表情は見えない。だが、涙を流して泣いている訳ではないようだ。
ライドウが涙を流す時、か。
いや、此れ以上想像するのは止めておこう。
「なあ、ライドウ。俺にも言えないことなのか?」
「
………
」
妙な所で頑固な面があるな、此の子は。此れも十四代目葛葉ライドウを襲名する為に、幼少期から修行に明け暮れていたこと、同世代と戯れる機会が無かったこと、気軽に相談する相手も居なかったこと、其の手段も得られなかったのも起因しているか。
けど、もう大丈夫だ。なんてったって、俺がライドウの傍にいるからな。
「ラ~イドウ、そろそろ教えてくれよ。もう一度言うけど、俺達は想い人同し」
「貴方に何が分かると言うんですかッ!!」
「
…
─!?」
正に、一瞬の出来事だった。
俺の身体は反転し、ベッドに押し倒されていた。唖然とする俺の視界には、ネクタイを掴み、憤怒の形相で瞠目し、俺を睨むライドウが映る。
募りに募った苛立ち、最高潮に極まりれり、てやつか。
それにしても、ライドウの腕力は凄いな。俺のネクタイを掴むな否や、俺の身体を思いっきり反転させて押し倒したんだからな。
「
………
ッ!あっ
…
えっと、その
…
鳴海さん、此れは
………
~!!やってしまった
…
!!」
押し倒された俺を見て我に返ったのか、怒りの形相を浮かべていたライドウの頬は瞬く間に紅潮し、戸惑いの色が濃く出た困惑の表情へと変貌した。
ライドウがこんなにも表情をコロコロと変えるなんて、こんなにも新鮮で、何て可愛いんだろうか。
「あ、あ
…
鳴海さん、本当に御免なさい
…
!あああ~もう
…
僕はなんてことをしてしまったんだ
…
!」
ライドウは顔面を更に紅潮させ、掴んでいたネクタイを離す。わたわたと手を動かし慌てふためいた後、膝を抱えて顔を埋めた。俺に対する申し訳ない気持ちと、恥ずかしい気持ちでいっぱいいっぱいな様子だ。
俺は起き上がり、絶賛自己嫌悪中のライドウの傍に寄り、肩を抱き寄せた。
「
………
─
…
」
「苛々した感情はな、外に吐き出すことが大切だ。思いや悩みを傾聴し、導く者が此処に居るじゃないか」
「
………
」
傾聴し、導く者。
誰の事か、もう分かるよな。
「
………
あの、鳴海さん
…
本当に、しょうもない理由なのですが
…
聞いて、くれますか
…
?」
膝に顔を埋めていたライドウが、ようやく顔を上げた。相変わらず真っ赤っかで困惑した表情だが、ライドウなりに一歩踏み出せたということだ。恥ずかしがり屋で、想いを口に出すことが苦手なライドウがだぞ。
「ああ、何でも聞くさ」
「
………
実は」
今日、久し振りに登校したんですが
…
─うんうん。
校門前に段差が少し有るのですが、躓いて転んでしまったんです
…
転んだところを皆に見られてしまい、とても恥ずかしかったです
…
─成程
…
怪我は無かったか?
幸いにも、怪我は有りませんでした。
休憩時間、図書室に行ったのですが
…
本を取ろうとしたら、何故か本が一斉に落下してきて、埋もれてしまいました
…
図書室に居た学生達に助けられたのですが、情けない姿を晒してしまったと思います
…
─
…
本棚だったら圧し潰されて、大怪我だったかもしれないな。
まだ本で良かったのかもしれませんね
…
昼食は学生食堂で食べることになっているのですが、副菜のおひたしに一味が大量に掛かっていたことに気付かず、食べてしまったんです
…
とても辛くて、椅子から転げ落ちてしまいました
…
実は先生の一人が大の辛いもの好きで、調理の人が誤って提供してしまったそうです
…
─甘いもの好きのライドウに大量の一味は、ちょっときついかもな。
かなりきつかったです
…
剣道の稽古中、しっかり握っていた竹刀が何故か手から抜けてしまいまして
…
其れが先生の方まで飛んでいき、当たってしまったんです
…
勿論、物凄く怒られました
…
─ライドウにしちゃあ珍しい失敗だな
…
僕はしっかりと握っていたんですけどね
…
下校中、速度の速い車が水溜りを跳ね、水が掛かりました
…
今着ている服は、実は二着目なんです
…
─うわ~
…
雨上がりの日にスピード出すとか有り得ねぇわ
…
下手をすれば大事故ですよね
…
水が掛かっただけで良かったと思うことにしたんです
…
あまりにも災難続きだったので、大学芋を買って気を紛らわそうとしたんです
…
ですが
…
─
…
まさかの売り切れ?
はい、売り切れでした
…
もう何が何だか分からくなって
…
悲しいというか、虚しいというか
…
─ついてないというか?
そう、ですね
…
あまりにもついてなさ過ぎて、苛立ちが募ってしまったんです
…
あの、まだあるんです
…
探偵社に帰って来た後、足を滑らせて階段から落ちました
…
─えっ?!足捻ってないか?!
大丈夫でした。
もう色々と限界だったんですが、夕食の準備はちゃんとやらないといけないと思い、着替えた後、台所へと向かいました。
そして、カボチャを切っている途中、包丁が折れてしまいまして
…
─ほ、包丁?!どんだけ硬ぇカボチャだよ
…
此処で、僕の中で何かが斬れてしまったんでしょう
…
全てが嫌になって、自棄になって
…
「苛々しながら応接室の椅子に座っていたところ、ゴウトが帰って来たんです。ゴウトは何があったのか話してほしいと訴えていたんですが
…
こんなしょうもない出来事を言えなくて、下手したら、八つ当たりしてしまうかもしれない
…
だから、ずっと我慢して黙っていたんです
…
そんな時に、鳴海さんも帰って来て
…
」
「ははあ、ライドウが苛々を我慢して何も言わなかったから、ゴウトちゃんは拗ねて出て行っちゃった、て訳だな」
俺が聞く限り、一部は完全に命の危機に瀕しているようなものだけど。
「ゴウトには、申し訳ないことをしてしまいました
…
勿論、鳴海さんにも
…
大切な人達に八つ当たりしたく無かったのに、結果的に鳴海さんを投げ飛ばしてしまうなんて
…
!ああもう、穴があったら今直ぐ入りたい
…
!!」
「あっははは、気にすんなって。人間、良いことが沢山続く幸運な時もあれば、悪いことばかり続いてしまう不運な時もあるってもんだ」
ライドウは苛々していた時の出来事を思い出し、再び顔を埋めてしまう。
本日一日災難に見舞われたライドウを慰め、ライドウが俺に八つ当たりしたことも水に流す。ま、最初から水に流すつもりでいたからな。
ライドウの新たな一面と変化も見られて、俺の心はほくほくしてるぜ。
「さあて、拗ねて出て行っちゃったゴウトちゃんを探しに行かないとな。其の後、一緒に夕飯を作ろうぜ」
「
…
鳴海さん」
「
…
ん?」
「もやもやが晴れた気が
…
─
…
いえ、完全に晴れました。傾聴して頂き、本当に有難う御座います。吐き出す事って、とても大事なんですね」
顔を上げたライドウは、晴れやかな表情を浮かべていた。
「そうそう。苛々や悩みは溜め込まず、遠慮無く言ってくれ。だって俺は─」
お前の、愛しき想い人なんだからさ。
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