シオウ
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エヴァーグリーン  !R18!

ナナハルが真琴くんをマッサージしてあげるお話。

プールサイドの緊張が徐々に高まっていく。
スウェーデンの至宝、アルベルト・ヴォーランデルが歩き出して向かう先を、固唾を飲んで見つめる人々。
真琴も同じように、アルベルトの視線の先を見つめて息を吞んだ。
すぐに訪れた邂逅にどよめきが起こる。
前回のオリンピックで世紀の大接戦を繰り広げた二人が、向かい合って並ぶ姿を気に留めない人間はこの空間にはいないだろう。
アルベルトが穏やかな表情で見つめるその相手、日本を代表する金メダリスト……真琴にとっては秘密裏に恋人である遙は、いつもの無表情で紫色の瞳に向き合っている。
北欧の選手団が合宿先として僅かな期間、日本の施設に滞在するらしいという話は聞いていたが、まさか同じ施設を利用しているとは。
口火を切ったアルベルトが何やら熱心に語りかけ始め、遙は軽く頷いているように見えるが、会話は成立しているのだろうかと真琴は心配になった。
その疑問に答えるように、遙がこちらへ顔を向けて大きな声で呼びかける。

「真琴、俺のスマホも翻訳できるんだよな?」

「うん、ロッカーから取ってこようか?」

周りの雰囲気に飲まれて平常心を失っていたが、一瞬で我に返り、同じく大声で答えた。
頼む、と遙の瞳が告げたのを見て踵を返す。
駆け足でロッカーへ向かいながら、胸がざわめくのを感じた。
現在の競泳界におけるツートップが再び同じ空間で並んでいるのは、もはや事件だ。
遙のカバンからスマホを引っ張り出した所で真琴は気付く。
……オレのスマホを貸せばすぐに使えてたかも。
同じ機種だから機能は同じ。
特に翻訳アプリはスマホを忘れてくる遙の為にいつも活躍していたのに。
動揺して頭が回っていなかった、と反省する。
駆け足のまま戻るが、プールサイドの混沌は相変わらずだ。
並んだ二人のオーラを前に、誰もがその場から動けずにいる。

「英語が日本語になるように設定しておいたから」

「悪い、助かった」

遙に近づいてスマホを手渡すと、強烈な視線を感じた。
それは周りの大勢の人間からはもちろん、遙の側でにこやかに笑う人物から。
普段、人の顔を見下ろすことはあっても見上げることはない……が、アルベルトを前にするとその澄んだ両目を僅かに見上げる形になる。
色素の薄い金髪に、青みがかった白い肌。
一ミリの無駄もなく削りあげられた彫刻のような美しい身体。
その圧倒的な存在感に怯み、思わずぺこりと会釈してからぎこちない笑顔で手を振り、立ち去ろうとしたその時、アルベルトが何やら言葉を発する。
スマホはしっかりとそれを翻訳してくれた。

【キミは幸せ者だね】

すでにアルベルトの視線は遙に向けられていて、その言葉がどちらに向けて放たれたものなのか真琴にはわからなかったが、居たたまれず再び会釈をして足早に立ち去る。
その背中を遙とアルベルトが随分と長い間見つめていたことも、もちろん真琴は知る由もない。
そんな何も知らない真琴に当然のごとく人々が駆け寄ってくる。
二人が何を話していたのか、囲まれて問いかけられたが首を横に振った。

「わかりません……それより皆さん、そろそろ練習に戻らないと」

冷や水をかけられた面々はうなだれて散らばっていく。
あの二人にしかわからない世界、その邪魔をするようなことは避けたかった。
きっと、お互いに感じるものがある特別な関係なのに、滅多に顔を合わせられないのだから。
とそこまで思ってから不意に気付く。
……翻訳アプリに会話の履歴が残ると思って、ハルはわざわざ自分のスマホを使ったのかも。
真琴は遙の成長(?)を感じ、親の様な気持ちになりつつ自分の持ち場に戻ろうと歩き出すが、遠目から見た遙がアルベルトの顔の前にスマホを掲げて、時折首を傾げている姿が可笑しくて笑ってしまった。
アルベルトを前に全く物怖じしない、遙らしい姿が今は何だか誇らしく感じる。
後に聞いたところによると、二人のやりとりは長い時間続いていたそうだ。


それから数日後。
一面に落ち葉の敷き詰められたような明条中央大学の敷地内。
北風に身体を震わせて、真琴はコートの襟を重ね合わせた。
講義が終り、今日はバイトもない。
寒いから温かいものを食べたいけれど……作るのは面倒だから何か買って帰ろう!と決めた所でスマホの通知音が鳴る。

【来週の週末、泊まりに来られるか?】

滅多にないストレートなお誘いに頬が緩んでから、今月に控えた自分の誕生日が思い出される。
多少早いが、週末に祝ってくれるつもりなのかもしれない。
もちろん、と返信して、大喜びしている猫のスタンプを送る。
先程まで感じていた寒さはすっかり吹き飛んでしまって、真琴は足取り軽く家路を辿った。

待ちに待った週末。
区民プールのバイトを終えて目的地へ向かう。
日が暮れて、薄闇からの風は一層冷たいので、遙の部屋までの近さはありがたい。
前日に追加連絡があり、来る前に何か食べてくるように告げられたので休憩時間に食事は済ませておいたが……そんな要望は珍しいと思う。
毎度、遙の料理を目当てに訪ねているわけではないけれど。
そんなことより、と真琴は思い直す。
自然な話題としてアルベルトと何を話していたのか、軽く聞いてみてもいいのではないか。
やはり自分も普通の人間だ。天才同士の会話には興味がある。
遙が濁す様ならそれ以上追及しなければいい。

チャイムを鳴らすとすぐにドアが開いた。
顔にあたる温かな空気にほっとしながら、遙の肩の向こう、リビングへの扉のすりガラスが黒いことに気付く。

「あれ……なんか部屋の中、暗い?」

……いいから入れ」

招き入れられると更なる異変に気付く。
いつも遙の部屋はほとんど無臭だが、今日は花のようなほのかで優しい香りが漂っている。

「いい匂い……あ、もしかしてアロマキャンドル?」

だから中が暗いのか、と閃いたところで遙が引き戸を開けた。
見慣れた遙の部屋がすっかり変貌していて、真琴は驚きの声をあげる。
オレンジ色の間接照明にぼんやりと照らされた室内の隅で、花の形を模ったアロマキャンドルの灯がゆらゆら揺れている。
テーブルが無いので少し広く感じられる部屋の中は充分に温かく、床には毛足の長い白いラグが敷かれ、ベッドには茶色いシーツとU字のクッションがセットされていた。
さらに机の上には透明なガラスの花瓶に赤い花が飾られ、まるでどこかの店の中のようだ。

「ハル、部屋の中、どうしちゃったの!?」

遙は答えず、真琴をさらに中に押しやると引き戸を後ろ手で締めた。

「寒かったろ。その辺に座って待ってろ」

そう言って遙はキッチンへと引っ込んでしまう。

「う、うん……

真琴はカバンを下ろし、コートを脱ぐとラグの敷かれた床へ座り込んだ。
厚みの感じられるふかふかのラグが電熱線の張り巡らされた電気カーペットだと気付いて、そのぬくもりに寝転がりたくなる。
様々な疑問は一旦忘れて、ロマンティックな部屋の雰囲気を楽しむことにした。
文字どおりの暖色にじんわりと心まで緩んでいく。
アロマキャンドルの灯が、壁に映る影をゆらゆらと動かしている。
カーテンが外の明かりで白くぼんやり光り、ふとその向こうに雪景色を想像してしまった。
……東京では雪は見られない、よね。
岩鳶にいた頃は、と思いを巡らせたところで遙がマグカップを片手に戻ってくる。

「身体が温まるハーブティー?らしい」

疑問形で差し出されたので笑いを堪えつつ受け取る。

「ありがと!でも、ハーブティーってハルにしてはめずらしいよね」

それに、この部屋も……と満を持して言及すると、遙は隣に腰を下ろし語り始めた。

「この前、アルベルトに聞かれた……ちゃんとパートナーをケアしてるかって」
「北欧では日が落ちるのが早いから、長い夜を恋人と家の中でゆっくり過ごすことが多いそうだ。一緒に料理をしたり……眠る前にお互いにマッサージをしあったりするらしい」
「それで……今日はあいつの言う通り、真琴にマッサージでもしてやろうかと思って」

遙の口から出てきた名前。
まさか、あの時、そんな事を話していたのだろうか?
一瞬フリーズしてから、耐えきれず満面の笑みがこぼれる。
この部屋の仕様が全て自分の為なのだと思うと胸が熱くなった。

……嬉しい!スウェーデンって素敵な所なんだね。でもハルにマッサージさせるなんて、皆に叱られそう」

「そんなわけないだろ……それ飲んだら始めるからな」

「うん……!」

あまりにも嬉しくて子供の様に頷いてしまった。
両手で挟むマグカップからあがる湯気で鼻先がふんわりと湿り気を帯びる。

「部屋も、このハーブティーもあったかくて良い香り……癒されるなあ」

「ほとんどアルベルトが送ってくれた。向こうの定番品らしい」

……え!?」

「部屋もこういう風にしろって……俺じゃ思いつかないから言われた通りにした」

……もしかして、この前話してた時に!?」

「ああ。真琴と付き合ってるのかって聞かれて」

「オレ達のこと、話したの!?」

……言いふらすような奴じゃないだろ。現にこうやって色々と役に立ってくれたしな」

「で、でも……!ていうかなんでアルベルトは……!」

「さあな。ただ……支えてくれる人がいる俺のことが、羨ましいって言ってた」

「そっか……

「真琴のこと色々と聞いてきて鬱陶しかったけど、あいつの言う通りだと思った……もっとお前のこと、大切にしないと」

言葉の最後は聞き取れないほど小さな声だったが、言い切って目を背けた遙の顔はオレンジ色に照らされた室内でもわかるほど紅潮していた。
そんな姿と遙の言葉に、真琴まで茹であがったようになってしまう。

「そんな、ハルはいつも優しいし……オレは本当に幸せだよ」

照れ隠しにマグカップを口へ運ぶ。
ハーブティの繊細な風味が感じられないほど焦って、ほとんど一気に飲み干す。

「甘酸っぱくて美味しかった!喉かわいてたから一気に飲んじゃったけど……

遙が空のマグカップを奪って立ちあがった。

「じゃあ、準備してくるから……ベッドにうつ伏せで待っててくれ」

服は全部脱いで下着だけでな、と去り際に言われて硬直する。
下着だけ……
それで部屋の中を入念に温めておいてくれたというわけか。
遙に手間をかけさせてはいけないと覚悟を決めて下着姿になると、言われた通りベッドにうつ伏せになる。
U字のクッションは逆さにして顔をはめる為のもの……本当にマッサージ店にでも来たようだ。
足音と共に、ほのかな香りが漂ってくる。
ベッドの傍にしゃがみこむ気配がして、遙が店員さながらに語りだす。

「オイルを身体に塗る……スウェーデン発祥のマッサージらしい」
「スウェディッシュマッサージとか、なんとか……オイルは温めてある。ベッドは防水シーツだし、下着はちゃんと洗濯してやるから安心しろ」

「すごい本格的だね……!えっと、じゃあよろしくお願い、します……

顔をあげることはできないが、言葉だけで畏まる。
まずは足から、と遙が告げると、温かな液体と共に手の平がゆっくりとふくらはぎを滑りだした。
温められたオイルの、熟れた果実とハーブを混ぜたような芳醇な香りが肌の上に広がっていく。
顔を伏せていても感じられるその芳香に真琴はうっとりと溜息をもらした。

「オイル、すごく良い匂いだね……あったかくて気持ちいい」

遙はまるで壊れものでも扱う様な手付きでひたすら優しく手の平を滑らせる。
とろりとした液体の摩擦でじんわり足の先が温まっていく。
マッサージというよりはオイルを撫でつけられているような感触。

……痛くないか?」

「うん、もっと強くても大丈夫だよ」

ちょっとくすぐったい、と笑うと遙は申し訳なさそうに答えた。

……悪い。やっぱり初めてで、いきなり上手くはできないな」

本来なら遙は人にマッサージする必要などないのだから、こんなことで反省してほしくないところだ。

「ううん。オレがちょっと緊張しちゃってるだけ……

「何で緊張してるんだよ……もっとリラックスしろ」

僅かに体重の乗った手の平が足首の辺りを圧迫してくる。
痛気持ちいい、とでもいう様な感覚に真琴は声をもらした。

「あっ、そこ、凄く気持ちいい……

「足、張ってるな……こんな風に押して流してやるのがいいかもな」

言葉の通り、心地の良い圧迫が足首から膝裏へ、オイルと共に流れていく。

「気持ちいい……ハル、すぐにコツを掴んじゃったね」

うっとりとするような気分に浸れたのはここまでだった。
手の平がそのまま太腿の裏に上がってくると、再びくすぐったさが戻ってくる。
容赦なく下着の上にもオイルが垂れ流され、そのまま尻の上をぬるりと手の平が滑る。

「ふ、っ…………!」

微かに妙な声が上がり、身体が強張る。

「真琴……これはマッサージ、だからな」

「わ、わかってるよ……!ちょっとビックリしただけだってば」

遙の呆れた様な声を聞いて恥ずかしさが込み上げてきた。
オイルの滑りのせいだ、と訴えたかったが、そこは堪えることにする。

「ここ……仙骨の部分を念入りにマッサージしろってアルベルトが言ってた」

「なるほど……骨盤を繋げる重要な部分だもんね」

臀部の中心に逆三角形で存在している仙骨、ここをしっかりとほぐしてリラックスさせてやることが……よりオーガズムを高めることになる、と伏せられた理由を知る由もない真琴は呑気に感心していた。
しかし、尾てい骨から尻の間に熱い液体を塗りつけられると、下着越しとはいえ身体が反応してしまう。
無意識に内腿に力が入り、秘部とその周りの筋肉が閉じられるように硬直していく。
それを押し広げられるように、ぬるぬると手の平で擦られて羞恥に顔が火照ってくる。
少しでも気を抜くとまた妙な声を出してしまいそうで、真琴は顔の横で伏せられた手をぎゅうっと握りしめた。

「直接、触った方が良さそうだな」

言葉と共に遙の両手が足の間、下着の隙間からずりゅ、と乱暴に入り込んでくる。
尻肉が上へと押し上げられ、下着が秘部にキツく食い込むと、真琴はたまらず悲鳴を上げた。

「ふゃ……っ、わぁあ……っ!」

「真琴、これはあくまでマッサージで……

「わかってるってぇ……っ!でもっ」

「少しだけ我慢しろ」

遙の親指が尾てい骨をぐりぐりと押し潰すように撫で上げる。
たっぷりと垂らされた熱いオイルはすでに秘部と陰嚢を伝って性器の先端まで滴ってきていた。

「んっ、ン……っ!」

手の動きに合わせて下着の中がぐちゅぐちゅと擦れる。
尻に食い込んだ下着が引き上げられると、性器までもが締めあげられるように圧迫されて、もどかしいような疼きを止めることができない。
これは、あくまで、マッサージだから。
先程の遙の言葉が真琴を責め立てる。

(気持ちよくなっちゃ、ダメなのに……

あまりの恥ずかしさに涙がじわりと込みあげたところで、遙の手が下着から引き抜かれ、
何事も無かったかのように腰へと上がっていく。
熱の余韻を残しながらも解放された感覚に真琴は胸を撫でおろした。

「肩甲骨のあたりは意外に柔らかいな……いつも動かしてるからか」

遙は腰から背中へ力強い動きで手を滑らせる。
一気に上半身がポカポカと温かくなって、汗ばんでくるのを感じた。
そのまま首、肩、とオイルをもみ込む様にマッサージされて、顔まで熱くなってくる。
うっとりするような気持ち良さに夢見心地の状態がしばらく続いた。

「よし、オイルを拭き取って少し休憩だ。水分補給しないと」

タオル少し熱いからな、と告げられて、蒸しタオルで手早くオイルがふき取られる。
さっぱりとした爽快感で疲れが完全に吹きとんだ気がする……が、下着の中のオイルはそのまま放置されて、敏感な部分はじんじんと熱いままだ。
何となく起き上がれずにいると、遙から声がかけられる。

「バスローブやるから羽織れ、床の方が暖かいぞ」

背中で感じるふんわりとした布の感触。
言われたとおり起き上がって、いそいそと袖を通した。
床に座り込んで、すでにキッチンへと向かった遙を待つ。
再びハーブティーの入ったカップを持って戻ってきた遙を見て思わず笑みがもれた。

「ふふ……至れり尽くせり、だね。こんなにしてもらっちゃっていいのかなぁ」

……いつもお前がしてくれてることだろ」


遙は素っ気なく告げて真琴の横に座るとカップを手渡し、持ってきたペットボトルの蓋を開けた。

……寒くないか?」

「うん……

冷たいミネラルウォーターを喉に流し込み一息つく。
無理に会話しなくても、沈黙がスパイスになるのだというアルベルトの言葉を思い出す。
たしかに。無言でいる時ほど心の中は饒舌なものだ。
現に真琴はカップに口付けながら、もじもじとこちらの様子を伺って何か喋りたそうにしている。
気付かないふりで無言を貫いていると、耐えきれなくなったのか真琴は空のカップを床に置いて上擦った声をあげた。

「ハル……、もっと、くっついてもいい?」

返事を待たず、真琴が身体を寄せて肩を横並びに密着させ、もたれかかってくる。

「ハルの身体、冷たくて気持ちいい」

オイルのむせかえるような甘い香り。
苦しいくらいに高鳴る鼓動を静めようとしている遙に追い打ちがかけられる。

「あのね……オレ、すごく嬉しくて、今、ハルに何でもしてあげたい気分……なんだけど」

太腿に置いていた手に真琴の手が恐る恐る重ねられる。
期待通りではあるが……まだ早い。
これから更にマッサージを重ね、もっと存分に焦らしてから、の予定だ。
たまらず牽制とばかりにいつもの揶揄を口にした。

……真琴、エロい顔して誘うな」

「そ、そんな顔してないだろ……!」

慌てふためいて、手を離したのも束の間。
真琴は遙の腕をとると胸の谷間をぎゅうと押し付けて真っ赤な顔を逸らした。

「誘ってない……わけじゃない、けど……

羞恥に震えた声で、精一杯の誘惑をしてみせる。
こんなことをされて耐えられる人間がいるのか?
せっかくの計画を台無しにしようとする、罪なき罪人に怒りすら込み上げてくる。

……まだマッサージは終わってない」

「で、でも、オレもハルに何かしてあげたいなぁって……

「いいからベッド行け……次は仰向けだからな」

……はい」

悪戯を咎められた子犬の様にしょんぼりとベッドへ向かう後ろ姿に少しだけ胸が痛んだが、腕が鳴るとはこのことだ。
人の気も知らないで無責任に誘惑してきた罰は受けてもらわないと。


真琴は、濡れた下着姿のままベッドの上で仰向けになると、その心許なさに微かに身じろぎした。
先程のうつ伏せと違って自分の全てを見られている様な感覚。
何より、遙の姿が見えるようになったことに緊張してしまう。
そんな真琴の焦りを知ってか知らずか、遙がすぐ横で顔を覗き込んできた。

「今度は顔と、頭のマッサージだ」

言葉の後で目と額を柔らかな布で覆われる。
温かな暗闇にホッとして瞳を閉じた。

……ホントにお店みたい。優しい店員さんにたくさんお金払わなくちゃ」

軽口をたたいて笑うと、その上がった頬をぎちっとつままれる。

「お前は顔がうるさいから、ここの筋肉も凝ってそうだな」

「痛っ……!?顔がうるさいって、酷いなぁ……!」

「やっぱり全部うるさい」

額に温かな手の平が当てられる。
心地の良い圧迫。
時折、ピンポイントでツボ押しの様な指の刺激が眉間や眼窩の下に伝わる。
こめかみから頭頂部へかけて両手で挟むように押し上げられて、口の辺りが緩んでくるのを感じた。
遙の言う通り、意外と顔や頭も凝っているのかもしれない。
顔に掛けられていた布が取られると、視界がクリアになっている気がする。

「さっぱりして、頭が軽くなったみたい……

遙はまだ顔の横に居て、こちらをまじまじと見つめている。
ちらりと目だけで様子を伺うと、いつもの無表情で遙がぽつりと呟いた。

……お前、綺麗な顔してるよな」

真琴は、ぱちぱちと瞬きをして固まった。
スッキリとしたはずの頭が一瞬でオーバーヒートする。

「なっ!?何、言って……!そんな……!」

喚く真琴に何の反応も見せず、遙はすぐに足元へと移動した。

「じゃあ、また足から始めるからな」

真っ赤になってしまった顔を両手で覆い隠したかったが、次の展開は更に真琴を狼狽えさせた。
うつ伏せの時は見えなかったが、当然、遙は身体に跨っている。
今は膝から下の足をマッサージしている手が、上半身へとあがってきたら。
いつも遙に組み敷かれて、その身体の下で行われている行為を想像せずにはいられなかった。
羞恥に熱を帯びた全身が強張る。
真っ先に気になるのはやはり……

「あの……っ、恥ずかしいから、タオルかけてくれる?お店でもきっと……

「注文の多い客だな……ほら」

遙はオイルを拭き取るために使った濡れタオルを雑に下半身にかけた。
だが、ハンドタオルほどのサイズでは、かろうじて下着の部分を覆うのが精一杯だ。

「いちいち恥ずかしがってたらマッサージにならないだろ」

「うぅ……

遙のもっともな訴えに真琴は口をつぐむしかなかった。
マッサージが再開されると、手は膝の上へと滑ってくる。
大腿四頭筋と呼ばれる筋肉がゆっくりと圧をかけられて解れていき、否応なしに下半身が脱力していく。
多少の不満を吹き飛ばすほどの心地よさ。
オイルの温かさと滑らかな摩擦は通常のマッサージよりリラックス効果が高いと思った。
さらにはこの室内の雰囲気、立ち込める香り、時折響く遙の心地よい低音……五感に訴えかける全てが身体と心を癒してくれる。
今だけは恥ずかしさを忘れて、全てを遙の手に委ねよう。
……しかし、そんな状態はもちろん長くは続かなかった。
オイルに塗れた遙の熱い手の平が内腿を伝って、タオルで隠された下着の中に入り込む。
ずりゅ、と勢いよく陰茎の裏側を擦られて、思わず腰が跳ね上がる。

「ひゃう……っ、ぅ……っ!?」

「悪い……タオルで見えないから手元が狂った」

遙は悪びれもせず告げて、手を動かし続ける。
ぞわぞわとする寒気のような甘い疼きで内腿が震えてしまう。

「ここ、鼠径部のマッサージだからな」

言葉の通り、足の付け根、鼠径部を力強く両手が押し上げてくる。
その度に引き上げられる下着によって、敏感になっている性器が刺激されて、真琴はたまらず声をあげた。

「ま、待って……っ!」

「見えないんだから仕方ないだろ。……嫌ならタオル取るぞ」

「だめ……っ、やだ……っ!」

拒絶は聞き入れられず、タオルが剥ぎ取られる。
自らの目に入ったその場所はオイル塗れで妖しく濡れ、勃ち上がりかけたモノの形がくっきりと浮びあがっていた。
あまりの恥ずかしさに腕で顔を覆うと、涙がじわりと込みあげてきて、思わず泣き声をあげる。

「ごめん……、マッサージなのに、気持ちよく、なって……

「気にするな……今から違うマッサージに切り替えるか?」

遙の余裕に満ちた声が耳元で響く。
その言葉に顔を隠していた腕をあわてて解いたが、すでに遅かった。
遙は移動して腰の上に跨ると、オイルに濡れた手を両胸の間に押し付けてくる。
恐怖、或いは浅ましい期待で激しく脈打つ鼓動が伝わっているような気がして、ますます涙が込み上げてくる。
遙の手の平が焼けるように熱い。
全てを見透かすような蒼い瞳に意地悪く見下ろされて、その口元が微かに笑みで吊り上がると真琴は息を飲んだ。
身体がふるふると震えて、両胸の先端がぷくりと勃ちあがる。
次の瞬間、遙の両手とオイルがそこを滑る。

「あうぅ……っ!」

硬いしこりをぬりゅぬりゅと押し潰されて身体が仰け反った。
羞恥で過敏状態の全身に容赦なく快感が突き抜けて、びくびくと大きな痙攣になる。
混乱の中、遙が上半身を倒してその身体が重なると、股間に熱くて硬いモノが押し付けられた。
オイルが染みていくのも構わず、ずるずると擦り付けられる遙の陰茎に戸惑う暇もなく、唇の間に捻じ込まれた舌に翻弄される。
遙は夢中になって腰を押し付け、真琴に口付けては舌を絡ませる。

「ん゛……っ、ん゛っ、ぅ……

溢れ出る唾液が喉元を伝い、滲んでくる愛液が尻の間を伝っていく。
あまりの快感に脳内が麻痺して、真琴は無意識に遙の背中へ腕を伸ばした。
が、あっけなくその身体は離れていく。

……今のは、胸と口の中のマッサージだからな」

ぺろりと舌なめずりをしてから遙はベッドを降りる。

「オイル拭き取って水分補給しないと」

さらに離れようとする身体を、真琴の腕が引き留めた。

「ま、待って、ハル……っ!」



力の加減ができていないその熱い腕に、遙は必死で笑みをこらえる。

「真琴……?」

疑問形で名前を呼んでから、わざとらしく首を傾げ、逸らされたその瞳がこちらを見るのを待つ。
向けられたエメラルドの瞳の中に、琥珀が宿る。
暖色の間接照明で照らされた真琴の全身は、ぬらぬらと濡れて香りたち、ほのかに妖しく光っている。
これはさながら鯖のオイル漬け……熟成肉……と食材の例えばかりが浮んでくるが、すっかり出来上がってしまっているこの肉体の前では仕方のないことかもしれない。
鯖であれば熱いうちに食べたいところだが、今はまだ調理過程なのだから耐えなくてはならない。
熱情に瞳を揺らめかせる物欲しげな顔は、今にも抱き付いてきそうだ。
逆に押し倒されては抵抗できそうにないので、とりあえず目を逸らすことにした。

「俺も喉かわいてるから、少し休憩する」

張り詰めた股間の痛みを堪えつつ、真琴の手を引いて、ベッドから降りるように促す。

「ほら、バスローブ羽織れ」

「っ、……うん」

真琴は正気に返ったようで、照れ隠しに笑顔を浮かべてから慌てた様子でバスローブを羽織った。
これでひとまず安心だ。
どちらがいつ暴発してしまうかわからない、駆け引きのようなやり取りにスリルを感じる。
海の向こうの人々は中々に高度な性生活を楽しんでいるようだ。
キッチンに引っ込んで、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを両手に持って戻る。
床に座り込んでぼんやりとしている真琴に手渡して、その隣に座り、再び沈黙を守った。
真琴はチラチラとこちらの様子を伺いながら、ちびちびとペットボトルを傾けている。
その様子に吹き出しそうになりながらも、あくまで無関心を貫き、ペットボトルの蓋を捩じった。


水を飲み込む遙の喉元が浅く上下している。
それがやたらと色っぽく見えて、真琴の目は釘付けになってしまう。
こんなに美しい遙のすぐ隣で、いやらしい疼きを全身に抱えて見悶えしている自分があまりにも情けなくて泣きたくなってきた。
けれど、ほんの少し足を動かすだけで股間がどうしようもなく淫らな熱を伝えてくる。
敏感な部分がぬるぬると下着の中で擦れる。
硬く勃ちあがったままの胸の突起がバスローブに触れると、秘部が激しくヒクついてしまう。
呼吸が浅くなってくる。身体中が熱い。
どうすれば、マッサージ以上の続きをしてもらえるだろうか。
遙をその気にさせて、このドロドロの下着を剥ぎ取ってもらうにはどうすれば……そんなことで頭がいっぱいになって、まともなことが何も考えられない。
唇に触れるペットボトルの飲み口、流れ込んで喉を伝う液体にすら猥褻な連想をしてしまう。
恥ずかしい。もう耐えられない。
限界を迎えた真琴は助けを求めて隣の肩に縋りついた。

「ハル、今日はオレの為にありがと……


遙は返事をしたい衝動をぐっと堪える。

……ハルが、せっかくマッサージしてくれてるのに、ごめんね」

真琴が動く気配がしたので遙は慌てて固く目を瞑った。
今、この顔を見たら最後、止められる自信がない。

「オレ、ひとりで盛り上がって、ハルに嫌われちゃったらどうしようって、怖いけど」

その言葉に思わず目を見開くと、柔らかな唇が頬に押し当てられた。
滅多にない行為に驚きを隠せず固まっている遙の太腿に、真琴は膝立ちで跨ると今度はぎこちなく唇に口付けてくる。
顔を真っ赤にした真琴は目をぎゅっと瞑ったまま、きつく閉じた唇を遠慮がちに押し付ける子供のようなキスを何度も繰り返して、精一杯の愛の言葉を囁いてくる。

「好きだよ、ハル。……だいすき」

遙はされるがままでその姿を凝視しつつ、ふつふつと湧き上がってくるものを冷静に感じていた。

「ねぇ……、ハルは……?」

お手本の様な、下がり眉の上目遣い。
甘ったるい声の問いかけに、溢れ出していくそれはもはや怒りに近い。
心の中で長い溜息をついて衝動的な加虐心を何とか押し殺したが、それを違う形で真琴にぶつけることにする。
遙は真琴の後頭部に手をまわし、髪を軽くつかんで引き寄せると乱暴に口付け、強く舌を吸い上げた。

「ん゛……っ!ふ、ぁ……っ」

恋人からのとびきり甘くて優しい答えを期待していたであろう真琴は、目を白黒させて戸惑っている。

「もっとマッサージしてほしいんだろ。……汚れるから続きはベッドでな」

耳元でそう囁いてやると瞳の戸惑いはピンク色のハートマークに変わった。
ベッドに仰向けになっている真琴の腹に跨ってその濡れた身体を見下ろすと、とてつもない征服感を感じる。
荒ぶった心を悟られないように、とは思ったがやはり綿密な計画を滅茶苦茶にされた怒りは治まらない。
これもまた違う形でぶつけるべきだろう。
脳内でアドレナリンが出まくっている。
今ならきっと恥ずかしさなんて感じないはずだ。

「さっきも言ったけど……お前より綺麗な奴なんて、見たことない」

さすがに顔を見ながら言うことはできなかった。
すぐに真琴が奇妙な声を上げる。

「へぁ……!?そ、そっ、そんな……!」

狙い通り、真琴は充分にダメージを受けているようなので、良い気分になって続ける。

「お前の笑った顔は可愛い。それから……

「は……っ!や、やっ……!もうやめて!わかったから……っ!」

耳や首まで真っ赤になった垂れ眉が必死に訴える。
今は羞恥に強く閉じられたその緑色の瞳が、何より美しいと思う、と。
伝えたかったが、流石にもう限界だ。
この記憶が丸ごと消えるくらい、さらに強烈な記憶を身体に与えてやることにする。
……アルベルトからスマホの翻訳で伝授された北欧式スローセックス。
リラックスできる温かな室内で、他愛もない会話と頻繁なボディタッチ。
時折、長い沈黙を挟みつつも、パートナーを褒めまくり、存分に焦らして意識させる。
限界まで耐えてからセックスに持ち込む際は、何度か中断して興奮を保ちつつ、長い夜を楽しめる様に、とのことだったが。
あらかた条件はクリアしただろう。
その効果で真琴がいつもとは違う状態になっているわけだし。
行為を中断できるかは自信がないので回数をこなせばいいか、と遙は改めて真琴を見下ろした。
真琴の身体にたっぷりと塗りつけられたオイルは一向に乾く様子はない。
熱でいつまでもぬるぬるとぬめっているそれを利用して再び両胸に手の平を滑らせる。
濡れてピンク色に光る先端をしつこく擦り付けてやると、真琴は小さく吐息を漏らした。
むにむにと豊満な筋肉を寄せて上げるように鷲掴んでから、今も硬く勃ちあがったままのそこをきつく摘まむ。

「さっき、触られる前から勃ってたな、ここ」

「んぅう……っ!」

「こうやって擦られて気持ち良くなってるみたいだし、下と同じだろ」

遙は腰をずらして真琴の陰茎に尻を押し付け、言葉の「下」の意味を示しながら、
何度も指の背で突起を弾き上げる。
真琴はビクビクと仰け反って、口を尖らせ情けない声をあげた。

「ふ……っ、ふぅっ、う゛ッ!」

「気持ち良い所がたくさんあって良かったな」

遙は言いながら一度離れると、真琴の足を大きく拡げ、その間に入り込んで膝立ちする。

「マッサージなら、ストレッチもしておかないと」


真琴は次の行動に身構えた。
左足、膝の裏を掴んで思いきり上へ押し上げられる。
自らの顔の横に付きそうなほど大きく折り曲げられて、すっかり伸びきってしまった下着が鼠径部に食い込んだ。

「やだぁっ、恥ずかしいよぉ……

だが、そんなことで恥ずかしがっている暇はなかった。
くっきりと盛り上がった形を、遙が下着の上から撫でつけてくる。

「あっ、あうぅ……っ!」

折り曲げられた左足とは対照的に、ぴんと伸びきった右足。
下着の隙間から遙の手が忍び込む。
オイル塗れの性器を掴まれ裏筋を親指で撫でられると、完全に勃ちあがってしまった先端を下着が押さえつけてさらなる刺激を与えてくる。
ぐちゅぐちゅと激しい水音がして、下着の中が滅茶苦茶に擦られる電気ショックのような激しい快感に、真琴は腰を突き出して必死に喘いだ。
が、絶頂が近づくと遙の手はぴたりと止まる。

「ん……っ!ん、あ…………?」

真琴の陰茎が下着に触れない様に、遙は慎重にウエストのゴムを持ち上げる。
ぬとぉっ、と何本も糸が中で引かれているのを感じて真琴は身震いした。
両足を通して、ぐっちょりとした下着が引き抜かれる。
すっきりした様な気もするが、果たしてその感覚は正しいのだろうか。
丸見えになってしまった恥ずかしさで、無意識に力が入っている秘部を遙の指がぬちぬちと音を立ててなぞる。
再び片足を折り曲げられ、秘部に指がすんなり侵入すると、もう片方の足がビクンと突っ張った。
まだ、どこか頭の片隅でこれはマッサージだと認識が残っていたらしく、無遠慮な行為に混乱してしまう。
遙の指はじゅぽじゅぽと卑猥な音をたてて、中の弱い所を執拗に狙って突いてくる。

「ひ…………ぃ!いぃ……っ!」

激しい指の動きに合わせて、陰茎がぶるんと揺れると先端から僅かに精液が漏れ出した。
先程からずっと無言の遙を縋るような目で見ると、その瞳は冷たくこちらを見下ろしているが、口元には微かに笑みが浮んでいる。
わかっている、とでも言うように、遙は次の行動に出た。
吐精を待ちわびて健気に震える陰茎を、ついさっき剥ぎ取ったドロドロの下着で包み込むと円を描くようにこねくり回される。
ざりざりとした布の感触が、剝き出しの先端に熱く擦れて、真琴はたまらず腰を引いた。
が、容赦なく腹側のしこりを押し潰してくる遙の指によって再び腰は情けなく突き出される羽目になる。

「ん゛っ、ひ、イう゛……ッ!イ、くぅ……っ!」

遙の指をビクビクと締め付けて、真琴は激しく吐精した。
尻の筋肉がぎゅうっと閉じてすぼみ、何度も腰が跳ね上がる。
ナカで締め付けた遙の指が甘い快感を与えて続けて、引き抜かれた後は更なる奥への刺激を期待してしまう。
ずっと自分だけが気持ち良くなってしまっているのが後ろめたくて、真琴は遙を引き寄せようと腕を伸ばす。

「ハル……っ、ねぇ、ハルも……っ」

掴もうとした遙の腕がぬるんと滑ってすり抜ける。
もどかしさに焦って、今度はTシャツの裾を思いきり引っ張ったが、遙の身体はぴくりとも動かない。
存分に伸びた裾を見て遙は溜息をつくと、真琴の手を振り払い、Tシャツを脱ぎ捨てた。
その勢いで下半身に纏っていたジャージと下着も脱いでしまう。
再度、膝裏を掴まれ足をひろげられると、熱い肉棒の切っ先が秘部に押し付けられる。
期待と悦びに肺が収縮して、喉がひゅっと音をたてた。
遙が上半身を倒すようにのしかかると、切っ先がめり込みそのまま奥を簡単に割り開いていく。

「は……っ、うぅ……っ!」

ぞくぞくと背筋をのぼってくる快感に大きな声が出てしまい、真琴は咄嗟に自分の口元を押さえた。
無防備な上半身がぬるりと密着する。
ある意味では汗とオイルに塗れた身体は水分多量だ。
遙はうっとりとして、自身の身体に液体を塗りつけるように密着してくる。
根元まで差し込まれたまま一向に動く気配のないモノを、真琴は健気にきゅうきゅうと締め付けて待つしかなかった。
やがて、たっぷりの水分を堪能して満足した遙は、多少苦戦しながらヌルついた太腿や腰を掴んで浅いピストンを始めた。
すっかりほぐれきって、これまでにないほど濡れた中は、遙のモノが出入りする摩擦をほとんど伝えてこない。
遙もそれに気付いたのか、腰の動きが速まっていく。
秘部からは、ちゅぽちゅぽと卑猥な水音が激しく響いて、腰が尻に打ち付けられる度にぱちゅんと大きな音がする。
ナカに染み込んだオイルがどんどん熱くなって、下腹がびりびりと痺れてきた。
素早く連続するピストンで熟れきった奥を軽く小突かれ続けて、声らしい声が出せない。

……っ!っ、~~~~っ!」

このまま絶頂を迎えても遙のスピードは止まらないだろうと思い、たまらず顎を引いて身体を起こそうとする。
何とか遙の身体を引き寄せて抱きしめれば、その動きを抑えることができるかもしれない。
腰を打ち付ける湿った水音がひっきりなしに響く室内で、真琴は声を振り絞った。

「ハル……っ、おと、音っ、恥ずかしいからやだっ」

自らの身体を起こそうと遙の肩にまわした腕は、またもや滑ってすっぽ抜ける。
そもそもまともに力が入らないのだから無駄なあがきかもしれないと察しつつも、首へ、背中へ、真琴は何度も手を伸ばした。

「はるぅっ、くっつきたいのに、滑っちゃっ」

その言葉を聞いて、遙が再び上半身を倒して圧し掛かってくる。
全く力の入らない腕を必死にその背中にまわし、快感で痺れ続ける足をかろうじて腰に絡めた。
こちらの思惑を察しているのかいないのか、遙は腰の動きを止めると、思いきり力を込めて真琴を抱きしめ、唇を塞ぐように深く口付ける。
止まった腰に体重をのせて、押し潰すように下半身が重ねられると、真琴の痙攣する奥壁へ先端がぶちゅ、と突き刺さる。
スローモーションのような衝撃に息が止まる。
くにゅくにゅとこねる様に先端を動かされて、奥壁が擦れると真琴の身体は弾かれたように仰け反った。
突然訪れたあまりに激しい絶頂、にも関わらず、遙の口付けによって呼吸は制限されている。

「ん、ぅう゛……っ~~~~っ!」

ばちばちと視界が白くなってきて、肺が胸の中で圧縮されていく。
絶頂の痙攣で腰が浮く度に、奥壁は熱い先端に撫でられ、焼け付くような快感が臍の下で暴れまわって涙が溢れてくる。
必死に遙の肩を押し退けて唇が離れた後は、叫び声のような嬌声をあげて、襲い掛かる絶頂の波を散らすしかなかった。

「ア゛ぅっ、あっ!あ゛あァ……~~っ!」

びりびりとした激しい振動と収縮によって遙が吐精すると、オイルの届かなかった最奥を熱い白濁が満たしていく。
言いようのない幸福感に包まれて脱力した四肢を投げ出した。
ふと見上げると、射精の解放感に顔をしかめる遙の顔がぼんやり見える。
乱れた遙の顔はとても色気があって、いつもドキドキしてしまう。
自分だけではなく、やっと遙も気持ち良くなってくれたんだ、と満足した気持ちになった。

……っ、ふぅ、ふ……

ゆっくりと呼吸を整えながら、快感の甘い余韻に浸る。
同じように息を吐いて瞳を閉じている目の前の身体が、たまらなく愛しくなった。
ハル、と名前を呼んで手を伸ばす。
遙はしっかりとその手を取って、指を絡ませた。

……次は後ろから、な」

「ふ、ぇ………?」

あり得ない台詞が聞こえてきて固まってしまう。
しかし遙は発した言葉を実行しようと、掴んだ真琴の手を引いてうつ伏せに捻じ伏せた。

「ちょっとっ、まって……っ!」

ベッドに上半身が押し付けられる。
抵抗しようとうつ伏せのまま膝をつくと尻が僅かに持ちあがり、自然に力の入ったソコから、どぷっと音をたてて白濁が溢れてきてしまった。

……っ、ひ、あ……っ!?」

ドロドロと内腿を伝っていく熱い液体に震えが止まらない。
きっとこの状態を遙は食い入るように見つめているだろう。
あまりの恥ずかしさと情けなさに、真琴の心は完全に折れてしまった。
すっかり抵抗する気も失せて身体を小さく丸める。

丸まった真琴の身体を再び充分に伸ばして、突き上げられた丸い尻に手をかける。
室内に漂う、オイルと精液の混ざり合った淫猥な匂い。
液体まみれのセックスは中々に良いものだと遙は今までの行為に思いを馳せた。
あちこちがイヤらしくテカる視界もさることながら、滑って掴みにくいお互いの身体も刺激的で興奮する。
何より真琴の馬鹿力によって、Freeなピストンを制止されることもない。
柔らかな肌に指を沈め割り開くと、己が吐き出した白濁が溢れる秘部にゆっくりと侵入して一息つく。
いつもと違って真琴の中はぬぽぬぽという擬音が相応しいような具合だ。
弾力のある粘ついた内壁の感触を存分に楽しむことができて、最奥への到達もたやすい。
けれど快感による痙攣の締め付けはいつもより激しい気がする。
これもマッサージ効果なのだろうか。
肉棒が出入りする尻の割れ目の上部、仙骨と呼ばれる辺りをぐにぐに押してみる。

「んぅ……っ!」

と、真琴はびくりと震えて中を一層締め付けた。

「ここをよくマッサージすれば、いつもよりイくのが気持ち良くなるって。アルベルトが言ってたけど、本当みたいだな」

「そ、そんなっ、こと……っ」

そんなこと、を話し合っていたのか、或いはそんなことの為のマッサージだったのか、という非難だろう。
真琴が最中に何を言いたいかはいつも何となくわかる。
聞いてはやらないが。
ピストンに合わせて仙骨をぐりぐりと押される度に、真琴の背中は仰け反り、尻が微かに突き上げられる。

「犬も猫も、この辺、触られると喜んで押し付けてくるよな」

心無い言葉に真琴は屈辱でいっぱいだろうが、そろそろ自身も限界が近づいている。
もう一度、行き止まりに押し当てる快感だけで迎えた絶頂を味わいたい。
けれど、真琴が暴れまわるバックの体位では角度を固定するのが難しい。
多少の労力を覚悟して胸の辺りに手をまわしたが、予想通りずるりと滑ってうまく抱きしめることができない。
それならばと更に両腕を伸ばし、真琴の脇の下を通して肩をロックする。
人を後ろから羽交い絞めにする時の形だ。
柔らかな身体は軽く引いただけでしなって仰け反る。
身体を羽交い絞めにされ、引き寄せられて両手の支えを失った真琴の体重は必然的に下半身へと移動した。
ぐりゅ、と体重のかかった尻が下腹にのしかかる重圧に気合で耐える。
反動をつけたように、自身が真琴の奥へ突き刺さり、その衝撃に唇を嚙み締めた。
これから訪れる激しい収縮への期待に胸が高鳴る。

「ん゛、ひぃ……っ!ん、くっ、うぅ……っ!」

真琴のイヤらしい喘ぎ声が脳内を蹂躙する。
ぎゅううっと長く締め付けたかと思うと小刻みな締め付けが連続して、たまらない快感を生み出す。
ドクンドクンという脈の様な収縮は不規則で、突然激しくなったり、ねちっこく舐めまわすように律動したりする。
完全に翻弄されて射精を繰り返してしまう。
……こいつの中は一体どうなっているのか。
ひぃひぃと泣き声のような喘ぎ声が止まって、お互いのオーガズムが終わったところで、
ぐったりとした真琴の上半身を慎重にベッドに戻してやる。
完全に腕を離すと、真琴は自身の精液に塗れたシーツへ音もなく突っ伏した。
陰茎を引き抜くのが名残惜しい。
この後も何度か続けたいが、本来の目的である「真琴を労わること」にならないだろうと断念することした。
完全に停止していた真琴がもぞもぞと動き出したのを見計らって声をかける。

「片づけておくから、風呂入ってこい」

「う、うん……

真琴はのっそり起き上がると、こちらを見ずにそそくさとバスルームへ消えていった。
……さて、今日のところは閉店だ。
アロマキャンドルの火を吹き消し換気の為に窓を開ける。
シーツと散らばった服を洗濯機に入れて、その他諸々を押し入れに仕舞いこむ。
真琴がバスルームから戻る頃には部屋はすっかり元通りになった。

「えぇ~!もういつものハルの部屋になっちゃったの?」

「やっぱりこれが落ち着く。俺もシャワー浴びてくる……部屋の中、寒くなったから布団に入ってろよ」

そう告げて、微かにオイルの香りの残る浴室に入ると、再びムクムクと劣情がわきあがってくる。
……この香りを嗅ぐ度に興奮してなきゃならないのか。
もしかしたらこれも北欧式セックスの醍醐味なのかもしれない。
決して香りが残ることのないように、ボディソープで丹念にオイルを洗い流しバスルームを出た。
乾かした髪を撫でつけながらリビングに戻ると、部屋の明かりは消されていたが、カーテンの向こう、外灯の白い光が室内を照らしていた。
ベッドに座って窓の方を眺める真琴の姿が浮かび上がる。
ほのかな闇の中で白く照らされた美しい横顔。
天使の輪が浮かぶ艶めいたオリーブ色の髪。
何よりも愛しい、その緑色の瞳が。
幻想的とも言える光景にしばらく見惚れていたが、我に返って声をかける。

「真琴、寒いだろ。風邪ひくぞ」

「ふふ……大丈夫だよ。ねえ、ハル」

すぐに柔らかな笑顔が向けられて、その問いかけを聞こうと横に腰掛けた。

「ハルと一緒に雪が見たいなぁ」

「ああ、こっちでは滅多に降らないだろうから……

「スウェーデンの冬は、きっと真っ白で綺麗だよね。いつか、行ってみたい!」

「そうだな……アイツに会いに行ってみるのもいいかもな」

告げられる無邪気な願望に自然と笑みを浮かべてしまう。

「日本のお土産買っていかなきゃね。アルベルト何が好きかなぁ」

「知らない。鯖でいいだろ」

「もー、鯖はあっちにもあるでしょ絶対!」

いつも通りのやり取りでしばらく笑いあった後、二人で狭いベッドに潜り込む。
見上げる天井に真琴の声が響いた。

「駄目だなぁ……オレ。ハルと一緒に居られるだけですごく幸せなのに、どんどん欲張りになっていっちゃう」

溜息混じりの言葉に、思わず横を向いてその顔を見つめる。

……別に、お前はもっと我儘言ってもいいだろ」

相変わらず、外からの白い光に照らされたグリーンの瞳はきらきらと揺らめいていた。

「オレ、ハルとね、色んな所に行ってみたい!世界中を見てまわりたいな!」

細められた瞳の中で、一層鮮やかに緑がきらめく。
水面に映る新緑のような繊細な輝き。

……そうだな。俺も、お前と色んな景色が見たい」

まだ見たことのない景色。
飽きるほどに見慣れた景色も。
この世界のあらゆる美しい色彩を、その眼に映したい。
これからもずっと、お前の隣で。