wawan78
2025-11-03 12:25:06
6454文字
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アンチ・ベジタリアン

ネド主と言い張るハロウィン
👁主

名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前「先日説明したと思うがもう一度念の為話しておこう。今夜はハロウィンじゃ。ハロ……つまり現代語で言うところの地獄から、ウィン……復活が起こる。何が復活するかといえば当然、太古に封じられた魔神じゃ。お前さんにはその魔神から一晩この地を守ってもらいたい。よいな」
「ふむ」

 ドルネドは長老の話を聞いて頷いた。
 今回は守りの仕事である。地獄から這い上がってくる魔物どもから一晩、砦を守り抜く。かつて起きた神々の争いで封じられた魔神が、年に一度出てくるのだという。年々その力は増しており、現在選ばれし勇者が地獄へ討伐に向かっているが、それはそれとして年中行事は起きてしまう。ということで特別にドルネドが呼ばれたのだった。
 面白そうだからとついてきた名前はなんだか先程からうんうんと唸っている。

「どうした?」
「いえ……なんだかこのあたり……知ってるような知らないような……
「かつて来たことがあるのかもしれないな」
「ですねえ」
「邪神というのも知り合いか?」
「さもありなん……

 ハロ・ウィン。地獄の復活。年に一度こんなことがあるとは、難儀なものである。何が起こるかわからないから万全の対策を、と念を押された。
 去年は突然畑が地割れを起こし、闇の魔物が夜明けまで湧き出てきたという。その前の年は空が割れ、巨大な怪物が落ちてきた。更にその前は炎が降り注ぎ、更に更にその前は季節外れの猛吹雪になった。
 予測しようのない厄災。なんとも心躍るではないか。ドルネドは装備品を見直した。やや寒冷にには向かないかもしれないが、やれないこともないだろう。念の為この砦の備えもきいておく必要がある。
 わくわくしながらあれこれと思案していると、長老の背後から若者たちが、神妙な面持ちで何やら大きな物をふたつ、持ってきて目の前に置いた。ごとん、硬く重い音がする。

「これは?」
「パンプボチャという。中をくり抜いて頭に被るのじゃ」
「頭部の防具ならこれで十分だが」
「いいや、駄目だ!」

 ちょっとびっくりした。名前が。パンプボチャを持ってきた若者のひとりが大きな声を出したからだ。その目は必死そのもので、黙っているもうひとりの若者も、沈痛な面持ちである。

「このパンプボチャは魔を払う効果がある。これを被ることで瘴気を防げるんだ。ハロ・ウィンの夜は絶対に脱いではいけない」
「本来ならば他所の方にこんな危険な役割をさせるなんて信じられんのじゃ。どうかせめて受け取っておくれ」

 そう押されては仕方がない。しかしドルネドはすでに体の一部とも言えるヘルメットを被っており、この上に何かを被せるのは余分というものだ。
 というわけで横にいる名前に被せた。

「どうだ?」
「野菜くさい」

 せめて焼いてほしい。食用ではないようだぞ。

 * * *

 ここの種族はほとんど野菜ばかり食べて暮らしている。たまに魚なら食べるそうだが、基本的には野菜、植物が主な食料だった。肉を好むドルネドには少々物足りなくはあるものの、主要な食べ物であることもあって味は良く、ただ焼いただけでも栄養が染み渡るような、濃く深い味わいだったので、不満はなかった。むしろ野菜とはここまで旨くなるものなのか、と感心したほどだ。
 決戦前の日の高い時間、宴で振る舞われた料理はなかなかのものだった。

「キャロジンて言うそうですよこれ」
「煮込みか。なかなかうまいな」
「お肉がなくて残念ですね」
「味は気に入ったぞ」

 砦の人々は自らを鼓舞するように飲み、食べ、踊っていた。酒はないあたりに今夜の覚悟が見て取れる。毎年どうしても犠牲が出るそうだ。
 しかしそこは余所者かつ場馴れしたドルネドと名前である。のんきに食評を交わし、珍しい食材を楽しんでいた。

「うわこれ見てくださいなんかなに動くコレ」
「泳ぎウリだそうだ。土の中を泳ぎ回るらしい」
「齧っていいんですか? このまま?」
「いいんじゃないのか」
「やりますよ? いきますよ?」

 なんともいえない悲鳴がのたうつ細長いウリから伸びてくる。これも魔物ではないのか。違うのか。ドルネドも頭からかじってみた。味はしっかり染み込んでいてうまいのだが、咀嚼していても欠片がうねうねと動いてなんとも喉越しが悪い。
 そうこうしているうちに日が落ちてきた。夕暮れになると人々は宴を片付けて、皆一人残らずパンプボチャを被り、個人の部屋へ入って固く扉を閉ざしてしまう。一応名前にも被せた。ぶつくさ文句を言っているが見た目が面白いのでそのままでいてほしい。魔除けとやらの効果のほども気になる。長老にはドルネドも被るよう強く勧められたが、ストックとしてそこに置いておくだけにした。本当に必要ならそのときに被ればよい。

「さて……そろそろだと思うが。お前はどうする?」
「適当に見物します」
「危険な真似だけはするなよ」
「はい」

 ふわ、と名前は夜空に浮かび上がった。パンプボチャ……カボチャのようなそれを被った人影が空に浮いている、それだけでそれなりの怪異だ。今なら何しても面白いな。ずるいくらいだ。
 太陽が地平線に完全に沈んだ頃、空気は一変した。なるほど、魔物。ドルネドはそう呼ばれるものを相手にした経験も豊富だが、確かに夜の闇とともに濃さを増したこの気配は「それ」であった。
 さて。取り敢えずいつもの弾を銃に込める。効けば楽だし、効かなければ模索する。弾が当たるとも限らない。

──ドルネド、ドルネド。
「む? どうした」
──畑が。

 上空の名前が念話を送ってきた。便利なものだ。言われたとおり正面の畑にアイカメラの焦点を合わせ拡大すると、一際濃い闇が舐めるように畑を覆う瞬間を見ることになった。闇に触れられた土は水分と栄養を含んでいたそれと違い、ボソボソと枯れていく。この時期になると畑が荒らされると知っていた人々は、この日になる前にすべての収穫を済ませていたため、被害は少なそうだ。
 この闇はどこから湧いているのだろう。視線で辿っていくと、地面に亀裂が入っている箇所があった。そこからもわもわとガスのように、闇が溢れだしている。

「あそこか」

 手榴弾を数個投げた。爆発して崩落し、地面の亀裂が塞がる。湧いてくるなら元を埋めてしまえばよい。埋まったところからさらに湧き出て来るなら大抵はその下に大元がいるし、場所を変えるのならそこにこだわりは無いということになる。

──ドルネド……ドルネド……今あなたが爆破した場所は……畑です……
「ふむ、待て。……最近やったゲームだな?」
──なんか……それっぽいので……やってみました……
「それより他に湧いていないか見てくれ」
──6時の方向……

 背後か。砦の裏手に回ると、硬くしっかりと閉ざされた門に、小鬼の形をした闇が取り付いていた。頭部に弾を撃ち込むと霧散する。
 撃てるし、大したことはないが、数が多い。

「こいつらはどこから湧いているか見えるか?」
──畑……畑を荒らしています……
「畑……

 適当に湧き出る雑魚を散らしながら観察した。確かに、砦に縋りついてはくるものの、畑への害意に比べれば無視しても問題ない程度だ。それよりも執拗に畑の土を枯らし掘り起こし、収穫漏れのあった作物は根こそぎ腐らせているのは、一体。
 砦から少し離れた川のすぐ近くに、一際大きな亀裂が入っていた。おそらくはあそこが元凶であろう。
 小虫を潰すのにも飽きてきたところだ。元から絶てば来年からはこんなことをしなくても済むだろう。選ばれし勇者も仕事に時間をかけすぎている。どれだけ手強い相手なのか、興味が出てきた。
 しかしここの守りが依頼された仕事である。それを放り投げて遊びに行くほどドルネドは適当ではない。ここを襲うものの殆どが闇の塊だと見抜いたドルネドは、用意していたライトを砦の一番高い屋根の上に設置し、最高輝度で起動した。
 簡易的な作物の栽培にすら使われる程の光源である。地面に降り注ぐ光は周囲の夜闇から砦を切り離し、弱々しい雑魚どもは手が出せなくなった。

「向かうんですか」
「女神ごっこは飽きたのか?」
「導きは必要ない人だったなあって……

 ここの監視を頼めるかときくと、名前はわかりましたと答えてから何のためらいもなく、髪の毛をひと束ぶちりと引きちぎった。それをライトに置くと、切り離された触手の先端に大きな目玉が開く。

「何かあったら教えてくださいね」

 誇らしげに触手はぴしりと姿勢を正した。そういう使い方もあるのか。便利なものだ。どういう理屈なのかはあとで問うとして。
 亀裂まで向かい中を覗き込むと、闇が煙のように体を包むのがわかった。なるほど、普通の体ならこれを吸い込んで、あそこでボソボソとクズになった土のように枯らされてしまうのだろう。……野菜を被っただけで防げるものなのか? 隣を見たが名前は平気そうにしている。これがパンプボチャヘルメットのおかげなのか本人の素質なのかはわからない。

「行くぞ」
「あ、こういうときは」
「む?」
「そうそう、小脇に」

 また何かの映画でも見たのだろう。ヒーローがヒロインを小脇に抱えて飛び降りるシーンがあったそうだ。ドルネドはヒーローではないしヒロインを救出しにきたわけでもないが、やりたいというならやってやろう。
 というわけでひとり脇に抱えて飛び降りた。
 底は見えない。亀裂の壁にワイヤーを引っ掛けて滑り落ちていくやり方に切り替えた。
 ずるずると降りながら考える。事前に聞かされていたほど、襲撃は脅威ではなかった。もっと手強い魔物が襲い来ると期待していたのだが、このままでは肩透かしにも程がある。

「選ばれし勇者でしたっけ、そっちの相手をしていて地上にまで手が回らないのでは?」
「だとしたら余計なことをしてくれたな」
「彼らが行ったおかげでお仕事がもらえたんですよ」
「そういえばそうだったか」

 やがて長い降下も終わり、地の底に足がついた。やや湿っているが問題なく歩ける。空気も問題ないようだ。
 そこで気付いた。闇の濃い空間だが、名前のまわりだけはどうも薄いのだ。というか、闇が避けている。

「そういえば魔神とは知り合いなんだったな?」
「なんとなく覚えてるだけですけれど……
「怨恨でもあるのか? 避けられるほどの」
「嫌われてるのはパンプボチャなんじゃないですか?」

 魔除け。なるほど。しかしやっぱり対象がこれではどちらが原因なのかわからない。
 どうにもこの闇に触れるのは初めてではない気がしていた。割と最近接触した気がする。いつの間にか足元には真っ黒な、闇の塊のような触手がうねっていた。それで思い出した。
 こいつだ。

名前
「はい?」
「お前の触手によく似ているな」
「そうですか? 私のはもっとこう……かわいいですよ」
「かわいいのか?」
「つやとか、ほら、違うでしょう」
「そこの目玉はそっくりだが」
……
……
……
……
……あっ」

 突然思い出したらしい。

 * * *

 たまにあると思うんですよ。

 自分の体と喧嘩するの。誰にでもあるでしょ? 私はケーキが食べたいのに、触手はお団子が食べたいっていうんです。そういうの。あるじゃないですか。だいたいはいつも相談して納得してもらうんですけどね。
 あの時もそうだったんですよ。前々からどうもお野菜が嫌いらしくて。私は大好きだから焼いたやつとか煮たやつとか、何でも食べてたんですけど。ある日我慢できなくなったらしくて、あんまりにもわがままいうから切り離して取っ組み合いの喧嘩したんです。好き嫌いなく食べなさい! って言ったら触手にも権利がある! とか言い出して。それはそうかあってちょっとかわいそうにもなったんですけど、でもそれはそれとしてやっぱり偏食は体に悪いじゃないですか。
 だからね、いいから食べなさい! って投げつけたんですよ。わかってますよわかってますよ、食べ物を粗末に扱うなってことですよね。そうなんですよ。反省してますそこは。でもほらどうしてもやむを得ないときってないですか?
 何ってこれですよ思い出しました。パンプボチャ。これ投げたんです。栄養あるし重いし硬いし反省するかなって……。そしたら喧嘩で空いてた地割れから地の底に落ちてっちゃって……

 えへへ。

 * * *

 選ばれし勇者たちは苦戦を強いられていたらしい。そこで乱入したドルネドは気まずそうにもじもじする名前が被っていたパンプボチャを引っこ抜き、巨大な触手の塊に向けて投げ付けた。

「いやーっやさいくさい」

 のたうち回る触手の塊に弾丸を撃ち込む。怪我には至らないが痛いは痛いようで、ひっくり返ったところに選ばれし勇者たちが突撃し、黄金のパンプボチャから作り出された伝説の剣パンプボチャソードを叩き込んだ。

「いやーっやさいくさいいやーっ」
「まだ好き嫌い治らないんですか触手ベイビー!」
「いやーっチョコだけ食べて暮らしたい」
「それはわかる」

 パンプボチャ、パンプボチャ、パンプボチャ。怒涛のパンプボチャ攻撃を食らった触手の塊はついに力尽き、へろへろと縮んでしくしく泣くだけの切れっ端に成り果てた。
 それを名前がひょいと拾い上げる。

「もう好き嫌いしない?」
「からあげたべたいー」

 勇者たちに引き渡した。彼らはそれを討伐し、世界に平和が訪れた。もう毎年畑を荒らされることはないだろう。
 突然の助太刀にいたく感銘を受けたらしい勇者たちは、ドルネドと名前の手を取り何度も感謝の言葉を口にした。魔法使いの技によって浮上し地上に戻ってきた頃には夜も終わり、日が昇って明るい朝日が砦を照らしている。
 その日は前日の宴とは全く違って、皆々が浮かれ喜ぶ大団円となった。酒も振る舞われ、それは悪くないとして、やっぱり居心地悪そうな連れを見る。

「仕事としてはつまらなかったが、お前の新たな一面を見ることができたのは興味深かったな」
「できれば忘れていただきたく……
「そうはいかん、今後またお前がお前の触手と争ったときの対応に、今回の経験が活きるかもしれないだろう」
「仲の悪いのとはもうだいたい切ったので……
「ほう」

 つまり今後もこの手の依頼が来るかもしれないということである。というかすでに実は何度か出くわしていたのかもしれない。心当たりのある案件がいくつかある。
 これは帰ってから根掘り葉掘り質問する必要がありそうだ。芋から作ったという酒を舐めていると、勇者たちがやってきた。
 ドルネドは功労者といえど雇われであり、余所者である。なによりこういった宴席の中心に居座る趣味はない。なので勧めを押し切って端のほうで静かに宴を眺めていたのだが、さすがに直接助けられた勇者たちは見逃してはくれなかった。

「あなたがいなければ我々の勝利はなかったでしょう。どうかこの品を受け取っていただきたく」
「代金はすでに支払い済だ。これ以上はいらんぞ」
「そう言わずに……仕事以上のことをしてくれた」

 そう言って勇者が持ってきたのは黄金のパンプボチャだった。
 黄金のパンプボチャはあらゆる魔を払い鉱石よりも硬く頑丈で被った者の頭部を完璧に守り切るという。いつの間にか切り替えの早い名前が興味津々でつついていた。

「被」
「断る」
「私はやったのに」
「もう必要ないだろう」
「どうしてもですか?」
「理由は?」
「とても見たい」
…………

 写真だけは撮らないでほしい。



(しばらく部屋に飾られた)