みずあめ
2025-11-03 00:30:22
1949文字
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ゆづあい

ワンライお題「仮装」

午後になってからカフェのキッチンのシフトを終え、賄いを持って事務所へ戻った。お疲れ様ですと声をかければ逢さんは目を丸くして俺を見る。オムライスとハンバーグ、スパゲッティが盛られたお子様ランチのような賄いをえへへと笑って誤魔化し、一言断ってから自分の席で食べ始める。休憩で少しだけごはんを食べたけれどもうお腹がぺこぺこだったから目の前のお皿はあっという間に空になった。
「ごちそうさまでした」
「由鶴」
「はい、どうかしましたか?」
……一応、念のため、問題ないようだったら良いんだが」
「はい……?」
……オオカミのようなミミが、頭に」
…………あっ!?」
バッと手を頭に当てれば逢さんの指摘通り、オオカミの付け耳が頭に付いたままだった。慌てて取ろうとして、ピンが髪に引っかかり、痛っと声を上げる。すぐに立ち上がった逢さんが俺の目の前にやってきて優しい手つきでそれを外してくれた。髪を撫でられ、つい顔を俯ける。恥ずかしくて、でも優しい逢さんが嬉しくて、顔がいつもより熱かった。
「ハロウィンだから今日は一日中付けているつもりなのかとも思った」
「う……えっと、キッチンのシフトではあったんですけど、今日は混んでて、作ったものをそのままホールに持っていくこともあって。それで、ホールはみんな仮装してるから、これくらいなら料理の邪魔にもならないからって恋くんが付けてくれて」
「ああ、よく似合ってた」
……それは、よかったです……
「ふ。わざわざ事務所に顔を出して菓子を強奪するヤツばかりでうんざりしてたが、ハロウィンもたまには悪くないな」
逢さんが楽しんでくれたなら良かった、と言うには少し恥ずかしすぎたけれど、やっぱり逢さんが少しでも楽しいと思う日になったなら嬉しい。そろそろと顔を上げると俺を見つめる逢さんと目が合い、ふわりと緩んだ笑みに心臓を撃ち抜かれる。今日は朝からかっこいい仮装をした恋くんや明星、神家たちを見ているのに、惚れた欲目がなんの仮装もしていない逢さんを一番魅力的に見せてしまう。
「由鶴?」
……やっぱり、ドラキュラかな」
「ドラキュラ?」
「魔法使いとか、死神も似合うと思うけど……いっそのこと……
……由鶴。人を頭の中で勝手に仮装させるな」
「逢さん、今からでもカフェのシフト入りませんか? 衣装は色々使えるのがあるので」
「入らない。もう仕事に戻るからな」
「ふふ、はぁい」
席に戻った逢さんを追うように席を立ち、事務所のミニキッチンで食べ終えた食器を洗った。食後のコーヒーを飲もうと思って入れる用意をしながらチラッと見ると逢さんのデスクの上にあるカップはすでに空になっている。
「逢さん、まだコーヒー飲みますか? 自分の分を入れるので、ついでに作っちゃいますよ」
「もらう。食事は足りたか?」
「はい。十分に」
「いつもよく食べるが、今日はなおさらよく食べるなと思った」
「? 量はいつもとあまり変わらないと思いますけど……?」
「オオカミはなんでもよく食べる」
……あんまり揶揄うと赤ずきんちゃんも食べちゃいますよ」
「ふふ。夜まで待ってろ」
冗談を冗談で返せば、顔を上げた逢さんがニッと笑いながらそう言った。驚いてうまく言葉を返せずにいる俺を見て逢さんはさらに楽しそうに笑い声を上げる。うんざりだなんて言って、ただミミを付けただけの俺よりハロウィンを楽しんでいそうだ。
「由鶴、今日、仕事の後の予定は?」
……ないです」
「それなら家に来い。きっと駅まで行くのすら大変だろうから今日は泊まっていくといい」
……ありがとうございます。お言葉に甘えて。……逢さん」
「ん?」
「逢さんの家にコスプレ衣装ってありますか?」
……ないに決まってるし、あっても着ない」
「残念」
「そんなに仮装したいならカフェのシフトに入ってこい。一人で」
「ふふ、冗談ですよ。また今度、機会があれば」
「一生ない」
新しく入れたコーヒーを逢さんに渡して自分の分を持ってデスクに戻る。キッチンのシフトに入っていたこともあって仕事は山積みだ。できるだけ早く片付けて、早く逢さんと一緒に帰りたい。
「あ、忘れてた。逢さん、トリックオアトリート」
…………はぁ。お菓子ならまだある。イタズラは、今は却下だ」
「え?」
「夜まで取っておけ」
ん、と手渡されたチョコレートを受け取り固まる俺に、逢さんはふっと笑った。
「由鶴、トリックオアトリート」
……お菓子、カフェに置いてきちゃったから今はなくて」
「そうか。それなら、イタズラだな?」
逢さんは笑みを浮かべてそう言うと俺のところまで来て椅子に手をかけた。目が合って、顔が近づいてきて、俺はぎゅっと目を瞑った。