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asaumi
2025-11-02 20:14:50
3473文字
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運命の出会い
転生した童磨がしのぶちゃん見つける話
「心にもないこと言わないで」
複数の女の子と遊んでいるのがバレちゃった。目の前にいる子は彼女そのニ、その三だっけ?
あだ名はわかるが本名は記憶の外だなど知りもせず、彼女は目に涙を溜めて怒っている。喫茶店に呼び出されて席につくなり、周りの客が目を剥くまさしく修羅場だ。静まり返った店内に姦しい金切り声が響き渡り、有線から流れている優雅なクラシックを打ち消した。
「私のこと本気じゃないでしょ!」
「その質問、もう三回目だよ」
返した言葉は火に油を注いだわけだが、構わなかった。代わりの女の子はたくさんいるし、別に引き止めたいわけじゃない。
「本気だよ。俺はただ、皆を幸せにしてあげたいんだ」
動じず、のらりくらりと喋る俺に我慢の限界が来たのだろう、彼女はついには啖呵をきった。
「あんたなんか
……
」
憎しみを込めて、腹の底から搾り出したような低い声だ。震えている。
「地獄に堕ちろ!」
ハッとした。その言葉を聞いた瞬間、脳裏に一つの残像がよぎる。
この言葉で
……
。
「もう一回、言って!」
「はぁ? 地獄に堕ちろって言ったのよ!」
いや、そんなんじゃない。もっと呪いがかった声だった。背筋がゾクゾクするような。
「違う」
「
……
ッ、何が!」
思い出したいのに、思い出せない。地獄という言葉を聞いた時は思い出せそうな気がしたのに。がっかりして、ため息をついた。
黒髪の女の子ーーたまに現れてくれる。顔を見たくても見せてくれない。誰だろう。でも、その残像が頭に浮かんだときだけ、心臓が脈打った。身体の奥底から響く、高揚する感じ。幻を追いかけてみたけれども、靄がかり、そのまま消えていってしまった。黒髪に何か飾りをつけていた気がするが、今となっては黒髪かどうかも怪しい。いつも、煙に巻かれた気分になった。
「やっぱり、君じゃないや」
盛大なビンタを喰らった。俺は優しいから避けたりしない。貼り付けた笑顔も崩さなかった。不気味がった彼女は顔を引き攣らせ逃げるようにして店を出て行く、その後ろ姿に「あ、会計は俺がしとくよ! さようなら!」と声をかけたが振り向かなかった。
こうして罵り別れても、一ヶ月後に連絡してくる子もいるから不思議だ。まあ、それが面白かったりする。だから特に連絡先を消したりしなかった。去る者は追わず来る者は拒まない、基本的にはだけど。
「実は、もう地獄に堕ちてきたんだよね」
何故か終わりのない業火の刑罰ははっきり覚えていた。ここが地獄というところにいた認識がある。情景も描けるが、他人に話したところで信じてもらえないだろうから誰にも言ったことはない。
スーツの胸ポケットからタバコを取り出す。
「駄目だ、何も感じない」
わざとけしかけたりして、公衆の面前で罵倒されたわけだが、怒りも悲しみも湧かない。恥とすら思わず、もちろん、傷ついてもいなかった。子供の頃からそうだった。周りの人間が楽しんでいたり、悲しんでいる姿を見ても共感できなかった。ただ、理解できないけど、慮ることはできる。自分の感情はわからないくせに、他人の感情は手に取るように察せられた。
タバコに火をつけて、深く吸い込み煙を燻らせる。まるで、白い煙から残像の彼女が浮き出るのを期待するように見つめる。心臓の鼓動を唯一感じられる彼女に出会いたいがために子供の恋愛ごっこを続けてるのかも。
二口ほど吸ったタバコを灰皿に擦り付け捨てて、ふと見た窓の外で蝶が舞うように飛んでいる。黒を基調として明るい紫と黄色の差し色、その色とりどりの羽をはばたかせる姿に釘付けになった。ずっと見ていたいと思った次には無性に手に入れたくなった。蝶が舞っているのは外、こちらが室内にいるのを忘れ、思わず手を伸ばして掴みかけたくらいだ。
蝶ーーこの色の蝶に思い入れある。どうして? どこでた? 地獄で? 子供の頃の話? 夢だっけ? わからない。
こうして夢と現実の区別がつかないことをとある国の思想家が説いている。なんて題名だ、と頭を傾げて思い出す。胡蝶の夢だ。
「胡蝶
……
」
妙にすんなり頭に入ってくる言葉だった。
***
次はどの子と遊ぼう。
無意識に黒髪の子に惹かれ、どちらかと言えば背は小さい子が好みだけど女の子は可愛いから特にこだわりはない。
「ねぇ、君!」
現に河川敷で声を掛けたの子は黒髪じゃない。ピンクと緑のグラデーションの珍しい髪の色に目が惹かれた。染めてるわけではなさそうだ。鮮やかで物珍しく、今まで会ったことがない。
「え? 私?」
「良かったら俺とデートしない?」
「デ、デ、デートぉ!」
やけにテンションの高い子だなぁ、これが第一印象だった。
「暇なら、美味しいものでも食べに行こうよ! 俺が奢るからさ。君の髪の毛を見てると、三色だんごが食べたくなるなぁ」
「お団子は好物なんですけど」
「可愛いから奢ってあげるよ。それに、ここで君と会ったのも、何か運命を感じるんだ」
運命?
自分の吐いた言葉に違和感を覚えた。心にもないはずなのに、運命という名に齟齬を感じる。
うーん
……
違う。
やっぱり、心のなかにいる探している子は黒髪だ。そんな想いとは裏腹に口は甘い口説き文句を吐く。ついには女の子の表情が険しくなった。
「あなたは嘘をついている気がするの!」
「グハっ!」
腹にくらった拳は凄まじい威力で、口から内臓が飛び出るかと思った。
***
気安くナンパした代償は一か月間の入院だ。
「内臓損傷に肋骨骨折
……
やっぱり、腕も折れてるか」
懇意にしている政治家の御仁の伝手で息のかかった大学病院に緊急入院になった。
女の子なのにすごい力だった。受け止めたと思った腕に激痛が走り、間髪入れず腹部を蹴られた衝撃で飛ばされ、そのまま背中から川に落ちた。あそこで運良く落ちてなかったら、殺されていたかも知れない。
「ま、生きてるんだから、こんなこともあるよね」
不起訴だと言うのに難癖をつけて、執念深い警察官に追われていたところだからちょうどいい。署内では対象が行方不明になったと上から下へ大騒ぎだとか。まさか、警察署前の大通りを渡ったところに建つ、大学病院の個室でほとぼりが冷めるのを待っているとは夢にも思ってないに違いない。
それは偶然だった。
そろそろ病院という場所に退屈していた頃だ。
飲み物がなくなったので、院内の売店に買いに行こうと一階のフロアに降りた時だ。ずらりと並ぶ精算機の前で蝶の髪飾りをつけた子に目が入った。顔の横に髪を一纏めにして蝶の飾りをつけている。
髪、蝶、飾り、あれだーー蝶の髪飾り。
花に惹かれる蝶の如く、寄っていっては髪飾りに手を伸ばす。
探していたのは、これだ。
でも、ちょっと色使いが違う? よく見たかった。
触れようとするよりも、いち早くその子が気づいて振り向いた。顔を見るや否や、鋭い目つきで睨んできた。何をいうでもなく、警戒心を露わにする。いや、警戒心というより、敵愾心だ。殺気に近い。
しばらく睨みつけたあと、引かない俺に渋々と言っていいだろう、ようやく口をきいた。
「何か用ですか」
たった一言だ。
「
…………
」
ふたりを囲む空気が冷たくなっていき、いつもの笑顔を貼り付けるのを忘れた。女の子なのに妙に相性が悪い気がする。
「カナヲ? どうしたの?」
睨んでいる子がはっと我に帰り振り向いたと同時に、俺も見た。
そして言葉を呑んだ。
突然に、こんなことがあるなんて夢にも思っていなかった。
カナヲと呼ばれた子は声をかけてきた子の前に立ちはだかり、自分の後ろに隠した。小さい子だったけど隠したつもりで、隠しきれてない。
毛先が紫に染まった黒髪の女の子、結えた頭には蝶の髪飾りがとまっている。引き込まれる、紫の瞳を持つ女の子ーー見つけた!
幻が線となり浮き出て、形を持ち、今まさに触れられる現実となり目の前にいる。
運命と呼ぶに相応しい。
「どうしたの? 何かありました?」
声も変わってない!
ドクン、ドクンーー心臓がうるさいくらいに脈打ち始めた。
頬が熱を持ち、自然と笑みがこぼれる。くすんでいた世界が、鮮やかな色で満たされていく。
ああ、俺にもこんな表情ができるんだ。
カナヲという女の子はますます顔を険しくさせて、守るようにして後ずさった。
「やっと会えたね!」
枯れていた心が溢れる。
生きていて良かったと胸が高鳴り、身体が震えるような感動ーーこれが喜びだ。
「可愛いね、しのぶちゃん」
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