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asahito
2025-11-02 20:11:51
6238文字
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snakebite⑦
前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
久しぶりに駒草太夫登場。
バーのドアに掛けた看板を営業中の方に向ければ、もうあとは客を迎え入れるのを待つだけである。
今夜はどれくらい客の入りがあるかについての最後の数を叩き出すのは客次第だが。それでもカレンダーとか長年の勘みたいなもので、規模を予想することはできる。
明日が一般的な休日として扱われる以上今夜は多いだろうと見ているがいかがなものか。
一次会よりも二次会利用でうちに来てくれる客もいれば。ただ私と話がしたいからと、やって来る客もいる。
泥酔した客は追い返すか警察を呼ぶかなので入れないようにしているが。飲み過ぎてうちで粗相する奴が多いのも今日みたいな日である。
「もう一度在庫確認しておくかねえ
……
」
酔って羽振りの良い阿呆もいるからリスクと安全どっちを選ぶのかの賭けにはなるが。
出すための酒が切れたら興醒めだし儲けにならない。ならば取れる安全策の限りはとっておこうか。
まだ入店を待ち構えている客もいないため、棚に並べた酒瓶の量を見直そうと入口からカウンターの中に戻る。
結局、客足のあまりにない事が多い曜日の昨晩は。あの泣き上戸たちが出て行ったあとは飛び飛びで客が入って。最後の客は魅須丸だった。
最後の客だったらそのまま店の奥に連れ込むという選択肢もあったのだが。
指輪の話題を出したことで、魂胆を読まれた気がしたので少し気が引けてしまったのと。
新しくネックレス注文するのならどんなデザインがいいですか、と意気揚々に店のカウンター越しに発注の仕事をかけてきたため。
今晩泊って行かないか、なんてとてもじゃないが言えなかったし。
誘った所で色々雑念もちらついて純粋に魅須丸と夜を楽しめるような想像ができなかった。
あの阿梨夜って奴らと魅須丸が万が一知り合いだった場合。
何のいきさつで私の店を教えたかは知らないが、なんか袿姫達とは異なる厄介さをあいつらも持ってきそうな気がしてならないのだ。
勿論物腰は丁寧で礼儀のなってる口の利き方はする奴だが。なんというか、どことなく重いというか面倒事を抱えているような煙を纏っている。
「ジンは
……
ある、ブランデーもあるか
……
あ、こっちはちょっと危ないか?」
開店前にちゃんと確認したから大丈夫だろうが。玄関の鍵閉めたかたまに気になる気質と同じだから仕方ない。
「龍さん用のビールは問題なし」
龍さん、今夜は部下と飲んで来るって言うから二次会あたりで来るかな。絶対一杯目はビールだから良いヤツ飲ませてあげないと。
最近の取材は無理はしてないし危ない橋も渡ってないというけど。あの人の持ち込む情報は時に厄介で。時に私の店を奇跡的に助けることもある。
客の厄介事に介入する気なんざさらさらないが。どうも私は前から厄介事を持ち込まれたり、相談されることがやたらと多い。
流石に犯罪の告白は今までにないが。聞きたくもない生々しい話を聞いたところで酒で慰めるか、酒で追い払うくらいしか選択肢はないだろう。
「あとは
……
」
一度棚を確認し始めるとキリがない。陳列の順番やラベルが綺麗に見えるかとか、そういうのを考え出すとずっと凝ってしまうのだ。
見映えに拘るのは愚かだと言う客もいるが。この商売、見映えしたいから、見映えするからこそやれているのだろう。
何度も写真を撮ってどういうのが一番綺麗なのか。頭を悩ませてるのなんて客に見せてはならないが。
この瓶とあの瓶入れ替えた方がいいか?と思いかけた時に。来客のベルが鳴りそちらに目をやる。考えすぎて足音に気付けなかったか。
今夜一番の客なんだから笑顔で迎えてやろう。接客用の顔になれてるか瓶に映った自分を少し確認して、声を掛ける。
そして声を掛けた後に。あんたらよく来たなと内心驚きを隠せなかった。
「こんばんは
……
また来てくださるなんて嬉しいですね」
普通昨日の今日で来るヤツが常連以外でいるか?と思いつつも、そいつらは出禁レベルのやらかしはしてないから歓迎すべき奴だろう。
阿梨夜とユイマンが。ドアを開けて店の様子を伺うように私を見ているのだから。
明らかに阿梨夜って奴の方は気まずそうな面構えで。ユイマンって奴の方が強引に引っ張って来た感じがする。
ユイマンの腕には何か長細い箱を抱えてるようだ。
「
……
こんばんは」
「ごめんなさい、またお邪魔しちゃって」
及び腰の阿梨夜の手をがっちり掴み。ユイマンの方が挨拶をにこやかにしてきた。
なまじこいつは顔立ちがいいだけ、それでうっかり許してしまいそうになるあたり相当厄介だな。
阿梨夜はともかく、こいつは酒飲ませて大丈夫なのか?この強引さが別の連中を彷彿とさせるので警戒心を上げて置くが。
「うちの酒が気に入りましたか。今夜はおふたりなんですね」
とりあえず良かったですね、と言ってやるのが店主としての務めだろう。
阿梨夜って奴も、あまりにも恋しくて泣くくらいの女と今夜は一緒に居られるなら本望だろう。結婚している相手が本当にユイマンって奴なら。
「あの、昨夜は大変ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」
開口一番に私に頭を下げて謝罪を申し出たのは阿梨夜の方であった。
「ああ
……
別に大丈夫ですよ、お勘定もそちらの方に頂きましたし」
トイレでしばらく臭いが消えないほどの嘔吐をやらかしたり。酒に酔って暴れたり、金がないと叫んで警察沙汰になったり。
私に自分の女になれと寝言を言ってきて、店の裏で龍さんとその親友にシメられたり。
高価なグラスをうっかり割られて弁償代請求したり、女を酔わせて事に持ち込もうとして逆に私に金を搾り取られたり。
酒に弱いくせに酒をうっかり飲んでしまい、友人の額を叩きまくった挙句世話係に迎えに来てもらったりする奴もいた。
それに比べりゃあんたらのやったことなんて、可愛い部類に入るだろう。
「今夜はゆっくり二人でお過ごしください」
二人の指にお揃いの銀の指輪があるのを確認したうえで、どうぞ席におかけくださいと促す。
「店長さん、あの
……
日本酒はお好きですか」
だがその前に、阿梨夜が前に出て私の方を見る。ユイマンから箱を受け取ると、私にゆっくりと差し出した。
「え?まあ
……
飲むにしても店で使うにしても酒は嬉しいですが」
「これは昨晩のお詫びです。彼女の実家の地酒ですがお口に合えば」
ご丁寧に一升のやつをくれるとは。一人で飲むには時間のかかる奴だが、この地域の酒は本当に評判が良い。うまく味が合えば店でも使えるだろう。
酒の研究が捗るし。混ぜて使えないなら魅須丸や龍さんにご馳走してもいいだろう。
「あと、これも良かったら」
私が酒を受け取ったのを見て、ユイマンの方が白い袋を渡す。
酒をカウンターの上に一旦置いて、今度はそちらを受け取り中を見るとジビエの干し肉が沢山入っていた。
これもこの女の故郷の特産だったか。海がなくて高い山が沢山ある地域だもんな、あそこ。
「どうもご丁寧に。食べるのが楽しみですね」
何を仕込まれてるか分からないので、あまり客から食べ物は貰わないようにしているが。
包装を見る限りはセレクトショップか何かで買ったものだろう。密閉されており開けられた形跡もない。
自分の父親の会社が協賛してるイベントのチケットとかじゃなくて本当良かった。一緒に行かないかなんて言われた日には、どうしようかと。
手作りの埴輪を店に飾ってくれなんて言われても、もう置く場所もなさそうだし。
酒も干し肉も簡単に腐るものでないのでいったん店の冷蔵庫の中に保管しておく。
最近煙草を控えろと魅須丸にお小言を言われ続けてるので、干し肉は口寂しい時に齧ってもいいだろう。
「気になる酒があれば言ってください。どういう味が好みか教えていただければお作り致しますよ」
二人を並んで座らせると、メニューとおしぼりをその前に置く。決まり文句を告げて考えさせる時間を与える。
阿梨夜って奴の好みは昨晩ので多少分かったが。ユイマンの方は全く想像がつかない。
見た目は清楚で若干浮世離れした雰囲気はあるが。絶対に昨晩あの行動を見る限りは、阿梨夜よりも豪胆で行動的な女だろう。
あり得ないだろうが一升瓶をラッパ飲みするような女じゃない事を祈る。
「どれがいいかなあ」
ユイマンの方はうきうきとした表情でメニューを眺めている。
昨晩は走ってうちの店に駆け込んできたようなものだったから、必死の形相だったが。落ち着いていれば少し幼く見えるし明るい性格が滲み出ている。
「
……
私はあまり強くないお酒の方がいいですね」
昨晩の反省からか阿梨夜はアルコール度数が低い酒を所望しているが。多分こいつの場合は度数の問題じゃなくて精神の問題な気がする。
ユイマンがいないということだけで無意識に名前を呟くほどなのだから。
「昨日の酒もあまり強くはない方ですけど
……
いっそノンアルコールにします?」
酒が苦手な人のためのノンアルコールカクテルだってたくさん存在するし。酒が入ってないから不味いなんて言わせない。
そもそもカクテルは酒を酒で割るため強い酒になりがちなのだから、悪酔いの危険性は高いのだ。
「そう、ですか
……
」
私の回答に眼鏡の奥の表情を一瞬顔を曇らせたのは。おそらく問題のある客と見做されたことが嫌だったのだろうか。
それともユイマンって奴と同じ酒を飲みたいと考えているのか。どちらにしろ客の気位を親切心で台無しにするわけにはいかない。
「カクテルって本当沢山あるのね。味の想像もつかない」
ユイマンの方はまだ決めかねているようだが、うちのメニューは品揃え豊富故に悩む顔を眺めるのが楽しいってのはある。
阿梨夜に調べたレシピと違うわね、と話しかけてもいるので。何か下調べでもしてうちに来たのだろうか。
「同じカクテルでも作り手によって全く違う味になるものもありますからね。一回飲んだからといって同じとは限らないんです」
店によってレシピが異なるカクテルもあるため。どこのバーのカクテルが一番好みか、などもその辺りで変わってくるのだ。
「そうなのね
……
」
「AIに聞くだけじゃやっぱり全部は分からないでしょ」
阿梨夜がユイマンに言いつつ、一緒にメニューを眺めている。
AIってやつは最近流行りの奴か。客でそれを使ってる奴も多いというが、私はどこかキナ臭さを感じており仕事で使うのはあまり考えたことがない。
魅須丸に聞いても多分分からないって言うだろうしな。
少しは話題を合わせる為に知っておいた方がいいとは思うが、龍さんなんかは勝手に記事書かせてやったら面白いだろうなとか笑って言うし。
悩んでる面構えは楽しいと言っても。注文して貰わなければこちらが楽しめないという事で。
「もしよろしければ今夜も私が一杯目は作りましょうか。酒の量も調整できますし」
昨晩と同じ提案をしてみると二人は顔を見合わせて、その後お願いしますと阿梨夜の方が答えた。
スネークバイト以外で、と小声で言ったのも聞き逃さなかったが。あの酒以外でも多分、あんたはユイマン恋しさに泣いていたとは思うぞ。
「こういう味が好きだとか、こういうイメージのが飲みたいとか言ってくれればできる限り合わせましょう」
「あの、できればお祝いみたいなカクテルだと嬉しいんですけど
……
」
ユイマンが私に言う。お祝いってことはやはり昨晩は何か特別な事があってうちの店に来たってことだろう。
「お祝い?誕生日か何かですか?」
「結婚記念日です」
「
……
ユイマン」
阿梨夜が顔を少し赤くして制するが。何故それがいけないのかをユイマンのほうは理解していないようであった。
やっぱりか。隠そうとしていたようだが昨晩の阿梨夜の行動で元々分かってたぞ、二人とも。
「結婚記念日なんておめでたい」
結婚記念日に合うカクテルを作ってくれなんて、バーテンダーをやってればいくらでも聞く注文だ。
「あ、ありがとうございます
……
」
「勿論作れますので少々お待ちを」
泣くほど相手を想うほど気持ちがあるんなら。気付けも兼ねてこれがいいだろう。
棚から必要な酒の瓶をいくつか選んで早速カクテルを作り始める。二人からは少し離れた場所で酒を作り、何ができるかを想像してもらおう。
「ね、大丈夫だったでしょ」
「分かってるけどあんまり皆に言うのは
……
」
会話が聞こえて来るがどうやら私に対して、結婚していることを公言するかしないかで揉めたりしていたのだろうか。
客商売やってる奴がそういうので何か言うなんて今はないだろうが。積極的に公言するには勇気が必要で隠したくなるというのは、当然だろう。
場所柄そういう人間が集まりやすい場所故に今更珍しくもないが。それでも、そこを離れれば珍しい扱いになるのかもしれない。
考えてもキリがないことなんざ、無駄な時間だ。あまり深く考えるのはやめよう。
酒をステアしつつ必要な量とタイミングを計算する。
「そういえば、うちの店を選んでくださった理由は?」
会話が険悪にならないように話題を反らしてやることも忘れずに。
「とある方からの紹介です」
名前を出さずとある方、と阿梨夜が呼ぶなら敢えて尋ねる必要もないだろう。
「へえ。それはありがたいですね」
しかし紹介っていうと。やっぱり魅須丸の言っていた行き違いっていうのがどうも引っかかる。
昨晩もし、トラブルに巻き込まれずにこの二人が来てそのまま魅須丸と鉢合わせていたら。どうなっていただろうか。
その会話の後はまた二人だけの会話になり。話題は阿梨夜が行きがけに読んでいた本の内容になっていた。
化石や地層はまだいいが。鉱物や宝石などの単語が出て来ると、余計に魅須丸を意識させようとわざとこの二人が会話しているのではないかというくらい。
当たらずとも遠からずな存在に見えてしまうのだ。なんで魅須丸関係になると、だいたい厄介そうな奴に当たるのだ。
「来週から化石の展示の準備があるから遅くなるかもね」
「そうなの。無理しないで」
「
……
ユイマンの方が無理したらダメだよ」
本当にこの二人は仲が良いのだな。あんな言葉魅須丸は絶対に言わないし。無理するななんて私が言っても魅須丸は勝手に無理をするだろう。
化石の展示の準備というとどうも行きつく施設が絞られるのだが。職業的に阿梨夜の見た目とも合っている。
カクテルグラスに酒を注ぎ、完成。二つグラスを持って二人の前に敷いたコースターの上に置く。
「お待たせしました。コープスリバイバーです」
赤茶の液体が薄暗いバーの灯に反射し。癖のある匂いが鼻腔を擽るのか、ユイマンの方が反応を示したが。
意味に先に反応したのは阿梨夜の方だった。
「死者の
……
蘇生?」
すぐに意味が出るあたり頭は悪くない女だ。泣き上戸だが。
「転じて言えば迎え酒ですがね。気付けの一杯に飲まれるものですよ」
そして、その意味は勝手にあんたたちで調べるだろうし。そうしてお互い仲良く盛ってればいい。
―
死んでも貴方と。なんて、私の口からは絶対言えない科白だ。
続く
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