【スタゼノ】神の光だけが永遠

スタゼノワンドロワンライ 第226回お題「遠回り」「近道」
セックスの後、ゼノに異国の歌をうたうスタンリーの話。

 再会してすぐの荒々しいセックスが終わって、一つになったと錯覚した身体が離れた時、スタンはここにはない何か遠くを見つめていた。それを見た僕は、久しぶりの交わりに浮かれてぼんやりとした頭で、彼は先月までいた紛争地のことを思っているのだろうか? と思った。というのも黄金色の瞳があんなふうに細められるのは、そういう時と相場が決まっていたからだ。
 だから僕はただ息をして、スタンに寄り添って呼吸を落ち着けた。多分、スタンは今夜何かを語る。そんな予感があった。
「水飲む?」
 でも、スタンはすぐには語ろうとしなかった。当たり前だ、ここは合衆国で、もう紛争地じゃない。何か思うことはあったとしても、傷を抉るような真似をするのは賢くない。
「君が飲ませてくれるんならね」
 だから僕はいつものようにじゃれついて、息を整えつつスタンの横顔にキスをして、ふかふかの枕に頭を押し付けた。彼が何かを思っていることに気付いていても、それに触れられない自分が少しだけ寂しかった。だが、そんなのいつものことだった。僕は軍人じゃなくただの民間人で、彼が抱える秘密も知らされていない。それがこの国の取り決めだったから、スタンは優秀な軍人だったから。それに、スタンはあまり自分からは紛争地でのことを語りたがらない。彼がこれまでに僕に知らせた過酷な現実だって、僕が問い詰めなきゃ、彼は口にしなかったことだろう。
「言うじゃん。またファックしたいん?」
「さぁ、どうだろう。確かめてみるかい?」
 僕は笑って、スタンの目元に触れる。笑って肉が盛り上がったそこは思ったよりもずっと柔らかく、金色の産毛が生えてちょっとばかしくすぐったかった。
 そんなふうに彼を確かめて、僕はあぁ、スタンがここにいるって思った。彼はここにいる、たとえ心がここになくたって、彼はこの国に帰って来てくれた。息苦しい砂嵐の中を超えて、僕の日常に戻って来てくれた、って。
 僕がそんなふうに彼を思っていると、スタンは微笑み、こめかみや目元に口付けてきた。優しく、親が子にするように、慈しむように。セックスの熱からは程遠い、穏やかな炎を抱くように。僕はそれをベッドサイドの明かりの中見つめながら、あぁ、なんて自分は幸せなんだろう、と思った。だってスタンはここにいる。何かを思っていたって、彼はここにいるのだ。
……砂嵐で何も見えない中で、あんたのことを考えたよ」
 スタンはそう言うと、僕の頭の下に腕を回し、こちらをぎゅっと抱き締めた。僕はどう返事をしたら良いのか分からず、ただ彼を見つめた。自分が映し出される、そんな黄金色の瞳を見つめた。
「敵に囲まれて死ぬかと思った時、銃を捨ててでもあんたの声が聞きたくなったよ。よっぽどトランシーバーを使おうかと思った」
 ――まさか、根っから軍人の君が? 最後まで可能性を諦めない君が?
 僕がそう思ったのを悟ったのか、スタンは困ったように眉を下げて笑った。そして彼は僕の戸惑いみたいなものを全部を受け止めて、僕を抱き締めてキスをしてくれた。なのに、僕は何も言えなかった。
 僕はずっと、スタンを強い男だと思っていた。僕なんかじゃ到底敵わない、そんな強い男だと思っていた。でも、それは僕の幻想だったのかもしれない。彼は本当はどこにでもいる、銃の腕が良すぎるだけのただの青年で、ただの偶然僕と出会ってくれた恋人で、僕がそうであるように迫り来る何かに怯えていたのかもしれない。この世との別れとか、夢への障害だとか、もっと言えば、いつかは終わる人生だとか。彼を縛るものが多すぎて、そう見えなかっただけで。
「けど、最後まで戦い続けたから今ここにいるんよ」
 なのに、僕の揺らぎを掬い取り、スタンはそう笑ってみせた。僕は胸が苦しくなる。君はその戦いで何を失った? 君はどう苦しんだ? でも、そんなこと尋ねられない。君の苦しみは君だけのものだ。僕とはとてもじゃないが共有出来ない。二人で分かち合うことなんて出来ない。僕がどれだけ望んだって、君はその苦しみを差し出してはくれないから。
「そんなことを言うなんて、随分遠回りして君は帰って来たようだ」
 それは内省のし過ぎだって言外に語り、僕はスタンの腕にキスをした。でも、彼はすぐにはそれに笑わず、僕にまた唇を寄せてこう言った。
「いや、近道だったよ。いつだってあんたが教えてくれた星が見えてたからさ」
 どんな時も道を間違うことはなかった、どんな時も選択を間違うことはなかった。そう彼は静かに語り、しっかりと僕を抱き締めた。僕はその言葉の強さに泣いてしまいそうになって、彼がここにいることに泣いてしまいそうになって、そしてどうしようもなく彼を愛おしく思った。スタンはここにいる、心もきっとここにある。でも、それでも彼は紛争地で多くのものを失い、何も得ることのないそこにまた行くのだった。任務のために、合衆国のために、そして僕との夢のために、他でもない僕のために。
 僕はなのに、それを止められない。スタンを止められない。言い訳ばかりで、僕は彼を引き止める言葉すら言えない。
 そんな僕の乱れた髪を撫で、スタンはどこで覚えたのだろう、緩やかに韻を踏む、穏やかな歌をうたった。異国の、多分紛争地でうたわれているものを、彼は腹の奥に響く、甘く低い声でうたった。
 ――星は夜に語り、天を流れゆく
 ――我が胸の炎は、愛と共に燃える
 ――預言者は言う、いつかこの身は土に還る
 ――星は残り、神の光だけが永遠
 永遠なんてものがあるなら、僕はそれをどうにかして手に入れて君に捧げよう。それくらい君を愛してる、言えないけど愛してる、君を失う日を恐れて、何も言えなくなってしまうくらい君を愛してる。
 だから僕はただ、スタンを強く抱き締める。何度もキスをする。美しい歌をうたい続ける恋人にせめて何かを伝えたくて、ただ彼を抱き締める。
 スタン、僕は君を愛しているよ。君は僕の全部で、僕の永遠だ。いつかの星が君の道しるべになったのなら、それほど嬉しいことはない。星だって理論上永遠じゃないが、僕達はその終わりすら見られない短い人生を生きるのだ。そう、ただ愛し合って、それだけが全てだって思いながら。


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