月見
2025-11-02 17:39:52
2165文字
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しろいおとこ(土りょ)

診断メーカーの「雪が降る中で眠る相手を強く抱きしめる土りょ」を書きました
糖度が馬鹿高い

 白い人だ。
 龍馬が彼に、土方歳三に抱いた印象がそれだった。
 きっと誰に言っても笑われるか訝しがられるだろう、あの黒と赤に染まった男に白などと。
 あるいは、龍馬に近しい者は「白はお前だろう」とも言うかもしれない。それでも、龍馬にとって土方から感じるモノは「白」だった。

「ほら、やっぱり似合う」
 サクリと真白く積もった雪を踏み締め、龍馬はくすくすと笑った。得意げに、そして愛おし気に。
 白く静謐な、危ういまでの色がこの男には似合う。その在り方に、魂に似合う。自分よりずっと。龍馬はそっと目を伏せた。
「何がだ」
「ううん、雪の話しさ。此処は雪が似合うね」
 五稜郭。かつて目の前の男が行き着き果てた地は、今しんしんと降り積もる雪で白く彩られていた。
「フン、寒くて敵わねえがな」
「ふふ、鬼の副長も寒さには形無しかい?」
「ぬかせ、お前こそ薄っぺらい服で真っ白い顔しやがって。あの女はどうした」
「お竜さんなら散歩がてら宿を探してくれるよ。いやぁ思い付きで来たものだからなんの用意も無くてね」
 まあいざとなったら霊体化なりなんなりでどうとでも。龍馬はふわふわと応酬を楽しむ。
 カルデアの企画で日本各地に現代の装いで旅をするサーヴァントが選出され、その一人が土方だった。そして割り当てられた地が此処。以前にも試みられたこの催しだが、今回はそれなりに訪れるサーヴァントの所縁も考慮されているらしい。
 だからなのだろう、一度は彼が歩みを止めかけた、一般には止まったとされる土地を訪れているのは。
 龍馬は一歩土方に近付く。
指摘された通り、この冬の大地に合わせたコートにマフラーという防寒を考えた装いの土方と違い、龍馬はライダーの霊基のまま、つまり真白い海軍服とパナマ帽だけで上着の一枚も身に付けてはいない。
 挙句さてレイシフト不具合なのかこの催しに横入りしたような形でのレイシフトだったからか、サーヴァントの身だというのに何やら人の身と大差なく気候気温の影響を受けることになっていた。血の気の一つや二つ引くのも無理は無いだろう。
 しかしそんな状態を土方に告げる気は龍馬には無く、服装については得意の笑みで流して終えた。
「それにしても土方君、コートやマフラーはともかく傘は差した方が良くないかい?」
 ほら、こんなに積もってる。どれくらいこの場所に佇んでいたのやら、土方の黒漆の色をした髪にはやわらかく冷たい雪がちらちらと白く彩って。黒いコートの肩口にも、白いマフラーの上にも、やはり雪がさらさらと積もっている。
それらをパタパタと払ってやれば土方はフンと鼻を鳴らして雪ならこうして払えば済む、と他所を向いた。龍馬の手を受け入れたまま。
……坂本」
 そうして成すがままにさせていた土方が不意に龍馬の名を呼ぶ。先ほどまでの軽い、平時の声と違う僅かに重みをもたせた声音で。
「なんだい?」
「お前、腹芸が下手になったか? 宿なんざ探してねえ癖に」
 構わねえよ、俺の部屋に来い。そうしたかったんだろう? 既に雪など払いはせずに髪に、髪を伝い頬に当てられていた龍馬の手を握り、土方はひっそりと低く囁いた。白い面差しを荒く美しく笑みに歪めて。
「──そ、んなに、分かりやすかった、かな」
 たはは、と囚われていない方の手で頬を掻いて視線を彷徨わせて見れば、やはり土方はクハリと吼えるように、なのに音も無く笑って龍馬の手を解放する。
 手袋越しでも離れていく熱が少し、否、随分と名残惜しく感じるのは、遠くこちらに近付いてくる気配を感じたからだろうか。
「ああ、珍しくな。だが悪くねえ」
 俺の前でってなら余計にな。そんなことを言って土方はついと視線を龍馬から外す。細められた鋼の瞳が見据えるのは遠い彼の過去か、はたまた彼と共にこの地に来たはずの彼の友か。
 そんな他所事を、仄かに龍馬の胸に雪風を吹かす思いはすぐに掬われ溶け消える。
 熱の籠った目と声にほぅと赤らんだ頬の熱が冷めぬうちに、土方は龍馬に宿の場所を示すカードを押し付け、耳元に吹きこんだ。
「先に行って待ってろ」
…………狡いなあ、歳さん」
「お前ほどじゃないさ」
 後でな。口端を吊り上げ、土方はサラリと手を振って踵を返す。向かってくる彼の友を、彼の誠の始まりを出迎えるのだろう。そこに割り込む気は無い。
「うん、後でね」
 龍馬はへにゃと笑って歩き出す。酷く寒く白い空と大地の元、ひと時かもしれない、けれど少なくとも自分はずっとずっと永く持ち続けたいと願うほどの情を向ける相手からの言葉に、熱に、この後に想いを巡らせればなにも寒くはなかった。
 サクリサクリと雪を踏む。跡を残す。あの白いひとにもこうして残せたらなどと詮無いことも夢想しながら。

 そんな龍馬の真白い背に、龍馬が白と密やかに評している男が「似合うのはお前だよ」と、強くなる雪の色に溶けていきそうな姿を振り返って苦く零していたのを龍馬本人はふわふわと浮かれて生憎聞き逃して。
 この夜、なおも降り積もる雪を障子の向こうに感じながらその雪すら溶かすような熱を交わして眠りに落ちて、そんな身体をきつくきつく、留め置くように抱きしめられる未来もあまり、予想は出来ていなかった。