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gib_fox
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pkmnフラカラ
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また別の無題
フラ(→)←カラ
記憶はまだ全然戻っていないと仮定してます フラ視点
⚠︎ネタバレや捏造があります
あそこ、と少年が指差したのは、なんの変哲もない岩場だ。フシデを両腕で抱えながら、痩身の少年は、「あそこは一番の場所やないけど」と訛りのある口調で淡々と述べた。岩場には冷たい陰影ができていて、路地裏だから涼しげには見えるが、それでも自分が過ごしてきたような、サンシェードのある落ち着いた庭とは違う。今年のミアレの夏は暑い。日光は、さらにその肌を焼くだろう。
冷たい飲み物、日陰のある場所、涼しさを感じるクーラー。その空間に彼を招いて食事を用意する。カラスバと名乗った少年は、一つ一つに目を輝かせながら享受してくれた。わたしのセーフハウスは他にもいくつかあるから、どれかに住まうといいと食事の後に伝えると、カラスバはしばらくその小さな頭を悩ませ、首を振った。
「嬉しいけど、なんもできなくなりそうや」
──その意味が、そのときはよくわからなくて、ただ君のその白い頬がいつかちゃんと丸みを帯びたら、と思っただけなのだがな、と。わたしは記憶の汚泥の中から、小さな光を掬い上げた。
目を覚ますと、ラボの暗がりが変わらず目に入った。地下にある寂れたここは、昼夜関わらず底冷えする空気が皮膚を撫でる。
わたしの断片的な記憶は、この場所に来ると少しはまともになり、くっついてくる。かたまりでバラバラになっていた思い出が蘇り、接合されて脳内で映像になる。それが時折、夢として出てくるのだ。今回は、フシデを連れた少年の夢だった。
かつてのミアレは、路地裏にああいった子どもたちが多くいた。資産のある階級の人たちは施しを与えたり、与えなかったりと気まぐれで、その子たちは飢える日もあれば食べすぎて胃が慣れず、家とも呼べない場所へ帰宅して吐いてしまうこともあったらしい──全部、あのカラスバという少年から聞いた話だ。
彼は賢くて、なんでも悟る子だった。私がなんでも与えられることを──今思えば少し傲慢だが──伝えてみても、
「金だけ、あとはいらんのです」
と最低限の費用のみを欲しがり、残りは全て辞退された。二人の間の交渉といえば聞こえはいいが、あれは本当に、なんでも買ってやると言う親に対し、謙虚な申し出しかしない子ども、のようなやりとりだった。
カラスバという名はミアレに着いてからよく聞いた。わたしのような浮浪者にコーヒーを出す店で、冷ましながら飲んでいる間、隣の席に座った二人組の片方が、不安気に話していた。金貸し、利子、土地の運用。もう片方はカラスバの人柄について語り、高揚していた。わたしの手よりも小さかった手は、今はこうして誰かを煽り、慰め、恐れさせ、感動させているのだろう。
フシデは毒を持つ。あの路地裏の生活で、あのタイプのポケモンを育てる子どもはよくいた。というより、周りにいるポケモンがそういうタイプが多かった、と言う方が正しい。あの白い痩せた頬は健康的になれただろうか。どくタイプのトレーナーが皆通る道であるように、カラスバもその身を危機に晒したこともあっただろう。ますます細く、衰えてはいないだろうか。
いや、もう自分が心配することはない。彼は毒が回るように、人々を不安にさせ、毒が効くように、神経回路を錯覚させて一時期の快感を生む。そうやって、優しさと怖さを使い分け、自分の足で生きている。
──わたしはラボを出て、日の光を受けた。地下にいると明確だった記憶は、なぜかぼんやりと輪郭を崩し、曖昧になっていく。今私が思っていた人間は誰だったか、思い出していた懐かしい
淀
よど
みはなんだったか。
空に滲むような太陽が、今日もまたミアレを焼こうとしている。
……
ふと、目の前に黒い影が止まった。高級そうな靴先が見えて、こんな裏ぶれた地区に足を運ぶ人間が履くだろうか、と思いながら顔を上げる。つり目の男性が立っていた。シャツのボタンを一つ開け、スーツ用の変形スラックスを着てはいるが、ジャケットは着ていない。この暑さだ、ネクタイもせず、上着も羽織らないのは当然だろう。
(ああ、暑いから、あんな夢を見たのか)
わたしは男性の姿が、どこかで見たなにかと重なる気がした。夢の中で見たなにかと。その横にいるはずの小さな丸い、赤いむしタイプのものと。
メガネをかけている男性は口を開く。
「
……
そこ、売り物件になってたはずやけど
……
今、ここから出てきはりました?」
もしかして、彼はこの土地の管理者だっただろうか。フラダリラボというあの地下施設へは、これまでも何度か足を運んだ。そのたびになにかを得て、地下を出るころには大半を失って、けれど確実に一歩ずつ思い出せるから、こうして来ている。
「すみません、滞在していたわけではないのですが
……
縁のある人から好きに出入りしていいと鍵をもらっているので」
「あんま昼間に出歩かん方がええですよ。フレア団の残党探しとか言って、噂されて待ち伏せられることもあるって聞きますし」
「そうですか、それは
……
」
親切なアドバイスだが、その声音には含みがあるように感じられる。
彼はわたしより背が低いが、どこか圧力のある風格である。丸いメガネの奥から、鋭い眼光が覗いた。以前からこうだったか? と思いつき、ふと思考が立ち止まる。
(以前から、とはなんだ?)
まるでわたしは、この男を知っているような。この暑いのに全身黒ずくめの、上目遣いで見上げる顔立ちと、暑さによってわずかに
滴
したた
る汗の一筋を。
わたしの腕が無意識に伸びる。ちょうど彼のメガネにつけられた、グラスチェーンにかつりと爪が当たり、それをなぞった。片目のせいで、遠近感が捉えづらい。
どうしてわたしはこんなことをしているのだろう。彼の
黄金色
こがねいろ
の目が大きく開く。手が払い
退
の
けられるだろうと思っていたのに、逆にすり寄るようにその手に白い頬が当たった。頬の肉付きは変わらず痩せているが、血色は良く見える。汗を指先で拭うのは、これが何度目か。あの岩陰で休むことをやめなさい、と言ったのに、意地を張って聞かないで、それよりも「フラダリさん、オレのフシデ、もうすぐ進化するんや」と嬉しそうに話す君は。
わたしの口元から名前がこぼれる前に、男はパッとわたしの手を払う。優しくではあるが、はっきりとした拒絶だ。
こちらへ来てはいけない、と言われている。なぜかわたしは、そう感じた。
そのまま彼は背を向けて、わたしを振り向かず、明るい日の元を歩き出す。暗がりの中に佇むフラダリカフェの外装は、静かな燃える赤色をしているが、今はどこかくすんで物悲しく見えた。それよりもわたしは、彼の抱えていたフシデの赤色を思い出している。
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