i_cho_co
2025-11-21 22:00:00
1989文字
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地獄から一番遠い場所

「しょくもつれんさのさいかそう4」展示用
世話焼きな獅子神さんとわざと世話を焼かれる三人と嫉妬する叶のれめしし

面白くない。
「待たせたな村雨。チュロスとソフトクリーム買ってきたけど、お前クレープもさっき買ったろ。どうすんだそれ」
「もうじき食べ終わるのであなたが持っていてくれ」
「ったく、しょうがねえな」
全っ然、面白くない。
「獅子神くん、神はキャラメルバナナクレープを所望する」
「じゃあさっき村雨がクレープ買ったときに一緒に買えばよかっただろ!今手が塞がってるから後でな」
何でオレ、他のやつと恋人がイチャついてるの見せつけられてるわけ?
……敬一君さあ、自分が誰の恋人か分かってる?」
「あ?何言ってんだ叶。そりゃお前の……あっ、真経津動くな!アイスが垂れる!」
叶ごめん、ちょっと持っててくれ。そう差し出されたチュロスとソフトクリームを受け取らないわけにはいかない。このチュロスとソフトクリームの本来の持ち主である、人をからかうときの愉快そうな顔をしている礼二君に早く食べろよと視線で訴える。両手にコーンアイスを握りしめて素直に動きを止めた晨君は、垂れそうになったアイスを間一髪のところで敬一君の華麗なスプーン捌きで救われていた。
「獅子神さん食べさせてー」
「しょうがねえな」
おらよ、と晨君の口にさっき掬ったアイスを突っ込む敬一君は餌付けかイチャついてるか、要審議。6:4でギリ餌付けかな。でもどっちにしろ、面白くない。だってさっきからオレのこと放置じゃん。
「悪ぃな叶、話遮って」
……もういいよ。オレユミピコのキャラメルバナナクレープ買ってくるから礼二君と晨君とイチャついてれば?」
「あっ、おい待て叶!」
あー、最後の一言は余計だったかも。もう遅いけど。



こんなつもりじゃなかったんだけどな。確かに礼二君は完全に面白がってたけど、イチャついてるというよりは手のかかる子供とその世話をする母ちゃんの姿のほうが近かった。それは分かってるし、今回は敬一君と二人きりじゃなくて五人で来ているんだから、皆で楽しむことを優先すべきだった。
……謝りに行こう。ユミピコのクレープ買ってないけど、まあいいや。適当に歩いたからどこにあるか知らないし、後で皆で買いに行けばいいだろ。
「あっ、叶!やっと見つけた!」
……敬一君」
息を切らして駆け寄ってくるのは敬一君だけで、晨君達の姿はない。
「皆は?」
「天堂のクレープ買いに行った。流石にからかい過ぎたから叶さんに謝っておいてって真経津が言ってたから、多分気を利かして二人きりににしてくれたんだと思う」
ピロン、ピロンとスマホから鳴った通知を覗けば「面白がってからかってごめんね」「ボクは村雨さんと天堂さんといるから獅子神さんと楽しんできてねー」というメッセージが流れてきたので間違っていないだろう。
「子供に喧嘩の心配されてる夫婦かよオレら」
「オレより年上の子供なんていらねえよ……
同感、と少し空気が和らいだところでごめんな、と口にした。オレそっちのけで礼二君たちとイチャついてたから面白くなくて。と正直に吐露すればイチャついてるというか、世話やかされてたんだけどな、と苦笑いされた。
「まあ、お前のこと放置してたのは本当だな。あいつらも反省して二人きりにしてくれたし、今からでも楽しもうぜ」
「でもなー、もう結構遅いし今更行きたいとこなんて思いつかないというか」
それよりも今は、せっかく二人きりになれたんだからこのまま敬一君を閉じ込めて、オレしか見えないようにしたい、ような。……別に、テラリウムに入れたいわけではないけど。
……あ。ね、敬一君。あれ乗ろう」
「観覧車?」
「うん。空中にいる間だけ、敬一君のこと独り占めさせてよ」
流石に今のセリフは臭すぎたかなとは思ったけど、しょうがねえな、と敬一君が満更でもない顔をしていたからよしとすることにした。



「あ、受付終了してるわ観覧車」
「マジかよめちゃくちゃカッコつけたのにそんなことある?」
慌てて観覧車の入口を覗くもそこにあるのは無慈悲な受付終了の札のみで、ほんの少し前まではいたであろう係員の姿は既にない。
無人の観覧車を見つめる瞳がふとかち合って、どちらからともなく吹き出す。
「しまらねーな」
「まあ、また来ればいいだろ。今度は二人で」
当たり前のことみたいに話す敬一君にさっきまでとは違う意味で笑いが込み上げた。ねえ敬一君、オレ達命を賭けたギャンブルに身を置いてるって分かってる?
だけど、この雰囲気でそんなことを口にするのは野暮ってもんなので。
「折角ならさ、一番でかい観覧車があるところな、敬一君」
……独り占めする時間を長くしたいってか?」
「ねえもうそれ引っ張るのやめない!?」
そうだよ独り占めしたいよ、最期がどうなるかは分からないから、せめて今くらいは。
だからまずはオレのことをからかう唇から塞ぐことにした。