せいたろ(sitr)
2025-11-02 12:57:01
10022文字
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狗神_プロット版

RKRN怪談webオンリー「忍夜百物語」
↑こちらで2025年8月頒布した小説約12000字のうち約9700字です。
物語は概ね網羅しています。
頒布PDFが欲しい方はTwitterのDMでお知らせください。

R18G
伊仙小説 濡れ場あり
六年生が狗神の怪異に遭う話です。
⚠️注意⚠️
・犬が死ぬ
・モブが死ぬ(描写控えめ)
・登場人物が出血のある怪我を負う
・伊仙伊(リバ)+文→仙 (濡れ場は伊仙のみ)
・交際せず性交渉している関係性

★12月東京開催忍フェスで頒布予定
本編12000字を再編+書き下ろし(約8千字くらい)
A6(文庫)版 P.78

通販で買おうかなという方はBOOTHの入荷メールボタンをめちゃくちゃ気軽におしてください。11月下旬に先行販売予定です。
https://sitr.booth.pm/items/7513844

▼怪談


「ある小さな集落の話だ。」
真夏の夜。暑気払いに、肝が冷える話をしよう。そう言って四人集まった六ろ部屋で、長次の低く響く語り出しがお喋りを止める。さっきまで酔っ払って「いくら数えても一銭足りない」と会計委員の恐怖体験を騒いでいた文次郎も、灯明に照る長次に視線が手繰られている。
「金の無い、本当に慎ましい集落の話だ。ある年、嵐で農作物が駄目になってしまった。近く町に作物を卸すはずだった。収入見込みがなくなり、働く体力のない者が『少しでも口減しを』といって、山に自ら入って行ってしまった。」
珍しい話でない分、ありありと思い浮かんで息を飲む。真面目な語り口に、皆引き込まれる。いつも口の中で喋る長次の声が、とっぷりと暮れた夜闇と灯明だけの空間に染みる。
「人身御供となったはず、そう思ったが、次の日にも嵐が来て、古さで一番と二番の家が潰れてしまった。もう、口減しには女か子供しかない。……いや待て、家畜が先だ。そうして、荷運びに使っていた年老いた馬を殺して食べた。肉は硬かったが、それなりに食べられた。干し肉も作った。だが、今度は長雨で、干し肉はみんな腐ってしまった。」
本当か、伝承か、しかしあり得る話で、小平太はすっかり気落ちした表情だ。
「もう、狗神様に頼るしかない。狗神様は、金をもたらしてくれる。狗神様を降ろそう、集落の男たちで話し合って決まった。」
「動物の降霊術か?」
文次郎がパッと顔を上げて問うた。
この地域には呪術が盛んであった記録があり、先人の口を借りるような降霊術を行う者は、今も山中を探せば見つかる。
ただ、動物は降霊しない。
狐を降ろそうとして失敗し、気が狂ってしまう者が多く出た時期が近年にあったからだ。呪術師や占い師の家系でも、動物を扱う降霊術は控えられ、場合によっては罰された。洛陽、稲荷大社からも知らせがあった。
……降霊で得た犬は、金をもたらすとされている。犬憑が出やすい家が存在し、憑かれたとて飼い慣らせる者もあるとされる。喜怒哀楽の大きい者を好む。祈祷者、呪術師、山伏を好む。憑いた者が住まう家は豊かになる。それを信じて、それに賭けて、飼い犬を贄にした。」
しん、と、部屋が静まり返る。
犬を飼う者は、犬を贄になんかできない。人を信じ、人に従順で、誰の前でも素直に振る舞う、優しい家畜。
鳥の首は折れても、豚を捌いて串に刺せても、犬飼いは犬を殺せない。
……犬は、どうやって贄にされるんだ?」
小平太が怖々と問う。
「首を繋ぎ、生きたまま体躯を埋める。身動きを取れないように固めて、頭だけを土中から出しておく。餌を目の前に置いて、餓死する頃まで何日も過ごさせ、餌を変える。あるいは目の前で食べる。きっと死ぬという頃、首を刎ねる。頭部を焼いて砕いて、犬を降ろしたい者に食べさせる。」
集落という小さな檻の中で、思い詰めた人たち。
かわいい家族である犬を土中に繋ぎ、食事を見せびらかして、恨ませながら殺すのか。
「その集落、狗神とやら、降ろせたのか?」
「降ろせたが、飼い慣らせなかった。金は得られたが、みんな病を拗らせ、心をおかしくして死んでしまった。その廃墟が、裏裏山の東にある。」
「えっ」
「ちょーじ、見てきたの……?」
こくり、と、長次は頷いた。
「この記録は、図書室で読んだ日記で、ほんの10年ほど前の話らしい。」
小平太も、文次郎も、真剣な面持ちで反芻している。確かにあるのだ。潰れかけの家が一つだけ建っている『元集落』。裏裏山の中腹、東。ぼうぼうの、畑だった跡。柱と囲炉裏だけが吹き曝しになっている、朽ちた家の跡。
四人で、さっきまでは楽しく飲んでいたのだ。少しの酒と、きゅうりの浅漬けを持ってきて、『肝が冷える話』とは言ったが、笑い合っていた。
すっかり、この車座は冷えている。
「流石、図書委員長殿。知見が広い。」
「もそ。」
ふと思い出して口を挟む。
「そういえば、低学年の頃は行くなと先生方に言われたな。」
ハッとした顔で、文次郎と小平太が私を見る。
「朽ちているから危ない、とかじゃあなかったか?」
「物理的にはそうだろう。だが……
この地域の共通認識。
犬憑は無機物にも移る。
転々と、物へ、植物へ、人へ、移り憑くのだ。
「なんとなく行かない習慣となっていたが、もしかして。」
「犬憑で具合を悪くした者が、いたのかもなあ」

「あれっ。伊作と留三郎って、何で呑みに来なかったんだっけ?」
「トメの奴は泊まりがけでバイトだと。俺も明日行くことになっている。」
「お前と留三郎で、バイト?」
「細かい計算が必要になったらしい。守一郎が言伝に来た。金持ちの家で修補の手伝いをしたら、あれもこれもと依頼が増えて、材料費が嵩んで行ったのだと。」
精算に、文次郎の手を借りたがるとは。ややこしそうだが、こういう時頼りにする程度には文次郎の頭脳を信頼しているのか。
「割り増し料金だな。」
笑って言ってやると、得意げに文次郎は頷いた。
「当然な。きっと気前のいい家なんだろう。」
「じゃあ、伊作は?」
小平太が話を戻す。
「伊作は、……腹塩梅が悪いとかで、早寝だ。」
「あいつが、腹が痛むって?」
「もそ。……昨日、忍務のあと帰ってきて、ずっと部屋に居る。」
昨日は1日に何度も雨が降ったり止んだりと、気味の悪い天候だった。空が明るいまま、ざあっと通り雨が降り、狐の嫁入りだな、と話したのだった。
何度も、何度も、半刻ほどの通り雨が降っては止んでいた。
「勿論、ずぶ濡れか?」
うん、と長次が頷く。
「不運な奴だな、相変わらず。そりゃあ腹塩梅というより、夏風邪だろう。」
しょうがない、と笑い合って、その夜はお開きとなった。
程よく入った酒が心地よく、六い部屋で布団に横たわると、私も文次郎もすとんと眠りに落ちた。

夜風が涼しい、良い夜だった。



▼狗神


「今日は化粧が念入りだな。」
「神社を拠点に、聞き取り忍務だ。いたいけな巫女ならば男や年寄りはすぐ親切になるからな。」
鏡を真剣に見ながら言うと、文次郎は小さく息をついた。
「あんまり市井のひとを見下してやるな。美人なのは間違いないのだし、見慣れないのだから無理もない。」
「態度には出さないよ。」
しれっと答えながら、文次郎へ振り向く。
「なあ、どうだ?新しい白粉だ。良い米を使っているのだと。」
袴紐を結んでいるところだった文次郎が、私の方へ歩いてくる。片膝をついて、頬や鼻先に薄くまぶされた白粉を観察する。
「いいんじゃないか、別嬪だ。……しかし白い。肌の色と米の色が一致するとは。」
「白すぎるか?違う粉の方が良かったか。」
「違う違う。白いのはお前の肌の話だ。」
苦笑して、文次郎は立ち上がる。
「さて、俺はもう出よう。」
「早いな。行ってらっしゃい。」
行ってきます、と、文次郎は六い部屋から出発していった。

薄く紅を引き、蜂蜜で唇に艶を足す。化粧が終わり、筆を整えて一段落、という気になった。
時間に余裕があったので、巫女服も一度着込んでみる。鮮やかな緋袴は行燈型で、もし走ることがあれば足捌きに気をつけなければ捲れてしまうな、などと点検する。
このまま行っても良いが、近くで着替えるか。
それとも、小袖を羽織って隠していくか。
そう考えていた矢先だった。

殺意だ。
獣が、私を獲物と見て、引き戸一枚を隔ててそこに居る。

低く喉を鳴らす、情緒が乱れた獣。

唸りは太く、成体の、おそらくは狼。大きくて、重心が低い。

全く気が付かなかった。どうやって学園に入った。さっき出た文次郎とは鉢合わせなかったのか。尖った気配。濡れた獣のにおい。丸腰で会ったら絶対に無傷で済まない。
手を伸ばして取れるところに、長物も、忍刀も無い。火薬の類も、今日に限ってしまわれている。

ず、と、引き戸の隙間が動いた。
文次郎、引き戸を閉めきって行かなかったのか。
ずず……と引き戸が動く。開いてしまう。知恵がある獣なのか。引き戸を開けるような……

三寸ほど開いたか、開きかけの引き戸に、人間の指がかかった。泥の詰まった爪。正座している私の目線より低い。この人間は、床に膝をついている。
……伊作?」
注視している開きかけの隙間から、泥だらけの宝冠と栗毛が見えた。土と草と、雨に濡れた獣のにおい。むっと、湿度が上昇した感じがある。ひどく室温が下がった気がする。近寄ることに抵抗はあったが、鏡の前から立ち上がり、引き戸を開けに行った。伊作は昨日帰ってきてから、すぐに部屋に籠ってしまったと聞いていた。
「おい、どうした。具合がおかしいのか。」
引き戸を開けて、起こしてやろうと右二の腕に触れた。獣はどこにいるのか、廊下を、軒先を探るが、何もいない。

『ぐるるるる……

獣は、まだいる。縁の下か?そう思って気配を探ったが

獣の唸り声は、すぐここ、伊作の喉から発されていた。

『がう!!!』
どたん!と、私はあえなく突き倒された。四つ這いから跳躍する勢いの伊作に低く追突されて、板張りの床に背中を打ち付けた。受け身をとれなかった。私の鳩尾へ伊作は肩で突っ込んできた。息苦しさに噎せる。
「か、はっ、ぐ……
呻く間にのし掛かられる。犬科の獣に襲われている。ここにいるのは伊作だが、身体の使い方が、身のこなしが、伊作ではない。獣らしい呼吸で開いた伊作の口から、私の頬に涎が垂れ落ちる。躊躇い無く、伊作は私の首を強く噛んだ。
「ぐっ、あ、 ……やめろ、正気になれ!」
歯が、顎が人間でも、このままでは首の筋が咬み千切られる。背中が痛い。じたばたと暴れても、伊作の身体は鉛のように重い。
脳味噌も体も『危ない』という警鐘で満ちている。同級生に、私は噛み殺されるのか。

不意に、押さえつけられた腕が緩む。

何を感じたか、伊作の姿をしたこの獣は、咬み千切る勢いだった顎を開いて、べっと唾液を床に吐いた。げっ、げっと苦しそうにいやいやをした。
脈打つように熱い。出血している感じがする。肉は持っていかれなかった。ほっとしていると、今度は頬を舐められる。ぺろ、ぺろん、と舐め回す伊作の舌が、頬を、鼻先を舐める。
『まぅ……まー……
……?伊作……?」
ねろっと唇が舐められる。
伊作の舌だ。柔らかく、唾液の緩い伊作の舌だ。ぺらぺらの犬や狼のものとは違う。にんげんの、伊作の唇。
伊作は夢中で私の唇を舐めた。いや、艶出しに乗せていた蜂蜜を舐めているのか。さっきは米の味に気付いて白粉を舐めとっていたのだと気付く。獰猛さが緩む。
長次の言った、犬憑、狗神だ。伊作は犬に憑かれて、狂ってしまったのか?
「伊作。」
ぺちゃ、ぴちゃ、と遠慮なく舐め回す伊作は、口の中でまだ『まー』と繰り返していた。
「伊作。思い出せ。そんな犬みたいな口付けをお前はしないだろう。」
身を捩って、私を組み敷く伊作の手から右腕が抜けた。優しく伊作の頬を撫でる。ぼさぼさの髪。泥だらけの鼻先。汗と雨が澱んだようで、獣じみた臭いがする。まるで嵐に追い立てられた野犬だ。
私から、ぐっと首を伸ばして口付けた。
舌を絡め合う。
伊作は大人しくなって、私の舌の感触をそのまま追ってくる。
脚の間に膝で分け入ってきて、組み敷かれてしまう。股を開かされている。尾骶骨が、床に当たって痛む。
…………
「そう、仙蔵だ。」
枯葉や土埃で汚れた前髪の合間に、金色の瞳が光る。やわらかな、いつもはひなたの匂いの栗毛。今は汚れて、ところどころ灰色に乾いた泥が毛束を作っている。
「人間の身を、人間の肌を、忘れたか?お前もこの、私の身体に触れて、課題のために検分したろう。思い出せ。」
誘うように腰を揺らして、片脚を伊作の腰に絡めた。
なんでもいい。思い出して、私に気がついてほしい。伊作の腕が緩む。両腕が解放されて、私は自ら伊作の首筋にしがみ付く。唇を舐める。
そうして身体を捩らせていると、呼吸の感じが変わってくる。ゆらゆら、伊作の腰が交尾の真似事を始める。
「ふふふ……、犬コロ、仔犬でなかったのか。大きい、大人の犬なのか?」
たちまち硬く勃起した魔羅を、ぐりぐり押し付けてくる。山伏服の裾がたくし上がって、伊作の温かい太腿が私の内股を押し開く。そのうち、越中褌の横から、にゅっと竿があらわになる。
ずり上がった私の緋袴の下は、行燈型に合わせて腰巻きだけだった。その下は足袋以外に着衣は無い。素肌の触れ合ったところが温かくて、しっとりと汗ばんでいる。
「伊作は、……課題のために、私を抱いて、私に、抱かれて、……ああだこうだと、言い合えた男だぞ。」
狗神は性的に当てられたのか、私の脚に、尻たぶに、交尾の真似事を繰り返している。
「忍の道で、困らないように、……互いに、……身体を使えるよう、確かめ合ったんだ……
挿入できていないのに、狗神はヘコヘコ腰を揺さぶっている。ぼうっとした瞳で、獣の拙さで、私の白粉と唇を舐めて、あやふやになっている。
「可愛い、優しい、伊作を返してくれ。」
頬に両手で触れる。前髪を分けてやる。
ぐるる……と、まだ喉を鳴らしている。だが気配はだいぶ緩んだ。この部屋に辿り着いた時の、刺すような攻撃性は今は見えない。
「狗神様よ。巫女の肉がお前を癒してやる。」
尻の間に、伊作の亀頭が押し付けられる。先走りで濡れた伊作の魔羅が、ひたひた汁を垂らして、潜れずつるつると往復する。
そのうち適正な角度を見つけられて、ぬ、と、先端が潜って、私のふちが裂けるのではという緊張に身体が硬直する。ずるんと一息に押し込まれる。配慮も、優しさもない、拙い、動物の交合。ちくちくひりひりして、直腸が擦り切れる予感に下腹がヒクヒクする。伊作と交わったことはあれど、その時の柔らかさや伸びがそのまま身体に残っているわけではない。
「いっ、…… ぅ、 ゔ」
ガクガク遠慮なく揺さぶられる。
犬の交尾だ。
ひりひりする直腸に、伊作の我慢汁が擦り込まれる。すぐにぬちゃぬちゃと滑り始めて、一層強く腰を振られる。
痛い。沁みる。ぬるつく。じんじん、熱い。抱え込まれた腰がヒクついて、反ってしまう。違う。反応が、私の身体が、おかしい。
「ひっ、ぎ、 ……ぃさ、 ぅ……
ぱちぱちゅとちゅぱちゅ……と、連続性を持って短く深く突かれる。私の尻たぶと伊作の鼠蹊部が打ち鳴る。抱えられた脚が、膝から先が、されるまま揺れて空を櫂く。伊作の皮を被った犬に、犯されている。
…………
「い、う、ゔ、う  っぐ」
胎にビクビクと跳ねる感触が響く。もう狗神が射精する。ふー、ふー……と夢中で私の顔を見ている。射精、子種、精、来る、くる、ぎゅうっ……と、会陰が、括約筋が締まる、違う、切なくない、きもち、よく、ない
びゅくっと爆ぜて、それは私にも起きた。伊作の魔羅からびゅっびゅっと吐精する感触と私の絶頂が絡み合う。緋袴の内側、下腹、臍に、温かいものがぴゅるっとかかった。こんなに怖い思いをして、私も達してしまった。
びく、びくっ、と、痙攣する。
『せ、……ん、ぞ』
「ぃさく、……わかるか?」
思い出せるなら、何でもいい。
ゆっくり、また腰を揺らされる。ぶちゅ、くちゅ、と粘度の高い音が鳴る。
早く思い出せ。もっと優しく確かめ合った理性ある快楽を。
『おな か…… ……
「腹……
腹が、減ったのか?狗神を降ろす手順には飢餓があった。
「飯を、支度しよう。伊作、いや……
飢えた犬の心を、伊作を通して満たしてやれば……そう思った。とろんと甘えた顔をしている。両手で頬を撫でてやると、私の唇をまた舐めてきた。
「んむ、いさ ……いさ、しょくじっ……
狗神がヘコヘコ腰をまた揺するが、今度は勢いが落ち着いていて、浅いところを弄ぶように繰り返す。この、これは、嫌だ、また悦くなってしまう。

「文次郎が忘れ物って、珍しいな。時間は大丈夫なのか?」
「俺が修補をする訳でないからな。」
はっと声を聞く。小平太と、文次郎の話し声が六年長屋の先から聞こえる。文次郎は、戻ってきたのか?協力してもらおう。私一人よりも、同級生に囲まれた方が……そう思ったが、あの二人にこの状況は、どう映る?
「何だ、この、廊下……泥だらけの足跡だ。」
「濡れた足袋で歩いたのかな。こんなの……、誰だ?」
身を起こそうと踠く。さっきまで受け入れていた私が逃げようとするのを狗神は気に食わなかったらしく、押さえつけてまた犯し始めた。
「ぅ あっ、やめ、あっあっ」
身体はもう、火照って整ってしまった。止めるために聞かせたい言葉が出てこない。犯されるほどに甘く鳴いて、狗神の肉棒を締め付けてしまう。
私の声を聞いたか、二人が駆け足になる。
開けっぱなしの引き戸の先に現れた文次郎から、
    どっ
と、殺意が放たれる。瞬きの間に、文次郎は狗神憑きの伊作に掴み掛かった。
伊作の髪が、襟首が掴まれて、力任せに引き剥がされる。きゃうん!と仔犬のような悲鳴が上がる。波打つように鳥肌が立つ。文次郎のこの気配を、私は見たことが無かった。
「待て、文次郎!」
この一瞬で青筋を立てた文次郎は、山伏服がぶちぶちと裂けるのを構わずに襟と帯を鷲掴み、狗神憑きの伊作を戸口の方へ力一杯に投げやった。宙を舞い、反転してばん、と廊下に落ち、転がって呻く。
「えっ、伊作?!」
驚きながらも小平太が伊作の身体を取り押さえる。がうがうと獣の声で、狗神が抵抗している。
「伊作だと……?!山賊か浮浪者でないのか。」
ハッとした声で文次郎が小平太の元へ駆け寄る。ぎゃんぎゃん、ぐるるる、と、痛めつけられた事への怒りで喉を鳴らして唸っている。らんらんと瞳を金色に光らせて、歯を剥いて、涎を垂れて、狗神が暴れている。
そこに、這って行った。四つ這いですぐ前まで行って、狗神が力任せに吠えるのを見て、心が沈む。ふりだしに戻ってしまった。
「長次の言った、犬憑か……?」
「文次郎、私は長次を連れてくる。仙蔵、……伊作は、どんなだった?」
小平太が、宝冠で伊作を後ろ手に縛りながら問う。
……最初はこの様相だったが、甘いものを口にしてから、『まー』と繰り返し発音した。」
甘いもの……、と、小平太が繰り返す。
……まー。繰り返す…………『まんま』かな。私の家で喃語を言う弟妹はみんな腹が減ったら『まんま』だった。」
「そうだ。腹が減っているんだ。何か食べさせてやりたい。私を抱くうち、仙蔵と言ったんだ。こいつはまだ伊作だ。狗神を追い出さなければ。」
文次郎が、伊作に向けていた顔を私に向けた。
目が合う。
文次郎が、傷ついた顔をしている。心配だと今にも言い出しそうに、眉を寄せている。
……小平太、長次に、説明を頼む。それと、この狗神の呪いを解く当てが無ければ、……無くても、……飯を持ってきてくれ。おむすびでも、団子でも、……何でもいい。」
「わかった!……伊作、いや、ワンコロか?仙ちゃんの言う事聞くんだぞ。」
もふっと頭を撫でられて、狗神が固まる。泥だらけ、擦り傷だらけで、後手にぎちぎちと縛られて、くたっと廊下に突っ伏した。小平太は降りるが、代わりに文次郎がのし掛かる。ぐるる、ぐるる、と、文次郎に明らかな嫌悪感を狗神が示す。
たっと駆けて行く小平太の背を見て、ふぅ……っ、と、息を吐いた。
私の名を、確かに呼んだ。絶対に大丈夫。長次が狗神を剥がせれば良いし、すぐはできなくとも、きっと思い出す。
「なぁ、……ワンコロ。犬憑。狗神。」
伊作の顔がこちらを向く。並んで廊下に横たわった。きゅーきゅー鼻で悲しげに鳴いている。
「痛かったか?怖い思いをして降りてきたのだものな。」
頭を、耳を撫でてやる。もっととねだるように目を瞑って、私の手を舐めようとする。伊作の顔をした狗神が、私には甘えた様子で助けを求めている。
「おい……
ちりっと文次郎がまた殺気立つ。
「私は大丈夫だよ。文次郎、狗神から降りてくれるか。私にはもう慣れているんだ。」
「けど……お前……、首なんか、血塗れじゃないか。こいつに咬まれただろう。」
くりくり撫でてやって、狗神の殺気が解けてゆく。
「私の肉は口に合わなかったらしい、血を酷く嫌がっていた。米粉や、蜂蜜を、美味しそうに舐めていた。」
「こんなに獣じみているのに甘党か。伊作らしいな。」
文次郎も思うところがあったか、押さえつける腕を緩めてくれた。伊作の首筋に腕を絡める。大きい犬が甘えるように、私の肩へ鼻を擦り付ける。きゅーきゅー鳴いて、甘えてくる。
「血肉は嫌だったか?」
……いや、……酒じゃあないか?」
文次郎は神妙な顔をして言った。
「私に酒が残っているってことか?」
「嫌な言い方をするな。まあ、そうだ。あれは御神酒だったからな。」
ぱちっと瞬く。
「昨日呑んでいた酒が?」
「ああ。しばらく神饌として神棚に供えていたが呑める者がいないとかで、バイト先で貰ったものだ。」
直感的に、これだ、と思った。
「おい、伊作を仰向けにしておいてくれ。」
なんとか起き上がる。飲みきっていない昨日の酒が、六ろ部屋にあるはずだ。
文次郎は察してくれて、嫌がる狗神憑の伊作をひっくり返す。横目に私は、六ろ部屋に急ぐ。引き戸を開けると、文机に大徳利が置かれている。
祈る気持ちで手に取ると、ちゃぷんと水音が鳴った。中身がある。
大徳利を抱えて文次郎と伊作の元へ戻った。両手で抱えて煽り、酒を口に含む。傍らに大徳利を置く。
なんだかわからない顔をしている狗神のそばに跪いて、顎と頭を抱えて、口移しで御神酒を注ぎ込んだ。
ぐご、おげっ、と、嘔吐反射で狗神が暴れるが、文次郎に押さえ込まれて体躯が動けない。がばっと口から酒を噴き出すが、少し飲んだらしい。げえ、げえと苦しそうにえづいている。
どろっと、泥が溢れ出す。
「文次郎、横向きに!」
馬乗りのまま、文次郎は伊作の襟と髪を掴んで頭を横に向かせた。
どうやって食べたのか、泥が後から後から溢れ出る。桶一杯ほどもあるのではないか。ぐぼ、げぼっと、後から後から泥を吐いた。その中に、角を丸くした三角の固形物が一つある。
げほこほと空咳をして吐き止んだ。ぼうっと開いた涙目の伊作の瞳は、光るような金色から、熟した栗色に戻っていた。
はっ、はっ、と、絶え絶えの息で、鼻も口も吐いた泥でべとべとで、それでも視線で私を捉えると驚いた目をした。
「仙ぞぉ、酷い怪我じゃないか、医務室に、 いこぉ」
「「伊作……!」」
私も文次郎も気が抜けて、それでもわしゃわしゃ頭を撫でた。文次郎はすぐに降りて、伊作の拘束を解いてくれた。残りの御神酒を伊作の頭から振りかける。
「何、なに……お酒?僕……どうしたんだっけ……
「バカタレぇ、心配したぞ。変な犬を連れてくるな。」
よたよたと体を起こした伊作は文次郎を見るが、まるで訳が判っていない。
「犬……?」
吐瀉物の中から、三角を拾う。手に収まるほどのそれは、首か背中の骨のようだった。
「お前、裏裏山の廃墟に行っただろう。」
「雨宿りに寄ったよ、どうして知ってるの?」
はあ〜〜〜、と、い組の溜息が揃った。
「辻褄が合ったな。」
「無事で何より。」
ついて来れない伊作がぱやぱやと不思議そうにしている。

そこに、長次と小平太が走ってきた。
長次は本を抱えて、小平太は盆におむすびをいくつも詰み上げて、たったっと走ってくる。
「あっ!伊作、正気の顔してるか?」
「戻った!……と思う!」
私が大きい声で答えたのを聞いて、小平太はぱーっと嬉しそうに笑った。
「よかった!どうなることかと思ったぞ!」
長次の顔もほっと緩む。
「伊作!疲れたろ、腹減ってるって?」
近くまで来た小平太が伊作の側に膝をつくと、目の前に詰まれたおむすびの山に伊作は固まって、滂沱の涙を流した。
「えっ、泣くほど?!」
「あ、え、わかんな……
混乱した様子だったが、ひくっ、ひくっと数回しゃくりあげると、もう止まらない様子で声をあげて泣き出した。ううーと、泣いて、泣いて、止まらなかった。
溢れる悲しみが、苦しみが、ここにあった。
私はたまらなくなって伊作を抱きしめた。
わあわあ泣いてここに座り込む仔犬を抱きしめて、泥だらけの頭を撫でて、どうしてか私の胸も苦しかった。


文次郎も長次も、大丈夫と言って伊作の頭を撫でた。

ぐちゃぐちゃに泣く伊作をあやして、しばらく私たちは輪になったまま、黙って、寄り添いあっていた。