Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ugatuno
2025-11-01 22:50:39
2096文字
Public
二次小説
Clear cache
その心臓は世界のかたち 10話
窓の外が、薄く明るくなっている。たぶん、もうすぐ登校の時間。
ジンペイは、まだ布団の中にいた。
(
……
起きなきゃ)
そう思ったのは、もう何度目だっただろう。
けれど
——
身体は、動かなかった。
枕元にあるスマホすら、取れない。
指先が、冷たい。視界が、ぼやけている。
「
……
っ」
息を吸おうとした瞬間、胸の奥が、ギュッと縮こまった。
苦しい。でも、もう驚かなかった。
これが“いつもの”になりつつあることを、自分が一番知っていたから。
(昨日は、まだ動けた)
(今日は
……
それすら、できない)
喉が渇いている。でも、水を取りに行く気力もなかった。
布団の中で、横になったまま、ただ時が過ぎるのを待っていた。
どこにも痛みがない時間が、ひとつもない。
身体のどこかが、常に軋んでいる。でもそれを言葉にするのは、どうしても怖かった。
「
…………
」
目を閉じた。まぶたの裏に浮かんだのは、YSPクラブの、賑やかな放課後。
(行けるかも)
そう思っていた。
(平気そうに見えるなら、大丈夫だって)
でも、思い出そうとするほど、光景はぼやけていった。
名前も、声も、輪郭だけが、ふわふわと滲んでいく。
(
……
なんで、思い出せないんだ)
胸の奥を圧迫する感覚だけが、やけに鮮明だった。
でも今
——
起き上がることすら、できない。
(俺
……
本当に、ダメかも)
その思考だけが、どうしても頭から離れなかった。
その日の昼過ぎ。
コンコン、と静かにドアをノックする音が聞こえた。
まぶたの裏に、外の光がぼんやり滲んでいる。
ジンペイは、うっすらと目を開けた。
「
……
開いてる
……
」
かすれた声が、喉の奥で引っかかるようにして出た。
いつもの声からは程遠い。けれど、これが、今の精一杯だった。
ドアが静かに開き、ゆっくりと入ってきたのは
——
昨日と同じく、ラントだった。
無言のまま近づいたラントは、ベッドの横にしゃがみ込む。
その視線が、じっとジンペイを見据えていた。
「
……
これは“休めば治る”のレベルじゃないな」
静かな言葉だったが、わずかに苛立ちがにじんでいた。
ジンペイは目を閉じたまま、息を吐くように笑った。
熱のせいか、喉の奥がじんと痛む。
「会長
……
わざわざ来なくてよかったのに
……
」
返ってきたのは、少しだけ鋭い声だった。
「黙って来た。報告をもらってなければ、今ごろお前は誰にも気づかれずに倒れてた。
……
甘いぞ」
ジンペイは、壁のほうに目をそらす。
正直、そこまで怒られると思っていなかった。
「
……
ひと晩寝れば、だいぶマシになるんだよ。今日も
……
だいぶマシ
……
」
口に出した途端、言葉の嘘っぽさに自分でも気づいた。
声が掠れて、思ったよりも弱々しく響いた。
ラントの声は、変わらない。
「自分の体がマシって言える状態かどうか、鏡で見てから言え」
ジンペイがかすれた声で、再び笑う。
「それ、
……
コマくんにも言われた
……
」
普段なら、ここでとっくに話題を切り替えているはずだった。
くだらないことを言って、強引に笑いに持ち込む。
けれど今は、頭も口もまわらない。何も言えなかった。
しばらくの沈黙。
空調の音が、やけに耳につく。
ラントが、おもむろに立ち上がった。
そして
——
何のためらいもなく布団をめくり、ジンペイの腕を取った。
「もういい。今から病院に行くぞ」
「ちょっ
……
! いや、俺、ほんとに
……
それだけは
……
!」
ジンペイは慌てて声を上げようとしたが、喉が追いつかない。
力を込めたつもりでも、言葉は空気に溶けていく。
「いまのお前は、自己判断ができる状態じゃない。
……
だから俺が、判断する」
「
……
でも
……
俺
……
ッ」
言い返そうとしても、口先ばかりが動いて、言葉にならない。
身体の奥から、じわじわと力が抜けていく。
「“ヒーロー”っていうなら、守れ。
……
自分を守ってくれてる人間の信頼を、だ」
ジンペイが返事をする前に、ラントは迷いなく、彼の体を抱きかかえた。
驚いて抵抗しようとする。
けれど、腕に、足に、力が入らない。
まるで自分の体じゃないみたいだった。
「っ
……
会長
……
! 降ろせって
……
」
声も弱く、訴えるようにしかならなかった。
「無理をして死なれたら
……
お前を信じてた、俺たちがどうなるか。
……
少しは想像しろ」
——
そんなこと言われたら、もう、抵抗なんてできるはずもなかった。
目を閉じる。
頬にあたるラントの制服の布の感触が、ひどく遠くに感じた。
「
……
ごめん
……
」
言葉は息のように零れた。ラントの声が、少しだけ柔らかくなった気がした。
「
……
謝るな。今は、生きろ」
それ以上、言葉は交わされなかった。
ラントはジンペイを抱えたまま、病室を出る。
午後の日差しが、廊下の奥から射し込んでいた。
背負われたジンペイのまぶたが、ふっと落ちる。
深く、静かな眠りに沈んでいった。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内