無題

フラカラ初書き フラ←カラの解釈を固めたもの

「もしかしたらFさんにとって、カラスバさんは援助した大多数の内の一人かもしれないですよ」
 向かいに座ったキョウヤに言われ、カップを持つ手が止まった。
 昼間のカフェは燦々さんさんと日が入る。しかし午後には雨だそうだ。

 トーナメントで再会するとは思わなかった。フラダリの姿は五年前と大きく変わっているが、まぎれもなくあの御方だ。カラスバは湧き立つ心を必死で飲み込んだ。
 ──フラダリの名前はミアレでは知れ渡っていたが、後ろに「悪党」がつくこともままあった。
 ミアレは五年前、人口が流出し、人が加速度的に減った。まだ未熟だったカラスバでさえ、肌身でそれを感じた。フラダリのもたらした最終兵器の使用はそれほど脅威と不穏な空気をもたらした。そのフラダリに恩義を感じている者はカロス全土で少なからずいても、「慕っている」と表立って言えるのは路地裏でたむろしていた仲間内でのみだった──サビ組は、そういう人間たちを筆頭にまずは細々と作られた。
 カラスバは、自分の言動に説得力を持たせるために強くなった。商談、交渉、法律ギリギリのやりとり。自分が世話になったと胸を張って言えるのは、ただ一人あの人だと伝えられるように。
 それを言えば、五年前を知る人は曇った顔になるし、カラスバを避ける。フラダリの罪とはそういうものだ。とても巨大で、扱いづらく、そのことを話せば誰もが不安げにする。フラダリを思うからこそ、真っ当な道を歩く自分がその名を高らかに口にできないのであれば、汚れた道で歌うように彼の名を口ずさみたい。
 仁義を通すなら、そこはいばらだ。わかっていてカラスバは、サビ組を始めた。

「オマエの言うように、オレがフラダリさんの助けた、大多数の内の一人なんやとしても」
 ここまで話して、キョウヤに向き直る。彼はチョコレートタルトを齧り、静かに皿に置くところだった。
「オレを覚えてへんのやとしても、オレは忘れられへんからなあ」
 キョウヤが眉をひそめ、唇を噛む。
「F……フラダリさんは、そのうち誰も彼を覚えていない中で生きていかなきゃいけないんですよね」
「あの人なら、それも償いやと言うんやろうな」
……でも、カラスバさんは生きられないですよ、三千年も」
「まあ、悔しいことにそうなんですわ」
 そしてカラスバは、ぽつりと呟く。
「輪廻があるなら、何度も路地裏から生まれて見つけてもらうか……こっちから見つけに行くか、やな」
 キョウヤの耳には届いていたようで、鼻先を赤くしながら彼は複雑な表情を浮かべる。
「カラスバさんの惚気をこんなに聞くとは思いませんでした」
 カラスバはくく、と笑うと、「まだ足りひんくらいやけど」と遠い目をした。