Little Change, Sweet Days

◇DMC4-5◇ネロキリ◇
髪をばっさり短く切ったキリエの姿に、思わず胸が高鳴るネロ。
ふんわりと甘い香りに包まれながら、二人はあたたかな時間を過ごす。

※ネロが髪を切るきっかけを少し意識して執筆しました😊


 ほんのり熱をもつ夕日が部屋に差し込む頃、ネロはソファで雑誌をめくりながら過ごしていた。
 今日、キリエは午後から美容院に出かけており、ネロは彼女の帰りを胸を少し弾ませながら待っていた。
(キリエ、今日はどんなふうに仕上げてくるのだろう)
 髪のメンテナンスで定期的に通っている美容院。
 サロン帰り特有のサラサラで艶やかな髪はもちろん、美容師が最後におこなうヘアアレンジを、ネロは毎回楽しみにしていた。
 シンプルにふわっと仕上げたワンカール。
 やわらかい雰囲気をまとうゆる巻き。
 ゴージャスに決めたカールヘア。
 次々と浮かぶ彼女の髪型を思い描き、ネロの口元には自然と笑みが広がっていく。
 「さてと……キリエが帰ってくる前に、夕飯の準備でもやっておこうかな」
 ネロは読み終わった雑誌を閉じ、テーブルに置いたあと、ソファから立ち上がろうとした。
 その時、玄関のほうから小さく「ただいま」と言う声と足音が聞こえる。どうやら、キリエが帰宅したらしい。
 ネロは胸が少し高鳴るのを感じながら、キリエが現れるのを待つ。
 そして、リビングの扉がガチャッと静かに開いた。
「キリエ、お帰り——」 
 そう言いかけ彼女の姿を見た瞬間、ネロは思わず息を呑んだ。
 そこに立っていたのは、髪を顎の下までばっさりと短く切ったキリエだった。
 見慣れない彼女の姿に目を奪われ、言葉を失うネロ。
 キリエは恥ずかしげに視線を泳がせたあと、彼にほほ笑む。
「ただいま、ネロ。ごめんね、びっくりさせちゃった……?」
 驚きから目を丸くしているネロの視線を感じながら、キリエは彼の隣にそっと腰を下ろす。
「もうすぐ夏だし、ちょっと気分変えたくて。思い切って短くしちゃった……♪」
 小さく笑いながら、キリエは少し照れた声でそう告げる。
 首元がすっきりと見えるショートヘア、頬を赤く染めながらほほ笑む彼女の姿に、ネロの鼓動は高鳴り続けた。
「えへへ……こんなに短くするの初めてだから、ちょっとドキドキだったのよ……
 ネロの反応を横目で気にしつつ、キリエは髪をサラッと耳にかける。
「ネロ、どうかな……?」
 先ほどから何も言ってこないネロの顔を、キリエは不安げに見上げる。
 ネロは言葉を失い、ただキリエを見つめていた。
「どう……かな……?」
 キリエは耳にかけた髪をするりと外すと、そわそわした様子で再度尋ねる。
 その時、ほのかに甘いフローラルな香りがネロの鼻をくすぐる。
 その香りに誘われるように、ネロはキリエの髪にそっと手を伸ばした。
「キリエ……可愛い……似合ってるよ」
 ようやく出たその言葉は、驚いた気持ちでかすかに震えていたが、キリエの髪を撫でる指先と同じように、優しくあたたかさを帯びていた。
 ふわりと香る髪、恥ずかしそうにほほ笑む彼女に、ネロの胸はさらに高鳴る。
「ふふっ、よかった……ネロったら何も言わないから、似合わないのかなって、思ってしまって……
 そう言ってキリエはもう一度、髪を耳にかける。照れ隠しのように、少し落ち着かない様子で髪を指先でいじった。
「そんなことないよ。確かに驚いたけど、短いのもすごく似合ってるよ」
「ほんと……?」
「本当だよ。キリエ、可愛い……
 穏やかな声で告げるネロのその言葉に、キリエは頬のゆるみを隠し切れないくらいに笑みをこぼした。
「嬉しい……!ありがとう、ネロ……
 喜びを抑えきれず、キリエはネロの腕に思わずぎゅっとしがみつくと、そのまま彼の肩に頭を預けた。
 甘い香りがより一層、ネロの鼻に届く。
 ネロはキリエのうなじ、頬へと手を滑らしながら、彼女の頭をそっと抱き寄せる。
 そして、やわらかな髪に鼻を添えて香りを味わったあと、唇でそっと触れた。
(俺も、髪の毛切ろうかな)
 キリエの髪を指に絡ませながら、ふと心の中でそう思ったネロ。
 自分が髪を思い切って短くしたとき、彼女はどんな反応をするのだろうか。自分みたいに、驚くのだろうか。
(“似合う”とか“かっこいい”とか、言ってくれたら嬉しいな……
 そのときの光景を思い浮かべて、ネロは思わず口元を緩ませる。
 キリエの甘い香りに酔いしれながら、新しい自分になるワクワク感に、胸をほんのり躍らせた。
(それにしても、本当に可愛いな……キリエ)
 短くなり、ふわりと揺れるやわらかな髪、照れた笑顔、甘い香り、たまらなく愛おしい——
 幸福感に満たされながら、ネロはキリエの頬に手を添えると、鼻先で髪を下へとなぞる。
 そのまま自然と引き寄せられるように、彼女の唇にそっと口づけをした……


 優しくふんわりと、変わっていく。 
 甘い香りとともに、新しい日々へと……