任務の帰り道。ミッドガルの夜は、いつになく騒がしかった。ハロウィンの装飾で彩られたストリート。仮装パレードが終わったばかりなのか、広場ではまだ音楽と笑い声が響いている。
吸血鬼、魔女、兵士、動物。喧騒のなかで、色とりどりの衣装が揺れていた。どの顔にも笑みがあって、誰もが誰かと並んで歩いている。そんな光景を、私は足を止めて見つめていた。レノが一歩、隣で立ち止まる気配。
「……シスネ?」
私は答えず、視線を群衆に向けたままだった。子供たちの手にはお菓子の袋。大人たちの顔も、どこか穏やかで。その柔らかな空気が、胸の奥をくすぐった。
「……いいわね、こういうの」
ぽつりと口をついて出た言葉。
「いつもと違って。騒がしいのに、なんだか……平和で」
レノは何も言わなかった。けれど、横顔に視線を感じた。
「賑やかで、他愛もなくて……そういうの、知らないから」
呟くように言ってから、少し恥ずかしくなった。任務の話でもない、何の意味もない言葉。どうしてか胸が重くなる。
そのとき、レノがポケットを探る気配がした。紫の包みにカボチャが描かれた飴玉を、指先でつまみ出す。
「今朝、コーヒー買ったとき、渡されたやつ。……やるよ」
差し出されたそれを見て、思わず眉を寄せる。
「……いらない。子供じゃないんだから」
「十六歳。立派な子供だろ、と」
「……馬鹿にしてるの?」
「してねぇよ。……けど、欲しかったんだろ。そういう空気」
言葉が胸の奥に落ちて、静かに響いた。からかい半分に聞こえるのに、その目は確かに優しかった。
しばらく黙ってから、私はそっと手を伸ばす。
「……うん。少しだけ」
レノが、小さく笑ったような気がした。指先に小さな重み。包み紙がかすかに鳴る。街の喧騒が遠のいて、光の粒が滲んで見えた。
彼の隣を歩く。それだけのことが、不思議とあたたかかった。
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