Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
流れザメ
2025-11-01 11:08:20
3288文字
Public
ビマヨダ
Clear cache
とある前夜の一幕
ハロウィンのランタンを作るビマヨダの話。
仲良し平和時空です。
ハロウィンを間近に控えたカルデアはいつもとは違う活気に満ちていた。
マスターがパーティーの準備に駆り出された事で今日行われる筈だった素材集めが取りやめになり、突然降って湧いた休みを持て余したドゥリーヨダナはビーマのいる食堂へと遊びに来ていた。
他の面々はストーム・ボーダー内の飾り付けに回っているのか、厨房にはカップケーキやカボチャプリンを量産しているビーマ以外誰も居ない。
「これは料理に使わないのか?」
厨房の隅に積み重ねられたオレンジ色のカボチャを一つ手に取り、ドゥリーヨダナはビーマに声をかけた。
そのカボチャは身が詰まっているようでかなり重く、サイズも見慣れた緑色のカボチャに比べれば二周りほど大きい。これ一つで普通のカボチャ三個分ぐらいはありそうだ。
なぜこれをお菓子作りに使わずにこんな所に積んでいるのかと問えば、ビーマは生クリームを泡立てていた手を止めて太く形の良い眉を下げた。
「それはランタンに加工する用のカボチャなんだよ。食えない訳じゃないんだが、食用のカボチャに比べると甘みが少ないし味も淡白なんだ」
「甘さが足りないのなら砂糖を多めに入れて調理すれば良いではないか」
「そうしたら他の材料の量も調節しないといけなくなるだろ。逐一味を見て色々整える手間を考えると、普通のカボチャを使った方が楽なんだよ」
ビーマが肩を落として小さくため息を吐く。その様子を見た瞬間、ドゥリーヨダナは内心で(おや?)っと思った。
ビーマの言い分は分かる。
これが個人的な趣味の範囲であるお菓子作りならば、材料の分量を試行錯誤するその手間も楽しみの一つになるだろう。しかし、生憎と今ビーマが作っているのはハロウィンパーティーで配る用のお菓子だ。
現在カルデアには四百騎あまりのサーヴァントがいる。更にその中にはかつて
狼の腹を持つ者
ヴリコダーラ
と謳われたビーマに勝るとも劣らない大食いの者もおり、催事の際は毎回食堂から溢れんばかりの量の料理が求められ、そして作られていた。
その時の厨房の忙しさといったら。ビーマが生前マツヤ国に料理人として身を寄せ、城の者達に料理を振る舞っていた頃にも引けを取らないだろう。
短い間とはいえ人に料理を振る舞うことを生業としていた者として、ビーマが自分が料理を楽しむ事よりもいかに迅速に相手が求めている物を提供出来るかを大事にしている事は知っている。
しかし、そんな事情を差し引いても、今のビーマの落ち込み具合は少し大げさだった。
確かに部屋の隅に積まれているカボチャは鮮やかなオレンジ色をしていて美味しそうではある。
形も大きく、緑色のカボチャに比べたら何倍も食い出がありそうだ。
しかし、食用として育てられた物ではない以上、味が劣るのも仕方が無いことだ。
ビーマだって料理人を名乗っているのだから食用とそうでない物の差など理解している筈。
なのに何であのオレンジ色のカボチャを使えない事にそんなに落胆しているのか。
その答えを探るように、ドゥリーヨダナはビーマの顔をジッと見つめた。
自分に注がれる視線に気付いたビーマが居心地悪そうに身動ぐ。
「何だよ」
「いや?随分と言葉に実感がこもっているなと思ってな」
「
……
んなことはねぇよ」
ドゥリーヨダナの視線から逃げるように、ビーマが手元のボウルへと目を落とす。しかしその逃避は十秒と持たず、沈黙に耐えかねたビーマはすぐに顔を上げた。そして観念した様子で厨房隅にあるカボチャの山を見やる。
「あれはマスターから貰った物なんだ。忙しくてランタンを彫る時間が無いって言うから、それなら俺がお菓子作りの空き時間に作ろうって引き取ったんだが
……
」
ビーマが口を噤む。少し俯いたその顔には、やはり微かに影が差していた。
固く引き結ばれていた唇が薄く開かれ、その隙間からため息が吐き出される。
まるで懺悔でもするかのような面持ちで、ビーマは言葉を続けた。
「カボチャを彫っている最中に、間違えて一個砕いちまってよ」
「なるほどな」
ドゥリーヨダナはようやく合点がいった。
つまりビーマはランタンにする筈だったカボチャを自分の不注意で砕いてしまい、このまま捨ててしまうのも偲び無いからと色々と調理してみたが、あまり美味しいものが作れなかったのだろう。
ランタン用のカボチャで作った料理が食用カボチャと同じぐらい美味しい出来だったのなら、マスター達に振る舞ったりして砕けたカボチャを無駄にせずに済んだと思えたのだろうが、生憎とせいぜい自分が食べて消費する程度の料理にしかならず、それが余計にビーマの罪悪感を強める結果になってしまったのだ。
ドゥリーヨダナはテーブルに頰杖をつき、呆れ顔でビーマを見た。
「まったく
……
。どうせお前の事だ。ランタンもいつものように力任せに彫ろうとしたのだろう。子供の頃に鍛錬用の弓や棍棒を壊していた時から何一つ成長しとらんな、お前は」
「うるせぇ。暇してんならお前も手伝えよ」
そう言ってビーマが使っていない自分の調理道具を差し出してくる。
ドゥリーヨダナはそれを受け取ると、頭の中にカボチャで作られたランタンの姿を思い浮かべた。
サーヴァントというのは何かと便利なもので、自分がぼんやりとしか知らない知識でも、英霊の座と繋がっている聖杯がその情報を補ってくれる。
ジャック・オー・ランタンと呼ばれるランタンの作り方を一通り確認したドゥリーヨダナは、まず手始めにカボチャの中身をくり抜くことにした。
カボチャをひっくり返して底の中央にナイフで五センチ程の穴を開ける。そこからワタや種を抜き取り、スプーンで柔らかい果肉を掘っていく。
水気を含んだ所を取り除くことで日持ちするようになるらしいが、思ったよりも削り取らなければならない果肉が多く、あんなにもずっしりとしていたカボチャが三分の一の重さになってしまった。
実の厚さも最終的に二センチ程になり、伽藍洞になった空洞が何とも物寂しい。
おそらくビーマはこの段階で身が詰まっていた時と同じ感覚で手に力を込めてしまい、カボチャを砕いてしまったのだろう。
ドゥリーヨダナは同じ轍を踏まないように気を付けながらキッチンナイフをカボチャの表面に走らせた。
最初は硬い表面に中々ナイフが入らずに苦戦したが、何度も線を重ねていく内にコツを掴み、次第に望んだ通りに彫る事が出来るようになった。
地道に掘り進め、格闘すること十分。
とうとう完成したジャック・オー・ランタンを目の前に掲げ、ドゥリーヨダナはその完成度に満足げに頷いた。
それと同じタイミングで、生クリームがたっぷりかかったプリンを手にしたビーマが声を掛けてくる。
「出来たか?」
「あぁ。さすがわし様。異郷の物であろうと一度でこんな完璧な物を作ってしまうとはな!」
差し出されたプリンと交換でカボチャを手渡せば、ビーマは悔しそうに顔を歪めた。
「本当に昔からこういうの得意だよな、お前」
「お前が粗雑なだけだろう。こんなの誰だって出来るわ」
「そうかよ」
ビーマが明らかにムッとした表情を浮かべる。
やはり子供の頃から変わらないむくれ面に、ドゥリーヨダナはつい笑ってしまった。
「仕方が無い。ランタン一つ碌に作れないお前に、わし様が直々に手解きしてやろう。感謝しろよ?」
ニヤリと笑いながら、ドゥリーヨダナは使っていたナイフやスプーンをビーマに手渡す。
ビーマは不服そうな顔をしながらもそれらを受け取り、厨房の隅からカボチャを一つ持ってきた。
隣の椅子にドカリと腰を下ろしたビーマに、ドゥリーヨダナはカボチャプリンに舌鼓を打ちながら片手間にランタンの彫り方を教え始めた。
「違う、そうではない」
「手に力を込め過ぎだ。またカボチャを粉々にしたいのか?」
「何でも一度で済ませようとするのはお前の悪い癖だぞ」
ハロウィンの準備で周囲が賑わう中、人気の無い食堂にドゥリーヨダナの声が響く。
どこか楽しげなその声を、ビーマだけが聞いていた。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内