ちよど
2025-11-01 08:58:06
20061文字
Public わし様など
 

練習1P 2025年8~10月分まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。

■2025/10/31 No.669
生前IF カルヨダ、アシュヨダ
「どうして、あんたがここにいないんだ!」

 ドゥリーヨダナは死んだ。ビーマと相打ちだった。
 アルジュナは戦車の車輪を戻したカルナに討ち取られ、ここにカウラヴァの勝利は確定した、というのに。
「やめてくれ!カルナぁ!!」
 駿馬で追いついたアシュヴァッターマンの言葉に血塗れの戦車からカルナが振り返った。
これがあれの望みだ」
「旦那は国を欲しがってはいたが、おまえが手を汚すことなんて望んじゃいなかった!」
 俺の言葉にカルナは愛おしむように目を細めた。
「オレは知っている。オレを王にするためにあれがアンガの王族にしたことを」
 スータの王など、本来のアンガ王族が王だと認めるはずがない。だから旦那は。
 カルナはその白い顔を前に向けた。そこに躊躇いも慈悲もない。
「今も昔も、オレは国ぐらいしかあれに渡せるものがないのだ」
 カルナの決意は固く、俺はこれ以上の言葉を持たない。
 弓を構えた。カルナがゆっくりと振り返り俺に矢を向ける。
 武器を持つということは相手を殺すという事だ。俺たちはそれをよく分かっている。
 旦那!旦那!俺は叫ぶように祈る。


■2025/10/29 No.668
現パロ アシュヨダ
「お前に任せて正解だったな」

 アシュヴァッターマンは恋人と過ごした後の朝が一番好きだ。それは普段小心者で見栄っ張りのドゥリーヨダナが無防備な姿を見せてくれるだけでなく。
「旦那、熱すぎなかったか?」
 仰向けになったドゥリーヨダナの顔を覆っていた蒸しタオルを外すと、薄く髭が生えた顔が気持ちよさそうに緩む。
 それに安堵してアシュヴァッターマンはその顔にそっとローションを伸ばした。痩せた頬、高い鼻、垂れた目尻。そのどれもがアシュヴァッターマンが好きなところだが、今はそこではない。
 髭。
 自称チャームポイントのあごひげが崩れないようにするのがアシュヴァッターマンの役目だ。
 カミソリではなく安全な電気シェーバーを愛しい肌に走らせる。自分しか知らないだろう細かな起伏を指先に感じながら、小刻みに刃を動かして髭を整えていく。
 今日、ドゥリーヨダナを見るものはアシュヴァッターマンが整えた彼の顔を見るのだ。
 その喜びだけでなく、ドゥリーヨダナの無精髭の姿を知っている者はアシュヴァッターマンの他にはほとんどいないという事実が彼の独占欲を炎のように揺らめかせる。
 アシュヴァッターマンは電気シェーバーを止めた。丁寧に顔を拭う。冷たいローションの感触にドゥリーヨダナは満足げに笑った。


■2025/10/28 No.667
生前カルヨダ+モブ
「それで、おもしろい話は聞けたか?」

「薄汚い、あっちへお行き!なんであんたみたいなのが城の中にいるんだい!!」
 ドゥリーヨダナさまが大きくなるにつれ下働きが休めるようにと城の隅にいくつか木陰が用意されるようになった。
 あたいたちみたいなのは仕事の合間に木の下に座り込んではおしゃべりするのが常だというのに、そこにいつの間にかボロボロのほつれた布を被った痩せた男が紛れるようになったのだ。そいつがいきなり立ち上がった。駆け出す。
「プラチ!」
 入ったばかりの少女が抱えているのは湯気が立つ小さな小さな芋だ。男の手がそれを払い落とす。地面に落ちた芋は弾け飛んだ。
 突然のことに呆然としている少女をあたいたちは取り囲んで髪を撫でる。芋なんて高級品を食べた事がないこの子は皮に切り込みを入れずに焼いて来たのだろう。もう少しで大火傷を負うところだった。
 やっと状況が分かって泣き出した子から離れてあたいは男に近づく。男は当然の事をしたかのように木陰に戻ろうとしていた。
その、あんた手を怪我してないかい?」
「無用だ」
 意外と落ち着いた声がボロ布を被り直す。その手が黒いあざに覆われているのを見てあたいは息を吐いた。
「まあ、好きなだけいるといいさ」


■2025/10/24 No.666
わし様+マスター
「たかが101分の1を」
※ハロゥインイベントのネタバレをちょっと含みます。

「たった8分の1ではないか!」
 流しのギャンブラーの挑発に古代人は8本の足を彷徨わせた。その様にアマゾネスドット・コムの倉庫の不法住民たちが笑い声を上げる。見慣れない男にギャンブルをふっかけた古代人があれよあれよと言う間に身ぐるみを剥がされ、自分の足まで賭けたのを見ていたからだ。
「カ星の古代人の足は食用になると聞いておる。──高く売れるぞぉ」
 喜んでいる男と震える古代人の間に誰かがナタを投げ入れた。他人の破滅ほど美味しい娯楽はない。
 古代人は右を見る。左を見る。上も下も見たが嘲笑が返るのみで誰も古代人を助けようとするものは──。
「ちょっと待った!!!」
 黒髪の少年が彼の前に飛び込む。どこかで見たような少女を連れた彼はギャンブラーをまっすぐに見つめ返した。
「ドゥリーヨダナ」
 名前を呼ばれたギャンブラーが瞳の深さを変える。古代人を背に庇って少年は彼に告げた。
「この賭けは無効だよね。たった8分の1でも切り離せないものがあるのをあなたは誰よりも知っているはずだ」
 ドゥリーヨダナはつまらなさそうに顎を上げた。
「くだらん。おまえがわし様の何を知っているというのだ」
「知っているよ。忘れていても覚えているよ。ドゥリーヨダナは決して見捨てなかった」


■2025/10/22 No.665
生前ビマヨダ(モブヨダあり)
「ああ、幸せ、だ」

 この体を使おう。
 ドゥリーヨダナは決意した。鏡の中の自分は鍛えられた美しい体をしている。どんな敵だろうとこの体を与えれば喜び跪くだろう。
 そう決めたドゥリーヨダナの行動は早かった。さりげなく接触したパーンダヴァ派の将軍、大臣、後見人。誰もがドゥリーヨダナに夢中になった。
 そして滑るようにパーンダヴァの情報を舌に乗せる。
 楽勝だった。
 宮殿で勝利を確信して高笑いしていたドゥリーヨダナは轟音と共に落ちてきた突風に表情を溶けさせる。
「やっとわし様の魅力に気づいたか?」
「──ふざけてんじゃねぇぞ、トンチキ」
 首をへし折ろうと伸びてきた腕に何も持たないドゥリーヨダナは花のように微笑んだ。
「なんだ。つまらん。おまえはわし様の魅力に抗える自信がないのか」
 挑発に殺意を止めたビーマにドゥリーヨダナは唇を吊り上げた。
「おまえがわし様が今まで知る誰よりも上手かったら。今度はわし様がなんでも話してやろう?ま、意気地なしには無理だろうが」
「言ったな」
 目が据わったビーマの手がドゥリーヨダナの服を掴む。


■2025/10/20 No.664
転生?アシュヨダ(ワニ)
「101対の瞳」

 この村は平和だ。
 アシュヴァッターマンは集めた果実を乗せた籠を肩に担いだ。長い長い彷徨の先で彼を受け入れてくれたこの村。そこを囲むような沼地を渡る。
 泥の中から光る目が覗く。アシュヴァッターマンが籠から果実を投げると、それは大きな口を開けて果実を受け止めた。ぐじゃりと牙が果実を砕く。ワニだ。
「今日はこれで勘弁してくれ。最近物騒なんだよ」
 ここ数ヶ月盗賊団の被害をよく聞く。武術を嗜むアシュヴァッターマンとしては恩がある村からあまり離れたくはなかった。
「知らない奴が来ても出てくるんじゃねぇぞ」
 ここのワニは村人に悪戯をするが基本温厚だ。盗賊団に蹂躙されるのが目に見えている。
 誰かに似てどこか愛嬌のあるワニの死体などアシュヴァッターマンは見たくなかった。
 その忠告が聞こえているのかいないのかワニはゆったりと尻尾を振って泥の中に戻っていく。アシュヴァッターマンはその後ろ姿を見送った。
 その夜。武装した男達が沼地に踏み込む。泥の音をさせて村に進む男達が足を止めた。
 沼の中に無数の輝く点がある。その正体に気付いた時には全ては終わっていた。村は今日も平和である。

■2025/10/19 No.663
現パロ アシュ(猫)ヨダ
「お前はいつまでもわし様を守ってくれるのだな」

 秋になり冷え込んでくると布団の中に温もりが入って来るようになる。飼っている赤い毛並みの成猫だ。
 彼はこの時期は必ずドゥリーヨダナの痛む足に体を寄せて温めてくれる。
 猫が重く感じないように作らせた布団をゆっくりとどかしてドゥリーヨダナは体を起こす。日課のウォーキングをしなくては体がすぐに鈍ってしまうのだ。
 長い付き合いの相棒を起こさないようにそっとベッドから降りて、ドゥリーヨダナは出かける支度を終える。ドアを開け杖を忘れずにいつもの道を進み。足を止めた。
「わし様に何の用かな?」
 ドゥリーヨダナを囲み刃物をちらつかせる男達は答えない。物盗りか怨恨か。どちらにしろ心当たりがありすぎた。そして昔ならともかく今のドゥリーヨダナには数の暴力に抗う術はない。
 男がナイフを振り下ろす。血飛沫。目を抑えてよろめく男の前に立ちふさがる。赤い毛並みの猫。二本の尻尾を揺らめかして彼は再び跳躍する。
「アシュヴァッターマン!!」
 赤い残像が男達の急所を抉り割く。全ての敵を地に伏せさせ立ち塞がる彼をドゥリーヨダナは抱き上げた。
 その手にも顔にも年老いた皺がいくつも刻まれている。何十年も変わらない相棒の頭をドゥリーヨダナは優しく撫でた。


■2025/10/15 No.662
生前わし様+父の弟
「これは凶兆の子」

 割れた壺から赤子が転がり出てきた時、私は断じた。
 これは凶兆の子。
 目が見えない長兄、クシャトリヤとして相応しくない青白い次兄。誰もが私を見て囁く。どうして私が正妃から生まれなかったのかと。
 頑健な体。武術にも優れ。兄達が教わる学問を私も理解する事が出来た。神の化身とまで謳われ、長じて兄の補佐として宰相の地位についた。
 誰もが私を褒め称える。
 兄の子供たち以外は。麗しい姿の子供たちは私を見るなり駆け去ってしまう。クル国が滅ぼした青年には懐いているというのに。
 いなくなった子供たちを目で追うと必ず振り返るひとり。煮えたぎった紫の瞳。
 最初に壺から生まれた肉塊。私が断じた命。
 父が関与したとはいえ正妃の腹から生まれた肉塊が、肉塊ですら王位を得るというならば。
 私がソレを眺める瞳は同じように煮えたぎっているだろう。
 私は何度でも断じる。


■2025/10/13 No.661
ビマヨダ
「後で『幸せ』にしてもらうからな」

 ジャンヌオルタが鼻で笑う横でロビンが困ったようにマスターに声をかけた。
「あー、こういうのは一般論ですからね」
 食堂でテーブルを囲むのはマスター、ジャンヌオルタ、ロビン、そしてドゥリーヨダナ。ジャンヌオルタがマスターの言葉を繰り返す。
「最高の復讐は幸せになることぉ?そんなもの詭弁だって分かるでしょ?」
「まあ、元を断っておいた方が安全ですわ。同じ事をされたら困るでしょ?」
「わし様はそうは思わん。最高の復讐は幸せになることだ」
 思わぬ肯定にマスターは顔を輝かせる。ドゥリーヨダナが指を組んだ。
「パーンダヴァの当主、ユディシュティラは天の国を目指して妻も弟達も見捨てて山道を進んだ」
 関係のない話に首を傾げる三人にドゥリーヨダナはにたりと笑う。
「そうやってたどり着いた天の国で、わし様達がおもしろおかしく過ごしていたのを見たあやつの顔!マスター風に言えばご飯を無限に食べられるという奴だ」
 おかわり!とドゥリーヨダナが空の皿を差し出したのはビーマ。彼は眉間に青筋を立てながら皿を受け取る。


■2025/10/13 No.660
カウラヴァ
「違いないな」

「お前もカウラヴァにならないか?」 
「既になっている」
 目の前で始まったドゥリーヨダナとカルナの茶番にマスターはもうひとりのカウラヴァを見た。
 野営の火を起こしていたアシュヴァッターマンはマスターの視線に少し笑う。
「あー、あれだ。シンセングミ」
「近藤さんのスキルが羨ましいんだね」
「旦那は欲しがりだからなァ」
 十二億を道連れにした強欲をそう評したアシュヴァッターマンは炎の中に枯れ枝を投げ込んだ。炎が戦火のように揺れる。放っておけばドゥリーヨダナは勧誘という迷惑行為を始めるだろう。マスターは諦めさせようと口を開いた。
「カウラヴァになってもバフとかの見返りがないと」
 ドゥリーヨダナが誇らしそうに胸を張った。
「そんなもの偉大な王子であるわし様の役に立つ以上のものはあるまい」
 カルナとアシュヴァッターマンが深く頷いた。


■2025/10/11 No.659
某魔法少女パロ ヨダナちゃん
「バレてめちゃくちゃ怒られた」

「希望から絶望への相転移?」
 少女というより悪役令嬢と呼ばれそうなドゥリーヨダナは、病室に現れた小さな生き物の説明に首を傾けた。
「そうだよ。この宇宙では少女のそれが一番エネルギーを発生する」
 だから魔法少女になってよ。
 ピッピッピッと計器が規則的に父親の生存を示す。交通事故だった。命は助かったが両目はもう二度と開かない。
 そこに現れた何でも願いを叶えるという小さな生き物に、契約とは条件を全て詳らかにするものだと魔法少女の仕組みを吐き出させたのだ。
 ドゥリーヨダナは考え込む。希望はいいが絶望するなどまっぴらごめんだ。
「そのエネルギーとやらは少女以外でも採取出来るのか?」
「まあ、出来ないことはないよ。非効率だけど」
 ふぅん。ドゥリーヨダナはにたりと笑う。
「奇跡を確定で起こせるなら、人などいくらでも集められる。非効率でも数があれば足りるだろう?手数料に集めたエネルギーをちょっと分けてくれるな?」


■2025/10/08 No.658
現パロ アシュヨダ
「こんな気持ちだったのか」

 マハーバーラタは悠久の時を人々に愛され続けた物語だ。
 その物語が演劇となり、若手俳優が主役に抜擢された際、人々は囁いた。プロデューサーの恋人だからだろう。素晴らしい作品なのにもったいないと。
 だが、公演が始まると誰もが彼に魅入られてしまった。
 堂々とした態度、悪辣な行動の中に滲む愛嬌と知性。悪として語られる事の多いドゥリーヨダナをアシュヴァッターマンは理由のある魅力的な人物として演じきっていた。
 悪巧み、嘆き、虚勢、愛情そしてカリスマ。アシュヴァッターマンによって詳らかにされる『ドゥリーヨダナ』
 その解釈に息を呑む観客を座席後方からにやにやと眺めているプロデューサーの前で、物語はクライマックスを迎えようとしていた。
 駆けつけた『アシュヴァッターマン』に抱き起こされ、血に塗れた瀕死のドゥリーヨダナは震える手でその頬を撫でる。
「──お前が生きていて、嬉しい」
 幕が降り、拍手が鳴り響き、アシュヴァッターマンは呟いた。


■2025/10/05 No.657
生前ビマヨダ
「嫌いになれない」

 スヨーダナは失望した。心の底から。
「父上、あいつらを追い出してください。僕達が何度怪我をさせられたと思っているんですか!」
 膝に乗った可愛い長男の訴えに、ドゥリタラシュートラはその滑らかな顔を撫でた。
「だが、パーンドゥはこんな私に王位を譲ってくれたのだよ」
「何度も聞きました。優しい叔父様の話は。──だから僕達も従兄弟に会うのを楽しみにしていたのです」
 それがどうだ。同い年の従兄弟は遊んでやったというのに僕達に怪我をさせてばかり。下の従兄弟は半神を鼻にかけ僕達と関わろうとすらしない。さらに一番上の従兄弟はスヨーダナを差し置いて王位を得るのは自分だと公言している。
 スヨーダナは失望した。あんな奴らと仲良く出来ると思っていた自分に。
 父に訴えても埒が明かないと分かったスヨーダナはその膝から降り、王宮を進む。目指すのはパーンダヴァ達が住む宮殿だ。父が追い出せないなら次期国王である自分が追い出すしかない。
 突然、目の前に紫が飛び込んできた。そいつは屈託なく笑う。
「遊びに来てくれたのか!スヨーダナ!」
 スヨーダナは失望した。自分自身に。心の底から。


■2025/10/04 No.656
カルヨダ
「もう国はないから」

 ロウヒとドゥリーヨダナが編成される時カルナは必ずついてくる。
「カルナさんはコストが高いので遠慮して」
「ならばドゥリーヨダナを連れて帰ろう」
「メインアタッカーですぅう!!」
 日頃は物わかりのいいカルナのわがままにマスターが手を焼いていると、ドゥリーヨダナが困ったようにマスターの希望で第三再臨姿になっているロウヒを指した。
「あー、あれをなんとかすればカルナは納得すると思うぞ」
「やだ!逆関節最高!!」
 声高に性癖を主張するマスターと反対にドゥリーヨダナは言葉を濁らせた。
「──半人半鳥はなぁ」
 そんなドゥリーヨダナにカルナが両腕を回した。
「カルナ、分かっておるとは思うが。ロウヒは奴らではないぞ」
「無論だ。だが、想起を止めるのはお前にも出来まい」
 理由の分からない事を言い出していちゃいちゃし始めたふたりにマスターは天を仰いだ。もういい好きにさせよう。
 後にマスターはアシュヴァッターマンに聞いた。
 ドゥリーヨダナは生前半人半鳥達の捕虜にされ、カルナ達はそれを助けられなかった事を。その後あのドゥリーヨダナが死を願うほどに追い詰められた事を。
 きっとそれはカルナの後悔なのだろう。そして。


■2025/10/03 No.655
わし様+マスター
「自身が旗なのだな」

「わざわざ旗を立てねば集まらんのか?」
 ドゥリーヨダナの煽りに浅葱色の羽織を着たマスターは召喚ルームを見回した。誰かが忍んでいる気配はなく。くるくると光る魔法陣が回っている。
 このカルデアには新選組はふたりしかいない。そのふたりの耳に入ると面倒なことになるのは確実だった。沖田さんはともかく斎藤一ちゃんは煽りの切れ味には定評がある。この恥を嫌う王子様と言い合いになった場合、ドゥリーヨダナが泣いて逃げ出して復讐に走る可能性が高かった。
 カルデアで第二次クルクシェートラの戦いが勃発しては堪らない。
「でも、ドゥリーヨダナの宝具で集まるのはネームレスの弟さん達がほとんどだよね?」
 その言葉にドゥリーヨダナは不愉快そうに片眉を上げた。
「──わし様は常々思うのだが、英雄に名を残す残さないもないのではないか?武勲をあげたものはすなわち誰もが英雄なのだ」
 いい言葉だ。ドゥリーヨダナが言ったのでなければ。
「それを言うなら新選組にも名も無き隊士はたくさんいる。多い時で200人はいたな」
「近藤さん!」
 召喚されたばかりの新選組隊長近藤勇は続けた。
「だからこそ、我らは誠の旗が必要なのだ。だが貴殿は」


■2025/10/02 No.654
生前ビマさん
「にいちゃんが守ってやる!」

 父には血の繋がらない息子が3人いたが、父はその中でも俺を一番かわいがっていた。
 長男の兄ではなく、優れた弟ではなく。力ぐらいしか取り柄のない俺を抱き上げては父は囁く。
「私のかわいいビーマセーナ」
 俺の父をヴァーユにすると決めたのは父だと聞いた。
 青白く病に伏しがちな父の体調がいい時、俺と父は森を散歩する。いつもの遊び場を説明する俺に父は耳を傾け、俺が襲ってきた猛獣を投げ飛ばす度に手を叩いて喜んだ。
「私のビーマセーナは強いなぁ。私達を守っておくれ」
 もちろん!と俺は胸を張り、父はそんな俺の頭を撫でた。
 宮廷で育った父には森は過酷な場所だったのだろう。何度も熱を出す父には第二夫人のマードリーが付き添い、母は俺達の世話などをするのが常だった。
 俺が木の実などを持っていくと父は俺に問いかける。
「クンティは?」
「兄貴とアルジュナに勉強させている」
 そうか、と力なく父は笑い。そんな父の背をマードリーは優しく撫でていた。
 だから父とマードリーがいなくなった時、俺の胸には納得だけがあった。
「にいちゃんは悲しくないのですか?」
 弟が俺を見上げるのに、俺は笑って応えた。


■2025/09/25 No.653
生前カルヨダ
「隈取り」

「血の繋がりこそが親子というもの」
 カルナがそう言うとドゥリーヨダナは嫌そうに眉をしかめた。彼は厳密には王家の血筋ではない。
 この豪奢な部屋も広大な宮殿も有り余る富も王子の地位も、自分の物だと声高に主張し続けなくてはあっという間に奪われてしまうのだ。だからこそ力が必要だった。
「わし様の息子になること自体は嫌ではないのだな?」
「我が父はひとりだけだ」
 頑ななカルナにドゥリーヨダナは両腕を広げた。
「スーリヤ神と張り合うつもりは欠片もない。おまえの保護者がひとり増えるだけだ」
 ドゥリーヨダナの説得に年上の友は不服そうな沈黙で返した。その目の色にドゥリーヨダナは手を打つ。
「ならば、わし様とも血を繋げよう。こちらを向け」
 カルナがドゥリーヨダナを見上げると、ドゥリーヨダナはカルナの鎧の棘に人差し指を当てた。神の鎧だ。当然皮膚は破れ血が滴り落ちる。
 その指が上がり、カルナの顔に触れる。両の瞼の下を指はゆっくりと撫で、血の跡を残した。
「これでわし様の血は常におまえと共にある」
 満足そうなドゥリーヨダナにカルナはゆっくりと瞬きした。
「ああ、オレに見える世界にはいつもおまえが寄り添っているということか」


■2025/09/20 No.652
現パロ アシュヨダ
「いつ気づくかな?」

 そのVTuberは愛を語る。
♡「おーい、As前世の恋人は見つかったか?」
 コメントに赤髪のアバターは困ったように首を振った。この業界ではよくある褐色肌のイケメン。特徴があるとすれば額の楕円形の石ぐらいだろうか。
「まだ見つけてもらえてねぇみたいだ。俺達しか知らねぇ事を話していればいつか耳に入ると思ったんだがなぁ」
 このVTuberの設定は前世の恋人を探すために恋人の話をして見つけてもらおうとする男だ。
 囁くように愛おしむように語られる恋人との想い出(という創作話)は垣間見える恋人のろくでなしさとのギャップで一部に人気がある。
♡「いっそ小説家になったらどうだ?」
「俺は旦那の事しか語れねぇよ。──ありがとな」
 何故か贈られたスパチャに礼を言うと常連の♡の後を追うようにいくつかのスパチャが入る。
 「応援してます!」「私が実は恋人さんだったり?」「気に入らない奴の家を燃やした前科がおありで?」
♡「正確には気に入らない従兄弟の家だ。Asあの話をしてくれ。ふたりで遠乗りに行ったやつだ」
「よく覚えてんなぁ。遠乗りといやぁ、いつもは何人かで行くもんだったが、一度だけふたりで抜け出した事が
 想い出を語るAsに♡は無言でスパチャを贈る。♡はこのチャンネルが開設された当初からの常連である。


■2025/09/15 No.651
カルヨダ+インドラ親子
「はい、あーん」

 特異点の残滓である新宿御苑は花の盛りだった。
 レイシフトのメンバーはカルナ、ドゥリーヨダナ、インドラ神、アルジュナオルタ、そしてマスターの少年である。
 このカルデアには弓霊基のアルジュナはいない。なのでインドラ神がアルジュナオルタに会いに来たのを当の本人だけが気づいていなかった。
「アルジュナ!レジャーシートを敷くから手伝って!インドラも!」
 大きなバスケットを抱えたマスターからレジャーシートを受け取ったインドラが張り切ってバサバサと広げる。その端をアルジュナオルタが掴んだ。
仲良し親子計画とやらが上手くいくと思うか?」
 こそこそと囁かれたカルナは耳の飾りに触れた。
「分からん。が、俺達が呼ばれたのは助力を期待されているからだろう」
 カルナの言葉にドゥリーヨダナは目を輝かせた。
「ひらめいた!おーい、マスター!おまえはカルナがわし様の(義理の)息子だと知っておるか?」
 知っているからこそ連れてきたマスターは頷いた。
「つまり、カルナをこのように立派に育てたのはわし様ということだ。父親マイスターの手本を見たくはないか?」
 マスターがインドラをちらりと見て大きく頷く。
「よければ、神々の王もご一緒に父親の嗜みなどいかがかな?まずは──」 


■2025/09/14 No.650
スヨーダナ+彷徨アシュくん
「おまえ、幽霊だな!」

「何者だ!ここは王家の森だぞ!」
 俺の声にシヴァ神の祠の前で膝を付いていた男は顔を上げた。息を呑む。その顔は膨れ上がり、ボロ布から見える手足は歪み形を変えていた。くすんだ赤色の髪は長い。
 ひどい病の様子に驚くと、何故か相手も驚いたように口を開けた。言葉はない。白く固まった舌では声が出せないのだろう。
「──おまえ、それ、伝染るのか?」
 慌てて首を振る男に俺は近づいた。
「苦しいだろう?王宮の名医に診てもらおう」
 少しでも病が軽くなれば俺に忠誠を誓う者がひとり増える。そうやって味方を増やさなければ、
 突然、目の前から男が消えた。
 ごき、と骨が折れる音がして振り返ると短刀を持った刺客が首を曲げて男の足の下でつぶれていた。
「おまえ、強いなぁ!!俺の手下になれ!そうだ薬をやろう!ほらほら!」
 差し出した王家の秘薬を男は俺の手ごと両手で包み込む。また祈るように膝をついた男を見下ろして俺はまた息を呑んだ。
 影がない。
 人ではないモノだ。だがそんな存在がここまで病に侵されるだろうか。刺客を倒すのにも幻力を使っていなかった。ということは。


■2025/09/12 No.649
生前アシュヨダ+彷徨アシュくん
「俺には見えない」

「ここの森には幽霊がいるんだ」
 王族達の鍛錬をする父についてきた俺にスヨーダナ様は囁いた。屈んだ王子の長い髪がさらさらと俺の頬に触れる。
 穏やかな森の風に父の怒号が運ばれてくる。百王子の誰かがまた何かしたのだろう。その長兄は悪戯っぽく微笑んだ。
「幽霊、見せてやろうか?」
「見たい」
 俺の宝珠は魔物を遠ざけるらしい。だから俺は幽霊を見ることは出来ない。でもスヨーダナ様が誘ってくれるならどこへだって行きたいのだ。
 父の目の届かないうちにふたりでするすると森の奥に入っていく。進むにつれて賑やかだった鳥の声がだんだんと遠ざかっていく。スヨーダナ様が立ち止まった。
「おーい!来たぞ!スヨーダナだ」
 ずるる、と何かを引きずるような音が聞こえた。それはだんだんと近づいてくる。スヨーダナ様が嬉しそうに笑う。
「ほら、見てみろアシュヴァッターマン。幽霊だろう?病持ちらしくてな。薬を分けてやったら俺の子分になったんだ」
 誇らしげなスヨーダナ様の手が何も無い所に伸ばされる。その体がそっと浮き上がる。
 誰も支えていないのに。
 俺はスヨーダナ様しかいない空間に必死に目を凝らした。



■2025/09/09 No.648
生前アシュヨダ
「孔雀のように」

 王宮の庭には様々な動物が放たれている。
「あれはな。アシュヴァッターマン。意中の女を口説いておるのだ」
 大きな東屋で長椅子に横たわっている青年の説明に、その小さな膝を枕に提供している少年は顔を赤らめた。
 彼らの前ではオスの孔雀が羽を広げてメスを追いかけている。それをきれいだと呟いたアシュヴァッターマンにろくでなしは続ける。
「自分は美しく体も大きい、と。──必死なものだ」
 青年が大きく口を開けるので、アシュヴァッターマンはテーブルに用意されてあった果実をつまんで運んでやる。
 大人達がいれば、バラモンが娼妓の真似事など!と怒られるが。ここにいるのは青年と少年。そして口が硬い召使いだけだった。
「──人間も、美しくて大きければ選んでもらえる?」
 アシュヴァッターマンの問いかけにドゥリーヨダナは手を伸ばして少年の膨らみを残す頬を撫でた。
「お前はすぐに美しく大きく、そして強くなるだろう。誰もがお前を選び。お前は好きなものを選びたい放題だ」
 その言葉にアシュヴァッターマンは唇を引き結んだ。
 彼は誰もに選ばれたくない。選んで欲しいのはただひとり。そして、その人はアシュヴァッターマンをいつまでも子供のように扱うのだ。
 少年は大きく腕を広げた。


■2025/09/08 No.647
ヨダナさん+マスター
「妹!?」

 ドゥリーヨダナはかわいいものが好きだ。ぬいぐるみや花、飾りのついた小物などを集めては飽きたとナーサリー達に譲っている。いつしか逆に彼女たちはかわいいものをドゥリーヨダナに持っていくようになっていた。
「おじさま。あの子はこんな髪飾りが好きかしら?」
「確かに好きそうだ。買ってやろう。いくらだ」
「お友達だものプレゼントよ」
「──あの子って誰?」
 知らない間にサーヴァントが増えたのだろうか?マスターの問いかけにドゥリーヨダナと子供達は顔を見合わせた。
 と、そこにビーマが通りかかる。明らかに顔をしかめたドゥリーヨダナの服の裾をナーサリー達が軽く引く。
「分かっておる。『聞こえている』からそうわめくな」
 マスターには誰かがわめいている声など聞こえない。だというのにナーサリー達はくすくすと笑った。
「なら、私達とお茶会をしましょう」
「エミヤのクッキーもあるよ。あの子の分も」
「ならばしかたない。わし様は心の広い兄だからな」
 こちらを剣呑な眼差しで見ているビーマに背を向けてドゥリーヨダナは子供達と歩き出した。
「マスターも一緒にいかが?」
 誘われたマスターもドゥリーヨダナを追いかける。
 可愛らしい髪飾りをやわらかな手つきで紫の髪に差し込んでドゥリーヨダナが口を開く。少女の声が歌い出した。



■2025/09/07 No.646
生前カルヨダ
「ああ、笑ってくれたのか」

 女のように泣き叫んで炎に飛び込めればよかった。
 広い部屋に運び込んだふたつ。その横たえた白い体に射抜かれた首を押しつける。知る限りの真言を唱えても当然ながら、そのふたつはくっつく事はない。
 窓から光が降り注ぐ。洗い清めたカルナはいつもより青白く無言だ。
 騒ぐ皆を追い出してその隣に座り込んでからどのくらい経っただろうか。時々扉を叩く音がする。
 ──指示を。ご命令を!王子!ドゥリーヨダナ王子!!
 黙れ黙れ!王子だから俺は友の後を追えぬ。戦をせねばならぬから嘆き続ける事すら出来ない。
「カルナ。──おまえがいなければどんな勝利も意味はない」
 返答はない。
 いつもの分かりにくく小憎らしい言葉をもう二度と聞くことは出来ない。
 そもそもおまえがいなければカウラヴァがパーンダヴァに勝つことは難しい。ビーマはわし様がなんとか出来ても、アルジュナに対抗出来る者はもういないのだ。
 おまえがいなければ勝利などない。
 子供のように膝を抱えてカルナの顔を眺めていると、陽の光がそこに踊った。
 わし様はゆっくりと息を吐いた。立ち上がり、扉を開ける。振り返ればカルナの顔は明るく照らされていた。


■2025/09/06 No.645
カルヨダ
「生き残るというものが」

「二度はない。よく味わっておくがいい」
 そのカルナの言葉を聞いて、興味深そうに方舟の中を見てまわっていたドゥリーヨダナは唇を尖らせた。
「この誰もが認める優れた王子であるわし様が生き残るに足ると選ばれないわけがなかろう」
 なぁ?と話を振られたマスターは視線を逸らせた。
 カリの化身、凶兆の子と呼ばれる悪辣な彼は、カルナの指摘通り方舟に乗るなどもう二度とないだろう。
 ライダーの戴冠戦が終わり、方舟には様々なサーヴァントが見学に来ている。豪華な物が好きなドゥリーヨダナが神の奇跡とは言え、ただの木造の舟を見たがったのはマスターにとって予想外だった。それに
「カルナさんはドゥリーヨダナを方舟に乗せようとするのかと思ってた」
「乗れるのなら、あれはオレがいなくても勝手に乗るだろう。オレもやることがある。だが──」
 カルナのネオンブルーの瞳が牧草を踏んで大騒ぎしているドゥリーヨダナを見つめた。
「世界が沈む前にはオレはあれを見つける」
 それって最期の時は一緒にいるって事だよね、とマスターは思ったが代わりにドゥリーヨダナに質問を投げた。
「ねぇ!そもそもどうして方舟に乗りたかったの?」
 ドゥリーヨダナが振り返る。その唇が笑みの形に歪んだ。
「なぁに、どんな心地がするものかと思ったのだ」


■2025/09/01 No.644
カルヨダ
「重い」
※おしゃれなんて分かりません

「カルナさんって生前は1臨だったんだよね?王様だったならおしゃれとかどうしていたの?」
 ハベトロットのその疑問になぜか胸を張ったのはドゥリーヨダナだった。
 ここは霊衣縫製室。ドゥリーヨダナとカルナはカルナの夏の霊衣のメンテナンスに来たのだ。
「カルナ」
 ドゥリーヨダナの一言にカルナは1臨へと変える。首周りの鎧にも手足にも鋭利なトゲは生えている姿はどう見ても普通に服が着れそうにない。
「まずは腰に布を巻いて全体のイメージを決める」
 手を伸ばしたドゥリーヨダナにハベトロットは長い布を乗せる。それを慣れた仕草でドゥリーヨダナはカルナの細い腰に巻き付け。
「次に鎧の下に布を通して肩に掛ける。この時胸の宝石をちら見せさせるのがポイントだな」
 その手つきを興味深そうにミスクレーンが覗き込んだ。
「すこしアンバランスな気がしますね」
「本来はこんな安い布ではなく金糸銀糸で編んだゴージャスな布に宝石の飾りをつけたものを使うのだ」
 棍棒を握る太い手がカルナの鎧のトゲを突っついた。
「足りなければここにも金鎖で繋いだ宝石を巻き付ける」
「金の鎧にコントラストを入れるのですね。なるほど」
「そして冠でバランスを取る、がこやつは言うのだ」


■2025/08/30 No.643
ビマヨダ
「その手があったか!」

「マスター、わし様は悪夢をみたのだ」
 食堂でオムライスを頬張っていたマスターの向かいに無断で腰を降ろしたドゥリーヨダナはそう語り始めた。
 問答無用である。
 ドゥリーヨダナの傍若無人は今に始まったことではなく、厨房から出てきたビーマは様子を見るに留まっている。
 それが分かっているはずのドゥリーヨダナは大げさな身振りで話を続けた。
「暴虐なパーンダヴァから逃れた可哀想なわし様はひとり震えながら湖に隠れておった」
 生前のエピソードである。サーヴァントなら生きていた頃の記憶を夢に見るのはよくあることだ。
「水面を見上げていると追いかけてきたパーンダヴァの兄弟達が見えた。向こうからはわし様が分からない。右往左往する様子を笑っていると突然ビーマが言い出したのだ」
『湖の水を全部飲めばいいだろ』
 話が変わったな。マスターは立ち上がろうとしたがドゥリーヨダナに目線で制された。
「ビーマの大きく開けた口に湖の水が、ずぞぞぞ!ずぞぞぞ!と凄まじい勢い吸い込まれていく。どんどんを湖は干上がって、最後にはわし様までビーマの口に。──マスター、言い訳はあるか?」
 生前のものではない夢はマスターが見たものだ。素直に謝るマスターの視界に待機していたビーマの表情が見えた。


■2025/08/23 No.642
わし様+ポカニキ
「そうだがっ!?」

「理想の相手との結婚式だぁ?」
 周回仲間のテスカトリポカの事業内容にドゥリーヨダナは呆れた声をあげた。
「おまえ、真面目すぎではないか?」
「意見か?」
 テスカトリポカのその言葉にドゥリーヨダナは慌てて首を振った。周回の合間のちょっとした雑談で命を取られてはたまらない。
「いやいや。提案だ。わし様ならそうだなぁ『誰でも』結婚式を挙げられるようにする。友人同士でもひとりでも。──そうして敷居を低くしてやれば、片思いの相手とでも結婚式を挙げられるようになるだろう?」
「──それは結婚式なのか?」
 神の疑問に人の子はにやにやと笑った。
「なぁに形だけだ。だがサーヴァントの友好関係を調べるには丁度よい。そのうち人に知られたくない奴らも出てくるだろう。簡単に弱みを握れるということだ。わし様賢い」
 確かにその方法なら身代わりを作る必要もなく楽に営業出来ただろう。だが。
「それでは夏が終わらない」
「終わる必要があるのか?」
 爽やかに笑うドゥリーヨダナは明らかに夏の影響下にあった。テスカトリポカはとりあえずその頭を殴りつける。
「本当に、おまえは人間だな」


■2025/08/23 No.641
カルヨダ
「オレは乞われれば与えてしまうだろう」

 マスターが殺風景なカルナの部屋の引き出しを開けると、そこには白色の布が丁寧に畳まれていた。垣間見える赤色。去年ドゥリーヨダナがカルナに渡していた日除けの布だ。
カルナさん、これもう使わないの?」
 部屋の主が驚いたように顔を上げた。
 うっかりマスターが床に落としたコップの破片を拾っていた彼の指からは血が滴り落ちている。普段守っている魔力の節約命令を無視して一瞬霊体化。傷をリセットしたカルナはそっとマスターの前でその引き出しを閉めた。
ごめん、救急セットがあるかと思って」
 謝るマスターにカルナはゆっくりと首を振る。
「おまえが気にすることではない」
 マスターは首を傾げた。
「この一年、カルナさんがこれをつけている所を見たことないよ。ドゥリーヨダナも贈り物が使われていていたら喜ぶと思う」
 その言葉にカルナは少し考えて口を開いた。
「生前、オレの衣装のほとんどはあれの贈り物だった。俺は侍従の選ぶままにそれを着て玉座に在ったものだ」
「ならどうして?」
 生前ならよくてサーヴァントになった今ならばだめなのか。
「あれほどあった贈り物をオレは何一つ座に持ち込めなかった。今、オレが持つのはこれだけだ。だが、」


■2025/08/22 No.640
ビマヨダ
「おまえは俺をみていない」

「おまえがわし様を好きだと?そんなわけがあるものか」
 渾身の告白にそう応えた幼馴染に俺は静かに確認した。
「それは俺がおまえを殺したからか?」
 ハッ、とドゥリーヨダナがおかしそうに笑う。
 それでも俺の部屋にひとりで来てくれた程度には好意はある、はずだというのに。
「子供の頃からおまえはわし様達に興味などなかっただろう?──そうだなわし様の腕を掴んでみるがいい」
 無防備に差し出された左腕を俺はそっと掴む。子供の頃は加減が分からなくて何度もその骨を折ってしまった。
「勇猛な戦士であるわし様とて痛覚はある。──わし様が痛いと思うまで力を入れてみろ」
 意味の分からない試し。だが応じなければこいつの誤解は解けないだろう。俺が小さな頃、こいつの腕を何度も掴んだのは痛めつけたかったわけではないということを。
 ゆっくりとそっと力を込めていく。鍛えた肉の柔らかさに指が沈む。ぴりぴりとこいつの皮膚が緊張に震え、──ごきり、と骨が砕けた。
「ほらな。お前はわし様に関心がない」
 痛みを感じないかのような冷たい瞳でドゥリーヨダナが俺を見つめる。
「父上はお前より力が強かったが、わし様達に怪我をさせた事など一度もない。──わし様達の反応をしっかりと『視て』いたからだ」


■2025/08/19 No.639
わし様+ミス・クレーン
「布1枚でどうだ」
※弊カルデアにはクレーンさんもジュネスさんもいません

「割引させていただきたいのです」
「ほう?条件はなんだ?」
 話が早いドゥリーヨダナにミス・クレーンは微笑んだ。
 彼らがいるのは霊衣縫製室。機織り鶴の仕事場だ。ドゥリーヨダナに霊衣は無いが富豪王族を自称する彼とクレーンは打ち合わせの最中だった。
 王族は糸から衣装を仕立てるもの。
 色とりどりのデザイン案とサンプルを広げたテーブルの上で視線が交わされる。促されてクレーンは口を開いた。
「反物を渡して欲しいのです」
「マスターにではないな。ジュネスとやらか」
 ドゥリーヨダナの指摘にクレーンは頷いた。彼女のリリィたるジュネスは彼女と同じく縫製を業とする。
「私がここまでくるまでいろいろな失敗をしました。彼女には出来るだけ同じ失敗を繰り返して欲しくないのです」
 クレーンはいくつかの反物と取り出した。
「わし様からということで渡せばいいのだな」
「はい。あなたが一番自然なので」
 ドゥリーヨダナは受け取った反物を見た。どれもが質は良いが性質は異なり厚みも違う。いい訓練になるだろう。
「割引率はこのくらいで」
 クレーンの示した金額にドゥリーヨダナは首を振った。
「若者を育てたい気持ちはわし様もよぉっく分かる。そんなちゃちな割引などより」


■2025/08/18 No.638
アシュヨダ
「俺はイリヤだったのか」
※水着美遊さんのネタバレを含みます。

 アシュヴァッターマンは激怒した。アシュヴァッターマンには精神異常は通じない。だが主を思う気持ちは誰よりも強かった。その主が。
「きゃははは、わし様はイリヤだったのだ。あーそーぼー」
 よりによって味方からの付与で精神を幼女と化してカルデアに帰って来たのだから怒らないはずがない。
「ちょっと周回しすぎちゃって」
 マスターの言い訳に、アシュヴァッターマンは座りきった黄金の目を向けた。
「俺が出る」
「え!?でも全体宝具じゃ
「俺が出る」
「──ハイ」
 圧に負けたマスターは周回に戻る。前衛はいつもの水着美遊とテスカトリポカ、そしてアシュヴァッターマンだ。ドゥリーヨダナがいないので3ターンクリアは難しい。
 まだHPが低い1waveを通常攻撃で倒して、続く2waveで美遊がどこか虚ろに微笑んだ。
「あなたも、イリヤになって」
 アシュヴァッターマンの表情が険しくなる。そのスキルで恥を嫌う彼の主は幼女化したのだ。だが、アシュヴァッターマンの宝珠はすべての弱体化を弾く。
 スキル・イリヤズムEX(Lv10)が発動する。
 世界はイリヤに包まれ。彼は口を開いた。


■2025/08/15 No.637
わし様+ヒルトさん
「それならうってつけのものが」

 悪役令嬢とは部下を従え、敵を轢くものである。
 学びを得るクリームヒルトの前で宝具を放ったドゥリーヨダナは高らかに勝利を宣言した。
「ぜぇんぶわし様のものだー!」
 ふむふむ。クリームヒルトは心の中で深く頷いた。
 夏に向けてマスターは周回している。『りんごよりも素材!!!』を合言葉に水着購入のための下準備だ。
 今年の水着サーヴァントの内定を受けていたクリームヒルトは理由をつけて周回に参加していた。
 完璧な悪役令嬢を目指して!!
 役作りはモデルがあるのが望ましい。先日(とある人物がす嫌がるような!)服を仕立てながらその場にいたふたりにさり気なくさり気なく問いかけると、妖精は首を傾げ、鶴の女性は手を打った。
「それならドゥリーヨダナさんですね」
 男性だが、だからこそ悪役令嬢のロールモデルとして分かりやすい。愛嬌もあるので観客受けもいいですよ。
 そう説明されて半信半疑で観察してみたところ。確かに欲しいものを諦めずにわがまま放題なところ、武力を辞さないところ、忠義を尽くす部下がいることなど至る所が参考になる。
 だが、困ったことにクリームヒルトには部下がいなかった。出来るならドゥリーヨダナよりも多くの部下が欲しい。そう若い鶴の女性に相談したところ彼女はにっこりと笑う。


■2025/08/13 No.636
わし様+オルジュナ
「親というものだ」

 インドラ神が苦手なドゥリーヨダナは最近安全な場所を見つけて入り浸りだ。
「私の中にもあの神はいますよ」
「カルナもおるだろうが」
 アルジュナオルタの殺風景な部屋にソファやお菓子などを持ち込んで寛いでいるドゥリーヨダナの言葉に彼はゆっくりと目を見張った。ドゥリーヨダナは説明する。
「お前はスーリヤとカルナが一体化した後に取り込んだのだろう?カルナがわし様に害を成す事はない。すなわちお前はわし様を守る」
 ほれ、と差し出された激辛菓子をアルジュナオルタは少し悩んでから口にした。じんわりと舌に刺激が広がる。
 にたりとドゥリーヨダナが笑う。
「なぁに、おまえはここにいるだけでいいのだ」
そうですね。私はあの神を我が身に取り込みました。その経緯は覚えていませんが、避けられて当然でしょう」
 呟きに、ばりばりとお菓子を噛み砕いたドゥリーヨダナは顔をしかめる。
「お前。息子達が殺されたから神になったらしいのに分かっとらんな」
「息子だけではありません」
 訂正に構わずあの大戦争を引き起こした凶兆の子は遠くに視線を投げた。
「我が子が真に欲するというなら、それを与えるのが」


■2025/08/09 No.635
わし様+以蔵さん
「おまえ、土産が欲しくないか?」
※土佐弁あやふやです

 岡田以蔵は伝書鳩だった。
「鳩というより白ヤギさんだね」
 マスターの評に首を傾げながらも岡田以蔵は今日も賭場と酒場を往復する。
「あるじゅなの父ちゃん」
 そう呼ぶと飲み騒いでいたインドラ神がご機嫌で振り返る。彼は以蔵を手招きした。
「なんだ?酒が欲しいのか?それとも財宝か?」
 正直どちらも欲しいが今の以蔵は借金で首輪をつけられた犬のようなもの。わんわんと伝言を口にする。
「おまさんの弱みってなんぞね?」
「神に弱みなどない!」
 いつもの断言に以蔵は頷いた。任務完了。並べられていた銘酒の数々を惜しく思いながらも賭場の依頼主の元へと戻る。
 その依頼主は以蔵の言葉に叫んだ。
「そんなわけがあるかーっ!?人格があるなら弱みは必ずあるはずだ!おまえはインドラ神に気に入られている。もう一度聞きに行ってこい!」
 賭博で以蔵の身ぐるみを剥いだ男の指示に人斬りは首を振った。
「さっきので借金は帳消しになったき」
 今から戻れば酒場の宴に間に合うだろう。心を踊らせている以蔵にドゥリーヨダナは手の中でサイコロを転がした。


■2025/08/09 No.634
わし様+キアラさん
「そんなのだからダメ」

 前門のキアラ、後門のドゥリーヨダナ。マスターはピンチだった。
 ベールを被り大きな角を生やしたキアラが白くたおやかな手でマスターの小さな顎を撫で上げる。
「ひどいですわ、マスター」
「ひどいのは、こいつの方だぞマスター!」
 背後に逃げ込んだドゥリーヨダナの訴えにマスターは天井を見上げた。
 悪い悪くないで考えればキアラがいやマスターが悪いのか?
 哀れな被害者のようにキアラが声を震わせる。
「わたくしもこの方も同じアーツ全体宝具だというのに」
「わし様はつよつよのバーサーカー。おまえはただのアルターエゴではないか」
「ひどいですわ!!」
「わし様煽らない。グランドなんだから理不尽にはしっかりと断ること」
「そのグランドへの推薦を断ったら貞操の危機に陥りかけたのだが?」
「まあ、言葉の交渉で分かり合えないなら他の手段を模索すべきでしょう?」
 無邪気に微笑むキアラにマスターは青ざめた。
……ちなみにそれはマスターにも適用される?」
 にっこり。マスターは震えながら立ち向かった。


■2025/08/04 No.633
アシュヨダ
「魂に刻もう」
※10周年PVネタ

 始めは皆と同じ日本酒。次はワイン。焼酎。ウィスキー。
「わし様の知らない酒をぜぇんぶ持ってこーい!!」
 飽きっぽい旦那のオーダーに給仕の雀はてんてこ舞いだ。この宴会場ではサーヴァント達がてんでに盛り上がって目が回るほど忙しいというのに、ロックにしたり炭酸で割ったり手を変え品を変え旦那を楽しませている。わがままな舌に合う酒を持っていけばチップを貰えるからだ。
「ウーロンハイでちゅ」
 受け取った旦那がぐびりと飲み。雀にQPを渡す。そしてコップをじっと見ていた俺に差し出してくれた。一口飲む。
「──お茶じゃねぇか」
「賢い雀だ。我がカウラヴァにスカウトするかぁ」
 ぎゅっと肩を抱き寄せられて持っていた酒杯が揺れる。
「冗談だ。お前達で充分足りておる」
 強欲な旦那らしくない言葉に顔をあげると偽りのない笑みが返ってくる。
 俺は返す言葉もなく旦那の肩に手を回した。
「アシュヴァッターマン。飲め。祝いの酒だ」
「ああ、」
 背後でカルナが盃を受ける気配がする。
 マスターの旅はもうすぐ終わる。ここにいるサーヴァント達はみな座に還るだろう。俺も、カルナも、旦那も。
 でもこの一瞬の事を俺は。


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