うすねず
2025-09-20 21:29:43
954文字
Public 殺戮刑事
 

煙草吸い杉さん

なんだろうこれ

時折、無性に煙草を吸いたい日がある。
ひと箱はいらない、1本でいい。
ただ立ち上る煙を無心で眺め、人為的な息苦しさで肺を汚したい日が、ある。

「ええと……
退勤後にコンビニに寄った殺死杉はレジの前に立ち尽くしていた。普段は特に意識もしないレジ奥。名前も値段も無く数字とパッケージだけが掲げられた棚がほんのり喫煙者の殺死杉を圧倒していた。
正直味にも銘柄にも拘りは無いのでどれでもいいといえばそうなのだが、選択肢が多すぎると逆に選べなくなるのが人情というものである。

店員のやる気なさげな声に送り出された殺死杉の手には小さな箱が握られていた。
「あ、ライター……
まあ、コンロでいいか。
喫煙所で吸う訳でもない。
わざわざ買いに戻るのも億劫だ。
殺死杉は喫煙家でもないので、ライターを買ったところで持て余すのは目に見えている。

「ふぅ……
コンロで煙草に火を付けるのは意外にも難しく、前髪が少し焦げてしまった。
髪の焦げる匂いに煙草の甘い香りが混ざり、塗り替えていく。
殺死杉は口から吐き出した白い煙がゆっくりと換気扇に吸い込まれていくのをぼんやり眺めた。
思ったよりも重いニコチンが殺死杉の頭をくらりと揺らす。
体が酸素を求める眩暈に身を任せながら再び煙を吸い込んだ。
最初に喫煙したのはいつだっただろう。
少なくとも成人はしていたはずだ。
ひどく息苦しくて、逆に楽になるだろうかと手を出した。
長く顔を合わせていなかった友人の影響もあったかもしれない。
瞼の裏でいつかの笑顔が浮かぶ。
眩暈が、した。



「どうしましょうかねェ、コレ」
感傷から戻った殺死杉は目の前の小さな箱を見詰める。
案の定、一本吸ったら満足してしまった。
捨てるのは何だかもったいない。
だれかに譲ろうか。
まず思い浮かんだのはよく煙を吐いている同僚。
しかしいくら常に謎の葉っぱを吸っているとはいえ未成年相手に煙草を譲るのはよろしくない。
次に浮かんだのは常に死臭を纏っている同僚。
悪くはないがなんだか面倒な絡まれ方をされる気がする。
業魂課長は……分からない。が、上司に吸い掛けの煙草を渡すのはどう考えても失礼にあたる。殺死杉はそれなりに礼節を重んじる殺戮刑事であった。
……まあ、地道に消費していこう。