うすねず
2025-08-02 20:02:17
2132文字
Public Diemi
 

雨の日

負傷からの畑にされることになってシクロに縋るモブ兵士が見たい!!!というパッション
多分双子がフラスコに来て一年くらい……?
シクロはもっと複雑だし現実見てると思うけど見たいものを優先させました。そういうもんだよ二次創作は……

「よう、シクロ」
そろそろ寝ようと居住区の通路を歩いていると、声を掛けられた。
「!オマエ、意識が戻ったのか」
俺とクワロがここに来たばかりの頃からなにかと気にかけてくれていた男だった。特に俺は「お友達」になってからは戦闘に出ることが多かったのもあって、それなりに、まあ、頼ることもある相手だ。
そんなコイツが数日前に大怪我を負って運び込まれたのは記憶に新しい。
「はは、ダーツはもうできそうにないけどな」
……
そう笑って掲げた右腕には手首から先が無く、服の裾からは包帯が覗いている。壁に手を突いているのもかっこつけているのではなく、自力では立っていられないのだろう。
「ちょっといいか?」
……おう」

真剣な様子に気圧され連れてこられたのは居住区の隅。ろくに人の訪れない暗がりはひんやりと冷えている。
話があるとここまで連れてきた男は隣に立ったまま何も言わない。気まずくなってちらりと見上げてみる。
……顔色が悪い。まだ体調が悪いんだろう。ずっとこんなところに突っ立ていたら、また倒れてしまうかもしれない。
「なあ、やっぱまだ寝てた方が」
……っシクロ、助けてくれ……!」
いい加減中に戻れと声を掛けようとした瞬間、縋りつかれて頭が真っ白になった。
「は」
「俺、畑に選ばれたって……こんな怪我なんともない!俺はまだ国の為に働ける!」
いつも見上げていた頭が俺の目線よりも下にある。
「お前、あいつの……クワロの兄弟なんだろ?俺を候補から外すように言ってくれよ……頼むよ……
酔うと痛いくらいの強さで俺の肩を叩く大きな手が震えながら俺の服にしがみ付いている。
「お前だって知ってるだろ、畑にされたやつらがどうなるのか!」
微かに声が濡れている気がして、凍った喉を無理矢理動かした。
「んで……だって、怪我したやつらは兵士やめて家に帰るんだって」
「は……そんな新人騙しの嘘、本当に信じてるのか?」
……
絞り出した言葉はあっさり切り捨てられる。
本当は、分かってた。フラスコに一度入った奴は出られない。
みんなが家に帰ったって言ってる奴がどうなったかなんて、兵士たちがこっそりと噂している「畑」の末路が本当だって、クワロが、何をしているのかだって。
コイツが畑に選ばれたってのも、本当なんだろう。
でも、俺から言ってどうなる?
アイツが俺の言葉程度で決定を変えるはずがない。
俺が……親父を、……殺した時だって顔色を変えなかったのに。
……俺、は……
……ごめん」
「は、ははっ、そうか、結局、お前も」
化け物

気が付いたら朝になっていて、アイツは見当たらなかった。
積極的に狩りに出てれば負傷者と会う事なんてほとんどない。
だから俺は、目を逸らしたんだ。


「なんだってこんな雨のなか……
「だって、あのレシピには絶対必要なんだもん……
「なら在庫くらい確認しておけよな」
ユリノヴァがどうしてもと言い張るのでハーブに採取に付き添うことになってしまった。同じ場にいたのにさっさと逃げてしまった弟が恨めしい。
……あいつは、今日もネガ物質生成のために実験があるのだと言っていた。何をしているのか知っていても、俺にはなにもできない。
「はあ……俺も手伝うから、さっさと戻るぞ」
「うん!」

「あんま奥まで行くなよ!」
「わかった!」
茂みに消える背中を見送り、俺も目当ての葉を探そうと辺りを見渡していると背後で扉の開く音がした。
「!お前、なんで……
「っ!シクロ……
そこには数日前縋りつかれた兵士が立っていた。
包帯は少し減っただろうか。少なくとも真っ直ぐ立てる程度には回復したらしい。
小さな荷物を持っている。
……ああ、そうか。
……さっさと行け」
「!……あ、りがとう」
冷たい雨の中身を屈めて転ぶように駆ける背中が見えなくなるまで、俺はただ眺めていた。


俺があの兵士を見逃してから数日。兵士と赤フードが何人か集まっているのを見かけた。
そんな必要なんてないのに、なぜか俺はその会話が耳に入る距離まで近づいてしまった。。
「なあ、聞いたか、あいつのこと……
「逃げなけりゃ生きてはいられたのにな」
「でもなあ、「畑」にされるくらいならいっそ……
ひそひそと続く声から逃げるように談話室を後にする。
やっぱり近づかなければよかった。
……そうだ、ここからから脱走したら当然そうなる。
俺はそれを分かっていたはずだ。
本当にあいつが逃げ切れると思っていたのか?
ただ罪悪感から目を逸らしただけじゃないのか?……ちがう、アイツの運が悪かっただけだ。俺は……俺は、悪くない。
あの時見逃さなければ、あの男は死なずに済んだのだろうか。
クワロにやめてくれと言っていれば……怪我をする前に俺が庇っていれば?
そんな事を言い出したらキリがない。
それにネガ物質が必要だという大義名分があれば、アイツらはどうにかして「畑」を調達してくる。
結局、誰かが犠牲になる。
俺にはどうしようもないんだ。
だから……しかたない。

その日、俺は初めて眠るのに酒の力を頼った。
浴びるように酒を飲む兵士達の気持ちが分かった気がした。