うすねず
2025-07-29 18:33:42
1764文字
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ジュオイン(生首)

特に説明なく生首なインドラ神を拾ったジュナオがキスするだけ。ジュオインと言い張る。
ジュナオは三臨想定です。

頭部だけで眠るインドラ神を見つけた時にアルジュナが受けた衝撃をいかようにすれば表すことが出来るだろうか。
困惑、戸惑い、心配、そして、遠く掠れたような罪悪感と、焦燥感。
気がつけばアルジュナはインドラ神の頭を拾い上げ、移動していた。

どこへ向かっているのか、アルジュナ自身も分からぬほどの混乱であったが、やがて見えたのはマスターの部屋へと続く扉であったことに安堵する。
どれほどこの姿を誰にも見せず、いつまでも己の腕に留めておきたくとも、それは許されることではない。半ば忘我の境地にあれど、そのことは忘れずにいられたらしい。

「少し霊基が揺らいでいるけど問題ない範囲かな。意識が無いのが気になるけど、彼は色々と特殊だからね。悔しいけど様子見するしかないかなあ」
マスターに連れられた先で万能を謳う少女が眉を顰める。彼女にもインドラ神がなぜこうなったのかはわからないらしい。
アルジュナが見守る中行われたいくつかの検査中も天空の主はその目を開かなかった。
「何か異変があれば知らせてくれるかい?」
「わかりました」
了承し、再び神々の王の頭部を抱える。
しばらく一緒にいてあげて、と告げるマスターにコクリと頷きアルジュナは自室に向かった。

生首を抱えたままふよふよと漂う。
そういえばヴァジュラ達はどうしたのだろう。首を傾げてみても彼らの主は目を閉ざしている。
千里眼を駆使しながら自室へと向かう。
どうしてか、人目に晒したくはなかった。
独占欲だろうか、それとも無様を嫌う彼を案じてだろうか。
どちらかは、わからない。

空気の抜けるような音と共に扉が閉まり、ようやくアルジュナはしっかりと抱え込んでいた頭を胸元から離し眺めた。
かつて遠い記憶の中で、アルジュナはこの生首と同一であり異なる存在を喰らいつくしたことがある。
あのとき、あの人は何を思っていたのだろう。
抵抗されたのだったか、それとも受け入れられていたのか、このアルジュナにその記憶はない。ただ摩耗しきった記憶の中で、最後に頬を撫でられた掌の暖かさと、喰らい付いた肉の熱さだけが辛うじて形を保っている。
微かな記憶を辿りながら、ゆっくりと父神の頬をなぞる。
雨雲の色をした滑らかな肌は柔らかくアルジュナの指を弾く。
丸みを帯びた耳を辿り、その頭を撫でる。それはまるで眠る我が子を慈しむようであり、無機質に存在を確かめるようでもある。
アルジュナの褐色の指先から白銀の糸がさらさらと溢れる。
かの神に意識があれば悶絶していただろうが、その瞼は未だ閉ざされ雷の瞳は隠されていた。

(ああ、取り込んでしまいたい)

この場所(カルデア)にはかつて取り込んだ様々な神性が存在しているけれど、目の前のこの神は、『アルジュナ』の父は、誰の体を借りるでもなく、他の神性と混じることも無く、ここに現界している。
ならば、そう、この神はわたしのものだ。
そんな存在を取り込まないことは酷く不自然な事であったので、耐えがたいことであったので、その後の出来事はきっといつか起こることだったのだろう。

アルジュナはおもむろに神々の王の頭部を抱えあげるとその唇に齧り付く。
それは上った日が落ちるように、ひび割れた土に雨が染み込むように、自然な動作だった。
柔らかく唇を食み、歯列を割って口内を荒らし、淡く輝く舌を吸い出す。
薄皮一枚で隔たれた美しい雷光を喰らおうとするように、執拗に噛み、舐る。
それは獣が獲物を食らう前に甘噛みするかのような所業。
理性の均衡が少しでも崩れればアルジュナの歯は容易く神の肉を裂き血を啜るだろう。
だというのに、雷霆の瞳は未だ開かない。
どちらのものとも分からない唾液がアルジュナの顎を伝いぼたぼたと膝に落ちた。

どれほどの時間が経ったのか、ふと視線を下ろした
滴る唾液が赤く見えて、アルジュナは弾かれたように口を離した。
(私は、何を)
数秒の間固まるとアルジュナはかろうじて残った冷静さでインドラ神の身を清め、寝台に丁寧に寝かせると、霊体化する間もなく逃げるように部屋を飛び出した。

残されたのは突然濃厚な魔力を渡され覚醒したと思えば息子からの捕食じみた接吻を受けており、驚きのあまり意識の無いフリを続けていた神々の王だけだった。