一定方向に流れる川の水面が、夕暮れの鮮やかなオレンジを弾いて周囲に輝きを放つ。ベンチに腰掛けてその様子を見つめながら、アキラは金曜日の夕方の喧騒に耳を傾ける。
新エリー都の中心街、ルミナスクエア。普段から金曜日は浮かれた空気が漂うものだが、今日はいつもよりも活気付いている。それもそのはず、今日はハロウィンだ。とある地域では今日が暦の上での一年の最後の日らしく、あの世とこの世の境が薄くなるのだという。だからこそ悪霊から身を守るために自らお化けの仮装をするようになったという話だが、今では「好きに仮装をしていい日」という都合のいい解釈だけが残り、人々が街に繰り出すきっかけとなっている。
仮装をして何をするでもなく駄弁ったり写真を撮ったりして盛り上がる人々を横目に見ながら、アキラはジャケットにしまったままのスマホを取り出して時間を確認する。待ち合わせの時間まで、まだ一時間もある。待たされることが分かっていて早めに六分街を発ったのは自分だ。妹に社用車を私用で使うことの許可を取り、有名な洋菓子店のケーキで手を打ってもらった。少しでも恋人と二人きりでいたいがための申し出だとリンにはバレていて「逢瀬、楽しんできてね」と満面の笑みを向けられた。物わかりの良すぎる妹に対し何も言えなくなり、アキラは無言で頷いたのだった。
妹との約束を守るため、洋菓子店のサイトを開く。季節限定のマロンケーキにしようか、それとも定番のチーズケーキにしようかと思案しつつも、つい考えてしまうのはこれから会う恋人――悠真のことだ。
今日は食事をして、映画を見た後、悠真の家に泊めてもらうことになっている。定番のデートコースと言えばその通りなのだが、アキラの心はいつもよりそわそわしていた。というのも、普段なら映画の選択権をこちらに委ねる悠真が、珍しく「この映画が見たい」と希望を口にしたからだ。しかもラブロマンスである。
何故、とその映画を詳しく調べてすぐに納得した。主演はアキラたち兄妹も大ファンであり、なおかつ秘密の友人でもある新エリー都の歌姫、アストラだ。最近知ったことだが、彼もアストラの曲を聴いたり、出演しているミュージカルを繰り返し観る程度にはファンであるらしい。なぜ隠すのかと尋ねたら、さらりと答えられた。
『だって、変にネットが盛り上がるじゃん。そういう情報を流したら』
なるほど、と遅れてアキラも理解した。アストラに負けず劣らず悠真も有名人なのだ。アストラのファンだということが周囲に知られたら、つまり好きなのか、もしや付き合っているのかと憶測が飛び交うことは必至。さすが、リスクマネジメントは万全だった。
見るともなしに見ていた洋菓子店のサイトを閉じて、アキラは再び川の方を見る。そのまま視線を上に向けると、僅かに濃紺が混ざり始めた橙色の空に星が瞬いているのが見えた。まだ明るい空の中で煌々と輝く眩い星を、一番星と呼ぶのだったか。ぼんやりとその輝きに見入っていると、賑わう雑踏の中から一際大きなはしゃぎ声が聞こえてきた。
「マサマサ! せめて一枚! 一枚でいいからツーショで!」
「嫌です。絶対嫌」
「私たち、せっかく仮装してるんだよ? 一緒に撮りたーい!」
「君たちが仮装してなくても、今はもうプライベートなんで応じる義理はないでーす」
振り向くと、魔女やゾンビナース、シーツお化けとバラエティ豊かな格好をした女子学生たちに囲まれながらも足を止めずにこちらに歩いてくる恋人の姿が見えた。今日はまた、なかなか大量に釣り上げているなぁと眺めていると、ぱちりと目が合う。すぐに小走りで駆け寄ってくると、悠真はぱっと花開くような笑みを見せた。
「待たせちゃった?」
「いや、むしろ待ち合わせの時間より早いけれど……?」
「あんたに早く会いたくて、ちょっとフライングしてきちゃった」
つまりそれは早退ではないのだろうか。彼の言葉が本当なら、柳が髪をメデューサのように逆立てていないことを祈ろう。それよりも気になるのは、悠真の後ろを金魚のフンのようにくっついてきた少女たちだ。アキラのことは待ち合わせ相手だと理解はしていそうだが、「誰?」と突き刺してくる視線が痛い。
「マサマサ……その人は……?」
「この人? 僕の大切な人」
さらりとそんな言葉を吐くと、悠真はアキラの肩に腕を回してぐいっと身を寄せた。吐息がかかるほどの至近距離に内心で焦りながらも、アキラはそっと悠真の顔を窺う。綺麗な横顔からは静かな怒りが迸っていた。
「だからさ、邪魔して欲しくないんだ。……分かるよね?」
何か言いたそうにしていた少女たちは、悠真の念を押すような低い声に萎縮したのか、顔を真っ赤にして気まずそうな顔で去って行った。遠のいていく背中が小さくなってから、アキラははぁと息を吐く。
「……君、わざとだな」
「手っ取り早いでしょ。それに僕は一言も嘘は言ってないよ」
するりと腕が離れる。ほんの少しだけその温もりを惜しいと思っていると、すぐに直球の熱をぶつけられた。
「アキラくんとの時間が一秒でも減るのは我慢ならないし」
ストレートな好意に言葉を失いかけて、こほん、とアキラは誤魔化すように喉を鳴らす。
「今日は、映画の前に食事、だったかな」
「そう思ってたんだけどさ、思ってたよりも早く着いたし、さっき見てみたら今日は映画館も早く終わるみたい。だから、映画を先にしない?」
「構わないよ。でも、意外だな。そんなに見たかったのかい、その映画」
「まあねー。いつもは適当にその時の気分で選ぶんだけど、こうして観たいもののために来たのは初めてでさ」
映画館へ歩き出す彼の隣に並びながら、普段よりも浮かれているように見える横顔を観察する。放っておくと鼻歌でも口ずさみそうな悠真に何も言えずにいると、彼はこう続けた。
「アストラさんは確かに僕も好きだけど、あんたも好きでしょ。アキラくんの好きなものを知るのもいいけど、お互いの好きなものを共有できるのもいいなぁって」
んんっ、とうっかりときめきそうになる胸を押さえる。つまり彼は、アキラとの共感を得たくてこの映画を選んだのか。確かに「好き」の共感は話も盛り上がるし、感想戦をするのも楽しそうだ。そこまで考えた上で彼がこの映画を選んでくれたことに嬉しくなり、唇を引き結んでつい漏れそうになる笑みを抑える。道端で一人でにやにやするのは少し気恥ずかしい。
小腹が空いたという彼はポップコーンを買いに行ってしまったので、アキラはまとめて二人分のチケットを購入した。戻ってきた彼の手元を見ると、オーソドックスな塩味のポップコーンの箱が一つと、コーヒーが二つ乗ったトレーがある。
「ここはキャラメル味が美味しいらしいよ」
「あんたが好きならそれでもよかったけど、僕は今普通のが食べたい気分でね」
「ふふ、別にいいよ。実を言うと、そこまでこだわりはないんだ」
目的のシアターに向かいながら他愛のない会話を繰り広げる。金曜の夕方の映画館はそこそこ混んではいるが、今回観る映画は公開から時間が経っているからか、シアターは比較的空いていた。二人掛けのシートに座ると、悠真は早速とばかりにポップコーンに手を伸ばす。小腹が空いていると言うわりには一つずつちまちまと食べるので、まるでリスみたいだな、と密かに笑う。
映画が始まると、悠真は食べる手を止めてスクリーンに釘付けになった。アキラもまた、コーヒーを片手にアストラの演技に目を奪われる。それはファンタジーものでありながら、切ない悲恋の物語だった。
アストラ自身に設定を寄せているのか、主人公はその国で一番の歌い手であり、魔女の血筋であることを隠している少女。ある日、少女は突然目の前に湧いた「闇」に家族を奪われる。消えた家族の行方を捜すうちに出会った青年と惹かれ合うが、闇を祓うには魔力を込めた歌を紡げる者の命が必要だと知る。闇に呑まれていく国の惨状を憂い、そして失った家族を取り戻すべく、少女は青年の制止を振り切って封印されていた歌を歌い上げる。暗く澱んだ国は少女が放った光によって浄化され、闇に呑まれていた者たちも無事に目を覚ますが、その国にもう少女の姿はなく、全てを見届けた青年は彼女の最後の光を胸に宿してそっと一人国を離れる――そんな粗筋。
主人公の天真爛漫なキャラはアストラによく合っていた。そして歌はやはり素晴らしいの一言に尽きる。ファンが求めているのはこれだ、というものを余すことなく浴びた。まさに歌姫、スーパースターだ。ストーリーもそこまで粗はなく余韻に浸れるものだったので、アキラは満足して隣を見る。半分以上も残ったポップコーンにいそいそと蓋をしてお持ち帰りを試みる悠真と目が合った。
「さすがはアストラさんだねぇ。歌、すごく良かった」
「まったくだ。これは彼女のために作られたと言っても過言じゃない」
「ちょっと演出が雑なところもあったけどね」
「低予算でこれだけできたんだから、僕としてはよくやったな、という感想だな」
「アストラさんを起用してるのに低予算なんだ。勿体ないなー」
「監督がアストラさんの大ファンで、熱心にオファーしたらしいよ。その熱意に負けてアストラさんも引き受けたらしい」
ビデオ屋をやっていると自然と映画の情報はアキラのもとに集まる。先にアストラ本人から仕入れていたこの映画の裏事情を口にすると、へぇ、と興味深そうに頷いた悠真は、ロビーの売店に視線を遣って足を止めた。そこには、先ほど見たばかりの映画のポスターがでかでかと掲げられている。
「パンフレット、買ってきてもいい?」
「やっぱりアストラさん目当てかい?」
「ない、とは言わないけど。今アキラくんが言ってた話が気になったから、インタビューとかも読みたいんだよね。あんたは外で待ってていいからさ」
アキラを置いてアストラのポスターに近付いていく悠真を、やれやれ、という心地で見送ると、アキラは彼の言葉に従って映画館の外に出る。夜風が頬を撫で、そのひやりとした空気に冬の訪れを実感する。耳と目に不躾に入り込んでくるのは、先ほどよりも分厚くなった雑多な喧騒。人混みを避けるように道の端を歩きながら、映画館から離れて人の少ない方へ向かう。
また川辺のベンチで待つか、と歩いた先に見えたニューススタンドで一度足を止める。平積みになった雑誌の表紙に見知った顔が写っていたからだ。一番上の一冊を手に取ると「対ホロウ六課特集!」と銘打たれた記事をぱらぱらとめくる。内容をじっくり検分することもなく、アキラはすぐに閉じて支払いを済ませ、その雑誌を手中に収めた。
まいど、と店番のイヴの素っ気ない言葉を背後に流しながら、街灯に照らされたベンチに座って雑誌をめくる。特集ページは一番最初だ。見開きで六課の四人がH.A.N.D.本部の前を歩く姿が掲載されていた。これからホロウに行きます、と言わんばかりの表情である。
普段は気怠げな雰囲気を醸し出す悠真も、出動前となるとふざけてもいられないようだ。真剣な眼差しはよく戦闘中で見るものと似通っているが、やはりアキラにはあまり見せない顔だ。別の角度から恋人の姿を見てしまったようでもやっとするような複雑な気持ちを抱えつつ、さらにページをめくる。
『――この新エリー都の星のような皆様に質問ですが……』
インタビュアーの質問にあった台詞に、読み進めていた視線が止まる。確かに、彼らはこの新エリー都の市民にとっては夜空に輝く星のような存在だろう。闇の中に光をもたらす一等星。誰もが振り返り、手を伸ばす四つの恒星。
それでもアキラの目には、悠真の存在が一際輝きを放っているように見える。恋人の欲目もあることを承知の上で感じるのは、彼の誠実さと気高さだ。映画館に行く前に見上げた、夕暮れの中でも輝いていた星を思い出す。悠真は、まさに夜でも道を見失わなせない輝きのような存在だと思う。
なんだか自分が突拍子のない気障なことを考えているように感じて顔を赤くしながら次のページをめくると、インタビューの続きが掲載されていた。
『――もし大事なものをなくしてしまったら、どうしますか?』
どんな質問だ、と苦笑する。対する六課の回答はおふざけなのか天然なのか、一部を除いて笑いを誘うものだ。ダウジング、匂いを嗅ぐ、朝からの行動を思い出す、とバラエティに富んだ回答が出てくる中、『じゃあ浅羽さんは?』と矛先が向く。それを読もうとした時だった。
上から伸びてきた手に、雑誌を取り上げられた。恨みを込めて顔を上げると、そこには映画館のロゴが入った大きめのビニール袋を手に下げ、僅かに息を切らせた悠真がいた。
「よ、読んじゃった……?」
何やら彼の顔から焦りが見て取れて、驚きつつも首を横に振る。すると悠真は明らかにほっとしたような顔をした。
その隙を見逃さず、奪われたものを取り返す。安堵から一転、動揺を滲ませる彼が動く前にベンチから立ち上がり、距離を取って、先程途中まで読んでいたところに視線を戻す。
『なくしません。絶対に』
『――えぇ? なくすこともあるのでは?』
『僕にとってそれは、一番星みたいなものですから。目印になる星ってあるでしょう? だから絶対に、見失わないんです』
『――曇ったりしたらどうするんですか笑』
『そしたら僕が晴らしてやりますよ』
『悠真ならやりかねんな』
『その情熱を職務に向けてほしいものですけれど』
『ハルマサ、いつも書類ギリギリだもんね!』
『蒼角ちゃんまでそんなこと言う!?』
そんな他愛ない六課のやり取りに、けれどアキラは頬が熱くなるのを感じていた。
絶対に見失わない一番星。
彼がそう評するほどのものが一体何なのか分からないほど、自分も鈍くはない。
「……それは僕の台詞なんだけどね」
先ほどまで考えていた気障な思いを反芻しながら、ぽつり、と相手に聞こえないくらいの小声で呟くと、アキラは顔を上げて悠真の姿を真っ直ぐに捉える。彼はインタビューを読まれたことが恥ずかしいのか、あー、うー、と言葉にもならない唸り声をあげていたが、ふと何かを思い出したようにビニール袋に手を突っ込んだ。
「そ、そうだ。これ。さっき売店にあるのを見て、買ってきちゃったんだ」
ポップコーンの残りを入れるために大きな袋にして貰ったのだろうと思っていたが、それだけではないらしい。彼が取り出して広げたのは、つば広のとんがり帽子だ。映画の中で主人公が愛用していたもので、最後に映った青年はその帽子を大事そうに抱えていた。帽子といっても子供向けの簡単な作りのグッズだが、悠真はいそいそとそれを頭に被って「どう?」と聞いてきた。
「今日にぴったりかなって。魔女っぽくない?」
照れながらはにかむ相手に釣られて、自然と笑みがこぼれる。雑誌をベンチに置くと両手を伸ばしてその帽子のつばを指先でつまんでくきと引き、アキラは顔を近付けて驚いたように目を見開く相手の唇に軽く自分のそれを重ねた。
背後は川が流れるばかりで誰も居ない。悠真と自分の顔はつば広の帽子に完全に隠れている。雑踏の中、こんな端のスペースで戯れる恋人のやり取りなど誰も気にしないだろう。すぐに離れて相手の反応を窺うと、予想通り顔を真っ赤にして「えぇ……?」と戸惑いの声を漏らした。
「……あ。言い忘れていたな。『トリックオアトリート』」
雑誌を自分の手に戻しながら今日に相応しい言葉を口にすると、ようやく硬直が溶けた相手は口元を押さえながらじとりと目を細めた。
「あんた、そういう事する人だったっけ……」
「この夜の雰囲気に酔っているのか、はたまた悪霊にでも憑かれているのか。どちらだと思う?」
「ふーん……じゃあ、悪魔祓いをしないとね?」
に、と悪戯めいた笑みを浮かべる悠真は、アキラの頭に帽子をすっぽりと被せて手を掴んだ。帽子を押さえながら悠真の手に引かれてついて行く。次第に賑わいが膨れ上がる大通りではなく、これはどうやらアキラがいつも車を駐めている駐車場に向かっているようだと気付き、歩きながら声を上げる。
「悠真、食事はいいのかい?」
「どうせ今日はどの店も早仕舞いだって。それに今は食事よりも、あんたを堪能したい」
「……途中でお腹を鳴らして雰囲気ぶち壊し、ということにはならないかな?」
「冷静だなあ……じゃあ、あんたが作ってよ。折角だからカボチャ料理とか」
「いいとも。君の望む通りにしよう」
グラタン、スープ、サラダなんかもいいかもしれない。パイは少し時間が掛かるから却下だ。焼いている時間が待ちきれず、きっと翌朝冷めたパイを食べることになるのだ。湿気てしまったポップコーンも復活させて、味変をしてみるのもいい。何を作っても、彼は美味しいと喜んで食べるだろう。
想像してふふっと笑ったのを悠真に見咎められ「何笑ってるのさ」と拗ねた顔をされてしまった。
*
「――まるで、私を導く星のような輝きだった」
プロキシをそんな風に評したのは、上司である星見雅だった。
彼女は一度讃頌会の人間にはめられて、我を失ったことがある。強烈な嵐のような力の暴走で何も見えない中、遙か遠くに輝く光が見えた。どうにか一歩ずつ足を踏みしめて近付くと、そこに居たのはこちらに手を差し伸べるプロキシだった――そんな話を、雅はまるで夢うつつでも見ているかのように静かに語ってくれた。
それを聞いた時に悠真が抱いたのは、この上司は随分とあのプロキシにご執心のようだ、という客観的な感想だった。まだ彼との関係が知り合い程度だった頃の話だ。心の中でそんな馬鹿なと苦笑したものだが、彼女の評価は正しかったのかもしれない、と今になって考えを改める。
アキラの周りは輝いて見える。そこだけ鮮やかに色付いたかのように。時々眩しすぎて目を細めることもあるけれど、いつだって変わらず彼はそこに居てくれる。
雑誌のインタビューに綴られた自分の言葉は全て、偽りの無い悠真の本心だ。
だって見失うわけがない。こんなに目映い輝きを。
ふふ、と笑う声が聞こえて振り返ると、帽子の影に隠れるように微笑むアキラが見えた。何笑ってるのさ、と唇を尖らせると、顔を上げた彼は眦を更に緩ませて「何も?」と答える。
揺れる銀糸の髪は月のように映え、その瞳は宝石のように輝く。意識すればするほど、彼の輝きは増していく。それだけでのぼせたように顔が熱くなる。ちゃちな帽子では隠しきれない彼を早く誰にも見られないところに隠したくて無意識に歩く速度を速めてしまい、息を切らせた彼に文句を言われてしまったが、それでも足は止めない。
ようやく辿り着いた駐車場で、息を整えながら車の鍵を開ける彼から視線を外し、ふと空を見上げる。
人工的な光に溢れた都会では星などほとんど見えないが、その中でひときわ明るい星を見つけた。
――それは輝く一番星。
けれど自分にとっての唯一の導きは遠い空ではなくこの地上にあって、隣で笑う彼に他ならないのだ。
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