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ugatuno
2025-10-31 18:49:44
2159文字
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二次小説
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その心臓は世界のかたち 12話
病室のカーテン越しに、静かな足音が響く。
まだ早朝。面会時間ギリギリのはずなのに、ドアがそっと開いた。
コマが、ゆっくりと入ってくる。両手には紙袋と、魔法瓶。
「
……
ジンペイ君、まだ寝てるかな
……
」
カーテンをそっと開けると、白いシーツの中、ジンペイは静かに呼吸していた。
顔色はまだ悪い。額にかかる前髪が、少しだけ汗で張りついている。
「うん
……
寝てていいんだよ」
コマは、小さく微笑んだ。
ベッドの横に、紙袋をそっと置く。
中身は、ゼリー、蒸しパン、ふかふかのタオル、そして
——
保温ポットに入った白湯。
ジンペイを見つめながら、ぽつりと呟く。
「
……
ほんとは、昨日の夜にも来ようと思ったけど
……
ラントくんに“小間くんまで倒れたら意味がない”って止められちゃってさ」
ベッドの脇に椅子を引いて、そっと座る。魔法瓶のふたを開けて、湯気がふわりと立った。
「
……
ねぇ、ジンペイ君。しんどいって言ったら、ダメだったのかな
……
?」
ふっと笑って。
「ううん
……
言えないよね。ジンペイ君、そういう子だもん」
「
……
でもね。僕にだけは、ちょっとくらい、弱いとこ見せてよ。
……
そしたら、僕もがんばれるからさ」
ジンペイのまぶたが少しだけ動いた気がした。
立ち上がりながら、話しかける。
「差し入れ、置いてくね。
……
白湯、ぬるくなっちゃう前に飲んでね」
病室を出る直前、コマはふと振り返って
——
「
……
ジンペイ君。ちゃんと休んで、帰ってきてね。“ヒーロー”でも、“友達”でも、どっちでもいいから」
やさしい音を立てて、ドアが閉まった。
コマが、空のエコバッグを小脇に抱えて校門の方へ向かっている。
その角を曲がったところで、前からフブキが歩いてきた。
「あっ、フブキさん」
「あら、小間くん。ちょうどよかったわ。ジンペイ君のことで、少し話せる?」
「
……
うん。もちろん。今、お見舞いに行ってきたとこなんだ」
フブキは、ほんの少し表情を緩める。優しい顔、ではないけれど、静かに関心を寄せる目だった。
「
……
やっぱりね。なんとなく、今日の空気で分かったわ。まだ、無理そうだなって」
「
……
うん。朝、少し寝てたけど、顔色は
……
よくなかった。ごはん、ちゃんと食べられてるかどうかも、ちょっと不安で
……
」
フブキは立ち止まり、少し遠くを見る。
「新生妖魔界の影響、思ってる以上に重いものなんでしょうね。それを
……
一人で、ずっと背負ってたんだもの、無理もないわ」
コマが、少しうつむいて呟く。
「
……
もっと早く、気づけてたらよかったんだけど」
「それは、私もよ
……
」
少しだけ、気まずい沈黙が流れた。
フブキがほんの少し言いよどんで、また口を開く。
「でも
……
小間くんがいたから、ジンペイ君はちゃんとここにいるんじゃないかしら」
「
……
え?」
「
……
ジンペイ君が壊れなかったのは、“全部背負ってもいいと思える誰か”がいたからなんじゃないか、って思うの」
「
……
あなたみたいな、ね」
それだけ言うと、表情を悟られないようにフブキはまた歩き出す。
「また明日ね。ジンペイ君にも、よろしく」
「うん
……
ありがとう、フブキさん
……
」
コマは、その後ろ姿をそっと見送った。
窓から淡い光が差し込む。静かな病室。カーテンの隙間が少し開いている。
光を感じて、うっすらとまぶたを開いた。
「
……
朝
……
?」
また、声がかすれている。
胸の奥はまだ重い。
それでも、少し浮上していた。
「
……
なんか、寝た気がするな」
小さくつぶやいた声が、自分のものじゃないみたいだった。
やっと喉が動いた──そんな感覚だった。
ゆっくりと上体を起こす。
頭は少しふらついたけど、昨日のような地面が崩れる感じはなかった。
視線を動かすと、ベッド脇に置かれた紙袋と、湯気の消えた魔法瓶が見えた。
袋の中には、ゼリーと、小ぶりな蒸しパン、ふかふかのタオル。魔法瓶には、湯気の代わりにやわらかなぬくもりだけが残っている。
……
そして、コマくんの文字で書かれたメモ。
『食べられそうなときに、無理せずちょっとずつね。また昼に来るよ。白湯持って。ちゃんと寝られてたら嬉しいな』
「
……
あー
……
コマくんか
……
」
(そりゃ、コマくんだよな)
思わず少しだけ苦笑する。ここまで優しい気の配り方をしてくれるのなんて、コマくんしかいない。
そっと魔法瓶を持ち上げて、カップに白湯を注ぐ。まだ、ほんのりあたたかい。
口元に運び、少しだけすする。まだ重さはあるけれど、喉を通る感覚は確かだった。
冷えかけた白湯が、ひどく沁みる気がした。
「
……
ぬる
……
でも、あったけえ」
──今なら、少しだけ食べられる気がする。
ゼリーを開けて、プラのスプーンでひとすくい。
ここ数日はろくに何も食べていなかったけれど、一口入れたあとは、自分でも驚くくらいスムーズに飲み込めた──甘い。おいしい、と思える。
少しずつ食べ進めて、気がつくと容器は空になっていた。
ぐしゃ、と紙袋を握った手が震える。
小さく笑って、うつむきながら声をこぼす。
「
……
なんだよ、これ
……
」
笑ってるのに、目尻から一滴だけ、涙が落ちた。
(
……
ありがとな、コマくん)
静かに鼻をすする音が、朝の静けさに溶けていった。
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