さゆき
2025-10-31 17:30:52
4832文字
Public
 

ようこそ、ハロウィンの夢へ

星ちゃん主催のハロウィンパーティに招かれたアベンチュリンのお話。
みんなの子ども姿は、ちびネコシリーズをイメージしています。あのシリーズ可愛いですよね……

 宴の星ピノコニー。
 調和セレモニーの騒動が過去のものとなって久しいこの星で、今日は変わったイベントが催されているらしい。
 星穹列車から届いたオレンジ色の招待状を見せたアベンチュリンに、ホテルのスタッフは恭しく頭を下げた。
「ようこそ、ホテル・レバリーへ。お客様は……ああ、星様からのご招待ですね?ではこちらへどうぞ。本日は特別なイベントへご案内いたします」
「へぇ、特別なイベントか。どんな内容か聞いても良いのかな?」
「申し訳ございません、星様よりサプライズでと厳命を受けておりまして……ただ、『来ればわかる』と伝えてほしいと」
「あはは、それはそれは……彼女らしいね。分かった、とりあえず行ってみるとしよう」
 スタッフからルームキーを受け取る。いつものフロアや部屋でないことに少し疑念を持ったが、案内されたドリームプールの部屋を一目見てそれは解消された。
……なるほど。特別なイベント用の、特殊なドリームプールってわけか」
「はい。イベント用に調整された特別仕様となっております。詳しくはテーブル上のメッセージカードをご覧ください。それでは、良い夢を」
 スタッフの足音が遠ざかるのを見届けて、アベンチュリンはテーブルに置かれたメッセージカードを手に取った。
 馴染みのある筆跡で、こう書かれている。
『ハッピーハロウィン!今日はテールオブパム号でハロウィンパーティを行います。
 まず、参加する人は、大人役か子ども役、どちらかを選んで。
 次に子ども役を選んだ人だけ、テーブルに置いてあるキャンディを持ってドリームプールに入ってね。後はいつものようにゆっくり目を閉じれば良いよ。
 それじゃ、良い夢を!  星より』
 テールオブパム号。この間はタルタロフ号で、その前は……フライングクロック号じゃなかっただろうか?
 いや、それよりも重要なポイントがあるな、とアベンチュリンはカードを読み返した。
「大人役と子ども役……?」
 メッセージカードが置かれていたテーブルを見直すと、包装されたロリポップキャンディが一つ側に置かれていた。オレンジと紫。なんとも派手な色のキャンディを手に取り、ドリームプールへ向かう。
「大人役を選んだ方が、多分安全なんだろうけれど……
 とぷん、とドリームプールへ静かに横たわる。手に持ったキャンディを胸元に添えて、アベンチュリンはゆっくり目を閉じた。
「きっと君は、こっちを選ぶことを期待しているんだろう?」

***

……これは、驚いたな」
 夢の中で気付いたアベンチュリンがまず目にしたのは、全てが大きくなったテールオブパム号の船内だった。
 いや、正確に言うとそうではない。アベンチュリン自身が小さく……ピピシ人ほどの子どもになっているのだ。
「服も子ども用にリサイズされてる……うわ、ズボンが短い。本当に子どもみたいだ」
 いつものファーがついた上着と長ズボンから、動きやすいベストとハーフパンツへ。背面のウエストには大きなリボンとチュールレースが重ねられていて、まるでサーカスの子役にでもなったかのような衣装になっている。
 周りの大人たちや家具の背の高さが新鮮で、きょろきょろと辺りを見渡しながら船内を歩いていると、見知った……ような子どもから指をさされた。
「あー!アベンチュリン!来たんだ!」
「三月、いきなり人を指差すな。……すまない、アベンチュリンさん。今日はこの通り、星の提案でイベントデーとなっている」
 子ども姿のなのかを抱えた丹恒が、アベンチュリンの視線に合わせて身を屈める。
「やあ、お招きありがとう。丹恒くんは大人役なんだね」
「俺は護衛だからな。何かあった時のためにこちらを選んだ」
「丹恒も子どもでよかったのに!ヨウおじちゃんはウキウキで子どもになってるよ?」
……今回は、やめておく」
 丹恒の腕から降りたなのかは、「星は船長室にいるって」と伝えるとアベンチュリンの姿を上から下までじっくり観察し始めた。
……何か変かな?」
「アンタの子どもの頃って、こんな感じなのかぁって思って。ねえねえ、一緒に写真撮っていい?」
「SNSに無断でアップしないなら。上げるならカンパニーに許可とってね」
「やった!丹恒、撮って!」
 いそいそとデジタルカメラを丹恒に渡したなのかは、アベンチュリンの横で可愛く猫の威嚇のようなポーズを取った。
「合わせた方がいい?」
「うん、美少女のツーショットなんだからポーズは一緒だよ!」
「僕は少年なんだけどな……
「細かいことはいいの!」
 いえーい!と声を上げたなのかに合わせて、丹恒がシャッターを切る。仕上がりを確認したなのかは満足そうに頷くと、「後で星とも集合写真撮ろうよ」と笑った。
「そういえば、星ちゃんはどっちの姿なんだい?子ども?それとも大人?」
「それは……
「会えば分かるよ!」

***

「よく来たね、アベンチュリン。ここで会ったが100年目ってやつだよ」
「やあ、星ちゃん。色々聞きたいことはあるけど……まず、机の上に乗るのは危ないから降りようか」
「それもそうだね」
 船長室を訪ねたアベンチュリンを出迎えたのは、長机の上に仁王立ちしてソフトビニール製のバットを構えた幼い星の姿だった。やっぱり子ども役にしておいて正解だったな、と思いながら手を差し出すと、星は素直に手を取って机から降りる。
「小さい君も可愛いね。なんだか新鮮だな」
「そういうあんたも、私には負けるけど中々の美少女だよ。自信持って良い」
……君が美少女なのはわかるけどね……?」
 列車で流行ってるのかい、それ。
 困惑気味なアベンチュリンに構わず、星は船長室に用意された音響設備の電源をポチッと入れると、大きな声でこう宣言した。
「テールオブパム号にお集まりの皆さん、ようこそハロウィンパーティへ!船長である私、星がパーティの開会を宣言します。今夜は心ゆくまで、このハロウィンをお楽しみください!」
 船内から拍手の音が遠く聞こえてくる。それに満足気な表情をした星は、続けて今夜のパーティのルールを発表した。
「子ども役の皆さんにはカボチャのケース、大人役の皆さんにはお菓子のカゴをお配りします。カボチャのケースを持った子どもに『トリックオアトリート』と言われた大人は、お菓子を一つカボチャのケースに入れる。時計がてっぺんまで上った時、カボチャのケースに一番お菓子が入っていた子どもと、お菓子のカゴが空っぽになった大人が勝ち!優勝した子どもと、頑張ってお菓子を全部配った大人には船長グッズをプレゼント!」
 今から役を変更しても良いけど、と前置きした星は楽しそうにこう続けた。
「『トリックオアトリート』と言ってもお菓子を持っていない大人がいたら、イタズラ可能!ただし、夢から醒めない程度のイタズラにしてね。以上!ルールについて不明なことがあったら、近くの船内クルーに聞いてね。それじゃ、半システム時間後に開始するからそれまでに大人か子ども、どちらになるか決めてね。見学したい人はどっちも受け取らなくて大丈夫だよ。
 ……それじゃ、ハロウィンの夜を楽しんでね!」
 放送を終えた星はいそいそと船長室の棚を漁ると、真っ黒なローブを二着取り出した。一着は自分で着込み、もう一着を「はい」とアベンチュリンに手渡す。
「これは?」
「本当のハロウィンだとみんな仮装するんだけど、今回は時間がなかったから、これだけなの。丹恒は大人役やるって言ってたから、あんたが良いかなって」
 星が纏うオレンジのリボンのローブと、アベンチュリンが持つ紫のリボンのローブ。リボン以外は揃いのそれをぼんやり見つめていると、星が急かすように頭から被せてきた。
「わ……っ、星ちゃん、僕が子ども役で来なかったらどうするつもりだったんだい」
「そしたら、ヨウおじちゃんにお願いしてたかも。なのは写真撮りたいからローブはイヤって断られちゃったし」
 でも、と星は笑ってカボチャのケースを握らせた。
「あんたなら絶対、こっちで来てくれるって賭けてたから。当たりだったね」
 行こう、もうすぐ開始の鐘が鳴るよ。
 星に手を引かれて、船長室を飛び出す。気付けば、たくさんのカボチャやコウモリの飾りで彩られた船内に、お菓子のカゴを持った大人たちやカボチャのケースを持った子ども達が集まってイベントの開始を待っていた。
 大時計を見ると、星が宣言した開始時刻まであと少し。ゲームが始まる前の独特な高揚感が空気に乗って伝わり……
……ハッピーハロウィン!イベント開始だよ!」
 高らかに鳴った鐘の音と、バットを掲げた星の合図で、一夜限りのハロウィンが幕を開けた。

***

「つかれた……
 再び船長室に戻ってきたのは、イベントが終わって半システム時間が過ぎた頃。
 溢れそうなほどお菓子が入ったカボチャのケースと、優勝景品の船長ぬいぐるみを抱えたアベンチュリンは疲労困憊といった様子だった。
「お疲れ様ーアベンチュリン。優勝おめでとう」
「いいのかな、僕が優勝で。君のそばにいたから、お菓子が集まったような気もするけど」
「いや……なんか、むしろお菓子持ってる大人の方がアベンチュリンに集まってきてたと思うけど……
 普段は「何を考えているか分からない」「怖い」と言われがちなアベンチュリンでも、子ども姿だと警戒心が薄れるらしい。その容姿の珍しさや、船長と揃いのローブ姿に興味を引かれたらしい大人達に囲まれ、気付けばカボチャのケースはお菓子でパンパンになっていた。
「ジェイドも『子ども服のモデル……ここでなら実現可能かしら……』って言ってたし。そのうち話があるかもね」
 末恐ろしい発言に、アベンチュリンの頬がひくりと引き攣った。これ以上仕事を増やされるのはごめんだ。
「あの人、今日子ども姿で来てたよね?」
「大人姿だとポーンショップ目当てのお客さんが来ちゃうから遠慮したって言ってたよ。トパーズと一緒に子ども姿を堪能してから帰るって」
「そう……
 それじゃ、もう少しゆっくりしようかな。
 そう言ってアベンチュリンが船長室のソファに腰掛けると、星が無言で隣に座った。
……ねえ」
「ん?」
「楽しかった?ハロウィン」
「良い夜だったと思うよ。皆笑っていたし……あぁ、イタズラはなかなか刺激的だったけれど。丹恒くんは大丈夫だったかな……
……そうじゃなくて」
 星はローブで顔を隠すようにしながら、ぽつりと呟いた。
「あんたは、楽しめた?」
……うん、楽しかった。子どもに戻るっていうのも、斬新で面白かったよ」
「そっか」
 良かった。小さくホッとした息が伝わってきて、アベンチュリンも頬を緩める。
「ところで、このお菓子なんだけどさ……夢の中でも食べきれないくらいあるから、一緒に食べてくれるかい?」
「その言葉を待ってたよ。勿論全部食べる!」
「はは……さすがマイフレンド。それじゃ、深夜のお菓子パーティの始まりだ!」
「やった!」
 夢の中ならカロリーゼロだし、食べ過ぎても怒られない。
 そう言って意気揚々とお菓子の袋を開け始めた星を横目に見ながら、アベンチュリンは近くにあったロリポップに齧り付いた。


「そう言えば、どうしてわざわざ夢境の技術を使って子どもの姿になれるようにしたんだい?
ハロウィンは、大人でも参加できるイベントなんだろう?」
「だって、大人だとお菓子もらえないじゃん。そんなの狡い」
「狡い?」
「私は目覚めた時、もう大きかったんだよ!子どもしか貰えないなんて、って思ってる大人は私以外にもいるはず!って思ったから、みんな子どもになれるようにした。これで合法的にお菓子がもらえるし」
「君のお菓子に対する情熱には負けるな……