Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ユキ
2025-10-31 15:20:24
3894文字
Public
🌲🎏
Clear cache
恋の音
杉鯉(現パロ)SS
「恋せよ音のなるほうへ!」展示作品
開催ありがとうございます
お題企画「恋の音」で参加させていただきました
ぐっと喉が詰まるような違和感に意識が浮上する
奥の方のいがいがする不快感にんん、と喉を鳴らし乾いた口内から搾り出した唾を飲み込む。ちょっとはましになるかと思ったのに変わらない、むしろ下手に刺激してしまったのかより強くなった違和感に喉をさすりながら身体を起こすと、隣で眠る男がぐずるような声を上げた
背中に回されていた腕が滑り落ちて腰にまとわりついてぐっと締め付けられる。そのままぐりぐりと擦り付けられる頭を宥めるように撫でて汗で少し湿った髪を梳いてやれば段々と身体の力が抜けていく。深くなった呼吸にそっと覗き込めば、僅かに開いた口の端からよだれを垂らす間抜け面に思わず笑ってしまう
くすくすと漏れる笑いがそろそろ限界を訴えている喉に引っかかって、布団の周りに目を向けるがいつも近くに置いているはずの水は見当たらない。しょうがないな、と力が抜けた腕を腰の上からどかし、急に進んだ季節に追いていかれた接触冷感のシーツとタオルケットから抜け出せば、素足に触れるヒヤリと冷たい床とさっきまで体温が高い男にくっつかれていたからか少し汗ばんだ肌を撫でる冷えた空気にぶるりと身体が震えた
そろそろ厚手の服を持ち込むか、スリッパも必要だな、と思いながら真っ暗な部屋の中をすり足で歩いて台所へ向かい、時々足先に当たるものを避けながらたどり着いた台所
流しの上の蛍光灯からぶら下がる紐を手探りで掴んで引っ張っり、じじっと鳴りながら点いた蛍光灯の白い光が目に痛い
何度か瞬きをして夕飯の洗い物が入れられたままのステンレスのかごの中からプラスチックのコップを取り出す。軽く水滴を払い、冷蔵庫の中から麦茶の入ったボトルを取り出した
残り少ない中身に全部入るだろうと注いでみたが思ったよりも多かったらしい。ギリギリまで入れたコップと二センチくらい残ったボトルを見比べて、ちょっと悩んでからコップの縁に口を寄せる
半分まで減らしたコップの中に残りを全部注ぎ、空になったボトルをシンクに置いて今度はゆっくりコップを傾けた
さっきまで真っ暗だった部屋の中が蛍光灯の明かりでぼんやりと照らされている。ソファの背にかけていた上着や床に直置きしていたカバンがかけられた二つ並んだラック、この間持ってきたドライヤーは箱の中にしまわれてテレビ台の下に、その上にはこの間の旅行で買った置物と写真立てが飾られている
物は多いがきちんと整理されていた一人暮らしの部屋のちょっとした変化を見つけるたびにじわりと胸があったかくなる
よいしょと寄りかかっていたシンクから身体を起こして蛇口をひねる。そのまま置いておいたら怒られるからボトルもコップもちゃんと洗って、すでにいっぱいなかごの中になんとか押し込んだ。皿も茶碗も二つずつ入れるにはこのかごでは小さすぎるから、そろそろもっと大きいものを買わないかと言ってみようか
そんな事を考えながら冷たい水で少しかじかむ手を伸ばして、ぱちんと電気を消した
暗くなった部屋の輪郭がじわじわと浮き上がってくるまで待ってすり足で戻った先、カーテンの隙間から差し込んだ外の明かりで照らされた布団でさっきと同じ体制で眠る杉元の横に潜り込むと熱い腕にぐっと引き寄せられた
胸元からもごもごと冷たいとぼやく声が聞こえてきたので、足をくっつけてやれば情けない声があがる。面白くなってさらに足を擦り寄せてついでに手を首元に当ててやればもぉ、と不満そうな声を上げながら身体を抑え込まれた。ぎゅうぎゅうと押し付けられた身体の熱に思っていたよりも冷えていた身体からほっと力が抜ける
「
……
どこ行ってたの」
耳元で少し掠れた声で囁かれてそわりと肌が粟立つ
「お茶」
「......うわごめん、わすれてた」
「んや
…………
ちゃんと洗ったぞ」
「
……
?あぁ
……
んはは、えらいえらい」
ぐりぐりと擦り付けられていた熱が離れていく。周りを確認したんだろう、ごめんねぇとしょぼんという効果音が聞こえてきそうな声に思い掛けずときめいてしまう。かわいいなお前
そういえば、とちゃんと洗ったことを伝えたら子どもを相手にするかのようにえらいねぇとか言いながら頭を撫でてきた。むかつくな貴様
よしよしと撫でてくる手を払い除けても楽しそうにくふくふと笑っている男の足を蹴りつければ、ごめんごめんと笑いながら足を絡め取られる。そのまま抱き込まれてぴたりとくっついた身体から杉元の心臓の音が伝わってくる
とくとくと規則正しく鳴る音に、ふいに昔のことを思い出した
まだ杉元とただの友人だった頃
高校の時に知り合ってそこからなんだかんだ交流が続いて、卒業して進路が別れても暇を見つけては連絡を取って、一緒に遊んで、成人してからはどちらかの家で夜中まで飲んでそのまま部屋に泊まって
そんな気の置けない友人と過ごす時間は心地よくて大切で、ずっとこうだったらいいなとそう思っていて
杉元も同じだと思っていたから、しばらくはこうやって泊まるのも、会うこともできないと言われたのはまさに青天の霹靂だった
いや、急ではなかったのかもしれない
一緒に遊ぶ頻度が減っていたり、外で飲んだ帰りに私が家に行きたいと言うと部屋が汚いからと渋ってじゃあ私の家にと誘うと次の日予定があるからとそそくさと帰っていって
忙しいのだろうなと分かってはいてもやっぱり寂しくて、少しずつ溜まっていた不満が限界を迎えて半ば無理やり部屋に押しかけた日のことだった
明らかによそよそしい態度に理由を聞いてもなんとか誤魔化そうとしているのが透けて見えて、目を合わせようともしない杉元にだんだんイライラしてきて、ハッキリしろと言えばそう返された
今思い返すと恥ずかしくてたまらないが、その時の私は大事にしていたものを取り上げられたような、裏切られたようなそんな気持ちでいっぱいで
なんで、どうしてと子どものように駄々をこねる自分を見る杉元の顔がグシャリと歪んで、ぐっと引き寄せられて抱きしめられた
バクバクと今にも飛び出てきそうな心臓の音を覚えている
突然のことに固まる私を一度強く抱きしめてから身体を離した杉元が
お前のことが好きなんだ、と
震える手で痛みを感じるほど強く肩を掴まれて
俯いたまま今にも消え入りそうな声でそう言われて、私は
「あの時の杉元は可愛かった」
「えぇ?急に何?」
なんでもない、と誤魔化すように不思議そうに覗き込んできた杉元のシーツのシワが付いた頬に唇を寄せる。途端にでれっと崩れた顔は間抜けで、楽しそうに擦り寄せられる頬はちょっとチクチクして痛い
そんなやり取りの中でも規則正しく穏やかな心臓の音が、少し面白くないなと思う
思い掛けず好意を自覚して交際が始まった時は、こっちから触るだけでも顔を真っ赤にしてうろたえていたのに
「
……
可愛くない」
「えぇ
……
?」
機嫌良さそうに額や頬に唇を落としていた杉元が困惑した声でマジでなんなの、と聞いてきたけど説明するのもなんとなく癪でだんまりを決め込む。そんな私を、しょうがないなぁとでも言いたげな、なんとも腹の立つ顔で見てくる杉元をぎゃふんと言わせてやりたくて、ゆるく弧を描く唇に唇を合わせてやった
心臓がばくんと大きく跳ねたのがくっついた身体から伝わってくる
大きく開かれた目と目を合わせたままわずかに開かれた唇をぺろと舐めて、離れた
え、とそのまま深くなることを期待していたらしく口を開いて舌を出したまま固まる杉元の顔が面白くて思わず笑う。からかわれたと気が付いて、ぶすくれて突き出された唇を指で摘むとがぶりと噛みつかれる
なんだか面白くなってきてそのまま二人でじゃれている間も杉元の心臓も、自分の心臓も落ち着いた音のまま
あの日から杉元だけじゃなくて私の心臓も、近くにいるだけで、顔を見て声を聞くだけで、少し触れ合うだけでもうるさかったのに
それはいいことなのだろうけれど
ほんの少し寂しい
ぼんやりとそんな事を考えていたら、ばさりとかかっていた布団がはねのけられて冷えた空気が身体に触れる
いつの間にか組み敷かれている身体
上に乗る男は眉間に皺を寄せていて、頬に添えられた手のひらは熱く汗ばんでいる
「
……
もっかいいい?」
その言葉には何も返さず、手を首に回して引き寄せる
杉元の身体から伝わってくる音と自分の中から聞こえてくる音が同じ速さで重なる
「
……
うるさいな」
「ん?」
「心臓」
「そりゃまぁ
……
こんな状況だし?」
「
……
それもそうだな」
ゆるりと口角が上がる
さっきまですこし沈んでいた心が軽くなった気がして、抱き寄せた頭をわしわしと撫でる
大人しくされるがままだった杉元が恐る恐るあのぉ
……
と声をかけてきたので唇を合わせる
今度はちゃんと深く長く
はぁ、と一度唇を離して大きく息をついた
「
……
杉元」
「んー?」
「好きだ」
ぱちぱちと瞬きしてからふへへとだらしなく顔を緩ませて俺も、と笑う杉元の頭を撫でる
「ふふ、可愛いな」
「
……
かっこいいがいいなぁ」
ちょっと不満そうな顔をしながらもう一度顔を寄せてくる男はかっこいいとは思うが、わざわざ伝えて調子に乗られても腹が立つ
寄せられた顔をよけて無防備にさらされた耳に噛みつくとヒョァ、と愉快な声があがった
うん、かわいい
ぎゃいぎゃいと騒ぎながらも慣れたように服を取り去って、身体をまさぐってくる手の動きは止めない杉元にうるさいと返して目を閉じ耳を澄ませる
焦がれて高鳴る恋の音
いつまでも変わらない
いつか愛に至る音
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内