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望月 鏡翠
2025-10-31 14:58:53
930文字
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日課
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#1890 今日のご注文
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お店にやってくる旅人さんが、ペットを連れているのは珍しい。旅の途中の人たちは、世話をするのが大変だから、連れていられないのだという。たまに連れていることがあっても、非常食ですなんていう色気のない答えが返ってくるのが常だ。
「この子、食べる用ですか?」
角の間に座っているトカゲは牙が鋭い。引っかかれないように、尻尾の方を少し突くと、唸り声を上げて怒られた。
侘助はトカゲと私とどちらを咎めるべきか迷ったようだ。
私は言葉が通じるけど、飼い主に聞かないで勝手に触るようなところがある。でも少し触ってみたかったから、触ってしまった。スベスベでひんやりしていて、硬い鱗を持っていた。
「食用ではない。嫌がるから、触らないでやってくれ」
暴れるトカゲを捕まえると、侘助は和服の袖の中にしまってしまった。普段和服を着ないので、そんなところをものをしまうところに使っていいんだ、面白く見つめた。
袖の中でもぞもぞしていたが、出られないので大人しくなったらしい。
「ごめんなさぁーい。ご注文は? あ、ライターとか持ってないですよね」
こんなに和風っぽい見た目をしているのだから、ライターよりマッチとか火打石の方がそれっぽいけど、旅の途中でどこかで便利な道具を買っているかもしれない。
「持ち歩いていない。火は恐ろしい」
「ですよね」
「今日は、蕎麦はあるだろうか」
「お蕎麦。あります?」
「ある」
カウンターの向こうからマスターが返事をする。
「温かいやつと冷たいやつ、どちらに?」
「冷たい方」
「はぁい」
この店の料金は先払い制だ。突然いなくなったら困るから、最初にお金をもらっておく。砂金の粒を受け取ったあと、カウンターの向こうに注文を通した。
金一粒に対して蕎麦一杯はもらいすぎだから、他のものも注文してもらわないと、お金を返さないといけない。別の何かを用意して持ってくるのは私の仕事が増えて面倒くさいから、なるべくやりたくない。
侘助は行儀がいいお客様だから、言わなくてもこちらの意図を察してくれた。
「冷酒も頼む。器は二つ。あとは、そうだな。この子に、生肉を」
そう言いながら侘助は、膨らんだ袖を叩いた。暴れるのはやめたらしい。
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