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夜明 奈央
2025-10-31 05:47:33
1730文字
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風春 冗談では手は出せません
go時空 冗談でしかお誘いできない春奈ちゃんと本気ならその気にさせてほしい風丸くん
2025年10月26日初出
「そろそろお開きにするぞー」
今日は久しぶりにかつての雷門中学サッカー部の面々が顔を合わせた。昼間は当たり前のように一緒にボールを追いかけていたが、もうとっくに大人になった俺たちがそれで終わるわけもなく。皆の足が飲み屋へと向かうのは自然な流れだった。
鬼道の呼び掛けに応じて各々帰り支度を始める。俺も脱いでいたコートに袖を通し、忘れ物がないかなんとなく自分の周囲を確認する。酔い潰れる程飲むような者もおらず、平和な飲み会だった。もうみんなそれなりにいい歳だし、プロとして活躍しているメンバーも少なくない。当然といえば当然だ。
隣の卓を通り過ぎようとすると、服の裾を小さく引かれた。メンバーがぞろぞろと外へ向かう中、未だそこに留まっているのはたった1人。
「風丸さん、私、酔っ払っちゃって」
音無がぼんやりした顔でこちらを見上げた。傍らには空になったグラスがいくつも立っている。周囲はがやがやと騒がしかったが、話が途切れたタイミングなどは時たま隣の卓の声も聞こえていた。だから俺はこの中身がなにかを知っている。
「お前が飲んでたのただのオレンジジュースだろ。知ってるからな」
「無粋ですね。そこは知ってても乗っかるところでしょう」
俺が指摘すると、音無は途端にむうと唇を尖らせた。
音無には少し前からこうして冗談みたいな誘いを受けている。真意はどうだかわからないが、こうやってあしらわれること自体を楽しんでいるんじゃないかと思っている。俺もこういう冗談みたいな駆け引きは嫌いではない。
「はいはい、わかったわかった。お兄ちゃん呼んできてやるから」
「私は風丸さんがいいんです」
「やだよ。食われそうだもん」
「可愛い後輩に誘われて手を出さないなんて、それでも男ですか」
「可愛い後輩だからそんなほいほい手出したりしないの」
周囲を見回すと、壁にはまだコートが1着残っていた。来る時に音無がどんなコートを着ていたか記憶にないが、女物だからたぶんそうだろう。取ってきて音無の肩に掛けてやると、不服そうにしながらも大人しく袖を通し始めた。
「風丸さん、いつもそうやって適当にあしらってばかりで、ずるくないです?」
「あしらわれたくなかったらそれ相応の誘い方しろっての」
「それは、だって
……
」
音無が口篭って俯いた。いつもは軽口みたいな台詞がすらすらと飛び出すから、こういうのは珍しい。まさか本気だったとでもいうのか。けれど音無の今までの態度を振り返ってみても、とてもじゃないが本気の誘いだったとは思えない。音無の俺への言動は徹頭徹尾冗談のノリを崩さない。そんなのを本気にする程モテない男ではない。これでもプロのサッカー選手として日頃から女の子にはちやほやされ慣れている。
「お前のこわーいシスコンの兄貴とも俺は友達のつもりだから、そういう誘いには乗れないの。その気ならもっと真っ当な手順を踏んでくれなきゃ」
人間関係を進めるにはどうしたってどちらかが1歩踏み込む必要がある。俺の方は可愛い後輩とか友達の妹としか思ってないから本気ならそっちから来てほしかったが、これ以上はやっぱり酷かなと思った。これでも一応歳上としての矜持はある。けれどこれで戯れ合いみたいなやり取りがなくなってしまったらちょっと残念だな、なんて気持ちも多少なりある。例え社交辞令だろうと自分のことを好いているのだと示してもらって嫌な人間は滅多にない。
そろそろ終わりの意を込めて、立ち上がって靴を履く。もう周りには一緒に飲んでいたメンバーは誰も残っていない。俺たちがいないことに外で待っているメンバーが気づけば、呼びに来てしまうだろう。こういう会話は冗談にしろ本気にしろ2人っきりでするからいいのであって、あまり他の人に聞かれたいものではない。
振り返ると、音無はまだ迷っているようだった。
「ちなみに俺、音無のことはほんとに可愛い後輩だと思ってるよ。ついでに彼女もいない」
言い捨ててそのまま置いて行こうとしたら、またも服の裾を掴んで引き留められた。
「明日のお昼、おひまですか?」
明日の予定を思い描く。このお誘いより優先する程の予定なんて、あるわけがなかった。
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